はしゃぎすぎだバカ
「兄貴! マーカスの兄貴はどうして英雄になりたいの? やっぱり富とか名声のため?」
「違ェよ。ばーか」
「じゃあいったいなに?」
「ただ、憧れたんだ。いいか、シャム・アヴィス。夢に生きればドンと立て。邪魔をされても立ち続け、炎が燃えれば、陽が昇る。気合いと根性、度胸と愛情、苦悩苦痛も撃ち捨てて、てっぺん昇れば陽が笑う──だ!」
「それは名乗り口上?」
「それもまた違ェな。いつか本当に嫌になったとき頭の中に浮かび上がる言葉なんだ」
「うむぅ……わかんないよ、兄貴」
「なら、分かるときに分かりゃいい。その時まで俺の側にいろ」
「いいの!? やったー!」
「はしゃぎすぎだバカ」
「嬉しいんだもん! いいでしょ! へへっ、へへへ。兄貴、大好きだ」
「俺もだよクソバカガキ」
マーマレイト世界新聞 10月4日
〝英雄の夜明け〟リーダー
マーカス・イド・フレッグスが死んだ!
今日未明、タールミナト三叉橋にてマーカス・イド・フレッグスの遺体が発見された。遺体には胸と背中に計30箇所の刺し傷があり、容疑者として魔術師ハルカの捜索が本日午前8時から開始された。
◆
CHARACTER 003
ナタリー・コルケット
どんな攻撃も跳ね返す〈障壁〉の能力を使う。シャム・アヴィスの兄ラム・アヴィスの妻になるために性転換をした元男。シャム・アヴィスの事は「不器用だけど優しさの塊だから大好き」だと思っている。
◆
「兄貴!」
兄貴に近付こうとする俺をヘルトさんが慌てて左腕で抱き留めた。ヘルトさんは「危ない」と言っていた。
兄貴は椅子に腰を落ち着かせて、両膝に肘をついて、顔面を仕切りに撫でている。びきりびきり、と仕切りに青筋がうねっている。
部屋は所々に正方形の穴が空いていて、なにかのキューブが転がっている。
「シャムくん、怒っていても仕方ないよ……いまからフレッグスさんに挨拶に行くかい? それとも他の人に会いに行く? ボクたちはみんなついていくよ」
ヘルトさんの右腕を見れば折れ曲がっていた。
「………………………………」
「アヴィスくん、私たちはみんな君に惚れて此処にいるから、何処までも君達について行くと思うよ」
ジャネタさんが言う。俺も頷いた。
「兄貴がやることに文句はないよ」
兄貴は震える声で言った。
「ひとつも?」
「うん。ひとつも……」
「肯定者が欲しいからみんなをパーティに置いてる訳じゃないよ。否定してくれないと、増長してしまうよ。人は。…………悪かった、ヘルト」
兄貴の背嚢からいろいろな薬草が浮かび飛び出すと、混ざり合って、ヘルトさんの腕に染み込んだ。すると、ヘルトさんの骨折は治った。
「取り乱してた。……ダメだな。みんなのところには行かない。俺達はこのまま旅を続けるよ」
「いいのかい?」
ナタリーさんが兄貴の様子を心配になって確認をした。
兄貴の声はまだ震えていた。
「いいんだ。忘れてると思うけど、兄貴は、俺をパーティから追放したんだよ。使えない能力だからって。だから、会いにいけない。礼儀を弁えなければならない。復讐とかも、したいけどさ……俺、決めてんだもん」
ナンちゃんが兄貴の手をナメている。
「俺は、兄貴の良いところだけ受け継ぎたいんだ。兄貴ひどいだぜ。すぐキレるんだ。それも言っちゃいけない言葉でキレるんだ。そこが嫌いでね。そこだけが大嫌いなんだ。なのに、俺まであんまり怒りっぽいんじゃ、いつか行くであろう地獄の王様が困っちゃうだろ。復讐が何かを生むくらいなら、俺は俺の手でそれを生みたい。だから、復讐はしない。ごめんね、覚悟なんかさせて」
「俺は別に構わんが宿屋がボロボロだ」
「やってしまったね。元に戻せるかな」
「そもそもこれはどういう壊し方なの」
ドナさんが呆れたように言うと、兄貴は力無く笑って答える。
「多分第六段階の能力だ。〈破壊〉……こうやって、触れたものを正方形に破壊することが出来るらしい」
「破壊神の立場が揺らぎはじめたな」
「暴走してしまったんだ」
一度怒ると抑えられないのが俺の悪いところだね、と兄貴が言ってそれ以上に悪いところがあるだろ、とヘルトさんが返した。
「とりあえずばれないようにくっつけるか。急げ急げ急げ」
せっせこ、と俺達は兄貴が壊してしまった宿を直しはじめた。




