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【3章開始】距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる  作者: 歩く魚
二兎芽莉彩/天王洲セラ

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敵を隠すには

 その日、生徒たちは思い出した。

 自分たちの学生生活は――試験に支配されていると。


「悟よ……」


 昼休みが始まり、隆輝が声をかけてくるまでは普段通り。

 通常と違う部分は、彼の顔から生気が失われていることだ。


「さ、悟……くん」


 どかっと着席。雄としての強さを誇示する落下ではなく、膝から崩れ落ちるような弱々しさだ。

 ポジティブの塊に何があったのか心配してやりたいところだったが、理由は明白。


「期末試験だな」

「あぁ……嗚呼……」


 教室の天井に阻まれて見えない青空。

 しかし、隆輝はそれが見えているかのように見上げ、浅黒く日焼けした目尻から一筋の雫が線を引いた。


「補習にはなりたくねぇ」

「あー……」


 言葉の続きに困ってしまう。

 隆輝は勉強が苦手だ。地頭というパラメータがあるなら高いはずだが、勉強に意義を見出せないからか、赤点の常習犯である。


「お前はいいよなぁ悟くんよ」

「いや、俺は万年中間男だぞ」


 勉強しようがしまいが綺麗に学年平均の順位にいるのが俺だ。

 話のネタにもなりやしない。


「良いことじゃねぇか! 俺は古文のナントカ活用に惑わされちまうんだよ。世界史だってエクスカリバーとか三帝会戦とかカッコいい名前ばっかならできるのに……」

「言いたいことはわかる」

「いいやッ! お前には分からないねッ!」


 野生の獣くらい興奮している。


「あのな、吉岡先生って普段はフワフワしてるだろ?」

「そうだな。授業だって和やかな雰囲気だし補習も楽そうじゃん」

「違うんだよ……補習の吉岡先生は恐ろしい、冷酷な悪魔だ」


 隆輝は自らの巨体を震わせた。


「想像つかないけど……ブチギレるってことか?」

「そうじゃない。先生はずっと優しくはある。ただ――」

「ただ?」

「……満点取るまで終わらないんだよ。八割でも終わらない。九十九点でも終わらない。完全な百点になるまで終わってくれないのさ。毎回丁寧に解説してくれる、その口調のゆるさと満点のギャップに精神が蝕まれてしまうんだ……」

「満点はキツイな……」


 彼女は生徒のことを思ってスパルタ指導してくれるのだろうが、彼にとっては地獄でしかない。


「家で勉強しても無駄なんだよ。だって、何を勉強するのかすら分かってないんだから。その点、悟はあれだろ? 巻島さんと東堂先輩に教えてもらうんだろ?」

「そんな話は出てたけど……隆輝も来るか? 俺は全然いいんだけど」


 関心がない事柄が記憶に定着しないのは理解できるし、彼が補習になってしまうと遊ぶ時間も減る。

 だから良い提案だと思ったのだが……なぜか呆れ顔をされてしまう。


「はぁ……そう言ってくれてありがたいけどな」

「ナイスアイデアだよな?」

「アイデア自体はナイスだよ、これ以上ないくらいに。一番の親友と学校有数の美人に囲まれて勉強なんて、青春という写真集の表紙になってもいい。……俺がぶっ飛ばされる事に目を瞑ればな」

「隆輝を倒せるやつなんて格闘家くらいだろ」


 首を傾げる。


「ある意味で格闘家より強い敵を目覚めさせちまうんだよ。あの二人は悟とイチャイチャでラブラブな勉強を想像してるはずだ。そこに俺みたいなむさ苦しい男が乱入したらどうなる? あぁいや、言わなくていい。教えてやる。ぶっ殺されるんだよ俺が!」

「今日はえらく口が回るな。でも、仮にぶっ飛ばされるとしても吉岡先生の補習よりは傷が浅いだろ」


 そう言うと、隆輝は「ぐっ」と言葉を詰まらせる。


「それは……そうだけどよぉ。でもなぁ、やっぱりなぁ、アウェイ過ぎるんだよなぁ……」

「だったら他に友達でも連れてくればいいんじゃないか? 苦しみも分かち合えば……的な」

「分かち合うなら喜びがいいんだけどな。それに、自慢じゃないけどお前以外に友達なんていないからなぁ。仲間なんて――」


 うなだれ、情けない事実を垂れ流していた隆輝だったが、何かに気付いたように停止した。

 一秒、二秒、三秒。動き出す。


「……木を隠すには森の中。敵を隠すなら――更なる敵の中か」

「解説してもらっても?」

「呼べる子がいるってことだよ。とっても可愛らしい――お前の後輩をさ」

「二兎を呼ぶぅ? どういう人選だよ」


「どうもこうもないだろ。たった今決めた、俺は後輩ちゃんの味方になる。あの二人に勝てるようにサポートしてやるのさ!」

「よし、二つ質問がある。一つ目は、二兎が二人と何を競うのか。二つ目は、お前が二兎に肩入れする理由だ」

「愚問だな」


 隆輝は即答する。


「一つ目に関しては悟には分からないだろうな。ただ、負けてる方を応援したくなるのが少年漫画の血液が流れる者の宿命。二つ目は……後輩ちゃんは俺にあだ名を付けてくれたからだ」

「“せんとも”ってやつか? 明らかに舐められてるだろ」

「馬鹿野郎それがいいんじゃねぇかッ!」


 いきりたって俺の胸ぐらでも掴みそうな勢いだ。


「お前だってッ! 生意気な後輩がッ! 好きって言ってたろッ!」

「……そんなこと言ったか?」

「言ってたね! 俺はしっかり覚えてるんだからねっ!」

「その記憶力を勉強に活かせればなぁ」

「やかましいわ! とにかく俺は後輩ちゃんを呼びに行くぜ!」

「捕まらないようにな」


 勉強会の人数を多くすれば、「友達グループで集まっただけ」という言い訳が作れそうだし得ではあるか。

 とりあえず、隆輝が戻ってくるのを待つ事にした。パンを食べながら。

だんだん派閥が出来上がっていきます


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