7ー81 家族の絆オカワリ
冷静に観察したら、『2人に増えた』というのは誤認だったことがわかる。
正面から現れた愛娘はシンディで間違いないが、背後から現れたのはシルヴィアだった。
両者の違いと言えば、服装と若干の髪質の差くらいしかないから、ウッカリ同一人物だと見てしまうのも無理はない。
ということは、背後からやってきた一団は、200年前の家族ということか。
『定める』直前の些細なトラブルが、今の状況に結び付いているのかもしれない。
「おとさん。このソックリさんはだぁれ?」
「ねぇおとさん。このソックリな子は、だれなの?」
「あなた、マネしないで」
「そっちこそ、マネしないで」
それぞれ両の耳に、天使の歌声のごとき声が注ぎ込まれた。
この時の衝撃や喜びをどう表現したら良いのだろうか。
頭は最上級の感激を覚え、痺れたようになる。
「んー。あなたは私、なのかしら?」
「んーー。恐らく。薄気味悪いくらい似てるわね」
向かい合うリタが、全く同じポーズをとった。
コイツらは見分けがつかない。
寸分違わぬ、とはまさにこの事だと思った。
「ほぇぇ、とんでもない美少女が居ると思ったら……私じゃないですか!」
「いやぁ、綺麗ですねぇ! 見た目完璧じゃないですか!」
「やっぱりそうですよね? 超絶に可愛いですよね?」
「もちろんですよ、私らは大陸最強の美少女ですってば!」
2羽の鳥がさえずっている。
この異様な状況に大して疑問を抱かず、むしろ互いを受け入れようとしていた。
根がアホだから、深く考えたりはしないのかもしれない。
「あなた、剣士なのね」
「うむ。名はエレナと言う」
「私はエリシア。名前はちょっと似てる、でも見た目は似てない」
「そうだな。どちらかと言うとテレジア似だな」
「誰?」
「妹だ」
「ところで、肩にある物は何?」
「荒縄だ。興味があるのか?」
「あるあるすっごくある! 教えて色々と強烈なヤツを!」
変人と変態が結び付いてしまった。
危険な変貌が起きてしまう前に、こいつらは離しておいた方が良いかもしれない。
何せオレは『定める者』なのだ。
世界の安定にはいち早く動くべきだろう。
「はじめ、まして? 僕はアーサーだよ」
「僕はグレン。初めまして……で良いのかなぁ。鏡の自分に話しかけてるようで、変な気分だね。でも、君の方が顔の彫りが深いかな」
「グレンってもしかして、名工グレンかい!?」
「名工? 確かに物を作るのは好きだけど、そんな大それた人物じゃないよ」
「ホラ、あの剣をご覧よ! あれは聖剣ミレイアっていう、世に2つとない名剣で……」
「えぇ!? その名前はちょっと……改めた方がいいと思うよ!」
興奮気味なアーサーに比べ、グレンは少し困惑しているようだ。
いきなり名工だと呼ばれ、更には妹の名を冠した剣を紹介されたなら、普通は理解が追い付かないだろう。
というか、グレンの腕前が認められるのは晩年であって、今は素朴な少年でしかないのだが。
「私はミレイア。魔王様を守護する者也」
「私はミア。魔王様を守護する者也」
「不届き者を見つけたならば、直ちに皮を剥ぎ取ります」
「骨を砕きます」
「あらゆる臓器を白日の元に晒し」
「魔王様への供物とします」
「あなた、良いですね」
「あなたこそ、良いですね」
「1人では成し遂げられなかったことも」
「2人の力を合わせたならば」
「全てが実現します!」
「実現します!」
コイツらはダメだ!
絶対セットにしちゃいけない組み合わせだ。
厳重に、厳重に監視する必要がある。
出会って間もないのに、ナイフ片手に手を取りあって踊り出すヤツらは、即刻危険リスト入りだからな。
しばらくは各々の祖先と語り合っていたが、やがて口数は少なくなった。
恐らく、みんなが同じことを考えている。
ーーこれからどうすんだ、と。
その不安を率先して口に出したのは、やはりリタだった。
家中を取り仕切る人は、物事を地に足着けて考える習慣が根付いている。
「これからどうしようかしら」
「一緒に暮らす……のは難しいわね。お互い似すぎて、混乱してしまうもの」
「じゃあ、ここから離れた所に住むことにするわ」
「それが良いわね。アルフ。家をもう一軒建てて貰えるかしら?」
「お、おうよ」
これに応じない訳にはいかない。
命があるかぎり、衣食住は必須なものだからだ。
ましてやオレのミスで呼び出してしまったという経緯があるので、動かざるを得ない。
いや、『呼び出してしまった』と言っても、理屈は理解不能なんだが。
「じゃあ、別々に暮らすのは問題ないわ。アルフはどうしようかしら」
「シンディが大人になるまではウチで暮らして欲しいけど、シルヴィも子供なのよね。悩ましいわ」
「じゃあ、アルフが日替わりで暮らす家を変えたらどうです?」
「良いわね、それ」
「良いと思うわ」
「おい、勝手に決めんな!」
魔王さんに意見を聞かれる事はなく、サクサクと物事が定まっていく。
女所帯で男の意見が軽くなりがちなのは仕方ないにしても、今はその重みも半減した形となっている。
「正妻は、もちろん私で良いわよね」
「あら。その座を簡単に譲ると思う? 私の気持ちは、あなたなら理解できるでしょうに」
「ヌッフッフ。アシュリーちゃんが2人になれば世界最強!」
「もはやリタなんざ、恐ろしくはないのですよ!」
「リタ殿。今の意見は聞き流せないな。そろそろ私にも華を持たせてもらおうか」
「一歩も退かないし、訴訟も辞さない」
「私たちは」
「敬愛する魔王様のため」
「肝を狩り続けます!」
「ます!」
「ねぇ、色々教えてもらえるかい? 細工のやり方をさ」
「構わないよ。でも、作業小屋はひとつしかないね。アルフさん、もう一軒追加して貰えないかな?」
「おとさんはシンディの!」
「おとさんはシルヴィのなの!」
倍加した家族は、騒がしさやトラブルも倍加させた。
ここでオレの辛抱も我慢も思考すらも限界を迎えた。
「お前らぁ! お父さんを少しは労れよなーーッ!」
心の叫びが虚しく響く。
これから待っている日々を思うだけで、早くも頭痛を覚えるようだった。
ただでさえ賑やかな我が家は、過去に例の無いほどに騒がしくなり、オレの疲労も天井知らずとなる。




