第一一二六話、終局までの時間制限
異世界帝国軍は、北米から撤退した。
この知らせはアメリカのみならず、日本、カナダと英国、ほか異世界帰還者たちに知れ渡った。
合衆国大統領、ハリー・S・トルーマンはアメリカ国民に向け、敵円盤が本土を空爆することはもはやないとスピーチした。
『同盟国の協力のもと、アメリカの都市を焼き払った異世界人の円盤は撃退されました。我々は多くのものを失いました。ニューヨーク、フィラデルフィア、サンフランシスコ、ロサンゼルス……幾多の都市が失われましたが、我々アメリカは不屈の闘志を持ち、粘り強く戦ったことで、ついに脅威を打ち払ったのです――』
トルーマンのスピーチは続く。
『異世界人は、我々を絶滅させようとしている邪悪な種族であり、どれほど苦しくても、勝つまでこの戦争は終わりません。滅びるのは我々か、それとも異世界人か。……答えは決まっています。我々は勝つ!』
戦争は相手を負かす以外に終わらない。それは多くを失い、しかし立ち止まっている暇はないとアメリカ国民に強調された。
円盤兵器の襲来とアメリカ本土の蹂躙は、厭戦気分が広がっていたアメリカ国民たちをもってしても、突き進むしかないと覚悟させるに充分だった。
異世界人と交渉を、などという者は、アメリカ人にはいない。すでにそれが無駄だと思い知らされているからだ。
そしてそれは、日本や英連邦の国民もまた同じだった。
だが、すでに各国とも疲弊の色が濃く、もう数年と戦い続ける前に国が崩壊するところまで追い詰められつつあった。
・ ・ ・
「――と、言うわけでありまして、小官は地球世界にいる異世界帝国軍に対して攻勢に出るべきだと強く進言致します」
日本、海軍軍令部の会議室にて、佐々山 久雄中将は断言するように言った。
場には嶋田繁太郎軍令部総長、宇垣 纏軍令部次長、連合艦隊司令長官、小沢 治三郎中将、同参謀長、草鹿 龍之介中将がいる。
嶋田軍令部総長が、小沢へと視線を向けた。
「今の意見に対して、連合艦隊司令部はどう考えるか?」
「戦争ができる限界があるというのもわからない話ではありませんが……」
小沢は渋い顔で告げた。
「私としても攻勢に賛成はしたいですが、連合艦隊の戦力が整っておりません。先のフィリピン、ウルシーを巡る戦いで、再建途上の戦力に被害が出た。もちろん、今後再生、復帰する艦艇が増えるでしょうが、それは今ではない」
「連合艦隊には時間が必要ということか」
「そうなります」
小沢は首肯した。
「敵があることですから、万全の状態で戦いを挑めるとは限らないのは重々承知はしています。ですが、復帰しては失うを繰り返しては、中部太平洋決戦の規模の戦力に回復するのはいつになるのか見当がつきません」
「であればこそ、我々をお使いください」
佐々山は口を挟んだ。
「政府や軍の中には我々を信用できないという方がいらっしゃるのも理解しています」
異世界帰還者――だからではない。敵軍が初めて寄越した通信の差出人が、何故かはわからないが佐々山の名前を使ったからだ。
意味がわからないが、まったく意味もなく敵がその名を使ったとも思えない。始末が悪いのは、佐々山本人にも何故敵がその名をあのタイミングで使ったのかわからないということもあった。捕虜になっていた際に氏名は知られたのはともかく、通信文に用いた理由が不明。そうなると、何やら怪しい……となるのである。
「連合艦隊が戦力を回復させるまで、我が艦隊が敵へのヒットエンドラン、一撃離脱をかけて、異世界人に戦力回復の暇を与えさせません。戦って皆様の信用を勝ち取ります」
佐々山はそこで皮肉げに口元を歪めた。
「何なら、我々を使い潰せばよいのです。少なくも連合艦隊は回復に集中できる上に、本土からの補給を得られない異世界人を弱らせるのですから、連合艦隊が動けるようになった時、敵に決定的な勝利を得やすくなります」
「やらせてみてもよいのではないでしょうか」
宇垣軍令部次長が発言した。
「現状、佐々山中将の言うように、我が海軍にとって不利な要素は何一つありません。こちらが戦力回復をしている間に、敵もまた力を蓄えているというのが懸案事項であるわけですが、それを妨害できるのですから、やらない手はない」
そしてその戦力は、佐々山が連れてきた戦艦空母各50隻近い大艦隊。
連合艦隊側としては、その戦力を取り込めば、こんなところで佐々山を呼び出しての会議などする必要などなかったのだが、例によって陸軍が佐々山スパイ説をあげて難色を示している。
艦隊を編入し、佐々山を逮捕――などと言い出したら、彼と共に戻ってきた帰還者たちの中も追及される人員が出てきて、戦力化の妨げになる。……海軍としてはそれを恐れていた。
その陸軍との折衝役、海軍と陸軍の軋轢を抑える役回りである嶋田としても、頭の痛い問題である。
「まあ、そうなるのかな」
嶋田は難しい表情を浮かべて言った。彼の頭の中には、その頭の硬い陸軍とどう折り合いをつけるかの方に関心が移っていた。
「小沢長官、君はどう思うね?」
「こちらが戦力回復の時間を頂けるのであれば、願ったり叶ったりです」
小沢は皮肉っぽく笑みを浮かべた。内心、佐々山でなくても、このタイミングで攻勢をかけるべきと進言してきそうな指揮官の顔が思い浮かぶのである。
――そういえば、彼も魔技研出の将校か。
神明 龍造少将もまた、時間を無駄にするなとばかりに攻撃案をぶちあげてくる猛将である。魔技研出身者は、どいつもこいつも積極攻撃信者なのか。
「では、海軍としては、佐々山君の案を採用する方向で行くこととする。……それでよろしいかな?」
嶋田が確認すれば、出席者一同、頷きをもって答えた。反対意見はなかった。
・ ・ ・
「軍令部総長、連合艦隊司令長官の許可が出て、佐々山中将の艦隊を以て、異世界帝国軍への積極攻撃が進められることになった」
軍令部第一部長、富岡 定俊少将は、同期である神明 龍造少将にそう告げた。
「で、陸軍の目もある。完全に彼をフリーにしておくのも危ないので、君にお目付役というか、そういう役回りを期待したい」
「私があの人の後輩だとわかって言っているのか?」
神明が返せば、富岡は笑った。
「他に適任がいなくてね。こちらとしては、佐々山艦隊に乗っかる形で、君の第一遊撃部隊にも攻勢作戦に参加してほしいということだ」
得意だろう? こういうのは――と、富岡は満面の笑みを浮かべて言うのであった。




