元カノとの帰り道
翌日と翌日、そして翌日。あれから秋田理子とは一言も交わしていない。何でかってそう言うことだ。秋田理子にはこれを青春イベントとしては認めてもらえなかったとそう言うこと。誰にも認めてもらえないかもしれないがあれは久しぶりに心が高鳴った。自分でも訳がわからないくらいの感情が心の奥から湧き上がってきた。だから理子がキーホルダーを踏む姿を見ていた時、つい笑みが溢れてしまったのだろう。寂しいという青春的感情が僕の心を包んだのだから嬉しいことに他ない。
だからこそ僕は疑問に思っていた。あれほど感情が湧き上がってきたのにどうして秋田理子はあの後平然として僕の元によってこないのかと言うこと、何で逆に避けられているのかと言うことである。あれは続きがあるから面白いのであってあのイベントだけであってはただ胸糞の悪い仲違いの場面なだけである。この話のどこに落とし前をつけろとでも言うんだろうか。
僕の顔に何かが出ていたのか珍しそうに石川さんがこちらを見ていた。
「おはよう吉田くん。どうしたの?随分暗そうな顔して。」
「やっちまった......。」
「朝から何度も自問自答して自分が精神異常者だと自分自身に勘違いさせようとしているのを見た時はどうしようかと思ったよ〜。」
「その時はぜひ、助けてやってくれ。」
「久慈葵にでも振られたの〜?」
うざい。石川委員長は目を輝かせてどんなラブコメを聴かせてくれるのかと待ち構えている様子だった。
「いや、昨日理子と大喧嘩して絶交まで行きそうで悩んでるんだ。」
「なるほどね。まあ秋田理子とは離れといた方がいいよ。あいつ嫌なやつだし。」
「......そうなのか?俺は別にいいやつだと思うけど。」
「え〜、だってあいつそんなに外見良くないのにすぐ男に話しかけるからモテるんだよ、それでそのことを鼻にかけてる。どうかと思わない?」
ストレスでも溜まっているのだろう。珍しく彼女は僕に愚痴を言う。
「俺は性格がいいと思ってるんだ。そんなの反応しようがないだろう?」
「あら、そうね。これは私からの助言だから聞き流してくれていいよ。」
納得のいかない様子で今日は珍しくすぐに席に戻っていく彼女の後ろ姿を見ながら僕は思う。女子は怖いわ、これが彼女の裏の顔ってやつなんだろう。多分もっと酷いとは思うが。
石川さんとの会話はそれくらいにしといてスマホの連絡を確認する。朝のぼっち時間にやることなんてそれくらいだろう、やはり現実逃避はスマホに限る。
『吉田くん今日は来てね。」
51代戸木田高校生徒会のグループでそんな連絡が来ていた。
少しは現実逃避させてくれ、もっと楽しい話題を送ってきてくれなんて思ってしまったがこの件については自分に非があるのでしょうがないしよく考えればそんな友達もいなかった。
それにしても、ちぇっ、サボりすぎたか。
放課後を憂鬱に思いながらスマホの電源を切った。ちなみに連絡メッセージを送ってきたのはかの俺のもと想い人、51代生徒会1年副会長の久慈葵さんである。
「満くん、サボりすぎだよ?」
「はいはいすいません。」
「はいは一回にしろって言ってるよね?」
「はい。」
放課後生徒会室にいくと案の定久慈葵が生徒会室前で仁王立ちしていた。
久慈葵は基本おっとり系、彼女の特徴である青い髪を珍しくサイドテールにまとめていた。
「それに昨日は随分と、やらかしてくれたようだし。」
彼女は生徒会室の中をチラッと見てまた僕に視線を戻す。生徒会室の中にはやはり既視感のある茶髪でポニテの美少女が窓の外をじっと見ていた。
「理子の調子が戻るまでは毎日ここきてもらうからね。」
生徒会室の中で一人偉そうに座っている人物、そう、生徒会書記・秋田理子その人であった。
「さっきからずっとあの調子なんだよ。仕事にも一切手をつけないから困ったもんなんですけど。」
「......すいません。」
理子もそうだが葵からも疲れがみえる。こりゃ生徒会が重症である、先輩たちに関してはほとんどがサボリなので論外、実質的にこの生徒会を回しているのは今この二人なのである。
