第1話 ⑧[夢の中☆]
「土属性魔法で体高18Mのゴーレムを作り、錬金で鉄鋼化、超巨大ロボットを精製! そしてこのスマートフォンでゴーレム操作!! ふははは見よコレがスマホの力! 全属性の魔法を使える大賢者のジョブの力よ!!」
『説明臭っ』
見る見るうちに平原の土が魔法で寄せ集められ人形を成し、色がつけられ青と白と黄色の目とツノをしたなんだかどこかで見たことのある巨大ロボットが目の前に現れた。
「うおおっ! なんだコレ! …………著作権的にどうなの?」
「完全オリジナルの私のデザインだ!」
『嘘つけ、魔剣の俺の声は聞こえないだろうけど』
多分見た目だけ若いこの爺さんには俺の声が聞こえていない、そしてマグとは魔法の武具で魔具であろう。
その方がゲームっぽいしな。
多分あのスマホと俺のアバターの魔剣が同等の存在。つまり俺ら親子にもあの爺さんと同じ事が出来るはずなのだ。
『オヤジ! 何かこうすっごいスキルに目覚めたりしないか?』
チュートリアルだしあるだろ、そういうの。
「んー、無いなぁなれる気がしない、この爺さんみたいになれる気がしない!」
『なにかっこいい感じで敗北宣言してんだ馬鹿ぁ!!』
「実際ダメよ賢治ちゃん! あのスキルは一朝一夕で出来る物じゃ無いの! 魔具に宿る意思との同調が必要だしゲームのステータスが必要よ!」
今更そんな事言ってなんの意味があるんだこの無駄妖精()!! 役立たず!!
スマートふぉん太郎はロボットに乗り込まずスマートフォンでゴーレム操作している、あの状態ならひょっとしたら……。
『オヤジ!! ロボットは無視して本体のあの爺さんを攻撃するんだ! 弱そうだし』
「さぁ! 私は今無防備を晒していますよ? 攻撃してきたらどうです!?」
なんだかムカつくドヤ顔で攻撃を誘う。
え? なんで爺さんがそんな事を言うんだ?
罠か??!
「ケンちゃん、こう言う時のお約束で一見無防備に見える本体は実は対策済みだったりするのさ! 多分超絶バリア的なものがあるんだよ! チュートリアルだしね!」
「その通り! いやぁガチャで手に入れた持ってる属性魔法を完全防御するこのクソダサコートを試してみたかったのだがな? まぁ持ってない属性は弱点になるんだが大賢者の私には弱点なぞない!!」
えええぇなにソレ? てか何で敵対してるんだろう? 属性魔法持ってない人には無意味じゃん、むしろ害じゃん! どうしてそう言う装備作るんだ? 設定練り直して作り直せ!! やはりガチャゲームは悪い文明だ!!
ドスンドスン!
その巨体に合わない素早い動きで襲いかかる、距離も一気に縮まり鉄の拳が隕石の様に降り注ぐ。
「死ね死ね死ね死ね死ね!!」
大振りの連撃、だったのだろう。拳が何度も地面に当たり局所的に大地震を引き起こす。
その光景を俺は上空から見ていた。
「デカイって事は当たり判定もでかいって事なんだぜ?」
オヤジが何やら決め台詞を言うとけたたましい金属音と共に魔剣である俺の刀身から青色のオーラが迸り、その結果が現れる。
オーラが親父の着地地点から巨大ロボットの肩関節部から頭身にかけて流れ、斬ったというか事実がロボットの腕を斬り落としていた。
み、見えなかった?!
「お前の言うチートスキルがなんなのかは分からないが俺はこのゲーム『魔剣聖誕』の去年世界大会優勝チームのひとりだぞ? ジョブは“勇者”そう、美課金勇者とは俺の事だ。」
世界大会? 優勝? ・・・・勇者?
「勇者? 馬鹿な! まさか! あの自称微課金勇者か!!!」
爺さんは腕を失ったロボットを操りながらノリ良く叫んでくれた、あ、コレゲームのチュートリアルなのかな? もしかして。
ゲームプレイヤー No.1
固有名詞[米田正志]
ステータス LV99(階位6・勇者)
固有魔具『太陽の剣』
・抜身鞘がない。
固有スキル『絶対斬撃』
・上限なしにステータス無視して斬撃効果を与える。
『何だかよくわからないステータスだ、階位ってなんだ?』
「階位ってのはゲームの転職回数よ、つまりどれだけ上位職かってこと、このゲームだと五回が上限なんだけど、世界大会ってのがあってそれに優勝すると『魔王』と『勇者』選べて六回目の転職が可能になるの! つまり」
『は、廃人プレイヤーって事?』
俺の問いに妖精()は答えない。
「課金はしてないと言いながらピックアップガチャを毎回鬼の様に引いて有力チームにその廃課金で擦り寄り! 地点殲滅型の魔王をチームの中で一人だけ選ばず勝手に勇者を選んだ別名サイコパス勇者! KY勇者! くっ! 勇者の絶対斬撃が相手では勝ち目がない! この呪いのゲームの初心者狩りのつもりで来たのになんてことだ!!」
おお、スッゲェ全部説明してくれたぞこの爺さん、親切。
もしかして俺に説明してる?って事は中の人はゲームのスタッフなのかな?
