3ー73 史上最大の混成軍
あれからアシュリーと月明を伴って出撃した。
自力で飛べるヤツだけ戦列に加えたが、モコだけ別だ。
オレの服の胸元を仮拠点として連れていくことにした。
グラン上空へ向かって飛び出したが、空は薄気味悪いくらいに静かだった。
空は晴れ渡り、喧騒もなく、戦時である事を忘れそうになる。
だが、そんな錯覚も長くは続かなかった。
途上で幾筋かの軍勢を確認したからだ。
それらの出所は大陸の中部、南部に北西とバラバラながらも、動きに呼応があるように見えた。
「みんなスマン。少しだけここで待っててくれ!」
正体不明の軍勢がちょっとだけ気がかりになる。
オレはアシュリーたちに一声かけてから、地上へと降り立った。
北西から来る軍勢は蒼夜の帷だった。
更に今回はグレートウルフの一団も連れ添っている。
この集団を率いる人物を見た途端、懐かしい気分に包まれた。
「ケビン! 久しぶりだな」
「じぃじ! 元気そうだね……うわぁ!?」
コロがケビンを背中に乗せていたのだが、そんなことはお構いなしに棹立ちになった。
そして人間の倍はある体が、オレにのし掛かってきた。
顔が腹毛に包まれ、さらにオレの髪の毛が無遠慮に舐めらまくる。
毛繕いなら間に合ってますよ、ほんと。
「ケビン。大丈夫か? それからコロは一旦落ち着け」
「アハハ。コロはじぃじが大好きだからねぇ。大目に見てあげて」
「それはともかく。この軍勢はどうしたんだ?」
「ファングが獣人を貸してくれたんだ。僕たちも聞いたよ、あの演説をさ。そしたら偉く気に入ったようでさ。『隣人の危機を救え』って事で、プリニシアと連携してグラン相手に戦う事が決まったんだ」
「そうか……。それは何よりだ」
ケビンと話し込んでいると、自然にグレートウルフたちが集まってきた。
威嚇するような気配はない。
恐らく、主のコロを上回る人物が現れて困惑しているんだろう。
「グレートウルフも参戦してくれるんだな。味方が増えて心強いってもんだ」
「他にもね、南の方から魔獣の援軍が来てくれるよ」
「えっ。こいつら以外の魔獣が? 本当なのか?」
「フォレストオークという変わり種でさ。高度な文明と高い知能を持ってるんだ。普段は森の奥深くに潜んでるんだけど、先日の砲撃でね。大分頭に来てるようだよ」
「そうか……。そんな魔獣もいたのか」
「ねぇ、じぃじ。魔獣にも情があって、家族ってものがあるんだ。人族だけじゃなく、獣人や亜人とも争っているから、破壊の権化みたいに言われてるけど……彼らにも感情はあるんだよ」
「わからなくもない。コロを見ていると、そんな気にさせられるよ。それで?」
「この戦いが終わって、大陸から脅威が消えても、彼らのテリトリーを奪わないでやって欲しいんだ。共存とか、そこまで大きな風呂敷を広げなくて良い。討伐なんか考えずに、これまで通り秘境とか、森や山の奥は彼らに譲って欲しいんだ」
言葉にするのは簡単だが、実現が難しい提案だった。
人族と魔獣の歴史は、争いの歴史そのものであり、気が遠くなるほど昔から殺し合う間柄であり続けた。
さらに魔獣は獣人、亜人とも衝突が絶えない。
まさに全種族を相手取って牙を剥き続けたのだ。
だから力に余裕が生まれれば、魔獣討伐を考える事だろう。
人族や獣人問わずに、だ。
その見込みについてケビンが知らないハズはない。
だから、このタイミングで提案した理由と言えば、たった1つしかない。
「今回の戦功で、それを認めろと言いたいんだな?」
「アハハ。先を読まれちゃったなぁ。でもそうだよ。じぃじの言う通りさ」
「わかった。どこまで実現出来るかは分からんが、戦後処理の時には考慮しよう」
「ありがとう、じぃじ」
その時、空から何かが降ってきた。
純白の翼が見えたかと思うと、続いて頭に重たく、不自然に柔らかいものが乗った。
アシュリーだ。
オレはそちらを見ること無く、ひっぺがして草地に投げ捨てた。
想定外の反応だったらしく、鳥女は尻から地に落ちた。
「アイタタ。美少女をポイ捨てするなんて、どういう了見ですか?」
「お前こそ。声をかける代わりによく分からないものを乗っけて。どういう了見ですか?」
「それはそうと、早く行きましょうよ。雑談してる余裕なんかあるんです?」
「……そうだな。ケビン、オレはもう行くぞ」
そう告げると、ケビンは不敵な笑みを浮かべつつ、拳を突き出してきた。
オレも微笑み返し、その拳を軽く自分の拳で小突いた。
「死なないで、じぃじ」
「お前こそな、ケビン」
別れを済ませると、再び空からグランへと向かった。
遠くなった大地には、いつの間にか2つの大軍が集結していた。
グラン軍と、その横暴を許さない者たちだ。
地上部隊による街の蹂躙については心配いらなくなりそうだ。
「さて、そろそろ浮遊城が見えてくる頃だが……」
「魔王どの。向こうに兄上が居るぞ」
「おし。ちゃんと頼み事はやってくれたみたいだな」
月明の指差す方へと飛んでいった。
するとそこには、陽明に加え、もう一人の男がいた。
揺るがすものクエス。
陽明へと頼み事とは、花の神の元からコイツを連れ出してもらう事だった。
「よう。恋人との甘い時間を邪魔して悪かったな」
「会うなり嫌味かよ、うぜぇ。今は世界の危機なんだ。オレが立ち会わない訳にはいかねぇだろうが」
「その通り。連中は神を超える力を手に入れたとかホザいてる。そして、罪無き人たちを手にかけた」
「高級な玩具を買ってもらったガキと変わんねぇよ。調子に乗った落とし前はつけてもらわなきゃな?」
「じゃあ、協力してくれるな?」
「だからワザワザ来たんだろ。めんどくせえ事聞くな!」
「怒んなよ。じゃあ行くぞ!」
かつて世界を震撼させた男。
オレと五分以上の力を持つ男。
それが今は味方であることが少しだけ違和感を感じたが、それ以上に頼もしさを覚える。
戦力は整った。
あとは浮遊城へと攻め入るだけとなった。




