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【連載版】胃痛でダンジョンを攻略せよ! ~冷酷王子に追放された補佐官、最強スキルを手に入れる~  作者: 北峰


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第四話 灼熱の胃液

 傷つき倒れたトゥレンの耳は、その足音を捉えていた。

 地面を踏みしめる時でさえ圧力を感じさせるほど重く、決して迷うことのない足取り。

 その主は――


「何をしている、トゥレン」

「――殿下ぁっ!?」


 うわずった奇声を上げ、彼は文字通り飛び上がった。

 6.73倍に膨れ上がった胃痛も、もはや吹き飛んでいる。

 それほどの衝撃だった。


 今、目の前にいるのは、ここに絶対いるはずのない主君――冷酷と名高いアレクシス王子だったのである。


「姿を見かけないと思ったら、こんなところで迷子になっていたのか」

「ま、迷子などと……私は、その……」


 どんな時でも舌をなめらかに回転させる彼が、この時は完全にしどろもどろになっていた。


 ――なぜ、ここに殿下が?


 この怪しい場所は王国とは全く別の世界らしい。

 そんなところに、殿下まで巻き込まれてしまったのだろうか?

 いや、そもそも――


「どう…いう……ことなのですか……? 殿下こそ、私を追放なさったのでは……?」

「――トゥレン君、気をつけて!」


 混乱して固まった彼を叱咤するように、珍しくおうごんちょが緊張した声で叫んだ。

 と、同時に、王子は一瞬で距離を詰め、抜き放った長剣で斬りつけてきた。


 全く武芸の才能の欠片すらも持たない彼は、本来ならばその場で真っ二つにされていただろう。

 だが、驚くことに、王子の剣は彼の額の真上で動きを止めていた。


「どういうことだ……?」


 その問いはトゥレンの心の声だけでなく、王子の口からも発せられた。

 これまで数多くの敵を斬り伏せてきた彼の剣は、なんとキノコによって防がれていたのである。


 ――キノコ?


 トゥレンも呆然とその様子を見ていた。

 いつの間にか増殖しすぎた紫のキノコの群れが、王子の腕や脚に絡みつき、懸命にトゥレンを守ろうとしていたのである。

 命懸けで仲間を守るモンスターとの美しい絆――まさにその場面のはずだが、絵面はあまりにひどかった。


「トゥレン君、こいつは本物の王子じゃない! そっくりに化ける人まねモンスターだよ! 多分」

「確証のないことを言わないでください!」


 おうごんちょの忠告に、トゥレンは思わず絶叫した。

 そして、彼は改めて主君らしき人物を凝視する。


 全身から放たれる常人ならぬ威圧感。

 ずば抜けた長身に、鍛えられた鋼の肉体。

 何より、その数と深さだけで本人確認できるほどの眉間の皺。

 それらはまさに本物である証と言えた。


 だが、それでもなお不審な点は多い。

 こんな非常識な場所に殿下がいるものだろうか?

 あの殿下が、いくら数が多かろうと、キノコ程度に足止めをされるだろうか?


 とはいえ、すでに己がここにいること自体が非常識なのだ。

 殿下まで巻き込まれた可能性がないとは決して言いきれなかった。

 もし判断を誤れば、過失であろうと主君に仇なすことになってしまう。

 その板挟みで、トゥレンの胃袋は完全に限界値を超えた。


 パァンッ!!


 忌まわしい破裂音。

 それと同時に、王子の体が大きくのけぞる。


「トゥレン、どういうことだ」


 決して裏切るはずのない部下からの攻撃を受け、王子は怒りに満ちた目を向けてくる。


「も、申し訳ございません、殿下! 違うのです、これは――」


 トゥレンは何とか弁明しようとする。

 もはやこうなっては相手が本物かどうか、自分が追放されたはずではなかったかなど、些末(さまつ)なことだった。

 ほとんど条件反射でひたすら詫びるよりなく、その焦りがますます胃痛を増大させる。

 彼は、熱く煮えたぎる胃液に腹の内側を焼かれるような感覚に見舞われた。

 そして、それは彼の魔力がいっそうみなぎる証でもあった。


 パァンッ

 パパンッ!

 パパパァンッ!!


 トゥレンが頭を下げるたびに、魔力がはじけて王子を攻撃する。


「おい、トゥレン――」

「ちちち違います! 私は殿下を裏切ったりなど決していたしません!!」


 トゥレンが断末魔のような悲鳴を絞り出す。

 その瞬間、魔力はこれまでで最も強くまばゆい光を放った。


 バァァァァンッ!!!!


 雷鳴のような轟音とともに、赤い光の束がありえない速度で王子を襲った。

 いくら武術の達人であろうと、生身の人間にそれを受け止められるはずもない。

 王子はその攻撃を真正面から食らって吹っ飛び、洞窟の壁に体ごと叩きつけられた。


「殿下ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 トゥレンは絶叫した。

 自分の意図しない魔力とやらの暴走で、まさかよりによって主君を傷つけるなど万死に値する反逆行為である。

 しかも、岩肌に叩きつけられた王子はぐったりして身動きすらしない。


「私は……私は……何ということを……」


 トゥレンの脳は完全に思考を止めた。

 何も聞こえない。

 何も感じない。

 痛みすらもどこか遠くへ消え飛んでしまったかのような、浮遊感。


 そして彼は、大量の血を吐いた。

 その瞬間――


 ゴゴゴゴゴと地底の奥から突き上げられるような地響きの音。

 足裏にその振動を感じて、彼は口から血を垂れ流しながら我に返った。


 だが、すでに遅かった。

 彼が異変に気づくのとほぼ同時に、大地が割けた。

 洞窟の地面も壁も天井も、四方八方に大きな亀裂が一斉に走る。

 トゥレンの圧倒的な魔力の負荷に耐えきれず、ついに洞窟が悲鳴を上げたのだった。


「ば、馬鹿な――……」


 思わず漏らした声は、瓦礫の降り注ぐ音にかき消された。

 王子も、おうごんちょも、鴉も、キノコも、すべて瓦礫に飲まれていく。

 この崩壊を起こした胃痛の使い手とともに、彼らはダンジョンの藻屑となった。

本日は二話更新です。

次回、いよいよ最終回!!

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タイトルが全て本編をオマージュしとる……
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