「生徒会同士で仲違いしないでくれない?それもこの時期に。本当にいい迷惑。」
「すいませんでした。」
ここの話題に関しては俺以外の人に悪いとことは見当たらないので俺は謝ることしかできなかった。
会話をしながら必死に手を動かす。今は生徒会総会の資料作り中である。生徒会は案外仕事ないなんて舐めたこと考えている奴も多いと思うが実際のとこ仕事がない訳がない。挨拶もいちいち考えて先生に許可とってやんなきゃいけないし暗記しなきゃいけないしかなりだるい。そんな面倒をなぜ僕がやっているかというともちろんクソだるい幼馴染がいるからである。こいつは思いっきり僕を脅してきた。入らないなら僕が持っているエロ漫画の写真を母に見せるらしい。本当にそう言う奴なのだ言ったことはやるタイプ。しかし何で彼女がそこまでして僕を誘ったかというと人手が足りないから、それだけらしい。嫌な奴である。本当なら今頃家でダラダラとアニメでも見ていたのに。
葵は僕がしっかり仕事をしているのを見て怒りがおさまってきたのかさっきより明るい声で話しかけてきた。
「それで、何があったの?」
「......いや聞いたんだろ?」
「聞いたけど理由がわからないの。何でそんなことをしたのかなって思ったらやっぱり理子に悪いことされたとかなのかなって、そしたら理子が言うはずないと思うし平等に満くんに聞こうかと思って。」
やばい。ここで理由なしにやったとか言ってしあえば葵からもフルシカトくらうかつ永久奴隷にされる。
危険なことをわかってはいたのだが時すでに遅し。葵はもう察したようだった。
「なるほどね。何もなしでやったってのは理子の嘘だと思ったけれど本当のことっぽいね。理子、疑ってごめんやっぱりやば奴だわこいつ。」
「......許してもらえますか?」
「逃げるにはエロ漫画の件、我慢するしかなくなりそうだね。あの写真ばら撒かれたら多分社会的に終わると思うけどそれでいいなら逃げたら?」
まず、許すと言う選択肢はないらしい。そして逃げたら僕がエロ漫画を買っている写真がついに全世界に公開されてしまうらしい。それも完全ロリもの。一貫の終わりである。
「何でもしますので生徒会に籍を置かせてもらえないでしょうかこれから毎日働くので。」
「いいでしょう。」
ちょうどいい手駒が見つかったと言う具合に葵はニコニコである。また反対に理子はずっと怒りが顔に出ている。怖い。
「それで結局何をすれば理子は機嫌を直すの?いくら満くんが助けてくれるとは言っても理子が動いてないと仕事効率がどうにもならないって。」
「そりゃそうだよね。」
理子は有能を体現したような奴である運動も勉強も完璧、それでいて仕事効率も高くて正確。こいつがいるおかげで生徒会は回っていると言っても過言ではない。ただ頑固で少し子供っぽいところがあるので普段はお調子物なのだがこう言う時は扱いに困る。ただ僕にはちょっとした策があった。
「佐藤文哉だっけか。そいつを連れてきたら多分気分直るよ。」
「......は?ちょっと満?」
やっぱりだ。こいつはこの話題を出せば乗ってくるしかないと思った。ここでどうにか機嫌を直せるようなことを言えればワンチャンある!
「え、え。もしかして理子ちゃん文哉が好きなの?」
ここで求められてたのはまず葵がゆっくり見守ってくれることだったのだがもちろんそんなはずがなかった。
「......。」
理子はもちろん黙りこくる。そこでもちろん葵は興味津々で俺に聞いてきた。
「ねえ、まじ?」
「あ、ああ。そうだよ。だから僕らで手伝ってあげて付き合えたら理子は調子戻すかなって。」
僕の肯定に理子は明らかに不機嫌になった。間違いだったのは明らかだった。理子は葵にバレたくなかったのだろう、なぜかはわからないが多分葵は文哉と何らかの関係を持っている。文哉呼びをするほどの仲、元彼だったとかだろうか。ただこの瞬間俺は賭けに負けたのである。
「なるほど文哉ね。連れてこよっか?」
「いややめて、もう負け確なのは知ってるから。」
「......負け確?」
何だよ負け確って、何かあったのか?
