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光は泡沫に踊る  作者: 牧田紗矢乃


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2/14

思わぬ再会

 半年ほどの時間が過ぎただろうか。

 センソウから逃れていろいろな土地へ行った。ぬるすぎる海もあったし、冷たくて凍えるような海もあった。土地が変われば行き交う魚の種類も違う。見たこともない魚に出くわして、面くらったこともあった。


 そこには、わたしが望んだ「非日常」があった。


 初めは頭痛を引き起こす原因だった魚も、いつしか食べられるようになっていた。要は、環境と慣れなのだ。自分はただの甘ったれだったのだと実感して、恥ずかしくなった。


「恥じらい」


 呟いてみる。「恥じらいの心を持て」。父様がよく言っていた言葉だ。

 恥じらうことは悪いことではない。気付かずに恥を晒し続けるのが醜悪なのだ。恥に気付きながらもなかったことにしようなどという甘ったれた考えなど言うまでもない。恥ずべき点は隠さず、改善せよ。

 耳にたこができるほど言い聞かされたことは、身と心に深く沁みついていた。父様の言っていたことは正しいと思うし、恥じらいは大切だ。


 これからは、食わず嫌いはやめよう。多少頭が痛くても、慣れれば平気になるとわかったのだから。

 これで、少しは成長できるだろうか。……と、考えて、家出してから半年も経ったのにまだ父様に認められたいという気持ちが残っていたことに我ながら驚いた。


 家族とも故郷とも離れて過ごすというのはとてもいい経験だった。

 けれど、この半年間、どこへ行ってもセンソウたちから逃れることが出来なかった。時には少数で、時には空が真っ黒になるほどの大群で、センソウはわたしの行く先々に現れたのだ。


 気が付けばセンソウはいなくなっていた。もう、逃げ回る必要はなくなった。

 これで安心して一所ひとところで暮らすことができるのだ。

 家出をしてすぐの日に見つけたあの港町を超えるような景色は、ついに見つけられなかった。だから、棲家にするならあの港の近くがいい。白い建物がどうなったのかも気になる。


 ……けれど、センソウから逃げるので必死になりすぎて、港町がどこにあったのかがわからなくなっていた。それどころか、自分が今どの辺りにいるのかさえ曖昧だ。

 誰かに聞こうにも、この辺りには人魚はいないらしい。


 途方に暮れたわたしは、潮の流れに身を任せながら、海藻のように海を漂った。ぼんやりと上を見つめていると、普段はあまり意識しないものまで目に入ってくる。ときおり通り過ぎていく魚の群れがキラキラと輝いていて、とても綺麗だった。

 どこにいるのかわからないこの状況さえも、素晴らしく思えてくる。


光弥こうやか……?」


 不意に、聞き覚えのある声がした。誰だろう、と視線を巡らせると、遠くからこちらへ向けて泳いでくるものが見えた。


「やはり。光弥ではないか」

「あっ……」


 おじ様、とわたしは声に出さないで呟いた。おじ様はわたしの母様の兄で、旅好きが高じていつも色々な地方を放浪している。だから、あまり会ったことはないのだけれど、わたしのことをとても可愛がってくれたことはよく覚えていた。


「どうしてこんな所に……」

「こんな所? おじ様、ここがどこだかわかるんですか?」

「なんだ、迷子になったのか。よくこんな遠くまで来たものだ」


 かか、と豪快に笑い、おじ様はわたしの手を引いて泳ぎだした。

 髪は少し薄くなってきていたが、少し前を行くおじ様の背中は昔と変わらずたくましかった。

 わたしは何も考えずに、手を引かれるままおじ様について行った。


 おじ様曰く、ここは実家からかなり離れた所にあるらしい。家からここまでは潮の流れの関係もあって来にくい所だけれど、逆に帰りは上手く潮流を捕まえればそう時間はかからないとか。

 さすがに旅慣れしているだけあって、おじ様はほんの小さな潮の流れでさえも把握していた。

 流れに乗っている時は、力をこめずともすいすいと進んでいるのがわかる。小さな流れであっても、あるのとないのでは大違いだった。


 岩陰に隠れて休憩したり、まとわりついてきた小魚をつまみ食いしたりしながら、わたしとおじ様は数日間共に海の旅をした。

 おじ様と共にいる間、わたしは今まで旅してきた場所の話をぽつぽつと話した。もちろん、おじ様も行ったことのある場所ばかりで、わたしの知らないことまで補足して教えてくれた。


「そもそも、何のために旅を始めたんだ?」


 わたしの話が一通り終わったころ、おじ様が問いかけてきた。わたしは家出をしたと言うわけにもいかず、別の話に切り替えることでその話題から逃れた。


「センソウっていう鳥がいて、わたしが行く先には必ず来てたの。あれが一番怖かった」

「センソウ? カモメやウミネコではないのか?」

「そんな可愛いもんじゃなかった。でっかくて、町を焼いてたの」


 わたしが言うと、おじ様は泳ぐのをやめて振り返った。


「光弥、それは鳥ではないそ」

「……え? 空を飛んでいたのに?」


 おじ様は、説明してくれた。あの鳥は「セントウキ」というものであって、センソウはセントウキを使って人と人が殺し合うことをいうのだ、と。たぶん、そういう内容だったと思う。

 わたしたちの暮らしていた所では小さないさかいはあっても、町が燃えさしのようになってしまうほどの激しい争いは起こったことがない。個体数を大幅に削ることになるであろうセンソウは、メリットも感じられない。人間というものが考えることはよくわからなかった。


 センソウが起こった原因は、おじ様も知らないらしい。

 いつの間にか始まっていて、いつの間にか終わっていた。ここから離れた地方では、もっとひどい状況になっているという。

 おじ様の知り合いがそちらに住んでいるということで、様子を見に行きたいと言っていた。けれど、水が悪くなってしまっていて近づくのも危険だということで無事に逃げ延びていることを祈るしかできないのだと嘆いていた。


 父様が人間に近づくなと言っていた理由も、おじ様の話を聞くうちにわかった気がした。

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