十七冊目
これにて完結となります。
お付き合いいただきありがとうございました。
次はアルヴィナ視点での話も書きたい…。
チュンチュン──…
あー…爽やかな朝だ…。
こんなことを言ってはアレなんですけど、敢えてここは言わせて欲しい。
ここに来て! こんなに穏やかな目覚めは! 初めてです!!!
皆さんどうもおはようございます。ミアです。
いやぁアリス氏が退場してから心の靄が晴れたというか何と言いますか。どうやら自分でも気付かない内に私の心は大分疲弊していたみたいですわ。……まあ苦手な相手と3年間も同室だったらそりゃ疲弊もするデショ。
そして《卒業パーティー》までは残りあと僅か!この間やっと生徒会の引き継ぎも終わったので、あとはのんびりと卒業を待つのみである。
いや本当はもっと早く生徒会の引き継ぎをやる予定だったんですけどね?でもほら、今年は色々と事件が多発していたというか、ゴタゴタしていたというか……ねえ?
まぁ何やかんやあってようやく、という感じですよ。
でも色々あったお陰とでも言うのか、前生徒会メンバーたちが結束力も高くとても仲良くなれたことは素直に喜ばしいことであると言えましょう。
そして学園最後の年の後半ともなれば、前世であれば大学受験やら何やらで非常にバタバタしていた記憶しかないのだけれど、今世は一味違う。
まず大半の生徒は卒業後は領地へ戻って家業を手伝うか、就職ないし結婚する。進学、という生徒は殆どいないというか、そもそも大学に相当するような教育機関がないと言うべきか。就職するにしても早ければ在学中に就職先から声が掛かったりもするし、結婚なら子供の頃から婚約しているパターンが殆どなので今さらバタバタすることもない。まあ就職するのに試験を受けなければならない一部の生徒は、今も必死に追い込みをしているんですけれどね。
なので一部を除いてあの受験シーズン真っ只中のピリピリとした雰囲気は微塵もなく、どこかのんびりとした空気さえ漂っている。うーん、前世とのギャップよ。
まあだからこそこうして時間ができた際には、前生徒会メンバーたちで集まってお茶会をしたりなんかもできたりする訳なんですけどね。
ちなみに皆さんの進路先はと言うと──、
ジュリアン殿下は卒業後は王太子である兄王子の補佐に入り、カトリーナ嬢は原作と同じく侯爵家を継ぐことはないので卒業後すぐにジュリアン殿下の元へ嫁ぐことが決定している。
テオドールは近衛騎士へ配属となり、そのままジュリアン殿下の専属護衛として働くんだとか。タナーくんも生徒会の侍従係としての働きを認められたので、見事殿下に引き抜かれていた。そしてアルヴィナ氏とキーランは王宮勤めとなることが決定しているんですって。しかも実質はジュリアン殿下の秘書兼補佐役に近い立ち位置なんだとか。さすヴィナ。優秀すぎる。
あ、ヴァルハルトはそのまま冒険者を続けるそうですよ。
そして私はと言うと、元々の希望通りヘリントン侯爵家へと戻り、学園で磨いた技術でもって更なるスーパーメイドを目指してお嬢様に仕える予定である。とは言ってもお嬢様は現在学園の1年生なので、あと二年間は侯爵家で追加の修行が待ち受けているとのことで今から戦々恐々としております。
という感じでティモシーはあと一年学園生活が残っているけれど、他のメンツは全員進路が決まっているので こうしてのんびりとしながら会話に花を咲かせているのである。
「そういえば、教会のシスターも無事に目を覚ましたらしいよ。」
おお、ステラが!
いやあ~良かった~!原因がアリス氏だったと聞いたときはどうなることかと思ったけれど、無事に目覚めて本当に良かった!