「いや彼、いい感じの人いるからさ。私のお姉ちゃんで久慈翠って言うんだけど、知らない?」
久慈翠か。確かに聞いたことがあった。高校一の美少女と名高い先輩であり久慈三姉妹の長女であると、学校ではよっぽどの有名人であるし生徒会長。それにいっつも渡辺先輩といるところを発見されておりもう公認の彼女とされていると葵は話していた。
「文哉でしょ?あの人ちょろいしワンチャンあるよ。私もまあまあ仲良いし誘えばすぐデート行けるから。やってみよっか?」
「いやいやいいですよ、それに冗談でしょ。やめといた方がいいって思ってるくせに。」
「何となく好きなのは半年前くらいからわかってたしそんな驚かなかったけど、ついにガチで狙う気なんだね、頑張って。」
「はいはい。」
明らかに応援する気のない激励の言葉と呆れた様子の理子。かなり場の空気は重かった。俺はなかなかない青春らしいイベントに、その会話になかなか興味を示していたのだがそんな余裕をこいてるのも良くなかったらしい、無言の空気の中、唐突に理子がギッとこちらを睨んだ。
「葵には言うつもりなかったのに何言ってるの!大体昨日やったこともわけわかんないし、何?私に恨みでもあんの?正直に言えば?」
珍しく大きな声を出した理子、堪えきれなかったのだろう。目には涙が浮かんでいた。僕はことの重大さに気づけてなかったらしい。呆然とただ、そんな理子を見ていることしかできなかった。
「いいや、仕事やろ。もう色々と忘れたいし。」
理子は目を逸らした。でも絶対もういいとは思ってはいない。それは彼女の顔が証明していた。
普段はこう言う時場をまとめてくれる葵も最後まで何も言わなかった。結局本来の目的であった理子に仕事をやってもらうことはできはしたが、明らかに大きな失敗であったことも明白だった。
仕事を終えて暗くなった部屋、葵が黙って立って電気をつけた。まだ今日やるべき仕事——「生徒会資料の作成」については終わらせられていない。それはもちろん理子が拗ねて手伝ってくれないからである。僕は一言言ってやりたかったが先ほどまであんなことやこんなことを言ってた立場で何様なんだって思ってまた理子が拗ねる未来は見えていたので特に何も言わなかった。
「やっと終わったね。理子も満くんもありがとう。うちのお姉ちゃんたちが何もは足らないからこんなことになってるんだしそろそろ策を打った方が良さそうだね。」
理子は葵の言葉に頷くだけ、あくまでもまだ機嫌を直したわけではないらしい。
「葵もお疲れ様。葵が一番大変なんだから僕らに気使わないで頼ってよ。」
「うん、ありがとう満くん。」
「......そういうアンタは全然生徒会に来ないわけだけど、どの口が言ってんの?」
ここぞとばかりに理子が口を開いた。本当に可愛くないやつだ、こいつが顔が良くなかったら多分学校中から嫌われてるだろう。
「......満くん。何だこいつみたいな顔してるけど理子が言ってることは正論だからね?しっかり受け取ってね?」
冷静に突っ込む葵に僕は頷くほかなかった。
葵とさよならして理子と二人帰途を辿る。さっきまで喧嘩してたはずなのに何故かこう言う時は隣を歩いてしまうのだ。本当何故なのだろうか。
「アンタ、葵のことはまだ好きなの?」
今日は無言で帰ると思っていたのだが思いの外、理子の方から話しかけてきた。どう言う風の吹き回しだろうか。
「別に、最近は何とも思わなくなってきた。」
「......あらそう。」
興味があるから聞いてきたんじゃねえのかよ!僕の方が理由が気になるじゃないか。あまりにも冷たい返答に昨日と同じようなむしゃくしゃを感じひとまず落ち着こうと必死に自分を諭した。
「なんで、私はずっと好きではいてくれなかったのにな。なんて思っちゃって。」
理子は静かに呟く。こう言う時の理子は多分本当の理子だ。強がってるだけで昔と同じく引っ込み思案な女の子。僕はちゃんと知ってる、理子は完璧少女なんかじゃないって。
「理子は、僕のヒロインじゃないんだよ。多分僕をずっとずっと超えられる最高のヒロインになる。」
僕の元カノ秋田理子はそう言うやつだ。付き合ってる時も合ってないなって、幼馴染の時の方がずっと良かったって、キープされてるんだなってずっと思ってたくせに何も言わないやつ。そう言う優しいやつなのだ。
僕らが付き合ったのは2年前の夏、僕から告白した。
「最近猪狩くんと仲良いんだよね。」
嬉しそうに話す君に嫉妬の気持ちが隠せなかった。
