95.電車でgo!
学校の最寄りから秋葉原までは、多くの駅を通過することになる。
俺たちは微妙に緊張感の漂う雰囲気で電車に乗り込んだ。
「乗り換えなくていいのは楽だな」
「そうですねぇ。先輩は乗り換えとか出来なさそうですしねぇ」
「俺のことお爺ちゃんだと思ってる?」
「思ってます。ザコザコお爺さんです」
ほとんどのお爺さんはザコザコだと思う。
俺は年寄りらしく、足腰を大切に座席に座りたいところ。
だが、車内は中途半端に混んでいて、席は全部埋まっているが立っている人間は俺たち以外にいなかった。しばらく立っていなければ。
「…………」
天王洲はずっと黙り込んでいる。
ほんと、なんでコイツは着いてこようと思ったんだ?
「二兎って、コンカフェとか結構行くのか?」
お嬢様について考えても得はないと思い、二兎と話すことにした。
「そうですねぇ……数ヶ月に一回……ぐらいですかね?」
「意外と行ってないじゃねぇか」
流石に中学生の時からは行ってないだろうし、高校入学から行き始めても……一度か二度ほどの計算になる。
「わ、私も忙しいんですっ!」
適当に「なるほどな」と返しておく。
彼女が日頃、何をしているか知らないが、若者らしく予定が詰まっているのだろう。案外、ゲーマーだったりして。
「ちなみに、前回はどんなところに?」
「めっちゃ人気の子がいて、ユイちゃんっていうんですけど」
「可愛いってことか」
「可愛いし、髪が真っ青ですっごく綺麗なんです!」
「真っ青か……二兎も個性的だし、並んだら戦隊モノみたいでカッコいいかもな」
「…………今のはギリギリで罵倒に入りました。ぶっ飛ばしますよ?」
なんでだよ。カッコいいだろ、ナントカブルーとか。
そんな雑談をしていると、電車がどこかの駅で止まった。
俺たちの目の前に座っていた会社員が立ち上がり、一人分の席が空く。
「あ、おじ先輩空きましたよ」
「誰がおじ先輩だ……でもお言葉に甘えて——」
座ろうと中腰になった時、横で粛々と立っている天王洲の足元が目に入った。
彼女の履いている革靴は、俺たちと同じく毎日使っているはず。
だというのに妙に綺麗だ。新品だと言われても信じられる。
「……天王洲、座ってくれ」
彼女は俺を見て、一度だけ首を傾げる。
「…………ありがとうございます」
そう言って俺の代わりに腰を下ろし、目を閉じてしまう。
俺が座らなかった理由は二つ。
まず、仮に彼女の靴が新品だった場合、靴擦れを起こす可能性がある。
送り迎えのあるお嬢様なら自分の足で歩くことは少ないだろうし、だとすれば疲れやすい。
俺が彼女を嫌いなのと、彼女が俺を嫌いなのと、助けるかどうかは別物だ。
そして——こちらが本命だが——二兎に聞きたいことがあるからだ。
(……なぁ、どうして天王洲が着いてくるんだ?)
小声で問いかける。
(分からないですよ……いや、分かることもありますけど、悟先輩には教えません)
(なんでだよ……)
一体何を隠しているのか。
どうでもいいけど、二兎の罵倒レパートリーって少なくないか?
彼女が飲食店だとしたら、最近「クソガキ始めました」の張り紙を出した気がする。
(なんでもはなんでもですっ! それより、ちゃんと気をつけてくださいね)
(気をつけるって、何に?)
(全てにです!)
彼女の肘が肋にヒットし、「うぐっ」と声が漏れる。
本当に、天王洲はどんな目的で図書室にやってきて、今は俺たちに同行しているのだろう。
理由を探ろうとしても、彼女の金髪は純粋無垢な天使のように、柔らかな光を吸収しているし、一方で整った顔は感情を表に出さない。
言葉の抑揚も平坦で、どこからも、何も読み取ることができないのだ。
しかし、これは俺の勘違いだろうか……今も座って目を閉じている彼女の口の端が、少しだけ上がっている気がするのだ。
天王洲を可愛いと思ってもらえるように、じっくり頑張りたいですね
あと、一話かは少しずつリライトしていってます。もう一回読んでくれると嬉しいです。
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