「あらそうなんですのね、良かったですわ。」
「そうだね。でも最初ヴァルハルトがちっとも協力してくれなかった時はどうしようかと思ったよ…」
「フン。ちゃんと精霊と契約してる奴を紹介しただろうが」
「それは本当に助かったけれどね。でも別に君が協力してくれても良かったんだよ?」
「ヴィーと離れるのは嫌だ」
「ハァ。まったく…」
どうやらヴァルハルトは精霊と契約している知り合いの冒険者を紹介したらしい。
え?でも冒険者って国とか貴族に目をつけられるのを嫌がるんじゃないの?と思ったら、どうやらそろそろ引退を考えていた冒険者だったらしく、引退後の丁度いい稼ぎになると俄然乗り気だったんだとか。なるほど、と全員が納得したよね。というかそんな少しの間でもアルヴィナ氏と離れたくなかったんだぁ…。
──ふぅん、萌えるじゃん。
でもどうやらジュリアン殿下は、アルヴィナ氏の件で解呪実績のあるヴァルハルトに協力してもらいたかったらしい。まあその方が一番確実だろうしね。どうやら呪いを返すにしても、呪った精霊よりも力の強い精霊でないと基本呪い返しは出来ない、ということも判明したらしいので尚更だったみたいです。
「あの教会のシスターからは、紹介してくれたキミにもぜひお礼をしたいと言っていたらしいよ?」
「必要ない」
「ふふ、そう言うと思ったよ」
「なら聞くな」
「ちょっとアルヴィナ、この駄犬ちゃんと調教なさいな。」
「無理」
あ~~~コレだよコレ!!
このメンツのこの絡みが見たかったんだよなあ!マっっジで眼福!!さてはここが天国か???
この空間のキラキラと萌えの大量摂取に咽び泣きそうになりながらも、ふとここには居ないある一人のキャラクターが頭を過った。
(そういえばアシェルって今どうしてるんだろう…?)
結局アリス氏が最後まで攻略できたのはアシェルだけだったし、そのアリス氏も今はもういないとなると、彼のことが只管に不憫でならない。あまりにも被害者すぎる。
もしこれでアリス氏が退場していなかったら、結局最後はどうなっていたんだろうか。
…やっぱりトゥルーエンドはなかったんじゃないかなぁ。
うーん、だったらバッドエンド?
えぇとアシェルのバッドエンドは確か……アシェルは旅に出ることもなく、ヒロインも教会に残りはするものの最終的に“教皇と聖女”としてお互いに忙しくてだんだん疎遠になっていくっていう『自然消滅END』だったはず。あれ、本当になんか消化不良というか、モヤモヤした終わりなんだよなぁ。
……まぁどっちにしろないか。
結局アリス氏が連行された後どうなったのかは知らないけれど、この先教会に戻ることは流石に無いだろうし。とはいえあれでも一応は元〈聖女〉だし、どこかに幽閉でもされたのかもなぁ。いやいくらなんでも殺すまでは……ねえ? えっないよね?大丈夫だよね?流石にそれは寝覚めが悪過ぎると言いますか…。
──うん、これ以上は怖いから考えるのは止めとこうカナ!
そうして気の置けない仲間たちとのお茶会の時間は、和やかに過ぎていくのであった。
◇◇◇◇
『栄えある王立ルミナス学園の卒業生たちよ!これからも輝き続ける君たちの未来に幸多からんことを!』
卒業を祝う祝福の言葉を皮切りに、ついに卒業パーティーが始まった。
くう~~~!待ってました!!
美しい装飾が施された会場に、見るからに美味しそうな料理の数々!そして天井にはキラキラ煌めくドでかいシャンデリア!
なんと驚くなかれ、卒業パーティーの会場は王宮のダンスホールである。
まあルミナス学園の生徒は貴族が大半だし、この学園の生徒ということはそれすなわち将来有望な若者たちの集まりということなので王宮も全面協力してくれているのだとか。まぁ数少ない平民の生徒たちはガッチガチに緊張しているみたいですけれどね。ガンバ!
あ~~でもこれでついに卒業かあ~。
うぅっ、これからは私の最推したるヴィーナタソを頻繁に見ることができなくなるだなんて…っ!
そんなまだ開始10分も経っていないというのに既に涙ぐんでいる私の元へと近付く一人の女神。
「ミア」
ヴィ、ヴィーナタソ~~~!!
あぁっ 美! もうヴィーナタソは““美””の概念そのものなんよ!!
