6.復讐子息は過去を見る。
口頭で説明を終えたセラフィーナ様。
僕は聞いた所で役に立てる自信はないので、いつの間にか立ち上がっていた奴隷商人の大男と戦うことにした。
『こ、こうかしら…?』
…そして、実践してるらしいティーア。
口頭だけじゃ伝わっているかどうか分からない。現に、ティーアも半信半疑だし、僕だって半分くらいのしか出来ていないのだから。
『違う違う!もっとこっちでしょ多分!』
『うそ!だってセラフィーナさん今…!!』
「立ってちゃダメですからね?!膝は…」
ちなみに、ちらっと横目でもう一人は…と見てみれば、ヒョロヒョロの方の男は見事に縛られていた。キャンディさんがやってくれたのかな。
「流石に厄介ですね…」
「はい、まるで死人みたいな…」
肌を触れば冷たく、目は生気が宿っていない。
まるで死んでいるかのようなその人との対戦はだいぶキツかった。…容赦なくこちらに向かってくるからだろう。
僕は洞窟が壊れないように魔法を使わないでいるのに、たまに魔法を使ってくる。
そんな中、キャンディさんがなんとか防御魔法を展開してくれているのでなんとかなっている。…いや、キャンディさん凄すぎだろ!何事もないかのように防御してくれてるけどさ!今の時代使う人少ないって聞いてるんだけど!?
というか…
「事情は分かりました!」
…要するに、セラフィーナ様の“それ”は前世の記憶ってことだよな。
前世で知っていることを頭の中で考えていて、それを言葉にしている。目の前のことを言葉で表現することが難しいように、記憶を言葉にするのはかなり難しいだろう。
「今っ、アボイ…ドが!そっちに向かってるので!!!」
今アボイドがそっちに向かっているはず。僕の魔力器とアボイドの力を合わせれば、何とかなる。多分。
「…アボイド??」
聞き返してくれるセラフィーナ様に、僕も口を開いた。
「ああ…っ、昔から、傍にっいてくれた! 僕の、親友!相棒だ!」
…親友で相棒、…お継母様が言ってくれた、その子。
「っっアボイドなら、僕の器とぴったりハマるから!っっ、だから、使えるかも…っ!はぁぁあっ!!!」
魔法が使えないから、体技で何とかするしか無い。
僕は、借りた剣を片手に突っんでいくら、体格差的には圧倒的に不利だが、そこは関係ない!
セラフィーナ様が水魔法で応戦してくれている。その正確な打ち方に驚かされつつも、目を逸らしたりはできない。
『ティーア!うし…だって…!?!!』
そんな音が聞こえてくる。
『諦めるなティーア!まだ出来る……がある筈だろ!? レオンハルトは死なせない、だから…らめるな!!!』
ティーアに、だけじゃない。僕にも響いてくる精霊王の一言に、思わず固まってしまいそうになる。だけど、僕はそれをじっと堪えて、大男への攻撃だけに集中する。
……そう、だよね。諦めるな僕。
兄さんは、僕が助ける!…絶対に、助けるんだ!!
