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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第四章 君の隣でどこまでも歩み続ける

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88.隣で「おはよう」と笑う君がいてくれるから

 



 そこは、綾乃が思い出の場所と語っていた海の見える丘。あの時とは違って夜だけど、海に星が映って幻想的な光景を生み出している。


 ここへ来た理由はない。何となく、ここが良いような気がしただけ。でもその直感は正しかったみたいだ。




「こんなに綺麗な海、初めて見た……」


「何かを思ってここに来た訳じゃないけど、これは見事だな…」




 言葉が出てこない。いや、出せない。この光景の前ではどんな言葉も霞んでしまう。


 しばらくこのまま過ごしていようか。そう思った瞬間、綾乃の頬を一筋の涙が伝う。




「綾乃、大丈夫か?」


「え、ええ…。思い出の場所にまたひとつ思い出が増えたのが嬉しくって、つい…」


「綾乃…………」




 一粒、また一粒と、綾乃の瞼から涙が零れ落ちる。だがそれは決して悪いことではない。なぜなら彼女が笑っているからだ。


 優心にとって、その笑顔と言葉が何よりも嬉しいことだった。この日のために準備を進め、それが報われた瞬間。最初は綾乃の涙に驚きを隠せなかったが、笑顔を浮かべる綾乃を見るとその感情も喜びへと変わっていった。


 だが優心のプランはまだ終わりではない。むしろこれから行うことこそが本命であり、先ほど購入した物もその引き立て役にすぎない。




「もう、夜も更けてきたし帰りましょうか」


「ちょっと待って、渡したい物があるんだ。ほら、今日はクリスマスだろ?」


「クリスマスプレゼント…ってこと?それなら私もあるから帰ってからでも…」




 綾乃が最後まで言い切る前に、俺は胸ポケットから一つの箱を取り出す。もちろん指輪とはいかないけど、それくらい想いの籠められる物を選んだつもりだ。


 だから、俺の嘘偽りのない想いを伝える。




「綾乃、俺は君をいつまでも愛し続ける。だけどまだプロポーズはしない。だからこれは、”婚約の約束“のようなものだと思ってほしい」




 箱を開き、中身を綾乃に見せる。


 それはなんてことない、ただのネックレス。それっぽくしようと箱の見た目だけは取り繕ったけど、中身も外箱も高いものではない。


 だけど俺がまたしても贈り物にアクセサリーを選んだのにも理由はあるんだ。




「ネックレス…箱もわざわざ婚約指輪のようにしたのは………」


「いつかのためだ。次に装飾品を贈る時―――」







 一呼吸置いて、覚悟を決める。







 綾乃と共に一生を過ごす覚悟を。







「―――その中身は指輪。君にプロポーズする時だ」




「………………意気地なしね。今すぐだって良かったのに」




 そんな泣きそうな笑顔で言い返されたって、俺はこの言葉を撤回するつもりはないからな。


 もうプロポーズのタイミングは決めている。綾乃を長く待たせてしまうことになるけど、俺なりのけじめだ。


 家族の幻想に、過去に囚われてきた俺が再び歩きだすためには、未練を断ち切って新たな家族となるための力が必要になる。


 精神論だけじゃない。綾乃を養えるだけの財力や、社会で生きていくための能力だって必要になる。綾乃に見限られるような人間にはなりたくないから。




「今の俺には何もかも足りてない。………いや違う。きっと自信がないだけなんだ。綾乃を一生幸せにするって自信が…」


「もう十分幸せなのに、私にこれ以上を望めと言うのかしら」


「綾乃………。そうだな…そうかもしれない。長くなるかもしれないけど、待っててくれるか?」


「私、そんなに気が長い女じゃないわ。なるべく早く…ね?」


「善処する。だから―――」







 この言葉を口に出してしまえば、きっと後戻りは出来なくなる。




 それでも俺は綾乃と一緒にいたい。学生恋愛なんて長続きしない、そう笑われてもいい。




 俺も綾乃も今更気にしないさ。ここまでの道のりは、辛く険しいものだったのだから。




 でも、この先に続いていく道は、陽光の差す優しく暖かい道だと信じてる。




 疑う余地なんてないさ。その道は一本道だからな。




 だって。







「―――これからも、俺の彼女でいて下さい」




「ええ…喜んで……!」







 隣で「おはよう」と笑う、君がいてくれるから。




ここまでご愛読いただき、ありがとうございました!

本来の予定より少し完結を早めてしまいましたが、エピローグで彼らのその後を描く予定なので、少しばかりお待ち頂ければと。

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