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「そんなことお前に教える必要は無い!」
「教えろと言うより、側近の仕事を理解できていないんじゃないのかと言っているんだが?」
僕の言い分に反論するかと思ったが、ルドルフは黙ってしまった。
……もしかして側近の仕事放棄しているのを理解したうえで暴走を止めなかったのか?
別派閥だから潰れようと気にする理由はないけれど、よくこんなんで側近になれたな。
「ふむ、ニフェールとやら、お前も側近なのか?」
「末端の立場ですけどね」
「ならば、お前の言い分は納得だな。
側近の立場で見ればルドルフの行動は問題なのは事実だ」
ストマの問いに答えると、納得したようにうなずきルドルフの行動を説明してくれた。
「俺が先程言った女性だが、ルドルフも同じ人物に恋をしている」
この時、僕は身体中の筋肉に力を入れて噴き出すのを堪える。
うっそだろ?
なんで学園内に僕の女装に堕ちた学生が、それも二人もいるんだよ!
フェーリオだけで十分なのに!
フェーリオ、ジル嬢、こっち見んな!
パァン先生、そのニヤニヤ顔止めて!
「多分、俺が突撃するところをかっさらおうと考えているんだろうさ。
そこは今更どうこう言うつもりは無い。
だが、側近として他派閥から指摘されるほど行動が異常だったことは反省してもらいたいものだな、ルドルフ?」
「……はっ」
不満はあるが、事実側近としては問題あることは分かっているようだな。
「そんなわけでルドルフの行動についてはこれでいいか?」
「えぇ、むしろ他派閥の事に口出しして申し訳ない」
「いや、お前の言い分は派閥関係なく言われて当然のことだ。
そこは気にしないで言い」
……こいつら本当に貴族派なのか?
恋愛による暴走はともかく、まとも過ぎて混乱するんだが。
「……まだ聞きたいことがありそうだな。
今は気分がいい、あと一つなら聞いてやるぞ?」
「では……今まで騎士科で見た貴族派の人物とあなた方があまりにも違い過ぎて混乱してます。
正直、お二人は貴族派ではなく中立派と言われても納得してしまう位に」
予想外の質問だったのか、ストマたちはぽかんと口を開け間抜け面を見せてきた。
そこまでか?
「お前が比較対象としている貴族派の騎士科の生徒とはどいつの事だ?」
「プロブという奴ですが分かりますか?」
「……分かるが、あいつが何した?」
「試験直前に勉強教えてくれと泣き付いた。
その挙句、何故か僕の服を脱がそうとしてくるので叩きのめしたとか。
それと非常識な賭け――自分が負けたときの条件をつけない――をごり押し。
こちらも心をへし折りましたが?」
その場にいた全員が黙ってしまった。
「あ~、貴族派の領袖の立場にいるものとして謝罪する。
それとアレがうちの派閥の普通だとは思わないで欲しい。
俺たち二人も異端だが、それ以上にアレは別方向に異端なのだ」
ん?
別方向に異端?
ストマの説明に困惑していると、ジル嬢が説明してくれた。
「ニフェール様、ストマ様とルドルフ様の異端というのは『貴族派なのに中立派や王家派に近い思考をしている』ことですわ。
そしてプロブとやらの異端は『貴族派の中でも異常と判断されるくらい愚かな行動をとる』ということだと思いますわ」
そこまで言っちゃうほどか?
……試験助けろと言いつつ僕の服を脱がそうとし、尻を撫でてくるプロブ。
……自分が勝ったら『兵站初級』教えろとか抜かすプロブ。
そこまで言っちゃうほどだったな。
「本来の比較対象とすべき、一般的な貴族派生徒と比較してもストマ様たちが中立派のように見えるというのは正しいのです。
ですが、比較対象も非常識の塊と言っていい人物の様ですので、より違いが際立つのではないかと」
「納得しました、ジル嬢。
アレと比較したのが間違いだったんですね」
というか、騎士科が皆アレと同じと言われたら確かに嫌だしな。
「とりあえず納得したようだな、では俺たちは失礼する」
ストマとルドルフはさっさと帰っていった。
まぁ、女装した僕と会えないのが分かれば、学園にいる理由はないしな。
僕らも守衛たちに挨拶して淑女科校舎から離れる。
ある程度離れ周りに誰もいないのを確認したところで……僕への尋問が始まった。
「あの二人の言う女はニフェールのことか?」
「多分そう。
一番可能性高いのはマーニ兄と薬の製造場所を偵察に行った時の事だと思う。
あの時しか王都内で女装してないから」
フェーリオからまともな質問が飛び、
「あの二人から女装時に告白されたらどうされますか♡」
「断りますよ!
