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外伝その2「とある勇者のとっくんの日々」①

 私立明楼学園。

 私達三姉妹が通うことになった小中高一貫の私立の学園。

 

 制服着て、お勉強……こんな事やってる場合なのかとも思ったのだけど。


 レディスレデュアも魔王国との休戦協定が成立し、私達も魔王十二貴子と休戦してるから、別に慌てることもない。

 

 お母様達からも、何故か日本国経由で書状が届いた。

 

 詳しくはよく解らないのだけど、例のタナカさんによると、闇商人、魔王国、日本と割りと複雑な経路を辿って、届いたらしかった。

 

 どうも、魔王国と日本の間では、常時接続ルートが確立されているらしく、物のやり取りは不自由なく出来るらしかった。


 タナカさんの好意で、お父様があたり差し障りのない手紙をレディスレデュアの皆宛に送って、その返事が帰って来た……そんな感じだったみたい。


 レディスレデュアとの直通ルートも出来なくもないと思うのだけど、色々と政治的な思惑が絡んで来るらしく、出来ないと言うことにしておいた方が穏便に済みそうだとか、そんな話をお父様から聞いていた。


 政治か……びっくりするような無茶がまかり通ったり、驚くほど小さなことが大問題になったりするからね。


 私のような武人を志すものは、政治とは距離を置くべきなんだよね。

 ……武人とは、国家にとっての剣である! ……なんてね。


 とにかく、お母様達からの書状によると、当面は日本でゆっくりお父様のお相手をすることと、日本の事を出来るだけ多く学んで来いとの話だった。

 

 ……そんな訳で、私達はお父様と一緒にこの日本での生活を堪能させてもらっている。

 

 この学校に通うようなってから、もう2週間ほどが過ぎていた。

 そろそろ、色々慣れてきた……交通ルールとか、街の地図とか、電車の乗り方とかね。

 

 今日も1日が終わり、同じクラスの友達と一緒に帰ろうとしていたんだけど。


 妙な光景を目にして思わず足を止める。

 

「とりゃあああっ!」


「ヨミコっ! なんですか、そのへっぴり腰は! こうですっ! こうっ! 腰を入れて!」


「……アルミナも酷いもんやで……そのナヨナヨしたヘタレた手つきはなんやねん……」


 魔王十二貴子、ヨミコとアルミナ。

 

 初等部……要するに小学生扱いの私達と違って、中等部で、同じ学園に通っているらしいと聞いてはいたけど。


 転入初日に挨拶して以来、学園ではほとんど接点なかったんだけど……何、やってるんだか。

 

「あの娘達……何、やってるんでしょう……?」


 お友達の雨音ちゃんが不思議そうに呟く。


 なにせ、二人ときたら、案山子みたいなのを作って、それに駆け寄って紙の板みたいなので斬りつける……そんな事をやっていた。

 

 少なくとも、中等部の娘達がする遊びには見えない……。

 部活……にしては、二人しか居ないし。

 

 手に持ってる武器らしきものは、なんだか、当たるとスパーンとやたらいい音がするんだけど、殺傷力があるようにはとても見えない。


 何と言っても二人の剣術らしきものは、話にならないくらいのへっぽこぶり。

 

 もう見てらんないなぁ……。

 

「……一応、知り合いだから声かけてみるよ。あ、雨音ちゃん先に帰っててもいいよ?」


「あはは、志織ちゃんすぐ迷子になっちゃうし、お兄様からもなるべく、目を離すなと言われてるから、付き合いますね」


 雨音ちゃんは、とっても真面目ちゃん。

 眼鏡に、ウェーブがかったゆるふわヘア。


 いつも難しそうな本を読んでるようなコ。


 でも、迷子とか……大丈夫だと思うんだけどなぁ。


 ただ三回に一回くらいの割合で何故か道に迷うから、心配されるのはごもっとも。

 と言うか、この日本の街と言うヤツは意外と迷いやすいんだ。

 

