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2話 優しくない世界


──────────────


個体名:ケンシャ

種族:人間

状態:呪縛(会話)

取得魔法:『改変魔法』

……


──────────────


「 "魔物寄生" の項目改変したら、めちゃくちゃ身体の調子がいいな。魔物こわ。もうお外出たくない」


怖い話はもういい。

それより『魔法』だ。

家の中で練習できそうな魔法をイメージするがうまくいかない。

『改変魔法』が初めて発動した時のような手応えがない。


「 "魔法使い" までの道のりは遠いってことか」


魔法の練習が行き詰まり、コップに注いだ水を一口飲む。

するとちょうど例の時間になった。

俺はこの時間を待っていた。


「今日も始まったな」


『ねむい、弟、おきろ 』


魔王様の起床。

俺は今日も『魔王様の呟き』に耳を傾ける。

そう、()()()である。

あの少女は "魔族の王様" だったらしい。

先日、うちの国が無条件降伏し、俺たちの住む街も魔王様の支配下に入ったのだが……特に何も変わらなかった。


近所の飯屋でたまたま耳にした噂話によると、うちの国王様が交渉で上手く立ち回ったらしい。

……まあ、魔王様の心の声は全て俺たち人間にダダ漏れなので、本当はみんな魔王様の気まぐれだと知っているわけだが。


とは言え、ある意味国王様のお陰とも言える。

国王様は魔王様から()()()()()()()()された。

それが悲劇の始まりだった。

国王様は仕事中も、食事中も、トイレにいても『会話魔法』で話かけられるのだ。

そして、それを全て穏便に捌いている。

魔王様が国王様との会話で不機嫌になったことは一度もない。

今では、俺を含めたこの国全ての人々が、国王様を尊敬している。

あの人は超人だ。


俺も魔王様とお話ししてみたい。

魔法について質問してみたい。

とは言え、国王様と同じ待遇は勘弁して欲しい。


いつ話しかけられるか分からない。

いつでもすぐ返事をしないといけない。

機嫌を損ねると国が終わる。

……俺には無理そうだ。


『王様、朝ごはん、卵おいしい 』


今日も魔王様の呟きが聞こえる。

国王様側の声は、俺達には聞こえない。

ただ、外交って大変だなぁと思った。





『 今日は、"寄生魔法" 』


王様との朝食談義が一段落したらしい。

魔王様の呟きが『魔法講義』モードに切り替わる。

なんともタイムリーな話題だ。


…………。


人は集中すると時間を操れるようになるらしい。

魔王様の話を聞いていただけなのに、気付けばもう夕方だ。

先程まで朝食の話をしていたのが嘘みたいだ。


魔王様の話を復習がてらまとめて見る。



──────────────


『寄生魔法』

効果:

触れた相手に自分の複製を植え付けて誘導する魔法。ただし、複製できるのは "魔力体" と呼ばれる魔力でできたカラダ?だけ。この時点で、肉体がないと生きていけない生物は形を保てず、 "魔力体" が離散してしまうらしい。

つまり『人間には使えない魔法』だ。

使用者:

主な使用者は魔物。

肉体を持たず、体が魔力や魔法で構成されている生命体が使うらしい。

『魔法生物専用の魔法』だな。

使用例:

『寄生型魔物タコゥ』

幼体の時期に移動を頻繁に行う生物を見つけ、こっそり接触することで寄生する。

宿主を操り、所属するコミュニティの全個体に寄生する。

安全を確保した後、宿主達の思考を誘導し、危機感を低下させて普段よりも積極的な行動を選ばせる。

また、生存本能を刺激して繁殖行動を誘発させ、何世代にもかけて自分たちに都合のいい家畜コロニーを形成する。


──────────────



……ヤバいな。

何がヤバいって、この魔物の存在を『今まで聞いたことがなかった』ことだろう。

俺が特別世間知らずだった可能性もある。

だが、引きこもりになるまでは普通に働いていた大人だ。

一般人の定義に入れても良いだろう。


知らなければ、対処のしようがない。

魔物退治の専門家なら知ってるだろうが、被害に遭うのは大抵知識のない一般人だ。

そして、国、街、村のどれもそういった一般人が過半数を占めている。

この魔物にとって、俺たち人間はさぞ狩り易い獲物だろうな。


魔王様の話には、人間が寄生された時の解説がなかった。

だから人間には寄生しない……という結論にはならない。

寄生された "経験を持つ人間()" がここにいる。

人間も例外ではないということだろう。

早めに対応しないと俺以外の人間経由でこの街に寄生型魔物がやってくる可能性もある。

魔物退治だからギルドに依頼だろうか?

既に栄養素に変換済みなので、寄生型魔物の現物はない……。

これでは補助金でクエスト化は無理そうだよな。



チリンチリン


玄関の呼び鈴が鳴る。

誰かやってきたらしい。

この家には俺しか住んでいない。

目的は俺で間違い無いだろう。

昔はもっと賑やかだったんだがな。


「はぁい、どちらさん?」

「あ、ケンシャさんこんにちは」


ドアの外から女性の声が聞こえる。

見知った声だ。

ドアを開けると予想通り、この家の大家だった。


「エン。今月の家賃はもう少し待ってくれないか?仕事クビになっちゃったからさ」

「え、違いますよ。ちょっと部屋の点検です。中に入れてもらって良いですか?」


彼女の手がドアの内側に入る。

俺より一回りも若いこの少女は大家のエンだ。

以前は彼女の父親が大家だったのだが、最近引退したらしく、彼女が引き継いだようだ。

俺が引きこもりになっていた頃から、頻繁に様子を見に来てくれている。

最初は家賃の催促だと思っていたが、何故か作り過ぎた飯を分けてくれたり、趣味で作っているらしい焼き菓子を分けてくれたりする。


「いいけど、全然掃除できてないよ」

「それで良いです」


俺はエンを部屋の中に招く。

女の子を家の中に招くなんていつぶりだろうか?

……いや、初めてだな。

それにしてもあまりに不用心過ぎる。

いくら、俺が家賃滞納の件で彼女に頭が上がらないとは言え、知らない男の部屋へ1人で上がり込むのは良くない。

今までの付き合いで、彼女がこんなに軽はずみな行動を取る人ではないと知っている。

何か変だ。


「点検って何見るの?」

「こっちに来てください」


「ん?」


そちらは寝室だ。

エンは何故かそちらへ俺を誘おうとしている。

そこにはベッドがあるだけだ。

いつもの点検は水場と窓の設備を少し見るだけだ。

こんな部屋を見たって何も点検できない。

何か嫌な予感がする。


「ちょっと失礼」

「あっ」


彼女に軽く触れ、魔法を発動する。

俺の勘が正しければ発動してしまうだろう。


『改変魔法』



──────────────


個体名:エン

種族:人間

状態:魔物寄生、呪縛(会話)、発情

取得魔法:『寄生魔法』

……


──────────────



悪い予感は当たった。

エンは()()されている。



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― 新着の感想 ―
ケンシャさん、割とガード固いですね。  あと、会話魔法で1日の大半を外交や機嫌取りで費やしてそうなのに寝込まない辺り、国王様の精神力は侮れませぬ。 尊敬されるのも分かる気がします。
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