「『はぁッッッ!!!!」』
僕の声と精霊王の声が重なって聞こえた気がした。
短剣を投げ捨て、思いっきり男に拳で一撃を与える。…男の一撃は鋭かったが、それ以前に素早さが足りなかった。僕はそれを逆手に取り、ティーアが昔言っていた方法で魔法を発動したのだ。…一点集中型。拳にだけ魔力を溜めて、それを勢いよく放つという方法。
…良かった、相手が力だけの奴で。
この人に素早さもあったら勝てなかったよ。…というか、教えてくれたティーアには後で感謝しておかないとね。
そして、脳内に『アボイー!』という声が聞こえてきた。…よし。
「えっと…スピリット様?は、アボイドとティーアを繋げてください!」
僕はセラフィーナ様の方に行きながらそう言い切る。それから、申し訳無いと思いつつセラフィーナ様の手を握った。
そして、目を瞑って魔力を放出する。…魔法は想像力だ。
『ボイボイ!アボイ♪』
アボイドのそのいつもと変わらない声に「僕の親友で相棒」と笑いながら呟いてしまう。セラフィーナ様は、声も出さずにパクパクと口だけ開いている。
ティーアとスピリット様が話しているのが薄っすらと聞こえてくる、そして、ティーアが強く早く絶え間なくを守ってくれているのが“見えて”きた。
「あれ…?」
セラフィーナ様が呟いた。
…僕も信じられないけど、…でも、本当に“見えた”んだ。良かった、まずは成功。
だけど、“今アボイドが見えている景色”を見せるだけじゃダメだ、“セラフィーナ様の記憶の中”を見せないと、根本的な解決にはならない。
『繋げたよ、これで良いんだねリスクルビダ』
精霊王スピリット様の声が鮮明に流れ込んでくる。
「はい!」
目を瞑れば、その状況が見えてきた。…まるで、隣にいるかのような錯覚さえしてしまう。
「聞こえる?ティーア、聞こえたら返事して」
ティーアちゃんから「えぇ」という返事を聞くと、安心してしまう。
「お願い、」
僕はセラフィーナ様に向かってそう言い放つ。
意外と精度が良いのか、スピリット様が「すげぇ…」と呟いている声も全て聞こえてきた。
大事なのはイメージ、想像力で世界を変えろ。
…お継母様が言っていた。僕のお母様が遺してくれた言葉らしい。
「ティーアちゃん、行くよ!」
セラフィーナ様が一言口を開けば、ティーアは唖然とした表情から一変、真面目そうな表情に戻る。
大丈夫、僕はアボイドに繋げるだけでいい。
セラフィーナ様の想いを、アボイドに届けるだけ。セラフィーナ様から僕に、僕からアボイドに、アボイドからはスピリット様に、そして、スピリット様がティーアに繋げてくれる筈だから。
だって、僕の本当の器は幽。
お継母様がお母様の言葉を伝えてくれた。「幽魔法なら見えない物を見せる力がある」と。その力を言い換えれば、映像化の能力みたいな感じ。想像した物を自分だけが鮮明に記憶することが出来る。そして、アボイドと力を合わせれば、きっと他の誰かにも共有出来るって思った。
…いや、一度だけできたことがある。
だけどあの時は、その…兄さんの恋模様が見えたっていうか…。好きだー…っていうのが伝わってきちゃって…。だから、兄さんにはあまり使わないようにって言われたし、僕自身も、容易に使わないようにしていた。相手が隠したいと思っていることが流れてきてくるから。
だけど、今はそんなこと言っている暇はないんだ。
そう思い、僕は繋げることだけに集中した。
胸骨圧迫、人工呼吸。…違う世界の文字みたいな物は、自然とこの国の文字に置き換わる。
そして……
『うぅー!リスクの攻略むずっ』
……気になる言葉が、聞こえてきた。
集中しなければならないのに、自然と引きつけられてしまう。リスクの兄が〜とか、ドラゴンが〜とか、イグニス王子と〜とか、……凄く、あの、え?
っっ〜いやダメだ、集中しないと。
今度、セラフィーナ様に聞いてみる?いやでも、そんな踏み入ったこと聞けるわけがない。言わなかったってことは、それなりの理由があるわけで…。
でも、その…お、オトチカ…?
『お兄さんの復讐の為に生命掛けるって相当だよね…』
自分だって色々隠し事をしている筈なのに、いざ自分が隠し事をされる側になったら、隠し事せず“言って欲しい”と思ってしまう僕はわがままだ。だけど…
『だけど、そーゆーわがままな所、格好良いよなぁ〜』
…だけど、それでも。僕は…………
『お兄さん想いの優しい子だし、…見てみたかったなぁ、リスクのお兄さん。絶対優しくて良い人じゃん!』
……そうだよ、兄さんは誰よりも優しくて、誰かの為に命をかけられる。…僕の自慢の兄で…
『そしたら自慢の弟だろうなぁ〜羨ま…』
『え、俺に向かって言ってる?』
『別に?心瑚に言ってるわけじゃありませ〜〜〜んだ』
『ダルっ、てか普通にクソ失礼じゃん、4ね』
『へへーんだ、だったらお手本見せてくださ〜い!べー』
…自慢の…
『うぉっ待ってレアアイテムじゃね!?』
『は!?ちょっとコントローラー返してよ!』
『やりすぎなんだよ俺にもやらせろ!…あ〜あ、セラフィーナ様みたいな完璧儚げ美少女がいたらなぁ』
『私新作のケルビーニ様結構気になってるんだけど』
『うわ、やっぱミステリアス系好きだよな、リスクもだけど』
『そーいうアンタだって、儚げ美人ほんと好きだよね〜面食いめ』
『それ言ったらアンタも同類だろ!…でも、やっぱNo.1はルーナ様だよな〜』
『セレネ様だって!…まあ、でも、この姉妹は断ト…』
『ん?どうし…』
…セラフィーナ様は分かるけど、ケルビーニ様にルーナ様セレネ様?…誰だろうか…。
というか、この2人は何故顔を青ざめて…
『……二人共、さっきから呼んでるんだけど?』
『『ゴメンナサイ』』
「………」
一通りの流れが終わり、セラフィーナ様の気が抜けたのか…映像が消えてしまう。
あ…続き、見たかったな…。
あれからどうなるんだろう?背丈的にもう少しあとのこと、だよね…? だけど、兄さんの復讐の為に生命を掛けるって…どういう…?それに、…あの女の子の隣にいた男の子は…最後の男の人は?そもそも、さっきの子達は…セラフィーナ様を完璧儚げ美少女と言った?……僕の兄さんの復讐って…?
