第一三〇二話、都市戦艦攻防戦
海軍が独自に都市戦艦『ウルブス・ムンドゥス』の阻止策を講じている頃、上陸していた地球軍陸上部隊は、敵守備隊と交戦していた。
それまで静かだったのが嘘のように、多数のゴーレム兵器が出現し、歩兵に牙を剥いた。
「バズーカを!」
銃弾が飛び交う中、M1ガーランドで応戦するアメリカ空挺兵。その後ろをM1ロケットランチャーを担いだ兵と、予備弾の装填を行う兵が走る。
タタタ、と小刻みに対人機関銃を撃ちながら、蜘蛛にも似た多脚兵器が向かってくる。
「遮蔽に!」
風を切る銃弾が耳元をブンブンと掠め、ロケットランチャー兵はビルだった残骸の裏に飛び込んだ。
「急げ! ゴーレムが近づいている!」
銃弾を物ともせず、のしのしと距離を詰めてくる岩のゴーレム。小銃兵のM1ガーランドからグリップが飛んだ。弾切れ。すぐに新しい弾倉グリップをライフルに差し込む。
「後ろよし!」
装填手が、ロケットランチャーを構えている射手のヘルメットを叩いた。砲口からロケットが飛び出し、近づいてきているゴーレムの胸へ直撃する。頭、そして肩まで吹き飛び、下半身だけとなったゴーレムは、一、二歩進んだところで転倒した。
「装填!」
予備のロケットを装填手が後ろから筒状のランチャーに押し込み、ついでロケット弾とランチャーを接続、発射準備を進める。この間、射手は緊張の面持ちで待つ。敵はなおも前進していて、仲間が敵弾に倒れる。
唐突にヘルメットを叩かれた。装填手の準備完了の合図。たぶん叫んだのだろうが、緊張のせいか耳がいかれたのか、声は聞こえなかった。こういう時、合図があるのは助かる。
射手は多脚兵器に狙いを定め、60ミリロケット弾を発射した。胴体中央に命中、火だるまになった鋼鉄の蜘蛛は次の瞬間、爆発した。
「よし!」
射手が、ロケット煙の残り香にむせそうになりながら声を上げた時、西瓜を砕くような音がした気がした。後ろから何かに押され、踏ん張ると相棒である装填手がズルリと倒れ、地面にぶつかった。
「ジミー!」
射手が声を上げた時、ヘルメットごしに殴られるような強打を頭に食らい、そして後ろへ倒れた。
即死であった。ライフルを持った軽装ゴーレム兵の小隊が側面から、空挺部隊を襲ったのだ。
即席陣地へ雪崩れ込み、空挺兵と近距離で撃ち合う。双方がバタバタと倒れていき、無慈悲な軽装ゴーレムが、アメリカ兵を制圧した。
さらに隣の米兵の防御網へ回り込もうとする軽装ゴーレム兵だが、その聴覚器にキュラキュラと履帯と、エンジンの音が聞こえてきた。
アメリカ陸軍の重戦車M26パーシングだ。
逆襲してきたムンドゥス帝国守備隊の動きに対応して、ポータル経由で到着した戦車部隊が前線に姿を現したのだ。
ムンドゥス帝国陸軍の多脚戦車を相手に、本土決戦を経験しているアメリカ陸軍は、歩兵を支援し陣地突破を基本とするM4中戦車に見きりをつけて、対戦車用の重戦車に早くも主力をシフトさせていた。
パーシングは50口径90ミリ砲を振り向け、ムンドゥス帝国の機械兵器群を痛打する。時間を稼いでいた空挺兵の救援に現れた騎兵隊は、戦線崩壊の危機を何とか阻止した。
・ ・ ・
日本陸軍は電撃師団と第109師団を、ウルブス・ムンドゥス上陸に投入した。
表の確保もそこそこに侵入口を発見し、内部へと突入を開始した日本軍であったが、艦内通路での激しい銃撃戦の応酬となった。
「防御陣地の取り合いとはな」
遮蔽に隠れて、守備隊の機関銃が侵入者を阻む。日本歩兵得意の迂回側面攻撃ができず、正面からのぶつかり合いである。
「擲弾筒を撃ち込め!」
八九式重擲弾筒。小隊用擲弾発射器、または迫撃砲である。手榴弾ではやや遠く、壁に作られた銃座めがけて800グラムの榴弾を撃ち込む。
信管が打撃瞬発式なので、手榴弾を投げ入れるに不向きな壁銃座に命中するとそのまま爆発、機関銃もととも敵兵を吹き飛ばした。
「敵、沈黙!」
「敵防除陣地まで前進! 突撃!」
小隊長の声に押されるように兵は小銃を手に走る。と――
「手榴弾――!」
「うわっ」
転がってきた敵弾が炸裂し、前を走っていた兵がまとめて倒された。
「くそっ! まだ敵が残っているぞ!」
「手榴弾を投げろ!」
敵が潜んでいると思われる場所に、手榴弾を放り込む。爆発が連続し、そして静かになる。
小隊長はゴクリと唾を飲み込んだ後、声を張り上げた。
「突撃っー!」
日本兵は駆ける。仲間の死体を踏み越えて……は憚られて、それを飛び越えて敵の防御陣地――収納式の金属板を立てた簡易な代物にとりつくと、その裏に敵兵がいないか確かめる。
機関銃に固定された自動ゴーレムがあって、壊れているがまだ目とおぼしき部分が光っていたので米軍供給のM1ガーランド小銃を撃ち込んで、完全に破壊した。
「小隊長殿! 制圧しました!」
うん、と少尉は頷くと自身も、敵のいた簡素な遮蔽陣地を見回す。艦内へ侵入しようとする勢力と戦えるように、通路にも引き出し式の防弾板が至るところに仕込まれていた。しかもご丁寧に、艦内防御側が有利なように作ってある。
この都市戦艦内での白兵戦も考慮されて作られているのだ。
あとどれくらいこのような防御陣地があるのだろうか。すでに小隊の人員はおよそ半分に減っている。手榴弾の数も切らし、突破力を大幅に失っている。これ以上の前進は、小隊の全滅を予想させる。
ここは動く帝都、異世界帝国の総本山。まだ先は見えない。




