第二十一話「とある魔王の娘と元魔王、しゅくめいのたいけつ」①
元々、この話、外伝2の6話の後半でしたが、再構成の結果、この話からが21話となりました。
「また……勝手に街が広がってますね……ミリィは一体何をやってるのかしら?」
その日のうちに、魔王城から1,000kmも離れた転移門にたどり着くのはそれなりの苦労だったんですけどね。
竜族に作らせた高速連絡手段のワイバーンを何匹も乗り継ぐ強行軍の末、わたくしとレミィは日暮れ前に到着いたしましたの。
すでに先触れを出していたので、空港職員が総員で出迎えてくれてます。
ちなみに、この空港……本来ならば、飛行船の発着に使われてますの。
今のところ、魔王国製内燃機関の性能が微妙なので、気球を浮かべて、ワイバーンに引っ張らせてるのですけど、人員の大量経空輸送が可能となり、これもまた大いなる進歩。
やっぱり、山や森と言った地形を関係なしに移動できると言うのは、便利ですからね。
軍事転用もすでに想定されていて、向こう側で採用されている空挺戦術も研究中なのですわ。
もっとも、人族側では万単位の人間を転移させる超大規模空間転移魔術を開発したようなので、そっちの方が優秀だと思いますの。
大魔導師ネリッサ……勇者の一族の中では、全くと言ってもいい程に、表に出て来ない方なので、魔王軍サイドでは全く注目されていないのですが、とんでもない。
直弟子のアルマリアなんて、絶対まともに相手にしてはいけないヤツ、ナンバーワンなんですのっ!
一年前、ガルムリア帝国の残党掃討戦に参戦したわたくし率いるゴブリン兵団二万。
レデュスレディア国境付近で、遭遇したヤツ一人の手で、兵団の4割を失うと言う悪夢のような戦いをわたくし経験してますの……。
先陣を切っていた炎竜王バルムングを不意打ちで葬り、同行していた竜兵団を殲滅したもののついでと言った調子で、文字通り鎧袖一触……空の悪魔、殲滅魔人アルマリア……。
あの手痛い敗北がわたくしに、もうこいつらと争うのは止めようと、固く誓わせたのですわっ!
余談ながら、あの化物が護衛についたタケルベ様に、喧嘩を売ったヨミコ達は、ものの見事に敗退したそうですが、わたくし……あったり前だと思いましたの。
世の中、敵に回しちゃいけない人達というのがいますのよ?
ひとまず、持てる限りの重要書類などの荷物を持ってきたのですが、それだけでワイバーン3匹分にもなりましたの。
少し手狭なのですが、ここには魔王軍の詰め所があります。
魔王城の首都機能をここに移転させる事は、前々から決定していたので、少しばかり前倒し……。
これはその第一便と言ったところですの。
「まったく、急ぎと言ったのにやたら時間がかかると思ったら、こんなに荷物を持ってくる事ないでしょうに……一体、何処に置くつもりなのですか?」
「首都機能移転の第一便としては、こんなもんですわ。何度も魔王城とここを往復するほど、わたくし暇じゃありませんの……物自体は大事なものばかりですが、魔王軍詰め所にでも放り込んでおきましょう」
「まったく、毎度のことながら、思い切りが良すぎます。ところで……パルル様、あれは何事でしょう? 火事でも起きている……にしては、誰も慌てる様子もありませんね」
レミィが指差す先には、煙突から真っ黒な煙が盛大に吹き出しているのが見えますの。
いかにも体に悪そうな色で、向こう側でも環境問題などが発生して、酷いことになったらしいのですが……。
まぁ、納得。
「あれは、発電所ですわ。そう言えば先週あたりから本格稼働させると言う話でしたね。いかんせん、こちらの技術はまだまだ稚拙なのと、石油の精錬や供給体制が確立できてないですからね。仕方がないので、石炭を燃やしているのでこの有様なんですわ。燃焼効率の改善や排気浄化システムなど、まだまだ課題は多いですね」
「匂いもですが、丸一日いたら、顔まで黒くなりそうです。発電用なら、いっそ向こう側から、発電用機材を丸ごと買い取って、そのまま使ったほうが良いのではないですか?」
顔をしかめて、マフラーの位置を直して、顔を覆うレミィ。
炭鉱とかなんて、こんなもんじゃないので、わたくしはあまり気になりませんけど……。
