花は陰り
ショウが帰ってしまった日、わたしは両親に謝った。理由は言わず、ただショウのことを忘れて欲しいと頭を下げた。
よっぽど衝撃的だったと見えて、父様も母様も追及してくることはなかった。
ショウがいなくたって、何も変わりはしないと思っていた。けれど、時間が経つにつれて胸に大きな穴が開いたような感覚に見舞われるようになった。
出かけても一緒に笑ってくれるショウがいないなら、行くだけ無駄だ。ショウと一緒でなければ、何も楽しくない。
それなのに、ショウから連絡が来ることはなかった。ショウはわたしのことを忘れてしまったのかもしれない。新しい女を見つけたのかも。
……ショウは、わたしの物ではない。わたしが断ったのだから。それなのに、どうして他の女がいると思うとこんなに腹が立つのだろうか。
ショウほど相性のいい相手もいないと思ったのに、彼にとってのわたしはそうではなかったらしい。
これが世の理というものなのだろう。だとすれば、わたしにぴったりの相手などこの世にいない。
考えれば考えるほど嫌になった。父様と母様の言葉さえも嘘偽りであるとしか思えなかった。
誰のことも信用できなくなったわたしは、また家から出られなくなった。
父様や母様とも顔を合わせたくない。そう思う日が続いた。
部屋にいれば、わたしは誰のことも気にせずに生きられる。一人ほど気楽で自由なものもないだろう。
「光弥、一体どうしたのよ」
母様は、わたしの部屋の前でしつこく話しかけてきた。
心配した振りなんかして、次はどんな手でわたしを陥れるつもりだろう。ショウのことだって、本当は知っていたに違いない。
答える気にもなれないわたしは、眠ったふりをして誤魔化した。
食欲だけは普段通りにあったので、食事の時だけは居間に向かう。
「あなたもしかして……」
「ショウ……太、さんのこと?」
礁太はもう他人だ。ショウなんて呼んではいけない。自分を叱責した。
両親は沈黙したままだ。
――静寂が息苦しい。沈黙は埋めよう。
わたしは口を開いた。
「連絡がないってことは、そういうことなんでしょ」
自分でも驚くくらい冷たい声が出た。感情の無い声だ。両親も目を丸くしている。わたしが怒ったとでも思ったのか。
それとも、ただの演技か。
「ごちそうさま」
とんだ役者もいたものだ。残ったサラダを口に押し込んで今を立ち去った。