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第二十二話「とある魔王の娘と元魔王、ふたりの語らい」②

 まず、お父様の引き起こした人族との戦いの理由。


 お父様がやろうとしていたのは、人族側の領域に点在する要石を破壊しつくすことによるマナの偏りと要石によって引き起こされているマナの浪費の是正。

 

 ……その話自体は聞いたことありましたの。

 

 けれど、それが中途半端に終わってしまった事。

 それが原因で、本来ならば、人族の世界は終焉に向かうはずだった事を聞かされましたの。

 

 けれど、お父様の計算だととっくに人類世界の要石は、マナの過集中で弾けているはずなのに……実際はそうはなっていないのです。

 

 人族の領域を焼き尽くすほどの莫大なマナはどこへ消えたのか?

 

 わたくし達もその答えは持ち合わせていませんでした。

 

「……この計算値が確かなら、仰る通り致命的なレベルでのマナ集中で、人類世界は軽く消滅してるはずですわ。けど、実際はむしろマナ減退の傾向すら見えているような状況です。人族側の領域でも、わたくし達、魔族の領域でも」


「……やはりそうなのか……詳しく聞いてもいいかい?」

 

「はい。人族側でも、今年は冷夏だったとのことで不作。海水温が低下したことで、豊富だった海産資源すらも不漁だったようですの。これは、人類側の者達がわたくし達に伏せていた情報のようなのですが、人族の商人から得た情報なので確実な話。向こう側が突然、食料価格を倍にすると言ってきたのですが、問い詰めた結果そう言う事でしたの」

 

 本来ならば、あり得ない出来事。

 要石によるマナ週中の恩恵で、肥沃かつ温暖なはずの人類世界での異常事態の進行……。

 魔王国側の状況としては、魔王城付近は火山活動の影響で、多少はマシなのですが、それ以外の地域では例年の半数以下と言う大凶作でしたの。

 

 日本からの潤沢な食料輸入が無かったら、今頃どうなっていたことやら。

 

「……なるほど、魔王国と人類世界での同時進行の平均気温の低下、想定以上の不作……。確認なんだけど、植物の異常枯死現象とか起きてないかい? 例えば、人類世界での木材相場が暴落したとかそんな話なかったかな?」


「ありましたね……魔王国側でも北方の異常気温低下で、広大な森林地帯が氷漬けになり、そのまま死滅しました。人族側も食料は出し渋るのにむしろ、木材資材を大量に売りつけに来てましたね。それも従来の半額以下で……まぁ、質が悪かったんで買い叩きましたけどね」


「……要石を破壊した地域では、マナ濃度が激減するから、まず植物の異常枯死現象が起きるんだけど、それは一時的な現象に過ぎない。要は、魔族の領域と同レベルになるってだけだから、数年もすればある程度は回復する。ただ、それが人族側の領域で要石が健在な地域で起きているとしたら、明らかにおかしいね。君達の手で新たに要石を破壊したりはしてないかい? あれ配置バランスってのがあるから、壊すにしても順番を守らないと大変なことになるんだ」


「ガルムリア帝国の保有していた要石は、研究も兼ねて、全てそのままにしていますわ。正直、どうして良いのか解らなかったですし、肥沃な大地というのは非常に魅力的なので、どう扱うべきか悩ましく思ってました……。ただ、旧ガルムリア帝国領のマナ濃度も想定していたよりも高くはなかったのですよ……これが現地のマナ濃度分布図ですわ」


 そう言いながら、タブレットに向こう側の地図と計測したマナ濃度のマップを表示させます。

 わたくしがデータベース化したので、この手の情報もすぐに呼び出せますの。


「なるほど、要石が健在なら、この程度の数値に収まるはずがないんだがな……特にこの一年、数値的には右肩下がりじゃないか。けど、要石をそのままにしておいたのは、賢明な判断だったかもね。多分、あの方法は間違ってたからね……。ただ、要石を新たに破壊してないにも関わらず、このマナ濃度の数値低下、それに異常枯死が起きてるとなると……やはり世界規模でのマナ減退が起きている。そう思っていいね」


「やはり、そうですか……。確かお父様が人類世界の要石を破壊すべきと言っていたのは、それによるマナ浪費が激しすぎて、いずれマナが枯渇するからと言う理由もあったんでしたよね?」


「確かにそうなんだけどね。俺の計算だと、確かにマナの枯渇が近づいているにせよ、まだあと100年位は持つはずだったんだ……わずか10年でそこまでマナ減衰が進行しているのは、どう考えてもおかしい。何か人類世界側で起きた変わった出来事とかはなかったかな?」


