番外編 復讐子息は秘匿する。
「「あ……」」
僕の名前はリスクルビダ・カモミート。
カモミート伯爵家の次男、プラーミア学園中等部2年生。授業終わりに家の馬車へ向かう途中…思いがけなくセラフィーナ様と出会う。
「リスク!これから帰り?」
「はいっセラフィーナ様もですか?」
「うん!」
なんだかんだ男爵家の一件から数ヶ月が経過した今日此の頃。未だセラフィーナ様に深く聞けていない過去の話。
聞いたら教えてくれてしまうと思うと、余計に迂闊には聞けない。
「…リスク??」
「あ…うんん、何でもない!」
「そう?…あ、そういえば今日王都に視察…的な奴行くんだけど、良かったら一緒に行かない?」
「良いんですか?!ぜひ!」
王都に視察に行くのは、基本王族。貴族の中だと公爵か…もしくは一部の侯爵のみで、僕らが行くという仕来りはない。が、行けるのであれば行ってみたいのは事実。
「レオンハルト様は?」
「お兄様は忙しいから私が一人で」
「えっ、なら僕が行ってもよろしいのですか?」
セラフィーナ様は大きく頷きながら「もちろん!」と言い放った。
「それより…どうして私のことセラフィーナ様って?」
「??」
「あと敬語も…、……嫌じゃないんだけど、ティーアちゃんには敬語無しベースなのに、それに、リスクがセラフィーナに敬語なのは若干違和感というか……」
段々と声が小さくなっていく様子のティーアちゃん。
……へーぇ、本来はセラフィーナ様には敬語無しがべーす…なのか。べーす…べーす……基本、って感じかな。
でも、……ゲームの僕と今の僕は違うんだってことを証明する為にも、その違和感は必須だと思うんだ。
「僕にはこれが丁度良いので、このままではいけませんか?」
「あ…うんん全然!リスクが言いやすい方で良いよ!嬉しい!」
セラフィーナ様には申し訳ないけれど、違いを見せつけなければならない。
「視察は直接?」
「うん、プラーミア学園からの方が近いからね、一回家に帰ると二重にかかって大変だし!制服ならお忍びとして良いかなって!イグニス様みたく顔が知られてるわけじゃないから」
「……その髪色は目立つと思いますけど、」
「うぅーんそれは……そうか…超絶可愛いもんなぁ……」
……その言葉は彼女自身への言葉じゃない。
一見、セラフィーナ様は自己肯定感が高いようにみえる。可愛いだとか美しさの塊だとか笑顔が主人公だとか。……間違ってはいないのだが、それはあくまでも外見だけ。
セラフィーナ様は自分の気持ちや心を褒めたりはしない。少なくとも、僕は見たことがない。
確かに外見は綺麗だし可愛いとは思う。
……だけど、何より素晴らしく素敵なのは……
「??リスク?」
「…いえ、良かったら一度うちに寄りませんか?エンシャンツ公爵家よりは王都に近いので、」
……駄目だ、言えない。何より素晴らしいのは外見よりも中身です、なんて言えない。
そもそもよく考えたら、セラフィーナ様にとって僕はまだゲームの登場人物だろうし、なんならこれからもその【オトチカ】フィルターはかかるだろう。
そのゲームと今の僕とでどんな感じで変わってるのか分からないし、「変わりました!」なんてハッキリ言えない。しかも、セラフィーナ様本来の姿だって僕には分からない。僕らに見せてる性格すべてがゲームの彼女の模倣かもしれないわけだし。
だけどそれでも、……僕にとってのセラフィーナ様は……
「えっいーの!?行く!行きたいっ」
………言わなくても良いかな、今は。
でも言わなかったらゲームの僕に近づくんだよね確か。みすてりあす…秘匿系復讐子息とか言ってたし。ゲームの影響力というか強制力というか、怖いな……
そもそもそのゲームを誰が作ったのかとか、どういう意図で作ったのかとかが気になってくる。
だって、ここまで黒竜事件とか人物だとかをそっくりそのまま模倣するって…どう考えても出来過ぎているだろう。
この世界が本当に物語の世界なのか、……或いは、この世界の未来を知った誰かがその未来を変える為あちら世界で成り行きを発信したのか。
そんなことを思いながら、馬車乗り場に着き、キャンディさんに僕の家に行ってから視察に向かうと伝える。キャンディさんは僕ならば、と時間を伝えてから任せてくれたので、セラフィーナ様を守る為更に気を引き締めて行かねばならないと思った。
着替えを済ませ、簡易的な格好となる僕ら。
「じゃじゃ〜ん!見てみて!帽子被ったら男装系ヒロイン〜」
残念ながらうちは兄さんと僕とで男兄弟、しかもお継母様は生粋の貴族であり、亡くなったお母様の遺品は誰にも触らせないようになっている。
なのでセラフィーナ様にピッタリ合う丈の服は僕の昔の服しかなかったのでそうなってしまったのだが、思った以上に普通に似合っている。
しかも若干レオンハルト様を沸騰するような…しないような。体格が全然違うし、目元もちょっと違うからな。セラフィーナ様はタレ目に近い感じのパッチリ瞳だけど、レオンハルト様は完全にキリッとしたツリ目で…どちらかと言えばセラフィーナ様よりはティーアと似てる。……レオンハルト様に言ったら拗ねちゃうだろうか。
「お似合いですよ」
「え〜分かる!それな!?一作目にも性別転換回あれば良かったのになぁ〜」
……一作目“にも”、だと…?