「胸骨圧迫だけやってもらえれば! その、人工呼吸はえっと…ハードル高そうだし………?」
そして、セラフィーナ様がそう言い放つ。
なんとなくそちらじゃない方の印象が強すぎたわけだけど、…元はと言えば胸骨圧迫の方が主な目的だった。…僕はあまり覚えてないけど、でも大体の内容は見えた。
ティーアにはしっかり見えたかな…人工呼吸…じんこう、こ……
『やるわよ、人工呼吸』
なんてこと無いようにそう言ってくるティーア。
「うえぇっっっ!?!?」「………」
あ〜、そういえばこの子はこういう子だっけ。誰かの生命が掛かっているのなら、その生命を掛ける。
……何が、「私はクリスティーナ様みたいに凄くない」だよ。
ー…伝説の通りじゃないか。
…真剣なその表情。それは、紛れもなく“本気”で助けようとしている目。
ティーアとは毎年数回しか会わないけれど、…でも、それでも伝わってくる。
信じるべき瞳は、直ぐ側にあったんだ。
『っっ…はぁ…………………はぁ………』
薄っすらとレオンハルト様の瞼が開き始め、黄金の瞳が輝き始める。
『失礼、します…!』
お洋服を何枚か捲り、お腹の中に手を当てる。
電撃の代わり…なのかな。ティーアは幽呪の力を使って、レオンハルト様に魔力を流し込んでいた。同じ系統の魔力ならなんとなく感じることが出来るから自然と見ることが出来る。
レオンハルト様の表情が、柔らかくなっていく。
『ボイ!アボイア…』
だけど、そこでざざっと雑音が響く。
思わず後ろに仰け反れば、既にアボイドとの通信は切れてしまっていた。
……でも、目を覚ましたということは恐らくもう大丈夫なのだろう。それよりも今はこちらの方が危機に陥っていることになる。兄さん達をまだ見つけられていないし、僕達も脱出しないといけない。
「これ、迷宮魔法掛けられてますよね…」
「迷宮…魔法…?」
「…セラフィーナ様、そこはご存知なのですね!」
セラフィーナ様が迷宮魔法と言えば、少女―ネフェル嬢とキャンディさんが口を開いた。
…セラフィーナ様の事が分からず、僕は何も言えない。
彼女は僕の知らない彼女自身のことと、僕が知らない僕を知っている。…あれがいつのことなのか分からないし誰のことなのかも分からない。
でも、セラフィーナ様の記憶なのは間違えない。
「なるほど…どうりで。…こんな高度な魔法を使える人がまだ残っているだなんて…」
迷信だと思ってました、と一言添えてくれるネフェル嬢。
そうなんだよなぁ。迷信と言うか伝説というか…。改めて、1000年程前から時が止まっているかのように進展が無くなり衰弱の道を辿っているんだろうなぁと考えてしまう。…1000年も経てばそうなってしまうのは仕方がないのだろうか。
「てことは、…僕達全員やっぱり迷ってる…?」
なんとか絞り出すようにそう言い放てば、この場にいる全員が黙りこくる。同じ場所ぐるぐるしていた訳だし、その説は高い。
そんな感じで話し合っていると、僕が押さえつけている男が暴れ始める。まだ口をモゴモゴさせていた。
「えっと…解除??」
「!?セラフィーナ様!?」「何故解除されるのです!?」
キャンディさんと共に僕達2人はセラフィーナ様に詰め寄る。何か良いわけでもするつもりなのか口を開こうとするセラフィーナ様だったが、その前に男が口を開いた。
「へっ今頃気づいたかテメェら!だがもう遅い!」
「はぁ、?」
…もう遅いってどういうことだろうか。
グリムさんに押さえつけられている男は、そのままやっと解放された、とでも言うような感じで大口を叩く。
「もう直この洞窟は崩れるのさ!あの方の気まぐれでな」
口だけは達者だな…と言いそうになってしまうが、その言葉に冷や汗を垂らしてしまう。
「どういうことか答えなさい、…さもなくば…撃つ」
指鉄砲のカタチをしてモヤシに向かってそえ言い放つ。…なんとなく、撃つ気はないんだろうなぁと感じてしまう。冷たく言い放つセラフィーナ様だったが、どこか情を捨てきれていないような感じがするから。
それから、男はとても流暢に喋り始めてくれる。
…どうやら、あの方と呼ばれる人がここを迷路にしたらしい。その人は“特別な誰か”を探しているらしく、違うと分かればここに放り出しているのだそうで。
推測するに、それを利用して奴隷商を行っているのだろう。
…だから、兄さんを…?
