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魔王様はダラダラしたい!  作者: おもちさん
第二部
312/313

7ー81 家族の絆オカワリ

冷静に観察したら、『2人に増えた』というのは誤認だったことがわかる。

正面から現れた愛娘はシンディで間違いないが、背後から現れたのはシルヴィアだった。

両者の違いと言えば、服装と若干の髪質の差くらいしかないから、ウッカリ同一人物だと見てしまうのも無理はない。


ということは、背後からやってきた一団は、200年前の家族ということか。

『定める』直前の些細なトラブルが、今の状況に結び付いているのかもしれない。



「おとさん。このソックリさんはだぁれ?」


「ねぇおとさん。このソックリな子は、だれなの?」


「あなた、マネしないで」


「そっちこそ、マネしないで」



それぞれ両の耳に、天使の歌声のごとき声が注ぎ込まれた。

この時の衝撃や喜びをどう表現したら良いのだろうか。

頭は最上級の感激を覚え、痺れたようになる。



「んー。あなたは私、なのかしら?」


「んーー。恐らく。薄気味悪いくらい似てるわね」



向かい合うリタが、全く同じポーズをとった。

コイツらは見分けがつかない。

寸分違わぬ、とはまさにこの事だと思った。



「ほぇぇ、とんでもない美少女が居ると思ったら……私じゃないですか!」


「いやぁ、綺麗ですねぇ! 見た目完璧じゃないですか!」


「やっぱりそうですよね? 超絶に可愛いですよね?」


「もちろんですよ、私らは大陸最強の美少女ですってば!」



2羽の鳥がさえずっている。

この異様な状況に大して疑問を抱かず、むしろ互いを受け入れようとしていた。

根がアホだから、深く考えたりはしないのかもしれない。



「あなた、剣士なのね」


「うむ。名はエレナと言う」


「私はエリシア。名前はちょっと似てる、でも見た目は似てない」


「そうだな。どちらかと言うとテレジア似だな」


「誰?」


「妹だ」


「ところで、肩にある物は何?」


「荒縄だ。興味があるのか?」


「あるあるすっごくある! 教えて色々と強烈なヤツを!」



変人エレナ変態エリシアが結び付いてしまった。

危険な変貌が起きてしまう前に、こいつらは離しておいた方が良いかもしれない。

何せオレは『定める者』なのだ。

世界の安定にはいち早く動くべきだろう。



「はじめ、まして? 僕はアーサーだよ」


「僕はグレン。初めまして……で良いのかなぁ。鏡の自分に話しかけてるようで、変な気分だね。でも、君の方が顔の彫りが深いかな」


「グレンってもしかして、名工グレンかい!?」


「名工? 確かに物を作るのは好きだけど、そんな大それた人物じゃないよ」


「ホラ、あの剣をご覧よ! あれは聖剣ミレイアっていう、世に2つとない名剣で……」


「えぇ!? その名前はちょっと……改めた方がいいと思うよ!」



興奮気味なアーサーに比べ、グレンは少し困惑しているようだ。

いきなり名工だと呼ばれ、更には妹の名を冠した剣を紹介されたなら、普通は理解が追い付かないだろう。

というか、グレンの腕前が認められるのは晩年であって、今は素朴な少年でしかないのだが。



「私はミレイア。魔王様を守護する者也」


「私はミア。魔王様を守護する者也」


「不届き者を見つけたならば、直ちに皮を剥ぎ取ります」


「骨を砕きます」


「あらゆる臓器を白日の元に晒し」


「魔王様への供物とします」


「あなた、良いですね」


「あなたこそ、良いですね」


「1人では成し遂げられなかったことも」


「2人の力を合わせたならば」


「全てが実現します!」


「実現します!」



コイツらはダメだ!

絶対セットにしちゃいけない組み合わせだ。

厳重に、厳重に監視する必要がある。

出会って間もないのに、ナイフ片手に手を取りあって踊り出すヤツらは、即刻危険リスト入りだからな。


しばらくは各々の祖先と語り合っていたが、やがて口数は少なくなった。

恐らく、みんなが同じことを考えている。

ーーこれからどうすんだ、と。


その不安を率先して口に出したのは、やはりリタだった。

家中を取り仕切る人は、物事を地に足着けて考える習慣が根付いている。



「これからどうしようかしら」


「一緒に暮らす……のは難しいわね。お互い似すぎて、混乱してしまうもの」


「じゃあ、ここから離れた所に住むことにするわ」


「それが良いわね。アルフ。家をもう一軒建てて貰えるかしら?」


「お、おうよ」



これに応じない訳にはいかない。

命があるかぎり、衣食住は必須なものだからだ。

ましてやオレのミスで呼び出してしまったという経緯があるので、動かざるを得ない。

いや、『呼び出してしまった』と言っても、理屈は理解不能なんだが。



「じゃあ、別々に暮らすのは問題ないわ。アルフはどうしようかしら」


「シンディが大人になるまではウチで暮らして欲しいけど、シルヴィも子供なのよね。悩ましいわ」


「じゃあ、アルフが日替わりで暮らす家を変えたらどうです?」


「良いわね、それ」


「良いと思うわ」


「おい、勝手に決めんな!」



魔王さんに意見を聞かれる事はなく、サクサクと物事が定まっていく。

女所帯で男の意見が軽くなりがちなのは仕方ないにしても、今はその重みも半減した形となっている。



「正妻は、もちろん私で良いわよね」


「あら。その座を簡単に譲ると思う? 私の気持ちは、あなたなら理解できるでしょうに」


「ヌッフッフ。アシュリーちゃんが2人になれば世界最強!」


「もはやリタなんざ、恐ろしくはないのですよ!」


「リタ殿。今の意見は聞き流せないな。そろそろ私にも華を持たせてもらおうか」


「一歩も退かないし、訴訟も辞さない」


「私たちは」


「敬愛する魔王様のため」


「肝を狩り続けます!」


「ます!」


「ねぇ、色々教えてもらえるかい? 細工のやり方をさ」


「構わないよ。でも、作業小屋はひとつしかないね。アルフさん、もう一軒追加して貰えないかな?」


「おとさんはシンディの!」


「おとさんはシルヴィのなの!」



倍加した家族は、騒がしさやトラブルも倍加させた。

ここでオレの辛抱も我慢も思考すらも限界を迎えた。



「お前らぁ! お父さんを少しは労れよなーーッ!」



心の叫びが虚しく響く。

これから待っている日々を思うだけで、早くも頭痛を覚えるようだった。

ただでさえ賑やかな我が家は、過去に例の無いほどに騒がしくなり、オレの疲労も天井知らずとなる。



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