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第二十話「とある魔王の娘の憂鬱なる日々」⑤

 もっとも、日本という国もただのお人好しと言うわけでもなく、あわよくばこっちに武力進出……なんて事も考えてたようですけどね。

 

 その辺は、日本以外の国も同様で、秘密裏にこちらに送り込まれた米軍特殊部隊の隊員が全員、虫の息で発見され、強制送還された……なんて事もありました。


 何の断りもなく、武装した兵士を侵入させる……侵略行為、下手をすると宣戦布告とも取られるような大問題でしたけど……。


 アメリカさんは商売相手でもあるし、全員虫の息ながら、誰一人として死なせること無く、故国へ帰りつけたこともあって、迷惑料と称する詫び金を支払ってくれたので、不問といたしましたの。

 

 中国、ロシア、韓国、欧州各国の合同国際調査団なんてのが押しかけてきたこともありましたね。

 

 彼らは純粋に学術的な調査が主目的と言う話だったんですけど……。

 

 とにかく、やたらと横柄だったのは、中国の奴ら。

 労働者の移住プランだの、資源採掘プラントの建築だの、頼んでもいない事を勝手に言いだして、わたくしを名指しして、国家元首に会わせてやるとか言い出す始末で、もううんざりでしたの。

 

 最初は一ヶ月くらいかけて、異世界を隅々まで調査するとか息巻いてましたけど、案の定、二日目にはバタバタ倒れだして、三日目には全員虫の息で寝込んでしまいましたので、全員お引き取りいただきました。

 

 日本側の方々も何人も異世界滞在実験なんてやっては、尽く強制送還、病院送りになってたんだから、こうなるのは目に見えてたんですけどね。

 

 異世界行ったら、死ぬとか……日本側が利益独占するための嘘で、大丈夫だと思ってたんだそうで……。

 念のために、防護服を着てれば問題ない……なんて調子でしたのよね。

 

 そんなもので解決できたら、誰も苦労しませんのよ。


 実際、こっちの者達も向こう側の世界へ適応できたのは、わたくし達十二貴子のみ。

 

 他は一切の例外なく、二日目にはグロッキー……生命力の強い竜族ですら、三日目には音を上げたくらいなので、どうにもならないと言うのが結論。

 

 マナ鉱石と呼ばれる凝縮マナの結晶体を身に着けていれば、多少の長期滞在は出来るみたいなんですが。

 同量の金塊と同じくらい貴重なものを使って、一日滞在時間が伸びたとか意味がなさすぎます。

 これでは、せいぜい保険にしかなりません。


 おまけに、ほんの一時間程度の滞在ですら、後日倦怠感やら目眩と言った後遺症が出るので、極力控えるように通達を出しているほどです。

 

 日本側の関係者も、色々国際関係と言うのがあって、身を以って体験してもらわないと理解してくれなかったから、とか何とか言い訳してましたが……。

 

 欧州組はさすがに、一回で懲りたみたいなんですが、中国、ロシアのしつこいこと。

 新開発の宇宙用装備なんてのを持ち出して来て、同じ結果に……。


 けど、さすがに三回同じことを繰り返して、次は助けないと通告したら、諦めたみたいです。

 

 何処にでも馬鹿はいるんですね……。


 それに、余興ということで向こうの軍事関係者を集めて、披露したわたくし達の魔術による個人武勇のデモストレーション。

 

 それは、わたくし達十二貴子のひとりひとりがその気になれば、軍勢並の力を持つことを示したものでして……。

 

 その効果は絶大で、わたくし達十二貴子への各国への招聘の要望やら、工作員の付き纏いもパタッとなくなりましたし、わたくし達の機嫌を損ねてはいけないとばかりに、どんどんこちらの要望にも応えてくれるようになりましたの。

 

 武力とは、こう言うふうに使うべきなんですわ。


 あくまで見せるだけ、ハッタリで十分なのです。

 

 最初は出し渋っていた向こう側の近代的な採掘機械に精錬機材、工作機械、大型建築車両なども交渉の結果、ゲット!

 

 それらについては、わたくし達ゴブリニアスの誇る優秀な科学者達により解析が行われ、コピーにも成功し着々と近代化の道を歩んでおりますの!

 

 向こうの方々も、まさかわたくし達が機械類のコピーを可能とするほどの技術力を持っていたなんて、思ってもなかったようなのですが……その認識自体が甘かったのですよ!


 なにせ、向こうの図書館やインターネットを使えば、技術資料なんて、相当のレベルのものが入手できますからね。

 現物があって、図面やら資料まであるなら、真似だって出来ちゃいますの。

 

 流石に精密電子機器やカーボンナノファイバーと言ったナノテクノロジー素材までは、コピーは出来てませんけど……。


 それだって、普通にお金を払えば買えますからね。

 日本と言う国は、スポーツ用品や釣り道具と言った趣味の道具にすら平然と最先端素材を投入するような国なので、普通に素材メーカーに商談持ちかけると売ってくれるような有様。

 

 お客様は神様……向こうにはそんな言葉があるそうですけど、さしずめわたくし達は降って湧いた神様ってところですのっ1

 

 かくして、向こう側でのわたくし達の立場は確固たるものとなり、おまけに銀行さんが次々貸し付けてくれた資金で、株やら仮想通貨、日本国債の売買を行った結果、魔王国の保有する日本円資産は天文学的な額にまで膨れ上がり、向こう側の経済にすら影響力を持つほどになっておりますの!

