ラブコメという理想型
望んだ展開。主人公にとって最高の展開、それがラブコメでは当たり前のように描かれる。
ただ、現実ではどうだろうか。両思いである確率は1%だとか、そもそも世界中を探したところで運命の人はいるのかとか、まったく、ロマンってものがない。
悲しい話だが、いざ結婚している人だって多分、本当は心の底で「本当にこの人が運命の人だったのか。」なんて邪な気持ちを抱いているに違いない。
そう、現実のラブストーリーなんて全く美しくないってもんだ。そもそも登場人物を誰にしたってみんなどこかが汚れている。
こんなダラダラと何が言いたいかって言うなら、そうだな。現実に負けた敗北者とは僕のことだぜっ!てことと。
「僕の理想のラブコメなんてもんは現実にはない」って。そう言うことだ。
「吉田くぅ〜ん。おはよ〜う。」
物語の始まりは大体が朝。そこまでは良かったんだがまさかスタートがよくわからない美女の変顔からだとは思いもしなかった。何でこんなに人生を賭けたような変顔ができるのか、本当に不思議な話である。
「ああ、石川さんおはよう。」
一言だけ答えて目線を手元のスマホに落とす、そうすると石川さん──石川縁はつまらなそうにほっぺを膨らませた。
そして、諦めたと思ったのだがツンツン、ツンツン。さっきから僕の頭の上が騒がしい。石川クラス委員長のだる絡みが今日も朝から始まってしまったらしい。本当に何で僕なんかに絡むのかと思うが、多分俺のリアクションが薄いことにムカついているのだろう。
石川縁は綺麗に整えたボブの髪とぱちッとしたおめめ、清楚系委員長として名高く人気が高い女子である。今日も今日とて人気者な彼女は不機嫌そうに僕の髪をいじっている。
「今日も寝癖ついてるよ?ボッサボサだね〜。」
「別にいいんだよ誰に見せるでもない。」
「......ふ〜ん去年はあんなに綺麗にしてたのに。久慈さんでも連れてこようか?」
「......やめてくれ。」
僕の弱点久慈葵の話をよく彼女は出してくる。僕のリアクションを楽しむためなら何を躊躇うこともしないような態度である。全く困ったものである。
ちなみに久慈葵は去年のクラスメイトで僕の元好きな人である。
「僕はもう久慈葵のことは何とも思ってない。」
「あらそ〜。それにしては顔がお赤いように見えますが?」
「......思い出すと恥ずかしいんだよ。」
クラスメイトの周りからの視線が嫌と言うほどに突き刺さる。こんな状況で女子と、それも他の女子の話をしてるもんだから誰からしても興味の的であるのは一目瞭然であった。そんな状況嫌に決まってるだろ。
石川さんがニヤニヤと俯く僕の顔を下から覗き込む。これも紛れもなく僕の顔が赤い一つの要因であった。これはどんな拷問なのだろうか。いくら石川さんと言ってもここまでの美女と急接近すると言うのは何とも何か込み上げてくるものがあった。そして、耐えきれなくなった僕は机に突っ伏した。
「何吉田くん?どうしちゃったの?」
「いや近いって。」
「......別に良くない?5年の付き合いなんだし。」
そして彼女は小悪魔の笑みを浮かべた。
「もしかして私を女性として意識してる......とか。」
「......。」
「......え、まじ?」
彼女は質問しといてそんなことあり得るのかとでも言いたげに目を見開いた。
「いやそりゃ俺だって思春期男子だぞ?そんな近づかれると困る。」
「へぇ〜なるほどねぇ〜。」
彼女はニヤニヤと笑っている。
「なんか童貞みたいな反応すんね?」
「......笑うな。純粋に童貞なんだよ。」
「知ってるけどね。」
本当に朝から楽しそうだ。今日学校来た意味ありました!と言いたげな顔をしている。結構な悪趣味だよな、委員長のくせに。
「それで。何か用があったの?石川さん。」
「何もないですよ吉田くん。」
「......何なんだよ。」
僕が諦めてため息をつくと彼女は面白がって笑う。
「吉田くんは飽きないですね。」
「......はあ。」
「反応薄いな〜。」
どもども、ありがとね〜。と適当な感謝の言葉を添えて彼女は笑いながら右二つ前の席に座った。そしてその後すぐに始業のチャイムがなった。ちなみに僕は平和な生活を願っているのだが、この委員長のせいでクラスメイトの大半に認知されてしまっている。
話しかけてくれるのは嬉しいけど、これくらいの中途半端な青春ならもっと穏やかな方が良い、僕は薔薇色の青春とやらを求めているわけではない。恋人が欲しいわけでもない。でも確かに、そうだな。委員長の存在はありがたいかもしれない。この変わり映えない平凡な日常にそろそろ飽き飽きし始めていたから。
『キーンコーンカーンコーン』
終業のチャイムが学校を包んだ夕方、多分僕の体はこの時より随分前からおかしくなってしまっていたのだと思う。