とりあえず聞かなかったことにしておく。……セラフィーナ様の言葉と状況から察するに僕は第一作目なので問題はない。というか、ゲームのことはティーアやレオンハルト様は知っているのだろうか。表立って話しているのを見たことはないし……
とはいえ考えている余裕はない。学園終わりなのでうかうかしているとすぐに暗くなってしまうし、任された者としては安全にエンシャンツ公爵家まで送り届けるのが筋というモノ。
兄さんは不在だったのでお継母様に挨拶をしてから馬車に乗り込み、そのまま王都へと向かう。少し離れた郊外で降ろしてもらい、一人の衛兵と共に王都内を散策することに。流石に二人きりは護衛の面からも、そして年頃の人間としてもよろしくないということだ。
セラフィーナ様は悔しそうにしていたけれど、二人きりだと僕がレオンハルト様に嫌われる可能性が出てくるのでそれは避ける必要があるのである。ごめんなさいセラフィーナ様。
「フルール村より賑わってる感じあるね〜!」
「はい、流石に王都なので人は多く行き交ってますね」
フルール村は年に一度あのお祭りがあるとはいえ、通常時は人は少なめ。……位置的に西の辺境に近いし、村の奥は森が広がっているから少し危険っていうのもあるかもしれない。僕的には休みの日には行ける距離にある良い所だし、優しくていい人ばかりなんだけどなって思うけれど。
最近は学園が休みの日にはフルール村を訪れるようにしている。迷惑かなと思ったけれど、レアンさんは「いつもローズ達と遊んでくれてありがと!」って言ってくれるし、ローズやリリーも懐いてくれるので結構嬉しい。
「ちなみにセラフィーナ様、屋台で買うのは自由ですが…くれぐれも毒味をした物から食べてくださいね?」
「リスク様もですからね」
セラフィーナ様に言った言葉がそっくりそのまま返ってくる。しかも間髪入れず。
「え、いやでもほら、あくまで…公爵と伯爵の……」
「リスクー?イーサン殿を困らせないでくださーい」
セラフィーナ様の言葉に何も言えなくなり一瞬止まる。
そして「ぷふっ」と…僕らは同時に吹き出した。
セラフィーナ様は前世の記憶があるから毒味とか慣れてないんだろうなって思う。僕はまぁ…自慢の兄さんがいますから。
「でもそっか…そうだよね、貴族だし…でもでも、遅効性の毒なら攻略ムズくない?」
「ある程度の毒には確か万能解毒剤が効く筈ですけど、確かに遅効性だと意味ないかもしれませんね…」
「……リスク様、セラフィーナ様、だからといって毒味はなくなりませんから!」
衛兵であるイーサンにそう言われてしまい、僕らはそのことについては何も言えない。
「ぅ…あぁ!そうだ、あの…だから、名前!セラ…セーラ?兎に角一応お忍びだから!!」
セラフィーナ様の言う通り確かにそれは一理ある。僕らは特に否定することなく頷いた。そして…
「きゃぁぁぁああああっっっっ」
噴水付近に何かが出現する。あれは……魔物…?
「そういえば最近、蠍の魔物が……って、セラフィーナ様!?」
僕が認識する前にセラフィーナ様はその噴水に向かって走っていた。こ、これが…キャンディさんが言っていた「止めるのは無駄」って奴だ。
止めても走るし、止める前に走る。
置いていかれないよう走ろうとするが、イーサンに止められてしまう。まあ、セラフィーナ様を見習って今回ばかりは無視をさせてもらおう。
セラフィーナ様は「蠍は…ヘア様が…っ」等と呟いていた。名前か何かだろうか、いや…そんなことより…!
