3ー39 凍結泉の精霊
まおダラ the 3rd
第39話 凍結泉の精霊
蒼夜の連中から聞いた話だが、大陸北西部には年中凍ったままの泉があるらしい。
そこには珍しい魔獣がいるとのこと。
一度会ってみたら、というのは美青年ケビンの談。
なので、観光がてら家族をつれてやって来た訳だ。
「へぇぇ、ここが凍結泉なんですねー。見るのは初めてですよ」
「そうなのか。お前は長寿だから、アチコチ出歩いてるもんだと思ってたぞ」
「いやいや。こんなクソ寒いとこワザワザ来ませんって」
「まぁ用事が無きゃ来ねぇか」
その凍結泉だが、針葉樹林帯と山に挟まれた場所にあった。
その名の通り水面は完全に凍りついている。
ちなみにこの辺りは、一番寒い時期になると雪で歩けなくなるらしい。
人間の背丈以上に積もるらしいんだが、冗談だよな?
今でさえ歩くと踝まで雪に埋まる。
積雪っていうのはこの程度であるべきだろう。
「さて、珍しい魔獣っていうのは……」
「あそこじゃないか? 泉の向こう側」
オレの示した場所に、水色のプニプニした何かが地面に這いつくばっていた。
一見水溜まりのようたが、良く見ると確かに動いている。
とりあえずオレを先頭にして向かってみる。
「だぁー。お日様が、気持ちいいんだナァ。でもちょっとずつ蒸発しちゃうんだナァ」
「おい、こいつ喋るぞ」
「んんー。キミたちは誰なんだナァ」
「観光客だ、珍しい魔獣が居ると聞いて」
「魔獣ぅ? そんなのこの辺にいたかナァ」
「お前だお前」
獣のジャンルに含めて良いかわからんが、珍しいのは確実だ。
それにしても気の抜ける声出しやがる。
「ライル。この子は魔獣じゃないわ」
「私もそう思います。これは精霊ですよ」
「セーレーって何だ? 魔獣とどう違うんだよ」
「精霊っていうのは、魔力で体を作っている生き物ですね。純粋で雑じり気のない魔力で。だから水の精霊も、綺麗な水の側から離れられないんです」
「ふぅん。そんなヤツが居たのか」
前回の人生の時には出会わなかった。
もしかすると、それで思わぬ幸運にありつけたりする……ほど人生は甘くないか。
子供たち、特にシンディは精霊に興味深々だ。
木の枝の先っちょでしきりにつついている。
精霊は特に嫌がる様子を見せず、ただプルプルと震えるばかりだ。
「そのおネェちゃんの言う通りなんだナァ。僕はもっと南に居たんだけど、灰から逃げて来たんだナァ」
「あぁ。そいつは災難だったな。じきに元通りになるそうだが」
「それは、嬉しいんだナァ。ここは寒すぎて凍っちゃいそうなんだナァ」
「アシュリーおねぇちゃん。これ、さわってもへいき?」
「平気ですよー。遠慮せずに弄んでも」
精霊なんて言うからには、もしかすると凄い力があったりするのか。
加護がどうのとか、繁栄がどうのとかさ。
「お前。なんか得意な事とかあるか?」
「僕はねぇ、水を綺麗に……アイタタタ」
「おとさん。このこ、もっちょもちょなの!」
「すげぇ伸びる。何だこの体」
「んんー。痛い痛い。引っ張らないで欲しいんだナァ」
「ダメよシンディ。優しく扱いなさい」
「はぁい。やさしーく」
水の精霊がシンディの両手に優しく抱かれる。
そこは特等席だぞこの野郎。
「んで、お前は何が出来るんだって」
「僕ァ、お水を綺麗に保てるんだナァ」
「そうかい。あんま凄くねぇな」
「病気とか、しなくなるんだナァ。いろんな生き物、よく育つんだナァ」
「えっほんとですか!? ぜひウチに来てください!」
目の色を変えたアシュリーがシンディから水の精霊を奪い取り、自分の胸元にしまい込もうとした。
さすがに精霊も嫌なのか、ヌメヌメと逃げ始める。
絵面きったねぇな。
いつだったかアシュリーが『奇跡の秘薬できたどー』とか言いつつ小瓶を一気に呷り、全力で吐いて、盛大に上半身を汚した時みたいだ。
「アシュリー。無理強いは良くないわ。離してあげなさい」
「でもでも、これさえあれば、森の復活もずっと早くなります!」
「嫌だぁ。灰だらけなのは嫌なんだナァ」
「順序ってもんがあるだろ。灰の大地を解決してからだ。大地の精霊とかに頼むのが先だって」
そんなヤツが居るならな。
知らねぇけどさ。
「大地の精なら、東の方に居るんだナァ。地面の深いところ」
居るのかよ。
余計な事言っちまった。
アシュリーが水の精霊をペタンと地面に投げ、空に飛び立とうとする。
その首根っこを掴んで阻止。
「アシュリー、落ち着けって。一回深呼吸しろ」
「離してください、何としても大地とやらを捕獲するんですぅ!」
「せめて情報を集めてからだ。正確な位置を把握してから……」
「大地の精なら、タク山近くの坑道に居るんだナァ。ニンゲンが掘ったのよりもさらに下に行ったところの……」
「ちょっと黙っててくんない? 今は詳細不明を口実にしてる最中だから!」
「水の精霊! 灰が無くなったら豊穣の森に来てくれますね? 約束してくれますか?」
「良いんだナァ。灰が消えて、泉のひとつもあったら、僕は住めるんだナァ」
「オッシャァ言質とったどー! 今すぐ大地の精を誘拐に……」
「落ち着けっつの」
「ヘムッ」
飛び去ろうとする誘拐犯を手刀で阻止。
ぐったりとした体を、水の精霊を枕に横たえさせた。
その時、エリシアがポツリと言った。
「ライル。嫌な予感がする」
「奇遇だな。オレもだぞ」
「水の精を連れていくには大地の精の力が必要、でもきっと……」
「大地の精も他のヤツの力が必要かもしれん。火の精とかその辺のな」
終わり無きおつかい。
数珠つなぎの探訪。
なんだか、果てしない作業が始まってしまいそうだ。
どこまでやるかはアシュリー次第だが、肝心の本人は気絶中だ。
その口からはヨダレが溢れている。
ダラリと水の精霊にかかる。
これも浄化してくれるんだろうか。
……と思いはしたが、結局は聞かなかった。