というか、なんでそんな嬉しそうに聞くんです?
そんな期待しないでください!」
ジル嬢から欲望駄々洩れな質問が飛び、
「ちなみにあの二人、どちらが好み?」
「男性を好みに入れる趣味はありません!
本当に面白そうなことになるとぶっ飛びますね、先生!
ラーミルさんが言ってた通りですよ!」
パァン先生が欲望に負けて揶揄い倒しに来た。
全くこの人たちは……フェーリオが一番まともな対応する時点でおかしいのに。
「まず、何はともあれ次回ダンス特訓は少し間をおいてやったほうがよさそうです。
最低でも淑女科で行うには危険が伴うことが今回分かりました。
とはいえ騎士科だとジル嬢にまとわりつく羽虫が邪魔ですし、領主科はどうですか?」
「大して変わらないな。
騎士科程ではないにしても婚約者がいない奴らが暴走しないとも限らない。
多分文官科も同じなんじゃないのかな?」
「そうですね、一番安全と思ったのが淑女科だったのですが……。
予想外な邪魔でしたからねぇ。
ちょっと考えてみますよ。
なので、次回の訓練はダンスとは別の事をやりましょう。
ジルさん、フェーリオ君、あなたたちにはまたお願いすると思いますが、その時はよろしく」
二人とも先生の言葉に礼を持って返す。
「では今日はここまで。
三人とも早く帰りなさい」
「はい、本日はご指導ありがとうございました」
解散し各自帰宅、もしくは仕事場に戻っていく。
僕も寮に帰ろうとして、はたと気付く。
ドレスを持って寮に入るのって、かなり危険じゃね?
悪意無く問われたときにちゃんと対応できるか?
……ちょっと荷物とするにはかさばり過ぎだしなぁ。
空を見るともうそろそろ夜、暗闇に紛れられる時間になる。
外 か ら 入 る か !
そうと思いついたらさっさと見つからなそうな場所に移動して夜を待つ。
数名寮に向かう奴らがいるが、そいつらに見つからないように隠れておく。
そして陽の光が消えたのを見計らって急ぎ三階の自室のベランダに汚れないように置く。
その後三階から一気に飛び降り、いけしゃあしゃあと寮の入口からたった今戻って来たかのように入る。
寮の管理人や寮生たちにもバレずに自室に戻りベランダのドレスを回収、室内のクローゼットにドレスをしまう。
その後食事(カリムへのおごりのダメージから未だ夜は塩パスタ)をして寮に再度戻り今日の訓練について考えてみる。
まず化粧についてはほぼできていたと思う。
とはいえ目の周りを化粧する方法を再訓練しなくてはならないな。
逆に化粧を落とす方はまだ甘い部分があった。
化粧落としのやり方をパターン化できないか検討したいな。
化粧しなかった部分も流れ作業で落とすようにすれば忘れることは減るだろう。
ダンスは……自分が男性であることを捨てることができなかったのが敗因だろう。
妙にフェーリオとぶつかることが多かった。
本来相手とぶつかることはありえない。
これは、かなり訓練しないとまずいかもしれないな。
ただ……先生とダンスした時にはそこまでぶつかるということは無かったと記憶している。
だからこそ音楽を入れて踊ってみることにしたのだろうし。
となると、僕が緊張していたのか……まさかフェーリオが間違った?
少し気になったので一人で音楽無しで踊ってみると、僕自身のミスは実際にあったが……フェーリオもミスを犯していたように感じる。
特に僕が一歩前に出るときに限ってあいつも一歩前に出ている気がする。
そりゃぶつかるわな。
顔近づきすぎてキスしそうになるわな。
え、これってジル嬢に呪われたりしない?