ふえぇ、なんて麗しいの…? よし、ここに神殿を建てよう。今すぐ建てるべき。全人類ヴィーナタソを讃えよ。
「はわわわわわわ」
「え、何…?顔すごいことになってるけど…」
あまりの美しさにトリップしかけていたところに掛けられる優しい(?)言葉。そのあまりの優しさに涙がせり上がってくるが、ここであることにハッと気づく。
「え、えっ アルヴィナ氏一人!?一人なの!? ヴァルハルトは!?ダ、ダメだよ危ないよ! 一人じゃ誰かに拐われちゃうよ!」
そう、ヴァルハルトの姿がないのだ。
何をやってるんだあの狂犬は!?と慌てるも、なんてこと無さそうにアルヴィナ氏が答えてくれました。
「煩かったから飲み物取りに行かせた」
あーね。
アルヴィナ氏の神々しいまでの美しさに、心配のあまり纏わりつく姿と同時に周りを牽制しまくる姿が容易に想像できました。 うん、鬱陶しかったんだろうなぁ…
そして態々私を探して話し掛けに来てくれたのは、あの呪い事件の続報、というか【ハッピークローバー】のその後についてだった。
カーテンに防音の結界が施されているバルコニーへ出て教えて貰った話によると──、
どうやら店長を含むあの店の店員数名が、他国の諜報員だったらしい。
何でも自国で開発して作り出した呪いのアイテムを、他国の人間で試して実験を繰り返していたのだとか。そしてあわよくば…を狙っていたということも。何だそれ最悪すぎる。
私たちが住むエントミルズ王国は、身分制度はあるものの最近では能力を重視する傾向にあるため、他国の人間や他種族に関しても割と寛容である。
なので文化や経済の発展は顕著ではあるものの、こういった悪意を持った人物が入り込み易いという欠点も存在している。
今回は店を予め見張っていたということもあって捕まえることが出来たらしいのだけれど、何人かは取り逃してしまったらしい。…まあこういったことは、例え全員を捕まえたとしても結局は鼬ごっこなんだよねえ。はぁーヤダヤダ。
「大体そんな所かな」
「はえ~。わざわざ教えてくれてありがとね」
「まあ、ミアとはこれからも長い付き合いになるだろうしね。別にいいよ」
「えっ」
「……何、卒業したらもう会わないわけ?」
「え、いや………あ、会ってくれるの?」
「……………友達なんでしょ 一応」
「!!!!!!」
ヴィ、ヴィヴィヴィヴィーナタソ~~~!!!!
プイッて! ちょっとほっぺ赤くしながらプイッて!! おまっ可愛すぎんだろうがぁっっっ!!!!
あ゛~~~もうスッッッキ。マジで大好きすぐる…。早く誰かヴィーナタソを人間国宝に指定して。いや私がするわ。したわ。ありがとうありがとう。
その後ヴィーナタソにヴィーナ呼びまで許されてしまった私は、たぶん今世の運を全て使い果たしてしまったのではなかろうか…。いや構うまい、我が人生に一辺の悔いなしである!
そうして卒業パーティーは恙無く進み、推したちのダンスシーンを生で拝めるという僥倖に咽び泣いているところをタナーくんに見られてドン引きされるという事件はあったものの、それぞれの心を希望や幸福で胸を満たしながらパーティーは無事に終わりを迎えた。
◇◇◇◇
「はあ~~最後のダンスシーンはやっぱり最高だったなあ…」
卒業パーティーも無事に終わり、現在は部屋の荷造りの最終チェック中でございます。
これで退寮してしまえば完全にこの王立ルミナス学園での生活は終わり、新たな生活が幕を上げる。これからは〈キミ学〉では描かれることの無かった未来のステージである。
流石にもうここはゲームの世界だなんて思ってはいないけれど、それでも〈キミ学〉を好きだった気持ちも確かに本物なので寂しさは残る。うーん、最後にもう一回聖地巡礼しとこうかな…。
コツ… コツ…
人のいない校舎を、目蓋に焼き付けるようにゆっくりと歩く。
すると正面から誰かが歩いてくる姿があり、すぐに相手も此方の姿に気がついた。
「おや、あなたは──」
それはここ最近見かけることのなかった【アシェル・ラスレット】であった。
「確かあなたはアリスと同室だった……ミアさん、ですよね。」
ア、アシェルに認知されていた……だと!?
「は、はい。えっと、ラスレット様はどうしてこちらに?」
「ああ、最後にこの学園の聖堂を掃除していたのですよ。」
「そ、そうだったんですね…」
き、気まじぃ~~~!!
え、アシェルはあの呪い事件の犯人がアリス氏だったって知ってるんだよね!?いやアリス氏は聖女だったんだし、教会関係者であるアシェルなら流石に知ってる筈だよね!?