「まるで将棋の様に撤退じゃな」
「は?」『は?』「は?」
光の粒子が自称スマートふぉん太郎 (爺さん)を包みその場から消える、まるでゲームのエフェクトみたいだ。
[敵対者が戦線離脱しました。]
おおお、なんか綺麗な女性の声でアナウンスが聞こえる、コレ機械音声じゃない、ん? 俺の声じゃないか? やっぱ野太いイケボだったわ。うん。
[スマートふぉん太郎を撤退させた! ]
[正志は経験値を会得した! レベルMAXの為魔剣に流れます、魔剣レベルが24アップした。]
破壊不能オブジェクトNo.1
固有名詞[谷戸賢治]
ステータス LV25(階位なし・魔剣)
[固有異世界の一部である[拠点制圧][強化画面建設][拠点構築][生命具現化]を発動します。]
俺自身のステータスが上がったのを確認したあと俺と親父の声で謎のスキルが発動した事を教えてくれる。
平原が白い光の粒子に包まれる。
パァアアアアア、
『こ、コレは!』
◇
現実世界。
アパート1023号室
同日11:30
「はれ?」
爽やかな風が足から頭に抜けていき、起きた。
起きた。
変なノリのあのチュートリアルは、夢だった?
いつもの部屋、いつもの居間。
だいぶ寝てしまった様だ………………だった様だ。
異様にバカみたいな、夢だけど。
オヤジと再会して、チートで無双して喜んだり驚いたり、成る程夢ならあんなゲームがあっても不思議じゃない、夢ならば。
泣けてきた。
「くそ、なんで泣いてるんだよ俺は」
また俺は頬を濡らした、どうやら本当にファザコンだった様だな、俺。
「でも、いい夢だった」
少し笑いそのほのかな懐かしさを噛み締める、死んだ人間は生き返らない。
そうだ、真っ直ぐ生きよう。
明日から仕事に復帰して社会人として生き抜く力を育てようじゃないか!こうしてる間にも刻一刻と会社の評価が下がっていく、そうさ俺は………。
[アッパーモード強制起動、異世界からのチャット申請が一件あります許可しますか?Y/N]
「え?」
風で揺れるベランダのカーテンを見て黄昏ていたら夢の続きと言わんばかりに妙なウィンドウと共に俺の声のアナウンスが脳に響いた。
異世界???
「夢じゃ、なかった? いやいやでも!」
俺は恐る恐るその選択肢の…………『yes』を指差しで選択する。
っていうか今時モーションキャプチャで選ぶ仕様かよ。
[LVアップ報酬妖精アンネが転送されます。私を面倒見てね♡]
「え?」
キン!! ぱぁああ、
悪質な罠かと思うそのウィンドウが光り、弾けて収束する。
にょきにょき、
そしてまたトンボの様な羽根が生えて、グロい。
俺の前にその姿を現した。
「えええ?! ええええええ?!! 夢じゃなかったの?!」
「呼ばれてとびててジャジャジャジャーン☆ 謎妖精アンだよー! こっちの世界にやってきました!!」
「………………………んー」
夢だろうきっとそうだ、俺はまだ夢を見ているんだ。
「寝よう」
「おおおっとぅお!! 現実逃避しようとしても私はここにいますし、私の声も姿もあなたに絶対見えまーす!! さぁ! 私がコレからあなたの好きでもない演歌を24時間ずっと歌う事も出来ます! わかったらサッサと私を無視しないでくだサーイ!!」
聞こえない! 何も聞こえないぞ!! このまま耳を塞いで眠りこけてやる!
こんなの夢だ! 俺は真面目に生きるんだ!!
こんなラノベみたいな事起きるわけねぇ!!
「あーそーじゃあこっちも強行手段で行きますよ〜?」
ブゥン、
浮遊感。
フルダイブゲームで空を飛ぶ様な感覚が全身を包む。
肉体が重さを無くしていく。
ふわ、
「ん?なんだ? 体が軽く? え? 俺浮いてる?」
ちょっと目を離した隙に夢の中で見た光の粒子が俺の体に纏わりついて俺を、成人男性である俺を魔法で浮かしていた!!
「うっわ軽! 賢治さんあなた本当に男の子ですか? ちょっと声も高いし柔らかい肉体してますね? ちょっとご尊顔を……ハッ!! めちゃんこ可愛い?!! 知ってたけどね!!! でも実際見るとヤベェくらい可愛い!!」
何だこいつさっきから情緒不安定すぎる! 成人男性でオッサンの俺が可愛いわけないだろいい加減にしろ!!
「止めろ! お前もクラスの女子どもみたいにからかうのか!! そういうのはもう卒業したんだよ!!! 俺は成人男性おっさん! ガキの遊びはもうしない!!!」
「え? イヤだって、その唇ぷりぷりだしぱちくりとした大きな目に長いまつ毛柔らかそうなプニプニほっぺ、鎖骨だって男に寄せた頼りない感じだしぶっちゃけ華奢!! くううううぅ!! 私に肉体があればこんな女の子ほっとかないのにぃいいいっ!!」
女の子扱いされた怒りの前にその凶悪な表情に俺は恐怖する。
「ヒェ!!」
自称妖精のアンさんはまた蚊トンボの様に浮かぶ俺の周囲をグルングルン回る。
「戯言言ってないでこの状況なんとかしろ!! こ、ここはゲームに世界なのか?」
「うひゃへへへ♡ すみません、もっと視 ❤︎して、じゃなかった肉体のデータをスキャニングしてこのゲームマスターに送るのですよ!」
「!? 今ゲームマスターって言ったかお前!」
「しまった! うっかり秘密を漏らしてしまった!!」
なんか全部わざとクセェ!!
「この裏切り妖精!! 蚊トンボ!」
いろいろ聞きたいことがあったのだがとりあえずこの蚊トンボの事は信用してはいけないと学んだ。




