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第二十一話「とある魔王の娘と元魔王、しゅくめいのたいけつ」②

 

「どのみち、すでに各地へ指令を出してますから、明後日くらいになれば、我が眷属ゴブリン軍団が続々と大量の資材と共に到着し、第二魔王城の築城を始める予定です。日本側へ発注し届いたばかりの重機の組み立ては、どうですか?」


 この辺、わたくしに抜かりなぞありませんの。

 わたくしを頂点とするゴブリン族ネットワーク……ゴブリニアス同士の情報網に、第二魔王城の築城指令を下しておりますの。

 プランについては、前々から準備していたので、そのゴーサインを下すだけの簡単なこと。


 言葉を介さない概念伝達による一糸乱れぬ統率。

 これこそが我が種族の強みなのです。


 問題としては、日本製の重機を部品単位にバラして、組み上げる作業。

 これがなかなかに難儀しそうな様子だったのですが、日本側がなんとかすると請け負っていただけたのです。


「あ、そっちは順調です。有線ネット経由で向こうのエンジニアが、組み立てロボットの遠隔操作をしてくてれるから、割りと何とかなりそうです。あれすっごいですね! 人型ロボットですよっ! 向こうの人も浪漫がどうのってアツく語ってましたよ!」


「さすが、世界に冠するトヨムラ自工の仕事だけはありますね。いずれにせよ、重機が使えれば、違法建築なんて、片っ端から取り壊して、立て直させれば済みますから、あまり、気になさらずに」


「そりゃまた、豪快なやり方ですね……問題になりませんか? それ」


「都市計画が如何に重要かは、向こう側に行けばよく解りますよ。それに、この付近は異世界人達も短期間滞在で現地視察に来たり、Webカメラで中継したりするんですから、整然とした街並みにしないといけません。今後は魔王国の各種行政機関も続々と移管されますから、ミリィの仕事も増えます。覚悟してくださいまし」


「うひゃあ、今だって大変なんですけどね……! お姉さま、谷底で引きこもってるうちの若い連中をそろそろ、総動員しましょうよっ! 私達だけ大変な思いをするなんておかしいですっ!」


「そうだな……長老に人を送るように、指示を出すとしよう。ダークエルフは手先も器用で、知能も高いから優秀な技術者になりますからね。申し訳ないですが、私達の名前だとどうにも反抗的な態度を取るものが相変わらずいるようなので、パルル様の名をお借りの上で魔王命令という事に致します。まったく、我らがダークエルフ族もこの期に及んで、消極的で困ったものです。……パルル姉様のように、号令一つで動いてくれるような眷属が羨ましくも思います」


「うーん、うちの眷属って、最下層のゴブリン辺りは何も考えてないですからね……。同格のはずのゴブリニアスですら、何かとわたくしに頼ってくるので、困ってますわ。レミィにはいつも助けられてますわね……」


「うわっ! パルル様、私だって、お役に立ってますよっ!」


「そうね……ミリィにも助けられてますね。いつもありがとうなのですわ。それよりも早く参りましょう……ミリィは魔王様にすでにお会いしたのですか?」


「まだですよ……こっちも色々、てんてこ舞いなので……向こうに行ってる余裕もなくて……。あっち側からの嘆願やら面会要請も山盛り状態なんですよ。ひとつ借りってことで、オーギュストやアサツキにも手伝ってもらって、色々話を聞いてもらってますよ! けど、なんでいきなり遷都命令なんて出したんです? こっちも準備ってものがあるし、皆随分先のはずだって、戸惑ってますよ?」


「魔王様の生存が確認できたとなると、今以上に向こう側との連絡を密にする必要があります。どのみち、魔王城とここの距離が遠すぎるのが問題になっていましたからね。高速通信網の整備も遅々として進まず……であれば、いっそ遷都が手っ取り早いですわ」