 同じような自販機が並んでたり、道幅も統一されてるし、標識なんかも同じような感じで並んでて、そう言うのを目印にすると大抵迷う。

 

 道の脇には、大抵水路があったりするんだけど、流れの向きが一定しないから、しょっちゅう騙されるんだよねぇ……。

 

「あ、シャーロットやん! ちょうど良かった……アルミナ、剣術使えるやつがおったやん!」


「ヨミコ……シャーロットじゃなくて、志織ちゃんだってばさ。やほっ! しおりんお元気ーっ!」


 向こうも、私を見つけたようで、アルミナが駆け寄ってくる。

 前髪ぱっつんの白オカッパ。

 

 ヨミコに負けず劣らずのチンチクリン。

 鉄巨人族の女達って、何故か皆揃いも揃ってこんな調子……どの辺が巨人なのか、理解に苦しむ。


 そう言えば、魔王国の鉄血執政パルルマーシュもこんなだったなぁ……と思う。

 

 ちんちくりんで舌っ足らずな喋り方するくせに、物凄いやり手だって評判。

 

 実際、お母様達も舌を巻くようなタフな交渉相手らしい。


 私もアイツとの交渉の席に立ち会った事あるんだけど、なんかもうアイツのワンマンショーみたいな感じで、一方的に、皆、丸め込まれてしまっていた……。

 

「あはは……久しぶりかな。ヨミコ、それにアルミナ……君らこそ、何やってたの? 学芸会の練習?」


「ちょっと違いますね! 復讐のための特訓です。えっと……今日はいつもご一緒の清四郎様は、いらっしゃらないので?」

 

 言いながら、周囲を伺うアルミナ。

 

 この娘……一応、敵だったはずなんだけど、あの時、政岡さんと戦って、コテンパンに負けてから、惚れました! とか言って、こんな調子なんだよね……。

 

 ヨミコも何かと言うとお父様に近づきたがるし……アルマリアやリネリアが居なくてよかった。


 あの娘達、こいつらとは、あんまり仲良くないからね。

 顔合わせると、すぐ喧嘩腰になる……特にアルマリア。

 

 その辺もあったから、あんま関わらないようにしてたんだけどね。


 けど、私一人なら、話は別。

 日本に、異世界での諍いは持ち込んではいけない……お父様にも、そう言い聞かされてるからね。

 私は、寛容なのだ。


「政岡さん達は、今日は政府関係者との会合って事で、お父様の護衛に回ってるんだってさ……私も、別に護衛とか必要としないからね」


「なんや、タケルベはんも、すっかり重要人物扱いなんやなぁ……っと、ちょっといいか? 志織」


 いきなり、人の肩を掴んで、顔を寄せるヨミコ。

 

「な、何……急に……」


「なぁ、そのお友達のメガネちゃんの前で、色々話すのは、ちょっとマズいんやないか? 一般人をうちらに関わらせるのって、どうか思うで? 別に禁止されたりとかはしとらんけど、要らんトラブルに巻き込んでもうたら、申し訳がたたんやろ……」


 ごもっともな事をヨミコが小声で囁く……。

 でも、雨音ちゃんは、普通の娘……じゃないよなぁ。


「あ……私、政岡雨音と申します。あなた方の事は兄から伺ってますので、一応関係者です。お気遣いなく」


「ええっ! 政岡って……兄って……! もしかして、あの清四郎様の妹君なので! わ、私……アルバトロス・アルミナ! ねぇねぇ……アルミナお姉様って呼んでもいいよっ!」


「なるほど……あのムッツリ眼鏡、こんな可愛らしい妹ちゃんがおったんやね。アルミナ……なんか引かれとるから、ほどほどにしときや……。ごめんな、雨音ちゃんやったか? 一応、忠告しといたるけど、お兄さんの個人情報は、絶対死守するんやで? このアホ、ストーカー気質のヤンデレ女やから、ヤサなんぞ割れたら、エラいことになるで!」


