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デートを楽しんだ後日、カリムやナットと会ったり学園に呼び寄せたり、侯爵方に報告して驚かれたり、過去に両親が暗殺者ギルドを壊滅させたのを知ったりしたが夏季休暇を楽しむには影響なく……。
そんなこんなで夏季休暇最終日。
パァン先生と今後について話し合いをしていた。
「さて、今後についてですが一部不足はあるにせよ一通りのことはできるようになったと思います。
最低でも学園一年次の生徒には負けない位の実力はついてます。
同学年でも一部は確実に勝ててますしね」
歩き方、礼儀作法については文句なし。
扇の使い方もかなりできている。
化粧については最低限頬の傷を消す方法は覚えた。
とはいえ女性的な化粧――口紅やアイシャドー等――は後回しにしていたので、今後はそちらの方を重点的に教えるとのこと。
それと、普段の授業に影響するので毎日ではなく週二回放課後に行うと説明された。
確かに、他の授業の手を抜くわけにはいかないし、これは受け入れざるを得ない。
先生からも――
「三科全ての試験を受けるのでしょ?
なら他の勉強をおろそかにするのはいけません!」
――と叱咤激励のお言葉を頂いた。
……「面白そうだから手を抜くんじゃねぇぞ?」という意味じゃないですよね?
まぁ、頑張りはしますよ?
先生のお楽しみの為ではなく、自分とラーミルさんとの未来の為ですけど。
さて、夏季休暇も終わり、学園も秋季カリキュラムが始まる。
皆授業に入れるように意識を切り替え学園に入っていく。
……一部の学園生は夏季休暇ボケが抜けてないらしく心ここに非ずな様子が見てとれる。
まぁ気持ちは分かるけどね。
僕も寮から教室に向かう途中、王都住まいの面々と合流する辺りでフェーリオとジル嬢に出くわす。
あらあら、イチャついてくれてますね。
周囲の紳士淑女が砂糖吐いてますけど、まぁいいか。
「おはよう、フェーリオ、ジル嬢」
「おぅ、ニフェール、久しぶりだな。
最近会いに来てくれなくて寂しいぜ」
「……ジル嬢に勘違いされるような発言ヤメロ」
最近のジル嬢はカールラ姉様化してる気がして正直不安でならない。
まぁ、こちらに影響がなければ構わないとも言えるのだが。
フェーリオのプライベートは側近の仕事とは無関係だし。
「……ニフェール様、少しお話があるのですが」
ジル嬢、まさか……フェーリオとの関係を誤解した?
「いやジル嬢、待って欲しい。
フェーリオとはそっちの関係にはなっていない!」
「そんなのはこちらも承知してますし、期待してません!
……少ししか」
少しはあるのかよ!
「それはともかく、何をやらかしました?
カールラ様やロッティに強請られましたか?」
……まさか、感づいた?
「もしかして……」
「あら、やっぱり何かしていたのですね。
あの動きからして歩く訓練でしょうか?」
これは、完全にばれてるな。
「後で説明するよ。
今説明すると授業に遅れそうだ」
「分かりましたわ、では昼食時にでも教えてくださいね。
できれば面白おかしく説明して頂けると楽しめるので嬉しいのですが」
アンタ、悪魔か?
「なぁ、ジル、ニフェール。
何の話してるんだ?」
あぁ、こいつは気づいていないのか。
「昼食時に教えるから今は待て。
ちなみにジル嬢、誰でも分かるレベルだったか?」
「いえ、そんなことありませんよ。
ただ、なんとなく感づいたというだけなので、気づく人は全生徒合わせても片手に足りるくらいではないでしょうか」
ん~、ラーミルさんレベルじゃなくてもバレる?
ちょっと対策検討しないとな。
「感づいた理由って説明できる?」
「……簡単に言うと綺麗すぎたってところでしょうか?」
「綺麗すぎた?」
……もしかして、普段からあの動きすることがまずかった?
「説明ありがとう、ちょっと気を付けてみる」
そので別れて騎士科の教室に向かうが、少し歩き方を変えてみた。
乗馬中のような体勢ではなく、少し戦闘時に近いような感じで……。
ん~、パァン先生に習う前の歩き方を忘れてしまいそうだ。
さて、午前の授業も終わり昼食時。
たらこのパスタを注文し、席に向かうとフェーリオとジル嬢がワクワクしながら待っている。
そこまで期待されても……。
「で、何やらかした?」
「声を潜めて話せ。
他に知られるのは困る」
真顔で言うと分かってないフェーリオはおとなしくなり、感づいているジル嬢は口の端がヒクつく。
……いい娘だから黙ってなさい?
