・裏方でも絶好調
「親父がいいたいことはわかってる。大量生産ではない売りの職人のような店から買い取ったから、その良さを大事にして、もう一度商品にチャンスを与えて欲しいってところなんだよな」
「ずうっと店頭に置いていてはだめなのですか……」
「そのシーズンに売れなければ、引き下げる。それも基本だよ。はっきりいえば、その間に客の目にとまらなかった商品となる」
「それって……。バイヤーの責任になるのですか……?」
それを仕入れたのは、副社長であって専務でもあって、他のバイヤー職の先輩であったり、眞子の場合もある。
「そういうことになるけれど。だからって流行に左右されない商品に罪はないからね。確かにいい品なんだよな~。特にこの革細工のバッグなんかなあ」
手作りの皮工房から数点買い取った商品だった。毎年、革製品はその良さからほんの少し注目を浴びるのだが、だからといって爆発的に流行るわけでもない。でも、革製品の良さや、使い勝手、そして廃れない独特な彫り模様はいつの時代にも存在してきた。
「店頭にもう一度置くことは出来ないけれど、なんとか売り切れないかというのが課題って親父はいいたいんだろうね」
「うちの会社名義の出品で、ネットオークションにしてみるとか……」
「それも考えた。ではそのネットーオークションの受注と発送と、オークション担当者の人選をしなければならない。もう新しい仕事を誰かにさせるってことだよな。それをするかどうか。ネットのトラブルの対処などどうするかなどなど諸問題ありで、親父もそれも面白いかもしれないが――とリスクと人件的なことで踏み込めないみたいだ」
「うーん、なるほどですね……」
じゃあ、やってみよう――なんてことになって、では『眞子さんがネットオークション担当者になってください』なんてことになりそうで、眞子もそうなるのは困ると唸った。
「では。ブックレットを作ってみるっていかがですか。マグノリアセレクション、特選商品ご紹介みたいに。これなら格は落とさないですよね」
「それは俺も考えた。顧客にまんべんなくになるなら、ダイレクトメールを郵送することで解決できるのではないかと。すると、今度はそのブックレット制作費がけっこうかかるんだ。印刷代などザッと計算しても、道内の顧客全てに郵送するとかなりの額になる。ただのお知らせお手紙ぐらいならいいけれどね」
さすが専務。眞子が考えそうなことは全て思いついていたし、実質的な費用の算出も計算済み。
「もう~、それではどうしたらいいのでしょう。お店に出すのもダメ、裏方営業での紹介だけではダメ、ブックレット作成もダメ。どうやって顧客全てに知ってもらえっていうんですか」
「はあ~、こうしてネタが尽きて、そろそろ三ヶ月というところかな。もうね、俺もお手上げなんだよ。わざと親父がすべて却下しているのかと悪く思ってしまう……」
分厚いレンズ眼鏡の顔で、専務が疲れ切った顔で机に突っ伏した。
スーツ姿になると素晴らしいモデル並みのいい男になるのに。普段の専務はおじさん臭くて、でも……なんだか憎めない愛嬌がある。それをここ1ヶ月半ほど一緒にいてかんじるようになっていた。
もっさりしている専務は時々ワンちゃんみたいに見えてしまい、どこかかわいい。
そう思う自分は最近どうかしていると眞子は思いつつ、専務が眞子のために買ってきてくれたスープを飲み干した。
寒い倉庫から帰ってきてこの温かさが眞子を支えてくれている……。
「ふう、倉庫にお客様を連れて行けたらいいのに。どうぞ、ここからお好きな商品を見つけてください。これぐらいのお値段でどうですかとできるのに」
眞子がそう呟くと、机に突っ伏したままの専務も唸る。
「まさか。ショップは高級感満載にしているのに、顧客を倉庫に連れて行くなんてあり得ないだろう。俺だってそうしたいよ」
「もう内緒で連れていきたいですよねー。『シークレットセールス』ですなんて……。その方がお客様も喜んで、マグノリアのセレクト商品を見に来てくれると思うんですよね……」
スープを飲み干して、お腹もいっぱい、カラダも温まった眞子は『ああ、おいしかった。しあわせ』と思いながら、何気なく呟いた。
「ん?」
専務が突っ伏したまま、そこで黙り込んだ。
「んん?? 眞子さん? いまなんて言ったのかな……」
おじさん臭く背中をまるめたまま突っ伏している専務が、ちょっとだけ顔をこちらに向けた。
また分厚いレンズの、もっさりした髭顔をこちらに見せて。でも目が真剣。
「いま、シークレットセールスとか言った?」
「はい。言いました。でも倉庫なんてダメですよね?」
「倉庫でなければ?」
「え、倉庫以外でどこでできるかということですか? そう言う場合はどこか会場を予約するとか?」
「それ、また金かかるでしょ。うちの店は……、ダメだな。ほぼ年中無休だし、百貨店のテナントは使えないしな」
だがそこで眞子にも閃きが舞い降りてきた。
「専務! それなら、郊外の池田店長のところのブティックはどうですか。一月に一度、第三水曜日が定休日になっているではないですか」
専務も『あ』という顔になった。いきなりガバッと起きあがる。
「つまりあのマダム的ショップに、お客を招待するってことか」
「綺麗な招待状を作って、お得意様だけの招待ってプレミアム感だしちゃったり、どうですか」
「いいね! その中に、イチオシ商品のリーフレットを入れるとか」
「カンナ副社長や専務、池田店長や販売員のイチオシアイテムを掲載するとかどうですか」
「うん、うん。それならダイレクトメールのコストで済みそうだ」
専務の背筋がピンとなる。ノートパソコンを目の前にして、急にキーボードをパチパチパチと素早く打ち込みを始めた。
「よっし、具体的な企画書を作ろう。そして親父、社長に提案して許可をもらうことから始めよう。それには、親父を納得させるだけの具体案をまとめよう」
「はい! そうなると品番と画像のセットをすべて揃えて、その一覧をオススメしてくれる方達に配布しないといけませんね」
「それもいいね。うん……、いけそうだ」
分厚いレンズ眼鏡の奥にある目が、真剣になる。それから専務は無言になった。
眞子はまた目をこする。さっきまでワンちゃんみたいにふんにゃりしていたのに。急にキリッと凛々しい横顔になって……。おじさん臭いスタイルなのに、スーツでモデル並みにビシッと決めている時の専務のようにカッコイイと見えちゃうのはなぜ? なぜなぜ??
それにさっき『眞子さん』とか言わなかった??
なんだか最近、専務が違う人に見える。どうしてかな。眞子がこの頃よくかんじることだった。
「むふふー。やっぱり本田さんがアシスタントになってくれてよかった。うん、一人より二人だなあ」
あ、やっぱりいつものちゃっかり専務の顔になっている……。
お坊ちゃまが得した顔をしていると、眞子は時々『上手く都合よく使われているのかな』なんて疑ってしまうこともある……。




