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17.真中ひかりと守殿護

 人間二人が席を外すわけにはいかないので、イヤホンでもして音楽を聴いていようかと思ったが、狐は「そんなことせずとも良い」と言った。


「ひかり、我が余計なことを言ってあの男を刺激してしまった。謝れなどと…人の気持ちの分からない我が、高説を垂れた」

「御狐様、気になさらないで下さい」

「様を付けられるほど、我は偉くない。ひかりは知らないかもしれないが、我はただの使いで、願いを叶える力もないのだ。

 人間の願いを聞くだけしかできない…いや、聞くこともままならんかったな。お主が何を言っているのか、あまり理解していなかった」

「御狐様、顔を上げて下さい。そんなことおっしゃらないで。

 御狐様は、私の話を聞いてくれました。御狐様くらいしか、私には話せる相手がいなかったのです。聞いてもらえて心が軽くなりました。

 本物の神様であったなら、私の恋愛の話を批判したでしょう。それで、即座に先生との縁を切ったかもしれない。

 結果としてそれも良かったのでしょうけど、私の心は晴れなかった。きっと、嫌な思い出として残っていた。

 だから聞いてもらえて、御狐様が神様じゃなくて良かったんです」

「あの男の事は、どう思っている?殺したいほど憎んでいるか?」

 その発言で、聡い真中ひかりは狐の意思を理解したようだった。

「いえ、きっとあの人は捕まります。計画的な殺人ではなかったと思うから、証拠はすぐに見つかるでしょう。牢屋の中で罪を償ってほしい」

「そう、か」

「ごめんなさい、もうおいなりさんを持って行けなくなってしまいましたね」

「そんな事はどうでもいい。どうでも良いのだ…そんな事より、お主に死んでほしくなかった…」

 狐は項垂れていた。数十年孤独だった狐の、唯一の友達が真中ひかりだった。

 狐から見れば、真中ひかりの方が女神だったのかもしれない。

「守殿君、二人に会わせてくれてありがとう。本当に感謝しています」

「大したことではない。私は君に、恩を返したかっただけだ」

「恩?」

「以前教科書を見せてくれただろう。私に手を差し伸べる人間など、誰もいなかったんだよ」

 私はクラス中で無視をされていた。私の態度は鼻につくようで、話しかけても誰も返してくれない。

 そんな時、教科書を忘れて困っていたのを助けたのが、真中ひかりだった。

「えっ…と、ごめん。全然覚えがないや…」

「良いんだよ。そういうあなたが好きだった」

「好きってお前…!こっちが本命か!」

「うるさい!そういう好きじゃない!心根が優しく、純粋で、分け隔てなく接する、その精神性を褒めたんだ!周りに気遣いができるなんて、お前よりよっぽど素晴らしい!立場を交換したらどうだ?」

「凄い褒めてくれる…」

「どう考えても好きではないか!」

「好きって、なになに?」

 禰宜まつりがお手洗いから帰って来た。

「こやつ、二股をかけておったぞ!」

 狐が私を指さし、禰宜まつりにチクった。

「洒落にならないからやめろ!私は…」

「そういうのやめなよね!守殿くんが可哀そうでしょ!ひかりも二股の相手にされてるし!」

「ぐぬっ…しかし、お前、こいつといい雰囲気だったではないか!」

「いや、それほどでも…」

「もう!男女が一緒だからって、そう簡単に恋が生まれるわけじゃないんだから!」

「…………」

 男女が二人でいるだけで、青春が始まるなど。これだから人の気持ちが分からない狐がいう事は当てにならない。青春など実に実にくだらなく、時間の無駄である。

 くだらなくないだと?そんなわけあるか!実際私はこの夏を無駄にしたではないか!



 新学期が始まる前に、高山幸一は逮捕されたようだった。

 そりゃそうだろう。私のような一介の高校生が推理できることを、警察が把握していないわけがない。

 ただ願わくば、私はなるべく被害者は少ないに越したことがないと思っていた。

「禰宜まつり」

「あっ、おはよう!守殿くん!」

 新学期、私は学校で禰宜まつりを見つけた。

 この女生徒は、悪女というより小悪魔だったのだなぁ、としみじみと思う。

 この美貌であんなに男に馴れ馴れしいのだ。いずれ刺されないか心配だ。

「ちょうど良い。これをやる。自らで処分した方が安全だろう。まぁ、バレたところでどうもならないとは思うが」

 そう言って、私は封筒を渡した。

「えっ?なになに?ここで見ても良い?」

「やめとけ。家でこっそり見て、処分してしまえ」

「え?」

「既に焼却炉にあったから、そのままでも多分大丈夫だったと思うが、一応拾っておいた」

 もしかして…と言うと、止める間もなく禰宜まつりは封筒を開けた。

「メモ、見つけてくれたの…?」

「全部かは分からん。だが残りは既に焼却されている可能性もある。多分大丈夫だろう」

 教室の廊下の前で禰宜まつりと話したので、目立って仕方がない。さっさと退散してしまおう。そう思ったのに

「守殿くん!今日の放課後パフェ食べよ!」

 私のような者の気持ちを、禰宜まつりは分かってくれないのであった。

終わりました!

とある賞に応募した作品でした。

ご覧頂きありがとうございました!

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