「んなっ! ヨミコッ! それは聞き捨てなりません! この私の尊い想いを何だとっ! そりゃあ、住んでるとこや連絡先が解れば、私の思いを届けるべくありとあらゆる方法を……」


「……な? これだけで、こいつのヤバさがよぅ解るやろ?」


 うん……アルミナがヤバい奴だってのは、この発言の時点で解った。

 大好きのためなら手段を選ばない……こないだ見たアニメで、こんなのがいた。

 

 間違いなく、これ以上は触れない方が良い。


 ヤンデレってのは、世界全てを敵に回しても大好き……そんな感じみたいだからね。

 

 正直、私には良く解らない世界なんだけど……。

 

「ヨミコ……貴女も私の想いを阻む障害なので? 今日という今日は決着を……っ!」


 アルミナがヨミコに掴みかかろうとした所で、とりあえずアルミナを羽交い締めにする。

 背丈は、私のほうがあるので、あっさり足が宙に浮く。

 

「まぁまぁ、落ち着いて……二人共、喧嘩しない……」


「ふわぁっ! なんか、あっさり捕まってるっ! さっきまで、そこにいたのに、なんで背後にいるのっ! ふにょーっ!」


 ジタバタと暴れるアルミナをそっと降ろしてあげる。


 この娘、小さいし、軽いなぁ……それに、あっさり背後取られるとか、全然駄目じゃないか。


「……さ、さすがやな……志織。アルミナも暴力に訴えるんはいかんやろ。妹ちゃんも見とるんやで!」


「そ、そうだった! 雨音ちゃんだっけ! とにかく、よろしく! 今夜の政岡家の夕食時の話題として、私という新しいお友達の事を是非にですねっ!」


 アルミナのアピールが始まる……。

 たぶん、これ雨音ちゃんが頷くまで、続くやつだ……ホント、困った娘だねぇ……。


 そう思ったので、話題を変えることにする。


「……と言うか、二人共、何やってたの? 復讐がどうのって……」


「せやっ! 実はうちらのオヤジな……解っとると思うけど、これがまたゴキブリみたいなヤツでなぁ……。うちら、どっちも汚されてもうたんや……だから、いっぺん落とし前付けたろうと思うてな! あのアホを葬り去る必殺技の特訓をしとったんや!」


「けど、私達ひとりずつでは、仮にも元魔王だった奴を倒せる自信がない! でも、二人の力を合わせた合体技ならきっとっ! 二人で一致団結して、あのダニ男を昇天させる必殺技を編み出すべく、特訓中だったのです!」


 話題を変えることに成功したものの……なんか変なこと言いだした……。

 

 二人のお父さん……あのタナカさん。


 ……うん、解る。

 正直、あんまりお近づきになりたくない人だ。

 

 魔王十二貴子のあの時の様子……なんだかもう、同情すら覚えた。


 私達のお父様に比べたら、あっちのタナカさんの酷さ……魔王やってた頃は、重厚かつ威厳溢れる偉大な人だったらしいんだけど……どこでどう間違ったのか、あんなになっちゃったらしい。


 お父様によると、元々素でああだったんじゃないかって、話なんだけど……あれは、ない。

 

 あの鉄面皮のアサツキですら、一瞬で口半開きにして、死んだ魚みたいな目になってたし……。

 ヨミコもアルミナも、放心状態で抱きしめられた挙句、顔をベロベロと舐められて……。

 

 あれは酷い。

 私なら、泥水で顔を洗ってたねっ! 

 

 確かに、いくら父親だからって、やっちゃいけないことをアイツはやった!


 うん、二人の怒りももっともだ! 私も何だかムカムカしてきたよーっ!

シャーロットとヨミコたちの学園編です。


パルル様と魔王タニオのご対面より、少し前の話です。

全4.5回程を予定。


尚、五章は執筆中なので、当面隔日掲載とします。


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