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札幌小雪のファッション事情~魅力をひきだす専務の魔法~(改題前:ラブリー・ボス)  作者: 市來茉莉(茉莉恵)
【4】 ワンちゃんになってますよ?
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・専務が大事にしてくれる


 それからしばらく。北国の山に初雪がやってきても、眞子と専務は応接室での在庫分類をやっていた。


 分類わけが終わり、さらに眞子は『商品画像』がない品番に、画像を添える作業を提案した。すべての品番に画像を付け、どのような商品か一目でわかるような一覧を作りはじめていた。

 これがまた、商品の画像を一枚一枚デジカメで撮らねばならず、会社が借りている倉庫へと出向いて、一人で商品を探し、品番を合わせ、カメラに収める――という地道な作業を繰り返していた。

 北国はもう気温が低く、暖房のない倉庫は非常に冷え込んでいて、その作業は事務所でぬくぬくと華やかなお洋服ばかりを眺めていた時に比べると過酷だった。

 時々。『どうしてこんな地味で先の見えない作業をしているんだろう』と泣きたくなることがある。でも、会社事務所に戻り、いま専務と二人で専用室にしてしまった応接室に戻ると、専務がにこやかに迎えてくれる。

「おかえり、本田さん。寒かっただろう。ちょっと待っていて」

 着古したニットのベストに白いシャツ、そしてスラックスという今日も楽そうだけれど地味なスタイルの専務が待っていてくれた。

「これこれ。そこで新しいスープスタンドが出来ていたんだ。ランチの帰りに、本田さんにと思って買っておいたんだよ」

 奥の古い給湯室にある電子レンジで温めた大きめのプラスチックカップを持ってきてくれる。

「うわあ。おいしそうですね。いいのですか……」

 手袋を外してそのカップを手に取る。冷たい手の上に、ほんわりとした暖かさが重なる。

 それが専務の大きな手だとわかって、眞子はびっくりして離しそうになってしまったがスープが落ちるので堪えた。

 でも専務は眞子の手をいやらしくさするわけでもなく、ただただ温めようとして重ねてくれているだけ。しかも眼鏡の顔で、にっこりと微笑んでくれている。

 ず、するいな。そういうお坊ちゃんスマイルに何度騙されて、専務の無理難題を聞いてしまったことか……。そう思う。

「冷えてるね。すぐに食べて」

「は、はい……。有り難うございます……」

 前なら、その笑顔は眞子を動かす為だけのお仕事スマイルだっただろうに。いまは本当に有り難うとばかりに、屈託ない笑みをきらきら見せてくれるので困っちゃう。

 スープで温まってなんて気遣い嬉しいけれど。もう、そんな専務をみているだけで、カラダがぽかぽかしてきてしまう。

「寒い中、あの倉庫まで在庫管理のために出掛けてくれて有り難う」

 専務がこうして毎日、労ってくれる。帰ってくると、なにか温かいものを準備してくれている。

「本来なら俺がやらねばならなかったんだけれど。時間もなくて、そして……時間だけが過ぎていくばかりで、本当に焦っていたんだ。そこへ本田さんのようなうちの会社のことはもうよくわかってくれている手際のいい社員さんがアシスタントになってくれて……」

 感謝している――と、分厚いレンズのおじさん眼鏡の専務が、今日ももさっとした髭顔で頭を下げてくれる。

「もう、専務。やめてくださいってば……」

「俺も、この品番がどんな商品かを照合したいとは常々思っていたんだ。でも、それをするのは……」

「無理ですよ。専務のように、この会社を維持するために重要なポジションにいる方がこんな雑務に時間をとるだなんて」

 専務もこうやりたいと思っていたようだったが、それをするには時間がないのが悩みの種だったよう……。

 そう思うと、眞子もなんとなく、副社長になにか考えがあったのではとかんじるようになってきた。

 ワザと眞子をアシスタントにするように仕向けていた? 専務の手に余っているから。でも誰にでも手伝わせたいわけではない。それならば? 自分が側においてきたアシスタントを甥っ子の専務につけてやりたいと思ったのだろうか?

 だとしたら――。光栄なのだけれど……。でもあんな怒られ方をして突き放されたから、安心は出来ない。本当に、眞子がしているなにかが気に入らなくて切り捨てたのかもしれない。

 どれが副社長の本心か気持ちかわからないから。いまは目の前に与えられた仕事をやりこなすだけ。地味でもなんでも。裏方で惨めとも思えるような仕事も。

 でも。どうしてかこの地味で手間のかかる仕事が眞子は嫌ではなかった。

「ほら。はやく食べて温まって」

 眞子のためにと買ってきてくれたスープ。ほっくりしたジャガイモのおいしい匂いがする白いポタージュスープだった。

「おいしそう。いただきます」

「俺はランチに、北の秋野菜スープカレーを食べたんだ。うまかったよ」

「それもおいしそうですね。そのスープスタンド、どこにあるか教えてください」

 いいよ。これそこの店のインフォメーションカードだよ――と、専務が眞子に差し出してくれる。

 こう聞かれることも予測して、こんなふうに準備もまめな人。冷え込む倉庫から帰ってくる眞子を待っている専務は、こうしてなにか帰ってきてホッとするものを準備して待ってくれている。

 こんな専務が一緒だから……。いまの地味な仕事もやりこなせてるとも思っている。

それに専務は眞子の意見によく耳を傾けてくれるし、採用してくれる。眞子のアイデアでは足りないところは、専務が改良してさらに提案してくれる。

「画像と品番の一覧、だいぶ揃ってきたね。さて、次はどうするか」

 最大の問題は、この在庫をどう捌くか。これが最終難関だった。

 スープをいただきながら、専務と話を始める。

「専務はどう考えていらっしゃったのですか」

 一人でこの仕事をしていた時から、専務も何か考えていたはずだった。

「まあ、手っ取り早く。うちの自社ショップの店頭に『ワゴンセール』で置いたらどうかと提案したけれど。親父に『格を下げるな』と言われた」

「格、ですか?」

「そう今ある商品より劣っている、もう流行遅れ。だから叩き売る。そういう見せ方でお客に押しつけるなという意味ね」

「ですが。そのシーズンのプロパー商品だって、けっきょくはバーゲン時期に来たらプライスダウンをして捌きますよね」

「それは通常の流れ。そのシーズンの商品が、バーゲンでも売りさばけたらその年のシーズン商品は売り切れたことになるだろう。でもこのメーカーから買い取りした在庫はそうではない。バーゲンでも売り切れなかった商品だからね。だからといって個人ショップから買いとっている商品は、丁寧な造りの品質のいいものがあって流行遅れというわけではないんだよ。ただ個性的でね。流行の商品の中では埋もれていくなにかがあったものなんだよね」

「店頭に出せないのなら、お客様にお見せする機会はないということになりませんか」

「そう思って。では、俺が時々やっている地方営業の販売の時に、お安いですよとお見せするのはどうかと提案したんだけれど。またそれだと一部の客だけの目にしか触れないとかなんとか、じゃあ、どうしろっていうんだよ――。いまココってかんじ」

 眞子も社長が言っていることが理解できない。店に出すな、一部の客だけの紹介になるな。では、どうやってまんべんなく顧客に紹介したらいいのかと。



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