間劇 「第二怪人の中身」
最悪の気分だった。
俺が殺したも同然、初めての車の運転で家族旅行。
その帰り道で暴走した自動運転トラックが突っ込んできて俺の運転技術では逃げられなかった。
本来なら運転席と助手席にいた父親が死ぬ様な事故だった。
だが何故か後部座席にいた妹や母親が圧殺されて父親も跡を追う様に事故後飛び降り自殺。
俺は保険金とトラックに運送業者から賠償金と示談金をもらったが、孤独となった。
咄嗟に右に避ければ助けられたかもしれない。ずっとそんな未来が映像として再生される。
そんなありえない未来を想像しながら妹のしていたゲームのアカウントを俺は変な女から受け取った。
魔剣聖誕というらしいがゲームのことはちんぷんかんぷんだ、とりあえず妹の見ていた世界を見て俺もオヤジの様に後を追おうと思っていた。
そしたら俺はあの世界で妹に出会ったんだ。
素敵な出来事だった、誰も俺を信じないだろう。おかしくなったと思うだろう。
だからおかしくなろうと思った。
この妹が偽りでもいい、例えAIだったとしてもいい。
それでなんとか自分を保てるのなら、嘘でも夢でもそれにしがみつきたかった。
武器となった俺を操る妹と異世界を散策、その日々を俺は楽しんだ。
課金だってした。元々は家族の金みたいなもんだから全然虚しくなんかない。
仕事も行かなくて自動的にクビになった。どうでもいい。
どうせ俺はそんなに生きれない。
医者が言うには悪性の腫瘍が見つかったらしい、治療すれば5年くらいは生きられるとか言っていた
だから俺は薬物治療をして白い病棟の中、ずっとフルダイブゲームをしている。
たまに筋肉の衰えなどがない様に適度に運動して日の殆どを寝たきり専用のベッドで過ごしてずっとフルダイブ。
もう俺にとってはあの異世界が本当の世界だ。
もうなんでもいい、どうでもいい。
妹が楽しく過ごしているのを見れるのが幸せだった。
だが神様というやつはそんな俺のささやかな願いすら許さない。
向こう側で変な化け物に目をつけられて妹は負けた。
正確に言うと俺の媒体である魔具と呼ばれる武器、俺の場合鞭だったんだがそれを破壊されたら何故か妹が鞭に封印された。
それから俺は数ヶ月、何故か妹の事を忘れていた。
何故かわからない。ゲームのことも妹という存在ごとこの世から抜け落ちた様な気さえした。
だがある日、あの化け物が俺の前に現れて俺の記憶が元に戻った。
化け物は髪の毛がなく、目が異常に多い中途半端に人間に近い人外の姿をしていた。
化け物が言う。
「この鞭にお前の妹が封印されている。この鞭に触れている限りお前は妹を忘れない、だからお前の体内に入れておく」
さらに言う。
「妹を返して欲しくばお前はこの世界をなるべく壊せ、お前の病の事は知っている。この世界を壊してる間は病の進行を止めよう。まぁやり方はそのうちわかる」
つまり化け物は異世界の存在で、俺がみたのは科学とは別の魔法による通信映像体というらしい。だから履歴に残らない。
そして異世界の人間や化け物はこっちの世界に侵攻しようとしている、こっちの情報をなるべく知りたい。
つまりやってる事はテロ活動だ。
だが俺はその脅されていたはずの全てを楽しんだ。
魔術を使えるようになり、その特質を理解して来た。
この力は体内に封印された妹の魂と異世界の化物の魔力が成している。
その力で俺は世界中のムカつくクズを闇討ちして個人的な復讐を遂げて、そして無関係な人間を傷つけて快感を得るのにそれほど時間が掛からなかった。
嗚呼、俺はクズだったんだなぁ、だったらこのまま落ちようじゃないか?
どんな正義面した奴が俺を見下して正論を振りかざそうとその全てを論破して殺してやる!!
そしてある日、俺の目の前に正義面した女が現れた。
そいつはなにかと理由をつけて脱ごうとする変態だったが目を見ればわかる、俺のような汚れのない綺麗な眼だ。
その目をほじくろうと思った。
だがそいつは、俺の想像以上に正義だった。
理解不能だ、もっとやれとか。
やり残しのないように暴れろとかふざけてるのに正論より個人の正義で、言い返すこともできないくらい清々しい暴論的正義だった。
もう俺みたいな奴を何百も何千も見てきたような……遥かなる高みからの経験の差を感じた。
ああ、多分ああいうのを“聖女”って言うんじゃないかな?そう言う宗教くさい事信じてないけど。
本物を目にしてしまったら信じるも信じないもない、カラスの羽根の色が黒いとかそう言うレベルだ。事実の前に白いと言ってもカラスは黒い。
そして俺はその日、アバター体で知らない何か黒猫の様な、妙な魔法少女に雷撃を受けて負けた。そして力を失った。
俺はまだ死んではない。
フルダイブしてももうあの力は手に入らない、妹も俺の体から居なくなった。
まぁ、もうどうでもいいや。
「多分、俺は何をしてもしなくてもこの最期にたどり着いたんだろうな」
俺は病院の屋上で一人で身体を引きずりながら独り言を言った。
屋上の鍵は何故か開いていた、そんなわけ無いはずなのに。
ああ、でも俺は結局誰も殺さずにこんな清々しい気持ちでいれたんだな。
だったらもっと早くあの女に、聖女に出会いたかった。
そうしてくれなかった世界が悪い。
そう正論を言って俺は、きっと異世界にーーーーー
ごぐちゃ、
少年は果たして転生できたのか?それを観測できることは……。




