エピローグ その後
さて、こうして二人は結婚し、一緒に暮らす事になりました。
愛子ちゃんと良夫くんの結婚生活は、良夫くんが包容力のある男性だった事もあり、おおかた順風満帆に過ぎていったのですが、長い結婚生活の間には、色々な出来事が起こります。
例えば、こんな事がありました。
それは、2人が結婚し、新しいマンションに引っ越して、すぐの頃でした。
愛子ちゃんは、良夫くんがいない時に、引っ越し荷物を整理していたのですが、良夫くんの荷物の中に、ちょっと角のつぶれた、白い紙箱を見つけたのです。
それは、ちょうど、クリスマスケーキの箱を、縦長にしたような形状をしており、どうやら、プレゼントを入れる紙箱みたいです。
両手で抱えると、思ったより軽かったのですが、どうやら中に、何か入っているようでした。
愛子ちゃんは、その箱の蓋を開けてみました。
するとー。
中には、茶色いクマの、ぬいぐるみが入っていました。
「何これ?」
愛子ちゃんは、びっくりして、そのぬいぐるみを、箱から取り出します。
そして、気付きました。
「これ、ダディ・ベアだわ」
それは、愛子ちゃんの子供の頃から、恋人に対する贈り物として人気がある、有名ブランドのクマのぬいぐるみでした。
抱きかかえて寝るのに、丁度いい大きさなのです。
でも何で、良夫くんは、こんなものを大事そうにしまっていたのでしょうか。
愛子ちゃんは疑問に思い、自分の知らない良夫くんの秘密の一面を、かいま見た様な気がして、なんだかモヤモヤしました。
しかし彼女は、ふと、ある事に気づきます。
ぬいぐるみを取り出した後の、空箱の底に、小さな紙片が入っていたのです。
愛子ちゃんは、その紙片を手に取り、読みました。
そこには、こう書かれていました。
大好きな愛子さんへ
それは、良夫くんの字でした。
愛子ちゃんは、思わず息をのみます。
そして、ハッキリと思い出しました。
高校時代の事を。
そうです、その白い箱に入れられたクマのぬいぐるみは、かって良夫くんが、愛子ちゃんに告白の際に、手渡そうとしたものだったのです。
高校時代の愛子ちゃんは、その贈り物を、告白に対する拒絶の言葉と共に、良夫くんに突っ返したのでした。
おそらく良夫くんは、その自分の思いが込められた品物を捨てられずに、ずっと手元に置いていたのでしょう。
そして、いつしか彼は、その事を忘れ去ってしまったのです。
座り込んだ愛子ちゃんは、床に置いたクマのぬいぐるみを、じっと見つめました。
なんだか、愛子ちゃんは、そのぬいぐるみが、自分の心の様に思えました。
迷子になって、ずっと忘れられていた、自分の心にー。
愛子ちゃんは、床からぬいぐるみを持ち上げて、両手でギュッと抱きしめました。
「おかえり、くまさん。あなたも、やっと、自分の家に帰れたんだね」
そう言って、愛子ちゃんは、クマのぬいぐるみに笑いかけます。
クマのぬいぐるみも、なんだか、嬉しそうに見えました。
そうして、愛子ちゃんは、クマのぬいぐるみを側に置くと、荷物を片付けながら、良夫くんの帰りを待ちました。
うれしさの中に、ちょっぴり切なさが入り混じった、不思議な気持ちでー。
[完]