「そうですわね……一年ほど前ですが、要石から天へと向かう光の柱が観測されましたわ。それは一ヶ月ほどの長きに渡って……同時期にマナ数値が異常に跳ね上がる現象が各地で見受けられましたが……。一時的な現象だったようでして、光の柱が消えるとすぐに平常値へ戻りましたの」

 

「……なるほどね。やっと見えてきたよ……いや、裏が取れたと言うべきか」

 

「何かご存知なので?」

 

「うん、結論から言うとこれは神々の仕業……光と闇の女神……やはりそう言うことか。君は気付いているかい? 光と闇……あの世界に存在する二人の女神は元々同一の存在なんだ」

 

「そんな馬鹿な……闇の女神と光の女神は相争っていて、それが古来から続く魔族と人族の戦いの根底的な理由ではなかったのですか?」


「……確かにそう言われていた。けど、恐らくそれが真相なんだ……要は、盛大なマッチポンプ。なにせ、どちらの女神も直接的には向こうの世界には一切干渉しなかった。それもまた事実だ。それこそ、女神と会って、その意思を受けたのは、俺とタケルベのような歴代の魔王と勇者くらいのものだからね」


「確かに……わたくしも、闇の女神が魔王様が倒れた後、何もしなかった事が気にかかってましたの。それに伝承を探っても歴代魔王以外は、誰も会った事もない。その姿すら知られていない……」


「不思議に思ったことはないかい? 向こうの世界では、肥沃かつ温暖な土地を有する人族が常に優位を保ち続けていた。けど、状況が人族優勢に傾きすぎると必ず魔王が現れる……そして、魔王が現れると、それに対抗するように人族側にも勇者が現れる。逆のパターンだってあったよね? けど、戦いの決着が着くとどちらもいなくなってしまう。幾度となく繰り返された歴史上の出来事。君だって、魔王国の過去くらい解ってるだろ?」


「それはそうなのですが……でも」

 

 そして、お父様は、自分が魔族を統合して、戦争を起こすことも要石を破壊して回る事も、そして、その企てが潰えることも、何もかもが、仕組まれていたのだと続ける。

 

 そして、マナのバランスだけが崩れ、人類の領域に残った要石に、極限に近いマナ集中が起こった。

 その結果、解き放たれるはずだった膨大なマナは、すべて女神が総取りしたのだと。

 

 そして、お父様がわたくし達経由で得た各種環境データや、起こった現象から、わたくし達の世界は、その女神の企ての結果、すでにマナが枯渇しきって、終焉が近づいているのだと結論する。

 

 滅びいくことが確定した世界。

 

 それはもう寿命のようなもので、どうすることも出来ない。

 

 女神の企てとは、滅びゆく世界から最後の収穫を行い自分だけ脱出する為……その為に必要とされる膨大なマナを集める事こそが目的だったのだと。

 

 大規模な戦いとなると必然的に発生する……生命の消失は、その散り際に多くのマナを世界に撒き散らす。

 繰り返された戦いもいわば、女神にとっては、収穫のようなもの。

 

 そうやって、古来からマナを蓄え、必要量が溜まったら、別の世界へ旅立つ……そんな事を繰り返して来た。

 それが……女神と呼ばれる存在の正体。

 

 10年前のお父様とタケルベ様の戦いも何もかも、女神に仕組まれた事だったと言うのです。

 

 そして、わたくし達の世界に生きとし生けるもの全てですら、例外でない。

 わたくし達は、田んぼに植えられた稲穂のように、管理され、やがて、収穫される……その為だけに生み出された存在。


 そんな事、認めたくない……ッ!

 

「……冗談ッ……そう言ってくださいまし……お父様っ!」


「冗談で済ませられるなら、そうしたいんだけどね。これは、俺の計算と想像だけではないんだ。魔王の中の魔王……そう呼ぶべき存在がいることを君は知っているかな?」


「存じ上げません……何者なのですか? それは」


「神々への反逆者……深淵の底の最後の希望。そんな風にも呼ばれるとてもとても古く、強力な存在。神の思惑すらも突き抜けたところにいる時空すらも超越した存在。その使者が直接、俺に伝えてくれた。今の今まで半信半疑だったんだけど、君の話ですべてのピースがハマった。俺は……騙されていたんだ。タケルベだって、誰も彼もがっ!」


「申し訳ありません……わたくしには、もう何がなんだか……」


 もう……何が正しくて、何が間違ってるのか。

 それすらも、わたくしには解らなくなってきました……。


 でも……酷く悔しくて、悲しくて……。


 思わず、俯いてしまうのです……。

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