怒りに震えそうになるのをぐっと堪えていると、更に男はこう言ってくる。
「もうその方は別の地に行ってるだろうよ!」
「………」
何故そんなことが分かるのか…セラフィーナ様が添え聞くが、それ以上は答えてくれない。…ただのデタラメである可能性もあるが、…彼が言っている意味が分からない。
その人本人が場所を移動することと、この洞窟が崩れること…、なんの関係があるというのだろうか。
「ほうかい…」
セラフィーナ様がそう呟くと、僕含め皆がピリピリとした雰囲気になる。崩壊?…迷宮魔法は、一体どんな魔法だというのだ。
そして、この場の人数以上に濃くなったのは気の所為だろうか、数人しか居ない筈なのに、何人もの圧を感じてしまう。
「リスク、ティーアちゃんにもっかい繋げられないかな…?」
「…やろうとしてる、…けど、……ごめん、全然繋がらない。多分もう……」
セラフィーナ様にそう言われるが、既に挑戦済み。
…アボイドとここまで繋がらないとなると、迷宮に入ってきてしまったという可能性も考えられる。
「………あれ…? モヤシ、すぐに答えて」
それから、セラフィーナ様が男に向かって口を開いた。
「ハァ!?おい待ておまっ、モヤシってな…」
「うるさい、質問に答えて、…このままだとアンタも死ぬよ?」
「ッッッ……」
……それ分からなくて今までどうやって生きてきたんだ…。というか、この人の名前ってモヤシっていうの…?
「っっ…クソッ、で?なんだよ」
「ここに放り出してる、って言ったよね?モーセや他の皆を何処へやったの?」
「俺も知らねぇよ、つーか、ソイツが運んでたんだ、この近くにでも居るンじゃねぇの?」
「なんでアンタが知らないわけ!?」
「俺は生きてンだよ!ソイツとは違ってな!!!!!」
え…?という呟きに反応もせず、ペラペラと喋りまくる男ーモヤシ。モヤシは生きてる、それは分かるよ。…ってことは、裏を返せばこの人は…
「コイツら元々死んでンだよ、あの方が連れてきた奴は皆な!」
…予想外のその言葉に、何も言えず固まってしまう。
やっぱり、あの瞳はおかしかったからな…。本当に亡くなった方だったとは。
セラフィーナ様にとっても、予想外だったらしく、「じゃあ、モーセ達は…?」と恐る恐る口を開いた。
しかし、モヤシは答えない。
モーセは連れ去られてたのか…。言われてみれば、レオンハルト様の所にも居なかった。居たのであれば、体重体格がティーアよりも上のモーセが胸骨圧迫を行う筈だし…。
ということは、兄さんと同じ場所に連れ去られた可能性も考えられる。そしてこの辺りから兄さんの気配がするし、モヤシもここに放り込むと言った。
…ということは、やっぱりこの辺りにいるんだ…!…と、そんな感じで一人、逸る気持ちを抑えていると…
「っっ見つけた!」
…すると、洞窟の向こう側から幾つかの足音と知っている声が聞こえてきた。




