絡みもつれる
ショウ本人の希望もあって、わたしは両親に見合い相手が幼馴染であったことを知らせなかった。
ショウは、死んだものと思っていた子供が見つかったとなれば、生みの親と育ての親の間で混乱が起こるだろうと案じているらしい。親に迷惑をかけたくないというショウの気持ちは、わたしにもよく分かった。
「光弥ったら、なかなかいい感じだったらしいですよ」
嬉々として父様に報告する母様を見ていると、少しだけ胸が痛んだ。わたしとショウはそういう関係ではないのだから。
「良かったじゃないか」
「……ん、うん」
曖昧に返事をし、ショウと会う約束を取り付けた日を父様と母様に報告する。
ショウと会うのは楽しかった。ショウはわたしの話を親身になって聞いてくれたし、ショウと居る間だけは疎外されていた時のことも忘れられた。
家出をして軟禁生活を送っていたことを話すと、驚いたようだったが「こーやは変わってないですね」と笑い飛ばしてくれた。世間知らずなわたしに、ショウは優しく物事を教えてくれた。
わたしにとって、ショウと居る時間が何よりも大切だった。
けれど、ショウがこちらに滞在するのは、次の満月の日までだという。あと半月も残されていないのだ。
この限られた時間で、わたしには何ができるだろうか。どれだけの思い出が作れるだろうか。そればかりを考えていた。
「こーやっ!」
いつもショウは嬉しそうにわたしの名を呼び、手を振ってくれる。
時間よりも早く待ち合わせ場所に行っても、ショウは必ずわたしより先にいた。どれだけ早くに来ているのかと聞いても、今着いたばかりだと言って本当のことは教えてくれない。
「言わないと怒るよ」
「怒っていいですよ。こーやの怒った顔も見てみたいですから」
わたしは脅しをかけてみたが、ショウは腹立たしいほど動じなかった。
逆に、爽やかな笑顔で返されたわたしの方が返答に困ってしまった。
「こーや、怒らないんですか?」
「う……」
ショウは会わないうちにずいぶんと憎たらしくなったようだ。
「なんだ。こーやが強気なのは口先だけなんですね」
ショウにからかわれて、思わず手が出てしまった。ショウの頬にわたしの爪が突き立てられる。
「……あ、ごめっ……」
我に返って手を後ろに回した。ショウの頬には、三本の爪の跡が赤く浮き上がってきた。
「何かありましたか?」
ショウは憎らしいくらいにケロッとして、わたしの目を見つめてきた。
わたしは目を合わせ続けるのに耐えきれず、少しだけショウを睨み付けてから目を逸らした。
食卓には、毎日色とりどりの海藻のサラダが並んだ。流れ着いた空きビンには水草を飾っている。両親はいつになくご機嫌のようだ。
「光弥、上手くいきそうか」
「ん?」
わたしはサラダを頬張りながら頷いた。
父様は満足げに笑った。母様はわたしが良い報告をするたびに手の込んだ料理を作るようになった。
「毎日楽しいよ」
「やっぱり私の見立てがよかったのよ」
母様はなぜか自慢げだった。二人を見ていると、ショウをいい友達だと思っているとは言い出せなかった。
「明日も行くから」
「そうね。じゃあ私が手土産に何か作りましょう」
母様はせかせかと動き回り、あちらこちらの棚を漁り始めた。わたしは、呆れてため息が出そうになるのを堪えるのが大変だった。
楽しい時が流れるのは早かった。この二週間は瞬き一つする間に過ぎ去ってしまったように感じる。
「明日には帰るんだね」
「はい。親の仕事の手伝いもありますから」
ショウはわたしとは違う。ちゃんと働いて、成長している。
ショウの話を聞いていると、自分の劣ったところにばかりが目につく。劣等感をバネにできる者になら、これも耐えられるのだろうか。わたしは劣等感に押し潰されて動けなくなってしまうから――。
わたしは密かに頬の裏側を噛んだ。
水の揺らぎを感じて顔を上げると、ショウがすぐそばにいた。この距離ならきっと、腕の長いショウならわたしの肩も掴めてしまうだろう。
「こーや、僕と一緒に来てくれませんか?」
「そうだね。今度はショウの町にも遊びに行きたい」
「遊びじゃありません。その……、これからもずっと、僕と一緒に……」
何の冗談かと思った。けれど、ショウの瞳は真剣だった。ショウの手がわたしの肩に触れる。
「……それは」
わたしの肩に載せられたショウの手は、大げさすぎるくらいに震えていた。
「いいですよ、本当のことを言って」
「ごめん……」
わたしは、無邪気に笑うショウを弟のように思っていた。だから、ショウをそういう風に見ることはできない。
そう伝えると、ショウは寂しそうな笑みを残して去ってしまった。




