5 これからのことを考えよう
いわば、このお話のゴールだね。
ターちゃんとおじさんは私の姿を見て、目を丸くして驚いていました。それはそうでしょう。同じ村の貧乏娘がきらびやかな衣装を身に纏っているのですから。
「その服はどうしたの、アル」
「精霊様に頂いたの」
「精霊様?」
私は精霊様を目線で示しました。いつの間にか回復していたようで、元気そうに立ち上がり、伸び上がっています。後ろを向いていた精霊様は首だけをカクンとこちらに向けました。顔が逆さまで面白いですね。きっと、挨拶しているのでしょう。
「とても、愉快で丁寧な方です」
「え?あれが?どう見ても目を合わせちゃダメななにかだと思うけど……」
「失礼はいけませんよ、ターちゃん。さっきだって、私を動物から守ってくださっていたのです」
精霊様は再び、先程の光を放ちました。ゴォウ!という轟音とともに、森がまた焼き払われました。小鳥たちが慌てて飛びさってゆきます。
「ね?」
「え、何に対しての『ね?』なの?あれを見て『関わってはいけない何か』以外の評価があるの?」
「とんでもねえ怪物だ……お前さんについていた3人と同じ連中かい」
「そうだよ。僕の信頼する愛と勇気と友情の魔法少女だよ」
「俺は破壊と絶望と非情の怪物しか見てないんだが」
なんと、精霊様にはお仲間がいらっしゃるそうです。是非、お会いしたいですね。
「まあ、感動の再会もそこそこに、今後の方針を決めようよ。何もしないでじっとしていたら、のたれ死ぬだけだよ!」
天使様がとてもよい笑顔で私たちを焚き火の周りに集めました。ターちゃんは訝しげに、おじさんは何も言わず口を引き結んで応じます。精霊様は放っておいてもいいのでしょうか。いえ、私が心配することではありませんね。
「君たちはこれからどうしたい。村を滅ぼした連中に復讐するかい?」
開口一番、天使様はとても物騒な意見を出されました。すぐに反応したのはターちゃんです。目を剥いて、食いかかるように答えます。
「当然だ!絶対に許さない!アイツらは、私の家族も、友達も……」
「落ち着け、タツリカユ。お前さんが復讐しようとする相手にも友人が、家族がいるんだ。アイツらは、俺たちを殺さなきゃ、もっと上の奴に殺されたんだよ」
「なんなのさ、それ……だからって許せというの?あの非道な連中を!」
ターちゃんはとても優しい子なんです。お腹をすかせた私に自分のパンを何度も分けてくれました。他の子の仕事を「暇だ」と言って手伝うのを何度も見ました。喧嘩する男の子たちの間に入って仲裁する場面は日常のようでした。そんなターちゃんが、こんなに声を荒げて、憎しみを隠そうともしないで……。
「ターちゃん……」
「……っ。アル、ごめん、怖がらせたね」
私が見ているのに気づくと、ターちゃんはばつが悪そうに目を伏せ、黙ってしまいました。優しい子なんです、本当に。
「いまは、仕事が必要だ。シラミズアキラくんよ、お前さん、見た目通りの子どもって訳じゃねぇんだろ?なにか、アテがあったりしないかい」
ブロウさんはとても現実的です。前はとても強いおじさんで、空いた時間にはよく私たちと遊んでくれました。村一番のがんばり屋だと父は言っておりました。そして、その努力を子どもには一切見せず、「凄い大人」であり続けてくれた人でした。いえ、今も凄い大人であり続けてくれています。ですが、私たちの前でここまで疲れた顔を見せるのは……。
「仕事ねぇ、少なくともこの辺りには無いね」
「いやいや、一つ位はあるだろう。俺が働けて、この子達を食わせてやれるならそれでいいんだ」
……何ということでしょう。おじさんは、親を失った私達を養ってくれるつもりなのでしょうか。いつも褌一枚のみを身に付け、洗うのが面倒と髪も剃り上げ、すべての稼ぎを家族と食べ物のためだけに使っていたと聞きます。その優しさを、今度は私達に向けてくれるというのでしょうか。
「おじさん、なぜ私達のために負担を背負おうとなさるのですか」
「アル、俺はお前の父さんみたいな立派な奴にはなれねえかもかもしれん。当然、代わりだなんて大層なことも言えねえ。だがな、大人は子どもを守らなきゃならねえのさ。俺のために、お前らは暫く守られてくれや」
おじさんは無理をしていると明らかにわかる不器用な笑顔を私に向け、再び天使様に向き直りました。私は、なんと恵まれているのでしょう。こんなことになっても、一緒に居てくれるのはいい人ばかりです。
私も何かできることを探さなくてはなりません。頼りは天使様です。何か、お仕事を。私達が生きる術を、どうかご教授ください。
「いや、かなり厳しいことをいうんだけどね。意味がないんだ。もう、どんなに仕事をしても」
「なんだと?そりゃいったい……」
「うぐりゅるらぁぁぁぁぁぁっ!」
ダキュオオォオォォオオォン……
天使様の衝撃的な言葉と共に、精霊様が特大の光線を発射しました。これには問い詰めようと前のめりになったおじさんも思わず振り向きます。
森が消えて完全な更地になっていました。流石にこれは私も絶句です。一体何が精霊様をここまで荒ぶらせたのでしょうか。
「こ、これは一体……」
「仕事が無いってのは、さっき村を襲った連中とも関係しているんだけど」
「まて、続けるな!俺の許容範囲をいい加減オーバーしている!」
「気にしなくていいよ。あれってああいう生物だから」
「アル、いまの聞いた?どう見ても友好的な生物じゃないよ」