「きゃっっ…ぅ…あ…っっ」
「君は…」
蠍に襲われそうになる少女に間一髪で手を伸ばす。受け身を取りつつなんとか攻撃を避けた。
……この少女を僕は知っている。セラフィーナ様はどうか分からないけど、僕は知ってるし兄さんも知ってるだろう。兄さんを物凄く睨んでいた女の子。ロータスさんの話によると兄さんの身長にビビったのだろうとのことだった。どこかの孤児院に引き取られたと聞いていたけれど、王都にいるなんて……
「イーサン、この子を避難させてくれ…僕はセラフィーナ様の所へ向かう!」
「っっ…、……ですが…!」
「好きな人の前ではカッコつけさせてくれ、な?」
イーサンは迷った末「畏まりました」と言ってくれる。
……兄さんみたいに恋愛的な意味なわけじゃないし、かと言ってレオンハルト様みたいな家族愛なわけじゃない。恋仲になりたいだとか、生涯を共にしたいとかじゃない。
ただそれでも、僕にとって彼女は紛れもなく“特別”だから。
「セラフィーナ様っッ!!」
「リスク…、魔物の弱点は目、蠍は頭と胴体が一体化した背甲の中央に1対中眼が2個あって、そのすぐ斜め下の両脇に小さな目が2〜5対並んでるよ!大概は3対って聞いたことある!」
「了解です、僕は小さな目を担当するので、セラフィーナ様は中眼を!」
何故そんなことを知っているのか、と気になりつつも魔力を手に溜め続ける。
「同時ね、おけ!」
大丈夫だ、……あんなに沢山練習を重ねたのだから。
「〈空を覆いし幾万の雨よ、身を串刺す槍となりて突き抜けよ〉っっ!!」
「サンシャインアロー!!!」
セラフィーナ様は弓矢の構えをして魔力を放つ。
幸い少し大きかったとはいえ一体しか居なかったので一撃で倒し終わる。ほっと一息つきセラフィーナ様の方を見て、僕は固まってしまう。
問題は……大有りだった。
騒ぎに駆けつけた人や心配になって見に来てくれた人が……見つけてしまったのだ。
「リスク〜助かったよぉありがと!」
「せ、せら…せらふぃ……」
「ん?セラでしょ!セー…」
走った際に帽子が取れてしまったのだろう。深く被っていた帽子の中にあった桃色の髪と黄金の瞳が夕日に当たりキラキラとしている。
……セラフィーナ様も風に吹かれ髪がなびいたのを境に、サーッと青ざめていった。
周りの皆も、「あれって…」「もしかして……」等と言っているのだ。流石に言い逃れできない。どうしようか考えていると…2人の屈強な男性がここまで来てくれる。白い団服……間違いなく、我らが国の騎士だった。しかも、一人は僕もセラフィーナ様も一度会ったことがある。
「んぉ?セラじゃないっすか!久しぶりっす!」
ノイッシュ・ポルック第八番隊隊長。
セラフィーナ様に気がつくなりすぐに駆けつけ、大きな声で「セラ!」と言い放つ。これならばギリギリ、似ている人として通せるだろうか。
「ポルック隊長…!」
「ノイッシュで良いっすよ!そっちにいるのはリスクっすね、元気だったっすか?」
「はい、お陰様でとても!」
「良かったっす!」と無邪気に笑ってくれるノイッシュ隊長。
隣りにいた人は全く気にせず歩いてきて、噴水の辺りを確認し始める。僕は先程のことがあったので少し身構えてしまう。すると、ノイッシュ隊長が「何かあったっすか?」と言ってくれる、が…言うべきか言わないべきか悩ましい。
「もーぉ!セルヴィラと一緒っすよファルク!……あ、こっちは第四番隊隊長ファルク・イリージュっす、セルヴィラと同期で堅物なんっすよねぇ…フェルンを見習って欲しいっす!!」
誰ですかとは口が避けても言えない。
「えと…隊長格がどうしてここに2人も…?」
「ファルクは魔物の反応を辿ってここに来たみたいっすね!オイラは今日は暇だったんで着いてきたっす!今騎士団は入団試験一次選考が始まってるんっすよ、だから第一番隊が動員されてるっす!その穴埋めとして王都警備をするという意味も込めて回ってるんっす!」
そして、どこかの救世主様とは違うらしい。
ティーアはなんというか……隙があればサボってるからな。少し授業が早く終わった時とかによく行くんだけど、だいたい居るもん学園の庭園。……小学部も早く終わったのかなって思えばそうなのかもしれないけども。
「それより2人は何か見かけなかったっすか?」
「えっと…そのぉ…」
周りに人が大勢いるのに「見てないです」なんて嘘はつけない。かと言って正直に言えば今後こんなふうに視察に行くことができなくなる可能性が。そもそも周りの皆は僕らのことを……
「あー!アレロン居たんっすね!?」
((ノイッシュ隊長ぉぉぉ!!!?!!!))