 

 それもぜーんぶ、わたくしの業績なんですのよ?

 わたくしの頭脳にかかれば、相場予測なんて造作もない……わたくしの頭脳が恐ろしいですわっ!!

 

 懸念だった人族との和平交渉も無事に済み、人間の商人たちの取り込みも順調……これまでは、ライバル不在な上に裏取引と言うことで、強気だった人間の商人たちも、日本と言う超強力なライバルの出現でもはや戦々恐々。

 

 その上、わたくし達が手に入れた日本製品をいくらか横流しした事で、人族側でも日本と取引したいと言う要望が上がっているようですし、驚異的なスピードで向上した文明レベルについても、興味津々と言った様子で、もはや立場もすっかり逆転した言えます。

 

 経済による恭順工作も順調なのですわーっ!

 

 アークボルトの件は、あの馬鹿の暴走とは言え、こちらとしてはゴミ処理を押し付けてしまったようなものですから。

 ひとまず、テッサリア様の追悼と言うことで、わたくしの名で多大な援助物資を進呈させていただきましたの……それもメイド・イン・ジャパンの品々を。

 

 向こうは困惑していましたけど、こちらとしては多大な借りが出来てしまいましたからね。


 それに勇者タケルベ様の件も……これはいずれ、レディスレディアにもですが、タケルベ様にも正式に謝罪をせねばなりませんね。

 

 それに、向こう側の勇者達も……考えてみれば、連中もわたくし達同様、異世界間を自由に行き来できる貴重な人材。


 出来ることならば、お仲間に引き込めないかって、わたくし考えてますの。

 

 そう、わたくしの理念はあくまで、この世界の恒久的平和の実現なのですから!

 

 わたくしこそ、お父様の遺志を最も忠実に受け継いだ後継者の範たるモノと自認しておりますの。

 

 こうなったら、このわたくしの数々の実績を示して、お父様にもわたくしこそ、次期魔王にふさわしいと言わせて見せますの!

 

 そう、わたくしにはそれだけの実績と展望がありますの!

 

 この最弱にして、最強の魔王十二貴子筆頭パルルマーシュ! 何一つ恐れるものなしっ! ですわっ!

 

「こうしちゃいられませんのよーっ! パルルマーシュ再起動ですわーっ!」


 立ち上って、カバンに重要書類や向こうの世界の株券、ノートパソコンと言った大事なモノを詰め込んで、ドレスも準備。

 

 そんな事をしながら、ふとした疑問が湧く。

 

 お父様がこっちに来ようとしないのは、何故なのか?

 

 考えても見れば、お父様が向こうの世界へ強制帰還されたとして、こちらとのルートが確立された事を知ったら、真っ先にこの魔王城に帰還することを望むはず。

 

 にもかかわらず、お父様はこちら側に戻ってくるのではなく、向こう側へわたくし達を呼び寄せる事を選んだ。


 おまけに、発令された召喚命令も公式に発布されたものではなく、あくまでわたくし達十二貴子のみにしか伝えられていない様子ですの。

 

 もしかしたら、戻ろうにも戻って来れないのかもしれないのではないでしょうか?

 

 聞いた話によると、お父様は元々異世界人。

 この世界では、生きることが出来ない。

 

 本来ならばわたくし達のような例外を除けば、異世界で生きることもままならない……これは半ば絶対なるルールのようなものなのです。

 

 そもそも先代魔王の生存と帰還なんて、大ニュースであり、魔王国を震撼させるほどのインパクトがあるはずなのだけど……現状、その情報は伏せられている様子なのです。


 なにせ、このわたくしにすら、今の今までその情報は知らされていなかった。

 向こう側のアサツキ達による情報操作、わたくしを陥れるためにギリギリまで伏せられていた。

 

 ……いや、その可能性は低いですね。


 アサツキは、バカ正直と言っていいほどには、実直な男。

 同じライバルを蹴落とすにしても、アレはもっと正々堂々と挑んでくるはずなのです。


 お父様が生きていたなら、もっと早く知らせがあっても良いはずなのに、何故このタイミングなのか?


 そもそも、わたくしだって多大な影響を日本国に与えている以上、向こうにいたお父様が今まで気付かなかったなんてことはありえませんの。

 

 これは……きっと裏がありますの。

 魔王様の深慮遠謀か……はたまた?

 

 いずれにせよ、わたくし……本気出しますからねっ!


 勝負ですわっ! お父様っ!

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