「クスリを飲めば優しい人なんです」
「クスリを飲まないと優しくない奴は、一般的に優しいと言わないよ、多分」
精霊様が力を使い果たして蕩け、驚きも一段落付いたところで天使様は再びいま私達を取り巻いている状況を説明してくれました。
「国が、すべての国民を守るのを諦めたのさ」
「諦めた?」
「都で戦争が起こってね、辺境に住む人々まで世話する余裕がなくなったのさ。そこで王は、中央周辺の運営に影響がでない程度に人々を間引きする決断をした」
「なっ……!?」
「そんな馬鹿な話が……」
つまり、国に居させられなくなったので殺す、ということでしょうか?それは……余りにも……。
「余りにも傲慢だろう。俺は何十年も麦を、米を、芋を育て、国にくれてやった。その返しがこれか。王は、民衆から受けた恩を理解していないと見える」
「復讐なんて話じゃない。止めなきゃ、私たちと同じ人間が死に続けるってことじゃないか。私達の問題だけではなくなっている」
私も、そんなのを聞かされては黙っていられません。……でも、何ができるということもありません。悔しさに唇を噛み締めてしまいます。
他の二人も同じなのでしょう。暫く王への罵倒を繰り返した後、むっつりと押し黙ってしまいました。ここでこの三人が決起したところで、できることなどないのです。
「……力なら、貸すけど?」
「何……?」
「どういうこと?」
「僕は、君達の味方だ。君達がしたいことを教えてくれたら、必要に応じて力を貸そう」
「力って……」
「集合、Ex-107」
天使様の声に反応し、一人の少女が出現しました。イグジストイチゼロナナということは、この方が精霊様のお仲間?私の知る精霊様と異なり、普通の女性の姿です。真っ白な髪が特徴的ですね。
「Ex-107-w。貴方にしたがう義理はないけど、弱者を守るというならば力を貸してあげます」
「うん、ありがとう。で、君以外の二人は?」
「何故あの二人が声に反応してくれると思ったのですか?必要なら引きずってきなさい」
「面倒いなぁ……ホワイト、あそこにいるブルー持ってきて。僕イエローとレッドを連れてくる」
なんの儀式でしょうか、天使様と精霊様がわちゃわちゃしています。暫くして、精霊様が精霊様を、天使様が更なる二人を連れてきました。
「…………うぅ……グスッ………」
「あはははははははははははははは」
真っ青な顔色で、目元を手で覆い泣き続ける女性と、息継ぎを一切しないで笑い続ける女の子です。赤い髪をベッタリと濡らし、左足が杖になっているのがレッド、金髪の二つ結びで、短い布団たたき(?)を持っているのがイエローさんのようです。
「この化け物たちは……」
「これはほんの一例さ。君達が望むことを口にするがいい。僕がその望み、手伝うよ」
呆気にとられるターちゃんとおじさんを横目に、次に言葉を発したのは私でした。
「この間引き、止めなければなりません!力添えをお願いします!天使様!」
「その言葉を待ってたんだ。魔王討伐なんて僕主体でやりたくないからね」
天使様は少し不気味な笑顔を浮かべて私の言葉を喜びました。……不思議です。あんなに綺麗な顔立ちなのに、どこか恐ろしいような雰囲気が滲み出ています。やはり、天使様の在り方は常人には理解できない位置にあるということでしょう。
「ちょっと、アル。あんなの信じるの?天使様とか呼んでるけど、後ろに控えてるの見なよ。悪魔にしかみえないよ?」
「ターちゃん。私達の感性で偉大な方を推し量っては行けません。見てください、金色の精霊様はみすぼらしい私達にも絶えぬ笑顔を浮かべ、赤の精霊様は私達の苦しみを嘆いてくださっています。みんな、慈悲深い方々です」
そんな私の言葉に待ったをかけたのは白の精霊様でした。頬をかいて居心地の悪そうな顔をしながら、恥ずかしそうに口を開きました。
「ごめんね、優しそうなあなた。赤も黄色も、ついでに青も、普通に頭がおかしいだけだわ。あなた達のことなんて見えてないと思う」
「特に黄色は信頼したらダメな奴だよ。取り出した僕が保証する」
「あははははは!みんな幸せになあれ♪」
ホワイトと呼ばれた精霊様と、天使様の暴露に少し不安になりましたが、私は決めたのです。天使様達と共に、生きると。この現状を打破したいという心があったのは天使様の話し方からも明らかでした。ならば、私はそれに従い、拾われた命を使うだけです。
「それでも、私は皆さんを信頼します」
「……わかった。アルがそういうなら」
「ちっ、どっちにせよ、どうにかしないと死ぬだけだからな……天使様……だったか?俺たちをは無力だ。どうか、力をお貸しください」
「あぁ、一緒に民を殺戮する魔王を倒そう!」
天使様は拳を上に突き上げて言いました。どういう意図の身ぶりかはわかりませんが、きっと、拳で敵を打ち砕く……そんな意味合いの動作なのでしょう。
私たちは、本当に幸運です。このような不幸のなか、これ程便りになる協力者を得られるなんて。神様、本当にありがとうございます。
タツリカユ なんちゃってステータス
攻撃力 タイマンなら子どもには勝てる。
防御力 受け身くらいならとれる。
敏捷力 アルのほうが少し速い。
精神力 煽り耐性は低い。
知力 計算はできる。
スキル
復讐思想 E 何かに対して強い恨みを持つ。
友情の力 E アルと一緒だと頑張れる。
空腹耐性 D 四日まではいける。