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第三話 愛して

 「消えないチクタク——」

 

 デブさんの投稿を見た時はただの都市伝説やら、与太話。

 もしくは俺を励まそうとして作った話だと思った。


 でも、気になるな。


 ◇

 罪人(とがびと)@ボッチ ID:togabi  1分前


 消えないチクタク……

 初めて聞きました。どんな話何でしょうか?

 


 ♡1

  

 好きな食べ物は肉@デブ ID:debudebu 数秒前


 感染者の末期症状は知ってるブヒか?

 その症状が出てても、抱きついてこない個体がいる、ブヒ。


 つまり、末期症状なのに死なないらしい(*´ω`*)ブヒよ

 羨ましいブヒ


 ♡1

 

 ◇


 ベッドに転がりながらスマホを見ていた俺は、デブさんの話を聞いて手に持ったスマホを胸の上に置いた。

 発熱した機械の熱が、胸にじんわり広がって冷えた心に広がっていく気がした。


 ディスプレイを見続けたことで疲れた目を閉じて、今話していたことを考える

 

 感染して死なない人——そんなのありえない。


 むしろ、あって欲しくない。

 もし、そうだったら、俺が今までの殺処分送りにした人はどうなる。

 助かっていたかもしれない。そんなの、耐えられるわけないだろ。


 だから——あってはならない。

 

 一二年。初期感染からそれだけ時間が経った。

 世界各国が調べても治療法どころか、原因すら分からないんだぜ。


 ——致死率百パーセント。


 感染したら確実に死ぬ。

 発症から最短三日、長くて一ヶ月。

 症状が末期になったら——


 自分のこれまでの行いを正当化するのに、ツラツラと頭の中で列挙した。


 「余計、気分が落ち込んだかも」


 俺はスマホを適当に、放り投げる。

 今度こそ寝よう。

 そう思って、俺は再び目を閉じた。


 ————


 「お父さん! 今日は人がいっぱいだね! 普段は全然いないのに」

 「おい! 最後の一言は余計だ! たく、斗賀見は誰に似たんだか」


 ——俺の父親だ。たまによく見る、最悪な夢。

 子供の頃の俺は、純粋で目の奥には羨望のような眼差しがあった。


 父親は小さな神社の神主。

 着物とも袴とも取れない独特な神職の服を俺は、好きだった。

 普段はにこやかな父親も、祝詞を唱える時は人が変わる。


 その祝詞に集まった人達は静かに聞き入っていた。


 「斗賀ちゃん! こっち来てー!」

 「もう! お母さん辞めてよ! 僕十歳なの——それに男なんだからね」

 「あらあら、おませさんね」


 巫女服を着ている母親は、いつも「斗賀ちゃん」と言って名前を呼んでいた。

 母の近くにいたアルバイトの女の子達も、子供の頃の俺の言動を見てクスリと笑っている。


 それが余計恥ずかしくて、母親を睨みつけるように見ていた。


 「斗賀ちゃん、お母さん達を手伝ってもらえるかしら?」

 「お母さん! もうっ!」


 子供の頃の俺が怒れば怒るほど、向けられる視線は温かかった。


 そう、この瞬間までは幸せだったんだ。


 「え? あの、ちょ、どうした——」


 前兆は何もない。

 幸せは、簡単に壊れる。


 ——チッチッチッ

 時計の針の音。 


 「私を——愛して」


 アルバイトの女子学生の一人が唐突に母親に、抱きついた。

 困惑した母が彼女に言葉をかけるが、返ってきた返事は要領を得ないもの。


 「あの、何かあったのなら後で——」

 

 その言葉を最後に母親は姿を、消した。

 わずかに近くなった空をぼーっと眺めながら、背中から地面に叩きつけられる。


 肺の空気を無理やり押し出され、ようやく現実が追いついた。


 「ゴホ、、ゴホッ、、、お母……さん」


 あ、ああ……。


 視界に広がったのは、赤い色と人の形を作っていたパーツ。

 さっきまで笑っていたのに、癇癪を起こした子供が壊したおもちゃのように散らばっていた。


 ひとつ、ひとつを目で追っても、どれが母のものか分からない。


 ——チッチッチッチッ


 時計の音。

 体が竦む。

 足が絡まって上手く立てない。


 「——あっ」


 大きな手。

 この匂いは、父だ。


 肩に担がれて顔が見えない。


 知らない女の子の泣き声が聞こえる気がした。


 「ここに隠れてるんだ! 絶対出てきちゃだめだぞっ!」


 神様が祀られてる建物の中に押し込まれて、扉が強く閉められた。

 格子状の扉からは父の姿が見える。


 「——斗賀見」


 背中越しに父が話しかけてくる。


 「困ってる人を見かけたら、助けてやる」


 ——優しい男になるんだぞ——


 俺の返事を待たないで、父は走り出した。

 

 「こっちだ——!」


 何者かを誘い出すように声を荒げて、階段へ走る。

 

 ——そっちに行っちゃだめだ。

 心の中で叫んでも、手を伸ばしても——夢の中の世界は、変わらない。


 ——チッチッチッチッチッチッチッチッチッ


 大量の時計を一箇所に集めたような音。

 いつまでもこびりつくように、耳に残る。


 「私を——」

 「僕を——」

 

  ——愛して——


 世界から音が消える。

 耳の中から生温かい物が流れた。


 母と同じところで——弾けた父。


 その衝撃で、俺は仰向けに倒れた。

 俺達の姿を隠していた扉はなく、お賽銭箱の上の鈴が丸見えだった。


 金色のような色に、わずかに赤い液体がこびりついていた。


  ——チッ…………チッ…………


 すぐ近くから聞こえる時計の音。

 その音に反応して、肩がピクリと跳ねた。

   

 「神様……ごめんなさい」


 お母さんに怒ったからこんなことになっちゃったのかな。

 お父さんの言いつけを守らなくて、怒られたりもしたし。

 僕が悪い子だから、神様が怒って。


 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。


 頭の中でそう繰り返していると、空から黒い物体が落ちてきてお社の中に入り込んできた。

 ちょうど僕の頭の横に転がってきて、顔を横に向ける。


 それは、お父さんだった——

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