⑥ スピーカー令嬢は領地で大活躍する。
「あははっ、楽しいわ!!」
楽しそうに声をあげながら、ランセットはスピーカーを動かしている。
ランセットの目の前で、宙を舞うのは沢山のスピーカー。
色も形も大きさも違うスピーカーが宙を舞う姿は、なんとも圧巻である。
小さな令嬢が狂気じみた笑みを浮かべながらスピーカーを動かす姿は……なかなか見る者に恐怖を与える光景である。
「……ランセット様、危ないですよ」
「大丈夫よ。ちゃんと制御しているもの!! なんだかスピーカーの竜巻って感じで面白いでしょう? それにぶつかれば怪我をするものだから、敵対する人や魔物だってどうにか出来るわ!!」
「何を目指しているんですか? 貴方様は貴族の令嬢でしょう……」
今日もいつものように付き添っている使用人からの小言も、ランセットは気にした様子はない。
「私はこの《スピーカースキル》の可能性をもっと広げたいの。出来ることが幾らでもあるのだから、それを磨こうとするのは当然でしょう? 使えるものは使う方がいいのよ」
「まぁ、それはそうですけど……。だけどなんというか、その、物騒な使い方はしなくてもいいのではないでしょうか。そのスキルは他にももっと平和的な使い方があります。もっとこう、おしとやかな方がいいのではないでしょうか……」
「確かにこのスキルには無限の可能性があるわ。だから大人しく使うことも出来るでしょう。でも、このスキルがあればならず者への対応も出来るし、領地に魔物が現れた際に討伐することだって出来るのよ! それを行おうとするのは当然でしょう?」
領地を守るために行動をするのは、領主一家の娘として当然の責務ではある。ただし普通の貴族の令嬢はあくまで騎士たちを遣わしたりして領地を守るのであって、自分自身で領地を守ろうなどとはしない。
――ランセットは一度決めたら、それをやり遂げるような少女である。
今のランセットはスピーカースキルを使って、戦いの場にさえ行こうとしている。
家族たちは当然、そんなランセットのことを心配していたが――そのスピーカーは使い方次第で騎士たちのことも簡単に倒してしまうことが出来る。
意気揚々と、騎士たちとの訓練に混ざってスピーカーを動かすランセットを前にすると「危険がないならいいか」と家族は結局認めていた。
元々ランセットが《スピーカー》スキルを発現させたときに、どうやって使うのだろうかと悩み落ち込んでいたことを家族は知っている。
だからこそどういう形であれども、ランセットが前向きに、そのスキルと向き合い、楽しそうに過ごしている様子を家族は嬉しく思っていたのだ。
ランセットが後にあれだけスピーカースキルを自由自在に使いこなせるようになったのは、まぎれもなくそういう家族がいたからともいえるだろう。
例えば、ランセットの家族が《スピーカー》スキルの有用性を認めてくれなければ、そのスキルを使うことを否定すれば……ランセットは只の変わったスキルを持つ令嬢でしかなかっただろう。
ランセットは家族から許可が出たことを喜び、それはもう嬉しそうに、《スピーカー》スキルを毎日のように使った。
令嬢教育はきちんとこなしているものの、毎日スキルを行使しているランセットはとても目立つ。
スピーカーの上に乗りとびまわり、ランセットは盗賊などがいたら自分の手で倒したりしていた。
あとは男性が女性に無理強いをしている現場を目撃して飛び込んだり、魔物が現れればその魔物をスピーカーで倒したり。
貴族の令嬢のやることと思えないことをランセットは軽々とやってのけた。
また情報を遠くに伝えるということもやっている。ランセットが毎日のようにそのスキルを使い続ければ、《スピーカー》スキルはランセットに応えてくれた。
出来ることが徐々に増えていき、設置できるスピーカーも増える。そうすれば領地内での緊急の知らせも、すぐに伝えることが出来る。
例えば土砂崩れが起きたので逃げた方がいいとか、危険な魔物がこの地域に出るとか。
そういうものをランセットはすぐに領内で伝えることが出来た。
ただランセットのスキルにばかり頼っていれば、ランセットが居ない場合大変だということでランセットの家族はランセットが嫁いだ後の事も考えて対策を進めていた。
そうやって自由気ままにスピーカースキルを使っているランセットは当然有名になった。
領地内で大活躍していたランセットの噂は、領地の外――それこそ王城にまで響いてしまったわけである。
……その結果、ランセットは王太子の婚約者などという立場に収まってしまうわけだが、それはまた別の話である。
「楽しい!!」
今日も今日とて、スピーカー令嬢と噂のランセットはスピーカーに乗って空を飛び、無数のスピーカーを浮かび上がらせてスピーカーの竜巻を作ったり、盗賊が居ればスピーカーで気絶させたり……自由気ままであるのだった。
一旦ここで締めます。
また気が向いたら続きを書くかもしれません。
ランセットがスピーカースキルと出会って、使いこなすまでのお話でした。