「あ、満じゃん。」
放課後、下駄箱で靴を履き替えようとしているところである女子に声をかけられた。これもいつも通りの日常、たまにのことだけど。
「久しぶりに見たけどまだあんたこれつけてくれてんだね。私もつけてるんだよ。」
僕のカバンについている三日月のキーホルダー、これはこの女子——秋田理子こと幼馴染とのお揃いのものである。元々そこまでの関係性ではないのだがなんだかんだ気が合う僕らは一緒に学校を選んだり遊んだり、関係を続けてきた。仲のいい友達である。最近は会ってなかったが。
久しぶりに会った彼女はちゃんと元気そうだった。良かった良かった。
「ああ、まあ何となく。」
「外されてたら悲しいからできればやめて欲しいけどね。まあいつまでもお揃いなのもどうかって話か。私も好きな人できたし。」
「おお、誰だ?」
「佐藤文哉くん。バスケ部の先輩なんだけど、めっちゃかっこいいんだよ?」
「へえ〜まあ理子ならいけるかもな、他の人からすればだいぶ高望みなんだろうけど。」
「私だからね。」
えっへんと胸を張る理子。ただ理子より美人な人を見たことがないのは事実なので僕も正当に評価している。少し性格は悪いけど。
美人といえば石川さんもそうだが顔と性格たして2で割っても理子が勝つくらい顔がいい。
「まあ頑張ってくれよ。一応、応援してる。」
「満も好きな人できたら言ってね〜。私が手伝ってあげるよ。」
「......ああ、ありがとう。」
恋バナになるとテンション上がるんだからこいつは、何だか青春してるこいつがムカついてきてこの時から僕のイライラゲージは徐々に溜まり始めていた。
「でもさ、私逆に恋愛で負けたことなくてさ、つまんない世界なんだよ本当に。」
「そっか......お前くらいになると変な悩みを持つんだな。」
やはりイラつきゲージが収まらない。僕の心は体と違う方向へ身勝手に動いていく。
僕はおもむろにカバンを下ろす。じっと彼女の方を向きながら。
そして困惑する彼女の目を見ながら三日月のキーホルダーを鞄から外した。
「え......急にどうしたの?」
「面白い世界を見せてあげようと思って。」
「......は?」
急なことに驚きを隠せない理子をよそに思い切りキーホルダーを床に叩きつけた。
ガンっ
キーホルダーは音を立てて地面に衝突すると2度3度ジャンプして、僕の足元に来たので僕は思いっきし踏みつけた。
そんな僕の様子を見ていた理子は呆然と立ち尽くしていた。その後しばらくの沈黙の後。
「ん?どした?」
と誰に向けているのかもわからない問いを口から出した。
彼女はただこっちを見ていた。目をてんにして、じっと僕を見ていた。僕に説明を求めて。今何を見せられたのか、何が目的なのかと、じっとこちらを見ていた。
「......僕のせいじゃない。」
「......は?」
つい僕の口から放たれた言葉はより理子の頭を混乱させた。
「マジであんた、何してんの?」
僕の言葉が弁明の言葉として最低点であったのは明白だった。理子は呆れを通り越し絶望しているようだった。
「いや、これは、その。」
「......マジで説明して?何があったの?」
「何にもないんです。」
本当に何にもない、何で自分がこんなことをしたのかよくわからない。ただ何かに突き動かされる感覚がしてそれがこの結果に繋がっただけなのだ。
「......っ。」
ただ、理子から見れば目の前に自分たちで大切にしてきたキーホルダーを堂々と踏みつける幼馴染がいると言う状況、それが全てだった。理子は少し落ち着いてきてやっと今の現状を理解した。幼馴染——吉田満が気持ちよさそうに自分とお揃いのキーホルダーを踏む姿。それも先ほど思いっきり床に叩きつけた後である。そして満は説明もしないし謝る様子もない。理子だって何もせずにはいられなかった。
「......。」
10年以上彼らを繋いできたそのキーホルダー、理子が持っていた太陽のキーホルダーを彼女はカバンからサッと取り出し、手に乗せて思いっきり叩きつけた。
「やめっ......。」
ガシャンっ
先ほどよりも強く放課後の静かな校舎を物騒な衝撃音が包んだ。僕はよくわからないが止めようと思った。でも彼女は何を思おうこともなく、あまりに迷いなく叩きつけた。
満は止めようとする。でも理子は何度も何度も踏みつけた。ガシャンガシャンガシャン。まるで壊れるまでやるかのようにリズムよく音が鳴っていた。平穏な青春とは程遠い、それでいて薔薇色な青春とも程遠い。そんな光景が僕の目に深く焼き付けられた日であった。
今回も突発です。ただ今回はちゃんとストックしてじっくり書いていこうかと思っていますので長続きさせるぞ!と意気込んでおります。設定の時点で結構納得行ってる作品なので是非お読みください。




