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魔王様はダラダラしたい!  作者: おもちさん
第二部
311/313

7ー80 魔王様、ダラダラできない

懐かしい。

一面が乳白色の空間には、これまでに何度も連れてこられたもんだ。

だが普段とは違い、今回はオレ以外にも大勢の人が居るようだ。

人族だけでなく、獣人に亜人、魔獣の姿だって見えた。



「モコ……ここは?」


「何度も招待したでしょ。水晶球の力を使うと、世界はこんな感じになるんだ。今回は世界のあらゆる生命が対象だから……随分と賑やかだよね」


「クエスやディストルでも動けないんだな」


「2人とも『除外』したからね。特別用がある訳でもないから。さて、君にはこれから、知って欲しいことがいくつかあるんだけど。聞いてもらえるかな?」


「ラナ・マナみたいな話は勘弁な」


「もう少し簡単な話だよ」



お互いに苦笑を交換した。

思えば、モコとはこの異質空間で色々と世話になったもんだ。

多くの加護をもらったり、小難しい事を教えて貰ったり。

……ナイフで刺された事もあったっけ。

全てが美談ばかりじゃないのは世の常なのか。



「まずは、長らくお疲れさま。君は世界を『定める』事に成功したよ。これで今後は文明レベルや種族のテリトリーが、大きく狂うことが無くなった」


「つう事は、グランみたいな反乱は起きなくなったのか?」


「理論上はね。でも、イレギュラーは起こりうるよ。何せ数百万もの人々が暮らす世界だ。突然変異や異分子なんかは産まれるし、戦争だってあるだろうさ」


「何だよそれ。定まってねぇじゃん」


「ちゃんと制御機能は働いてるよ。例えば、とんでもない兵器を生み出そうとすると、反乱が起きて頓挫とんざしたり。人族が獣人の領土を武力で侵せば、大寒波が押し寄せて退かざるを得なくなる……とかね」


「なるほど。大きな力が働くことで、各種族が安定するのか」


「ちなみに、人や物の移動についてはデメリットが無いよ。友好的なお付き合いならいつでも出来る。緩衝地帯かんしょうちたいも広く取ってるから、種族間の衝突は無くなるんじゃないかな」


「でもよ。その管理の目を掻い潜られたら? グロウみたいなヤツが、今後も出て来るかもしれないだろ。その時はどうするんだ?」


「うんうん。いい質問だね」



絵に描いたような満面の笑みを返された。

次に提示されるのは、オレにとって悪い報せだろう。

それも特別に面倒くさいものに違いない。

言葉を交わすことなく理解できる程度には、互いの事を知り尽くしていた。



「その時は君が直接介入して、上手く治めてね。世界の支配者さん」


「ちょっと待て、それ聞いてないぞ」


「君が新しい世界を管理するんだよ。神様、支配者、責任者……肩書きはどうでも良いか。ともかく、君は人族の枠から飛び出して、偉大なる存在になったんだ」


「支配なんて無理だろ。オレはせいぜい50年くらいしか生きられないんだぞ? そっから後はどうするんだよ」


「君は既に世界を定めた訳だから、短いスパンで生まれ変わる必要が無くなった。むしろ世の中を安定させる責務が発生した。だから君の命は長寿となり、この世界が滅びるまで続くようになったんだけど……この話はしてなかったっけ?」


「初耳だぞ。つうか、『定める事』について全部だ」


「おかしいな。そんなハズは……。もしかして、話の時に寝てた?」


「うん?」


「前世の事だよ。長い時間をかけて、色々と説明した時があったじゃない。世界の歴史とかについてさ。その時に僕は説明したよ。間違いない、今ハッキリと思い出したもの」


「記憶に、ございません」


「これだもんなぁ」



モコが苦笑しながら、大きく鼻息を吐いた。

この仕草も最初は腹立たしかったが、今では見慣れたもんだ。



「君は安定した世界と共に生き続ける、大きな問題には逐一対処してもらう。それでも安定をもたらせなかったら、君の役目はお終い。後はクエスが世界を『揺るがして』終焉に向かって導いてくれるよ」