「礼儀作法のパァン先生は知ってるな?
領主科や淑女科でも教えていると聞いているが?」
「あ、あぁ、あの先生か……」
何だフェーリオ?
苦手なのか?
「いや、あの先生から妙な視線を感じるんだよなぁ」
「カールラ姉様的な?」
「いや、そこまで危険ではないんだが、別種の危険を感じるんだ。
姉は踏み入れてはいけない方向――底なし沼的な?――に危険を感じるし、先生は下手に触れたら痛い目に合いそうな――毒花的な?――危うさを感じる」
フェーリオの発言に少し驚きを感じる僕。
もう少しアッパラパー(失礼!)な発言を想像していたんだが、パァン先生に対する見立ては正しいと思う。
ん? 姉様の事?
流石姉弟というか、適切な説明だったと思うよ。
「大体合っていると思う。
僕も同じ認識だ。
とはいえ、先生から見て面白そうな人物でなければ適当に対応しておしまいだと思うけどね。
で、あの先生に指導をお願いしたんだ」
「指導?
騎士科首席のニフェールが何の指導を――」
「――やはりそうでしたか」
分かってないフェーリオを差し置いてジル嬢が被せ気味に話に入って来た。
さっさと話せと言うことなのだろう。
眼がぎらついてるし。
「ジル嬢が怖いので結論を言おうか。
パァン先生に女装時に必要な知識を教えて頂いている。
歩き方や扇の使い方を含めた女性としての礼儀作法。
女性同士の会話や化粧などだな」
「……はぁ?」
「やっぱりそうですか。
何時頃から?」
「夏季休暇中、薬関連を潰した後だよ」
理解が追いついていないフェーリオに代わりジル嬢が積極的に質問してくる。
身を乗り出してこないのは侯爵令嬢としてのプライドか?
「待て待てっ、何故そんなことを?」
フェーリオが小声で騒ぎ出す。
偉いなぁフェーリオ、ちゃんと大声出さずにいていい子だなぁ。
頭撫でてやろうか?
「情報収集や潜入に使えそうだったからな。
最低でも左頬の傷を自力で隠せるのは有効と考えた。
ちなみにこのことはラーミルさんと先生とお前らしか知らない。
他には一言も喋るな」
「流石に言えねぇよ。
姉に聞かれたらどこまで暴走するか分かったもんじゃねぇし」
「それはうちも同じですわねぇ。
ロッティに僅かなりとも情報を与えたらどうなるか、恐ろしくて言えませんわ」
「二人がまともな判断力を有していてほっとしているよ。
一応言っとくけど、親御さんにも言っちゃだめだからね?」
この言葉にキョトンとするフェーリオ。
この言葉に苦い顔をするジル嬢。
「フェーリオ、サプル夫人はカールラ姉様と同類だ」
ヒクッ!
「ジル嬢、ご存じかとは思うが、アニス夫人も同じだ」
(スッ)
いやそこまで視線逸らさなくても……。
というかフェーリオ、気づいてなかったのか?
「フェーリオ、大丈夫か?
もしかして気づいていなかったのかもしれないが……これが現実だ。
ジル嬢は感づいていたようだけどね」
まぁ、感づいていたというか……似た者親子な気がするんだけど、それは黙っておこう。
フェーリオが結婚した時にたっぷり理解すればいい話だしな。
「ニフェール様、夏季休暇中で教えを受けるのは終わったのですか?」
「いえ、まだかかりそうですね。
ですが、普段の勉強をおろそかにすることは禁じられました。
なので週二回のペースで放課後学んでいく予定です」
「どのような範囲を?」
「最低限頬の傷を隠す以上の化粧技術を教えていただく予定です。
後扇の使い方はもう少しで終わるのかな?」
ジル嬢は少し悩みつつ質問してくる。
「ダンスとかは指導を受けないのですか?」
「あぁ、ダンスか……考えてなかったですね。
とはいえ、やろうとしていることが潜入である以上、変な目で見られないように覚える必要はありそうですね」
ジル嬢はなぜか危険な笑顔を見せてきた。
ねぇ、何狙ってる?
すっごい嫌な予感するんですけど?