一人ワタワタしていると、何故かいきなりアシェルが頭を下げてきた。は?
「申し訳ありませんでした。」
「え?え???」
「……アリスはあなたにも呪いの片棒を担がせようとしていたと聞きました。」
あ、あぁ~~それね!?
いやびっくりした…一体何事かと。
「い、いえ。幸い何とか手伝わずに済みましたし…」
「ですが誰かを呪うなど教会に所属する者として、いえ…人として恥ずべき行いです。…そして彼女の側にいながら彼女を止めることができなかった私にも、責任があります。」
「い、いえっそんな!ラスレット様に責任など…っ」
ねぇよっ!別に付き合ってたわけでもないし、アシェルに悪い所なんて無かったよ!そ、そりゃあ確かにちょっと盲目だったかもしれないけどさぁ…!でも悪いのはアリス氏であってアシェルじゃないじゃん!?
「…ありがとうございます。ですが彼女も贖罪することさえできれば、その罪をあがなうことができると、私はそう思うのです。私は彼女の贖罪を見届けたい。それこそが私の取るべき責任だと思うのです。」
「ラスレット様…」
アシェルお前ぇ…っ!
お前はいい男だよ!アリス氏を責めることもなく、その傷付いた心さえも呑み込んでこれからも彼女を見守っていきたいだなんてさぁ…っ! うぅっ誰かアシェルを幸せにしてやってくれよォ!
それでは。と言ってアシェルは静かに去って行った。
…こんなのって無いよ。
アリス氏に狙われたばっかりに…って、あぁ、軽率にアドバイスなんてするんじゃなかったぁ。
そんなやるせない気持ちで去っていくアシェルの背中を見ていると、ひょいっと廊下の先からヴィーナタソが顔を出した。えっ何それカワイイ(思考停止)
「何アレこわ。全然許してないじゃん」
「え?何が?」
「……何でもない」
「?そう?ていうかこんな所でどうしたの?」
「忘れもの取りに来ただけ」
「そっかぁ。あっそうだ!ねえ今度さ、二人で旅行行かない?」
「は?この世界の情勢と宿事情知っててそれ言ってるの?絶対嫌だけど」
「何で!?ねえ~行こうよお~~!ヴィーナと一緒に旅行行きたい~~!!」
「無理」
「え~~!?!?」
そんな風にじゃれあいながら廊下を進む。
〈キミ学〉は終わってしまったけれど、私たちの未来はこれからも続いてゆく。
折角仲良くなれた彼らと会えなくなってしまうのは少し寂しいけれど、まあ残りの長い人生 機会があればまた出会うこともあるだろう。
あ、ヴィーナタソとの仲は何が何でも死守するつもりなのでそこのとこはヨロシク!
それにしても、振り返ってみればあっという間に過ぎてしまった3年間だったけれど、何だかんだ言って割と…いや、大分面白かったかな。ま、終わり良ければすべて良しってネ!
うん、それに生スチルはやっぱり最高でしたわ!ムフフ。
何はともあれ、これにてお嬢様からの無茶振りは無事完了ということでいいでしょう!
さ~~て、侯爵家に戻ったらまたメイド業に戻りますかぁ。まったく労働階級はツラいぜチクショウ。
まあ好きな仕事だからいいんですけどね。
さて名残惜しい気持ちはあるけれど、やっぱり最後くらいはしっかり締めておかないとですよね。
よし、それでは皆さんも準備はいいですか?
いきますよ? いいですね?
…はいっ せーーのっ!
お疲れ様でしたあ~~~!!!!
〈転生ヒロイン観察日記・ 完 〉
──ギィ…
「さあアリス、そろそろ御勤めの時間ですよ。信者の方々も皆さん首を長くしてお待ちです。」
「ふざけんなっ離せよ!!なんであたしがこんなことっっ!嫌っ、嫌ぁ!離せ!離せよっっ!いやだっ!やだぁやだやだやだやだやだやだやだやだ誰かっ………
たすk」──ガチャン。
■ミア'Sメモ
▪【贖う(あがな-う)】
金品や代償(犠牲)を払って損害や過去の過ちを償うこと。重い責任や過ちの埋め合わせを指す言葉。
「大丈夫ですよアリス。あなたが罪を贖うまで私がちゃんと見ていますからね。」