やめてくれよ?
ラーミルさんに誤解受けるのは流石に辛いから!
とはいえ、文句も言いづらい。
ワザとか本気で間違えたのかこちらでも判断できないし……あいつが新しい世界に堕ちないことを祈るしかないか?
取り合えず疑義は保留としておこう。
いきなり罪と決めつけるのもいかがなものかと思うし。
明日の昼にでもこっそり聞いてみるか。
個人的には外れて欲しいが……。
フェーリオが道を外していないことを祈りつつその日は眠りについた。
明けて次の日。
一通り授業に出て、さて昼休み。
フェーリオは何と言うか怯えたような表情を見せつつやって来た。
ちなみにジル嬢は心配しつつも怪しい笑顔を見せている。
なぁ、ジル嬢、フェーリオがやらかしたこと感づいたんじゃねぇのか?
笑顔で追いつめているようにしか見えないんだが?
「どうした、フェーリオ?
なんか表情が暗いぞ?」
「ニフェール様、どうもフェーリオ様は昨日帰る途中から暗い表情を見せてらして……」
ジル嬢、分かってて言ってるだろ?
怪しい笑顔がこぼれまくってるぞ?
「もしかして昨日協力してもらったのがまずかったのかな?
ぶつかりまくってたし」
「あぁ、あの件ですね。
確かにアレかもしれませんわね」
ジル嬢、楽しそうだな?
フェーリオの顔が真っ青になっていくの見て楽しいか?
……まぁ滅茶苦茶楽しそうなんだろうけど。
「ジル嬢、なんとなく推測なのだが……そろそろ落ち着かせた方がよくないか?」
「ニフェール様はそれでいいのですか?」
「昨日のあれならお互い様だし。
僕も間違ったパターンがあるから」
「……フェーリオ様がわざとやった部分もあるのはご存じ?」
「寮に帰ってから訓練の復習をしていてその可能性には気づいているよ。
正直自信無かったけど、今日のフェーリオの表情から確証を得た」
「おや、そうでしたか?
ではそろそろ許してあげましょうか」
やっぱり追いつめてたんかい!
その後ジル嬢がフェーリオに許しを与えると真っ青な表情が少しは良くなってきた。
まぁ婚約者(女)の目の前で自分の側近(男)にワザと接触する男ってかなりアウトだしね。
「ニフェール、ホントすまん」
「反省しているのなら許すけど、二度目は無いからね?
特にジル嬢が珍しくネチネチ追いつめていたのを忘れないでね?
というか、これカールラ姉様たちに知られたら……」
「絶対やめて!
一生ネタにされる!」
そんな寝言を言い出すので、僕は首を振りフェーリオに一番起こりうる可能性の高い内容を説明する。
「フェーリオ、ネタにする程度でビビるな。
カールラ姉様ならロッティ姉様と手を組んでもっとろくでもない話に持っていくだろうよ」
キョトンとするフェーリオ。
本気で分かってないのか?
「具体的に言うと、僕(女装Ver)とフェーリオ(男装Ver)でいろんなシチュエーションを実行させるだろうな。
基本としては『二人でダンスする僕とフェーリオ』。
少し捻って『ダンス後にテラスに出て星を見る僕と後ろから抱きしめるフェーリオ』とか?
もっとひどいと『ベッドに押し倒される僕、押し倒すフェーリオ』あたりかな?」
「ちょ、ちょっと!」
「そして、それを姉様たちで見て悦び、仲間たち呼んで見せて歓喜し、最後には絵に残すとか言い出しかねないかな……」
「あぁ、やりそうですわねぇ……」
ジル嬢、あなたの肯定的発言は聞きたくなかったよ。
嫌な推測が全て正しいと明言しているのに等しいんだから。
それとフェーリオ、まだ最悪なことは言っていないんだからな?
尻叩く……改め知りたくないだろうから黙っておくけど。
夜想の世界は触れるべきでは無いからね。