猪狩春陽彼女が好きな男の子。僕には敵わないようなイケメンで何でも持ってる男の子。誰から見てもお似合いのカップルであった。理子はお世辞にも性格がいいとは言えないけれどそれを言わせぬほどに彼女の外見は完成されていた。そう、他の人はお似合いだと思っていただろうが僕はそうは思っていなかった。
「理子はあんな性格いい人と付き合えんのかよ、悪ノリできるやつの方がいいんじゃねえか?」
そんな助言をよく呟いていた。その度に彼女は少し寂しそうに明るい声で「確かに!」なんて笑う。そのうちもうあと一歩で交際まで来ている二人に僕が堪えきれず理子に告白した。
「理子が好きだ!付き合ってくれ!」
純粋な告白をした。なんて言えばいいかわからなかったから、そして中途半端だと告白だと思ってもらえないと思ったから。あの時もキーホルダーの時と同じ、目が飛び出そうなほどに驚いていたけど彼女は呟くように答えた。
「こちらこそ、お願いします。」
理子が何でそう答えたのか理由を聞いたことはない。でも多分彼女は僕を好きでいてくれてたんだろう。それ以外に理由が見当たらない。ただ理子は本当に相手が悪かった。散々理子に性格が悪いなどと言ってた性格の悪い男が相手だったのだから。
「理子は何したい?」
「うん、特に何もないかな。」
彼女はこの時は一切僕に対して軽口叩く生意気なやつじゃなかった。いっつも僕の後ろをついてくるような引っ込み思案で落ち着いていてそばで支えてくれるやつ。僕は本当は誰よりも性格もいいと思っていた。たまに調子に乗る時はとにかくやらかしているけれどしっかり周りを見れて誰にでも話しかけるやつ。
こう言う時はよく散歩していた。家の周りを、何気ない話をしながら。
「それでそん時足立先生が聞こえないふりしてんの、目の前で言ってんのにさ。」
「足立先生面倒ごと嫌いそうだもんね。」
本当にどうでもいいことを話していた。それで互いに笑い合って、いや理子は本当に笑顔だったけど多分僕は違かった。理子といることに喜びを感じれていなかったんだと思う。猪狩と付き合うのが何となく嫌で奪われるのが嫌であるがために選んだ交際という選択、自分のわがままを突き通した先で楽しめなかった僕に、その頃少しずつネガティブな考えが広がり始めていた。
「猪狩残念だったな。あの秋田とあと一歩のとこまで行ったんだろ?」
「最悪だよ。何だっけ、吉田満くん?が間に入ってこなければもしかしたら可能性あったかもしれないのに。」
そんな時に猪狩とその友だとが話している姿を見てしまった。やっぱり猪狩は利己のことを好きだった。そこでバカな男は気づいた。自分が犯した大罪を。
「理子、別れてくれないか。」
「......うん。」
次の日大罪人は罪滅ぼしのためにまず彼女を振った。彼女は思いの外あっさりと受け入れた。その時のことを今でも覚えている。
「でもさ、これ受け取ってもらえない?そろそろ振られるって思ったから用意してたの。」
そこで渡されたのが三日月のキーホルダー。
「私が太陽であなたが月。あなたは私がいないと輝けないよ?っていう呪い。ちょっと厨二病っぽくていいでしょ〜。」
多分相当な覚悟の上の言葉だったのだろう。目には大粒の涙が浮かんでいた。そんな彼女の顔を見ても心が動かなかった僕は相当な問題児なのだろう。でもちゃんとあの時のことをずっと覚えている。今もまだそのキーホルダーを捨てることなく持ち歩いてるくらいに。踏みつけてはしまったが。それが僕の罪滅ぼしの続きなのである。
ちなみに僕が一番に望んだ理子と猪狩の交際は中学最後まで終わることはなかった。
こんな壮絶な話が裏にあるのに、クソみたいな話である。まだ彼女の隣にいる僕は何がしたいんだろうか。
「そんなことないと思うんだけどな〜。」
なんて優しい彼女はそう言って今も隣で笑う。多分彼女は猪狩とか、その先に出会う誰かのヒロインだったはずなのに、勝ちヒロイン路線を捨てて、絶対に負ける僕の隣で今日もずっと笑ってる。
「ある意味では僕はずっと好きだよ?友達としてはね。」
「あらそう。友達からヒロインになる道のりってのは案外短いものなんですの。」
「何だよその口調。高校デビューか?」
「な訳ないでしょうが!そんなことをしなくても私はモテるからね!」
何で僕らは幼馴染で会ってしまったのだろうか。互いに苦しむ道を神様が用意してくれやがった。
そんなこと思いながら明るい街灯の下を一つ二つと二人歩いた。田舎はいいもので、ちゃんと空では月が輝いていた。
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