「……との事だ。ミリィ……パル姉様の判断がこれまで間違っていたことがあるか?」


「私が知る限り、一度たりともありませんね。一手、二手、それどころか十手先の未来を見据える、その冴え渡る頭脳っ! さすが、次代の魔王と言われたパルルお姉様です! それにパルル様がここに常駐してくれれば、私もだいぶ楽になりますよ! せっかくだから、向こうのエステとか温泉とかで、のんびりとかしたかったんですよねぇ……。ねぇ、頑張ったミリィにご褒美の休暇とかってどうです?」


「そうですね……これから、大変になると思うので、この会談が終わったら、お二人には休暇を出しましょうか」


 そう言って、ニコリと微笑む。


「え、ホントですか! 言ってみるもんですねぇっ! レミィお姉様っ! せっかくだから、向こうでちょっと足を伸ばして、草津温泉とか行ってみませんか? 日本の温泉の中でも最高峰って言われてるんですよ!」


「……わ、私もですか? けれど、休暇なんて……良いんですか……こんな時に?」


「こんな時だからこそ……ですわ。これから、レミィもきっと忙しくなりますわ。しばらく、休暇なんて取れないかもしれないから、思い切り羽根を伸ばしてくると良いですわ」


 わたくしの言葉の意味することに気付いたらしく、がっくりと肩を落とすレミィ。


 ミリィは何も解ってないらしく、脳天気な様子で、用意していた観光ガイド本を嬉しそうにレミィに向けて、休暇の話をし始める。


 楽しそう何よりです……ですが……。

 しばらく、休みなんて取れないと思った方が良いですのよ?


 レミィもそれが解ってるのか、複雑な様子。


 それにしても、わたくしも、考えてみたら、もう何ヶ月も休みもなく仕事してますの。


 プライベートな時間なんて持てたのは、いつだったかしら? 食事だって、執務室で取ってたし、お風呂だって執務室には専用の浴室がありますの。


 寝る時も……あれ? 最近、ベッドで寝た記憶が……ありませんね。


 床の上や椅子の上で、毛布にくるまって朝を迎えるのが日常になっていたような……。


 そもそも、魔王城の外に出たのも久しぶりのような気が……?


 わたくし、もしかして二十四時間営業体制だったのかしら?


 向こうでは、こう言うのはブラック企業とか言うらしいですけど……仮にも魔王国執政のわたくしが、こんなブラック環境で……とかおかしいですのっ!

  

 働きすぎですわーっ! わたくしっ!


 こうなったら、他の十二貴子の連中で、政治力高い奴らは無理矢理にでもこっちに引き込んでしまいますの!

 

 アサツキも別に敵対関係じゃないですし、本人もいつの間にか海外折衝担当のようになってしまってますし、オーギュストも一族の手前、武闘派を気取っているだけで、本当は畑を耕してたり、動物と戯れることを趣味とするようなゆるーい奴なのですわ。

 

 あんな、どうしょうもないお馬鹿揃いの不死族なんてのを抑えられるほどの人格者ですからね。

 それに、竜族共も餌やってりゃ、ホイホイ言う事聞くような単純な奴ばっかり!

 

 すべては魔王国の為にっ! どいつもこいつも、キリキリ働いてもらいますわよっ!

 

 あわよくば、勇者タケルベ様も引き込めないかしら? そうすれば、人族側も一気にこちら側へ……。

 

 け、決して密かに憧れてたとかそんなんじゃないですからねっ!


 かつては、野獣のような男だったみたいですけど、10年の歳月が渋みと穏やかさを与えて、ナイスミドルになってますのよね……ヨミコのヤツがやたらと入れ込んでるって話ですけど、納得ですの。


 そのうち、会談の機会を作って……仲良くなれたら……なんて事も考えますの。

 

 ですが、目下なにより、十二貴子全員を集めての自称魔王様との会談。

 

 こればっかりはどう転ぶかこのわたくしにも読めませんの。

 はたまた、一体どうなることやら……?


 かくして、わたくしは……未だ何ものとも解らぬ自称先代魔王様との会見に挑みます。


 鬼が出るか蛇が出るか……神のみぞ知ると言ったところかしら?

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