僕らの返事を聞く前に人集りから知り合いを見つけた様子。
「久しぶりっす!こっち来てたんっすか?オイラのこと覚えてるっすか!?」
「へ?あ、あい…その…お久しぶりですノイッシュ隊長!」
「そんな畏まっちゃ駄目っすよ〜!アレロン!ちなみにアレロンは…従兄弟がプラーミアに通ってるんっすよね?幾つなんっすか?」
「丁度中等部1年生らしいです」
「へ〜ってことはセラと同い年っすね!」
「セラ…?」
ノイッシュ隊長はキョトンとする少年を無理矢理引っ張ってくる。
セラフィーナ様も若干苦笑いだし、できる限り早く退散したいが…ここでイーサンが来ると僕がリスクルビダ・カモミートだと確実にバレてしまうだろう。気づいていても気づいていなくても、バレるのは最小限にしたいと思う。だからイーサンには目だけで「来るな」と訴えかける。伝わったのかどうか分からないが、来る様子はないので少しホッとする。
「セラ〜リスク〜こいつ、アレロン・ヴェルデっす!年は…聞いたことなかったっす!」
「えっと…今年丁度15になったアレロン・ヴェルデです、ノイッシュ隊長とは以前村に来てくださった時少し会話した程度…なんですけど……」
「凄いんっすよアレロン!丁度入試一次選考を首席で突破したんっす!」
「え?」
「え??」
……ノイッシュ隊長、アレロン殿驚いてるんですけど?
「……あっ発表まだだったっす…」
珍しくサーッと青ざめていくノイッシュ隊長。
真っ青に練りながら周りの人集りへ「ごめんっす!」「今の聞かなかったことに…!」等と伝える。……つた…伝え、……ノイッシュ隊長程の人格者だからこそ、皆聞いてくれるのかなって思う。セラフィーナ様は「コミュ力お化け…」と呟いていた。
「……凄いな、やっぱり」
アレロン殿はポツリと呟く。その視線はノイッシュ隊長に向いていた。……騎士団の隊長であり、明るく、元気で、人の名前凄く覚えていて……ホントに凄いと思う。
「ノイッシュ、そろそろ戻るぞ」
「ファルク!了解っす!アレロン、一足先におめでとうっす!セラ、リスク、三度目はオイラも負けないっすよ!」
さっさと行ってしまうファルク・イリージュ第四番隊隊長に負けないように駆け足になりながら俺達の名前を言いつつ、周りにいる知り合い?っぽい人にも挨拶を欠かさないノイッシュ隊長。
……ん?三度目はオイラも負けないって…
「…ノイッシュ隊長、貴方方のこと……」
「気づかれてますやん完全に……」
アレロン殿とセラフィーナ様がそう呟いた。
……ノイッシュ隊長三度目って…今回が二度目って意味だよな。ってことはつまり、今回のことはもちろん、前回のことも覚えていて、僕らの正体にまで気がついて……
「流石騎士団最強の外交官……」
いや…うん、これは勝てないと思う。
それからアレロン殿と別れることになる。幸いノイッシュ隊長の「セラ!」という声掛けによりセラフィーナ様ではないと言うことになったようで、人集りはそこまでない。
セラフィーナ様はアレロン殿に何かを言いたげだったけれど、結局何も言わないで終わっていた。
「……今日は大変でしたね、」
イーサンには先程の少女を送ってもらい、僕らは一足先に帰宅するべく馬車でエンシャンツ公爵家へと向かう。
「それなぁ…ノイッシュ隊長、言わないでくれると良いんだけど…」
「アレロン殿のこと口滑らせてましたからね……」
良い人ではあるんだけど、心配にはなる。アレロン殿のこと口滑らせていたし、本人は聞かれたら悪気なく「セラ?居たっすよ!」って答えてそうだもん。
「アレロン・ヴェルデ……」
「お知り合いですか??」
「……うーん、知り合いってわけじゃないんだけど、…ちょっと…気になって……」
真剣な表情で外を見上げるセラフィーナ様。
……ちょっと気になるってことはつまり……
「……………」
……確かプラーミア学園に従兄弟がいるんだったっけ。
レオンハルト様に相談してみようかな、入団試験一次選考首席突破とも聞いているから、すぐに見つかりそうだし。
それにしても、蠍の魔物の際、ヘア様がって言ってたよな。
……今日はもう遅い。そこら辺も聞ける時に聞こう。絶対機会逃してしまうことになるだろうけれど、……でも……
「おやすみなさい、セラフィーナ様」
今…眠っているのを起こしてまで聞きたくはないから。
リクエストありがとうございます。
フィーナさんとリスクくんのおでーと(?)回。おでーとに魔物は付き物ですよね(???)