「そうか。アイツの役割はそういうモンだったのか」


「これまで紆余曲折したけど、たぶん彼は大丈夫。きっと役目を全うしてくれるさ」


「それまでの間、お前やディストルはどうするんだよ?」


「しばらくはお休みさ。世界が消えてなくなるまで、これから長い眠りに就くよ」


「マジかよ。いつもの様にサポートをしてくれないのか?」


「世界は定まったんだ。当面は生み出したり、消し去ったりする必要が無いんだよ。だから僕とディストルはお休みなの」


「そういうもんか?」


「そういう約束さ」



となると、コイツの顔もしばらく見納めとなる。

千年か、二千年。

少なくともオレが上手くやっているうちは、再会する事はない。



「……流石に寂しくなるな」


「そんな事言ってる余裕は無いよ。君はこれからメチャクチャ忙しくなるもの」


「世界の安定だったら、小事を全てクライスに丸投げする。それで相当楽になるハズだ」


「ううん。多忙の原因はそれだけじゃないさ。君ね、最後の方で設定をいじったでしょ? まったく、チャッカリしてるよね」


「もしかして特別コォドとかいうやつか? あれは何だったんだ?」


「その答え合わせについては、まぁ……すぐに分かるよ」



モコの体が輝きだし、その姿が薄れていった。

これまでに無い変化が別れの時を告げているようだった。



「次に目が覚めたときは豊穣の森だよ。配置リセットってやつなんだけど、そこまでは説明しなくても良いか。後は実際に新世界と向き合いながら、ひとつひとつ学んでいってね」


「もう、お別れなのか?」


「しばらくの間だけね。できれば三千年くらい眠らせて欲しいなぁ」


「昼寝にしちゃ長すぎやしねぇか?」


「これでも多忙だったんだ。目を瞑ってよ」



光は強さを増す一方だ。

いよいよ目が開けていられなくなり、腕で視界を覆った。

そして、明瞭だが、囁くような声が聞こえた。



「それじゃあまたね。アルフ」



その言葉を聞いた瞬間、オレの意識は途絶えた。

気がつくと、辺りの様子はすっかり変わっていた。


草が風になびく音。

鳥の囁きに虫の声。

中天に輝く太陽の光を浴びる、色とりどりの花畑。

豊穣の森にある平原だった。



「またな、モコ……」



伝えそびれた返事を、今になって返してみた。

もちろん反応はない。

鳥が無関心そうに鳴くばかりだ。



「さて、とりあえず帰宅するか」



この辺りはオレの庭みたいなもんで、目を瞑っていても歩くことが出来る。

しばらく道を行くと、年代物の家が見えた。

少し傾いて、歪な印象を受けるその建物は、かつてオレが建てた家だった。



「おとさぁーん!」


「ライル! 無事だったのね!」



オレの帰宅に気付いたらしく、シンディたちが家の方から駆け寄ってきた。

そこにはリタやエリシアなど、留守番をしていた全員が揃っている。

更にその顔ぶれの中には、城攻めに参加していたハズのアシュリーまでが顔を並べていた。

モコの言っていた『配置リセット』とは、この事を指すんだろうか。



「おとさぁーーん!」


「アルフ! こんな所に居たのね!」



シンディたちが背後の丘より向かってくる。

そのすぐ後ろには、リタやアシュリーなんかの姿が見える。


……うん?

どういう事だコレ。

なんで皆が2人ずつ居るんだ!?


オレには全く理解出来なかった。

もちろんそれはシンディたちも同じ。

というか、経緯を全く知らない彼女たちが、オレよりも事態を把握できなくて当然だ。



「あなた、だぁれ?」


「あなたこそ、だぁれ?」



極めて酷似した2人の娘が、鏡を相手にするかのように向き合った。

増えたのはシンディだけじゃない。

他のメンバー全員が、全て2人に増殖しているのだ。

みるみるうちに状況は混沌としていく。


この時オレは思い出していた。

ひとつは、モコの意味深な言葉。

もうひとつは、特別コォドという単語だ。

それらが物凄く引っ掛かるが、原因究明は後回しだ。

今は目の前の珍事を、スムーズに解決する事が最優先課題となっていた。


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