発病
取り敢えず、今回は前書き掌編休刊します。
ここから先の事は、よく覚えていない。取り敢えず、実家に身を寄せたものの、気が付けば、俺はがむしゃらに自転車を漕いでいた。何処へ向かうのか、何処からどういう道を辿って、そこにいるのかすら解らなかった。もう頭の中は絶望で埋め尽くされていた。真の【愛】と偽りの【愛】を同時に失ったのである。行き先など考えていなかった。一心不乱に、無我夢中に自転車の車輪を回し続けていた。そして辿り着いたのは、我が生まれ故郷。何故そこに行ったのか解らない。でも俺は、生まれ故郷で風邪薬一箱と消炎鎮痛剤一箱と睡眠導入剤を購入し、それを大きな芝生のある公園で、飲めもしないビールと一緒に、全ての薬を飲み込んだ。そう薬剤多量服用自殺(OD)だ。そして暫くすると、立っている事も苦痛になり、そのまま公園のベンチで眠ってしまったのだった。眠る前に、少なくなった携帯電話の電池を気にしながら、>今までありがとうございました。<とだけ数名の職員にメールをして、携帯の電源をOffにして。
どのくらいの間眠っていたのだろうか……。ふと目が覚めると、急に激しい嘔吐感に襲われ、そのまま、ベンチの横に胃の中にあったビールと全ての薬を吐き出した。
この時はまだ知らなかったのだが、市販の薬は、多量に服用すると、吐き出すようになる成分が含まれているそうなのだが、そんな事を知らない俺は、飲めもしないビール等で敢行した為にそんな事態に陥ったのだと勘違いし、今度は同様の薬と身体に浸透性の高いスポーツ飲料にて実行した。死への恐怖など無かった。
『消え去りたい』
『死にたい』
そんな思いだけが、頭を支配していた。二度目のODは、場所を移し、近くに高層住宅街が並ぶ近くの小さな公園で起こした。一度目と変わらず、全ての薬とスポーツ飲料を飲み干すと、暫くして、目眩に襲われそのまま眠ってしまった。
しかしながら、また、目が覚めた時には、一度目と同じく激しい嘔吐感に襲われ、胃の中の薬とスポーツ飲料を吐き出していた。そして、この時の心境は俺にも解らないのだが、残り少ない携帯電話の電源をONにすると、実家にSOSの連絡を行っていたのだ。
気が付いたのは、父親の車の中。激しい嘔吐感と頭痛に襲われながら、運び込まれたのは自宅のすぐ側の総合病院。そして、そこで一日だけ入院し、その後、実家に戻った。
そのまま施設に行き事情を説明し、土下座までして謝罪した。その時知ったのだが、綾は、あの俺が無断欠勤した日、かなり取り乱していたようだった。一応の謝罪を終えた俺は、もう一度、この施設で働きたいと申し出たが、却下され、別の施設に移動する事となった。それに同意しなかったが為に、俺は暫くの間、傷病手当にて生活する事となる。それは、謝罪に行った日の翌日、父親に連行されるようにして行った、総合病院から推薦された精神科にて【鬱病】と診断されてからであった。