ゴブリン族は、人間がとても生活出来ないような劣悪な環境でも、適応出来る程度には、タフな種族なのです……わたくしも、ゴブリンの端くれなのでその辺は一緒なのですわ。
「向こう側の技術や機材に頼りっぱなしでは、いざ壊れた時にどうにもなりませんし、こちらも技術を身に着けていかないといけませんからね。けど、それは段階を追って進歩させるべきなのですわ……一足飛びにとか、そんな事をやっても、必ずどこかで問題が発生しますの」
「そういう物なんですかね……。けど、そもそも、電力の確保って言っても、向こうほど電気を使うものも無いじゃないですか。ここまでする必要なんてあるんでしょうか?」
「あら、電力が確保できたことで、この周辺は夜になっても煌々と明かりが灯る不夜城の如しになりますのよ。コンピューターとかも使えるようになるし、冷房だって導入できますのよ? まさに、文明の到来の第一歩……なのですわっ!」
おまけに、向こう側とインターネット網で接続出来るようになっているのも強みですわ……。
これまでは、向こうから持ち込んだポータブル発電機で、ノートパソコンを動かす程度でしたけど……。
石炭による自給自足の発電が可能になると、出来ることが格段に増えますの。
高性能な据え置き型大型コンピューターに、アメリカから調達した3Dプリンタも使えます。
日本では何故か軽視されているようなのですけど、一品物の高精度加工品の自前生産すら不可能じゃなくなりますの。
「パルお姉様、レミィお姉様、お待ちしておりましたっ!」
空港職員や人足に混じって、元気よく片手を上げて、レミィの妹、ミリィが駆け寄ってきましたの。
ダークエルフなのに、真っ白な肌……エルフと変わりないような見た目なのだけど。
ダークエルフ族にもたまにこんなのが生まれてくるのです。
かつては、白エルフなどと呼ばれ、ダークエルフの間でも差別対象だったのらしいのだけど。
この二人は、魔王様の血を引くダークエルフ族のホープと言っていい存在。
軽々しくミリィを蔑んだ一族の者をレミィが一刀のもとに切り伏せたことで、もう誰もそんな言葉を口にすることもなくなったそうです。
魔王様の理念の一つ……それは差別の根絶。
多種多様な雑多な種族の集合体たる魔王国では、見た目での差別など百害あって一利なしですからね。
レミィはわたくしの補佐官、ミリィは転移門の守護官兼向こう側との連絡官を勤めさせておりますの。
同時にミリィは、転移門の周辺に作られつつある街の執政官も兼任しているはずなのですが……。
異世界日本との流通の拠点とも言えるこの地には、各種族の代表や魔王軍が多数集結し、一大拠点となりつつあるので、厳密な都市計画なども策定しているはずなのですが、実際はこの無計画、無秩序としか言い様のない有様。
「ミリィ……なんですか、この有様は……無計画に街を広げさせると後々が大変なのですよ? ここは向こう側との交易の拠点なのですし、ゆくゆくは首都機能を移転させる予定ですの? こんな有様では困ります」
「ご、ごめんなさいっ! 申し訳ないです……でも、勝手に住み着いた連中が勝手に建物を建てちゃうもんで、取り締まってもキリがないんです……」
バツが悪そうに、苦笑いをするミリィ。
長身、銀色の瞳に、白いボサボサなショートヘア……やっぱり、20代にしか見えないけど、11歳のお子様。
けど、魔族は基本的に早熟なのです。
……人間の成長が遅すぎるだけなのですわ。
下級ゴブリンなんて、わずか三年で一人前にまで成長しますからね。
その代わり、寿命もせいぜい10年、良くて20年程度と短命。
まぁ、わたくし達ゴブリニアスは、100年以上長生きするんですけどね。
ちなみに、ミリィは向こう側では、アルビノと呼ばれているらしいですわ。
生まれつき、色素が生成されないある種の病。
直射日光が苦手だったりそれなりに苦労しているみたいなんです……。
今だって、この暑苦しい中を全身黒ローブで固めていますの。
この辺りは元々人族の領域だったから、とっても暑いんですの……魔王城の辺りは寒いのに……この温度差には参りますの……。
パルル様、ゴブリン族の生態は限りなくハチやアリに似てます。
地面に穴掘って、アリの巣のようなダンジョンとか作りまくったりするのが大好き。