睨みつけようかと思ったところでフェーリオが別の話を振って来た。
「ニフェール、うちの母上と姉が同類ってどこで分かったんだ?」
「ん?
感づいたのは以前お前の家で号泣したの覚えているか?」
「あぁ、あのときか。
え、あれだけでよく分かったな?」
「正確に言うと、お前の家で感づいたけど、確信したのはその次の日。
チアゼム侯爵家で報告、ロッティ姉様への謝罪等をやったよな?」
わざとラーミルさんとの話は伏せたところ、フェーリオが珍しく気づきやがった!
「あぁ、お前が告白した日だな!」
フェーリオの釣りに乗らぬよう話を続ける。
「……あの日、ロッティ姉様に謝罪した時に姉様たちががっちり手を組んだの覚えているか?
あぁ、物理的にではなく、義姉妹としてという意味だ」
「あぁ、あのノリにはついていけなかったがな」
「あの時に両夫人は『姉妹か!』と言いたくなる程に似たような笑顔をしていたよ」
そう、「いいネタができた!」「これで勝つる!」と……
顔を青くするフェーリオ。
目を逸らすジル嬢。
……ジル嬢、自覚あるのね。
というか、一緒に喜びそうだよね?
この後、三人で普通に会話し授業に戻った。
つまり、ジル嬢の危険な笑顔の理由を追求しなかった。
それがどういう影響を及ぼすかに気づいたのは別の日。
あの時制止しておけばと思っても後の祭り。
僕はこの日の判断の甘さを痛感することになる。
その日、パァン先生から連絡が入った。
今日の放課後の授業は別の所で行う。
後ほど案内するから騎士科のとある部屋で待つように。
これが他の先生なら何も気にしなかった。
でも言ってきたのがパァン先生だ。
あの先生が何を狙っているのか分からないが、正直不安材料しかない。
高鳴る鼓動、口の中が乾き、落ち着きが無くなる。
これがラーミルさんへの告白ならどれだけ素晴らしいことか!
でも、これらすべて先生に呼ばれたことによるもの。
喜び、幸せ、そんなものは一切なく、法廷に赴く犯罪者のような恐怖と諦観に満ちた表情で指定された教室に赴く。
ノックし教室に入ると、そこにはパァン先生……と二人の学生がいた。
フェーリオとジル嬢。
お前ら何しとる?!
「やぁニフェール、表情が暗いがどうしたんだい?」
「お前がここにいることでこの後起こる内容の厄介さがグレードアップしちまったんだよ!」
「やだなぁ、そんな訳無いじゃないか。
側近が率先的に学んでいるというから見学に来ただけだよ(笑)」
「ぜってぇ嘘だ!」
(精神的な意味で)噛みついていると、ジル嬢がとりなすように動き出す。
……いや、アンタもこの手の事について信頼度最底辺だからな?
「まぁまぁニフェール様、私たちは少しお荷物を持ってきただけなのですよ。
そんなに怯えないでくださいまし」
「怯える要素しかないのですが?
って荷物?」
確かにフェーリオが何か持っているが……かさばっていて、でも軽そうだな。
大きさは僕の肩位まで……って、おい!
「お前、これ、まさか……!」
「流石と言っていいのかな、ニフェール。
お前が裁判で着用した――」
「まさか、臭いを嗅いだのか?!
白濁した液体とか掛けてないよな?!」
「――やるかボケェ!!
人を何だと思ってやがる!!!」
「僕の女装を見て堕ちかけた愚か者」
教室は静寂に包まれた。
「……あ~ニフェール様、ドレスはちゃんとラーミルから預かってきましたわ。
フェーリオ様が人に言えないようなことはしておりませんので、ご安心くださいませ」
「……信じて、いいんですね?
ロッティ姉様やアニス夫人にバレたりはしてませんね?」
「……正直、あの二人の嗅覚がどれだけなのか私でも分かりませんが、可能な限り誤魔化しておきましたわ」
それに賭けるしかないか……。
「で、たぶんこれは以前のドレスだと思いますけど、何をさせるおつもりで?」
パァン先生を見ると、にこやかに一言。
「ドレスを着用してのダンスの確認です。
自力で化粧をし、ドレスを着用して、男性と踊っていただきます」
う~わ、ニッコニコじゃねぇか!
「……男性って、フェーリオですか?」
「他に誰がいるのです?」
いや、そりゃいないけどさ、本気?
「フェーリオ、堕ちずに最後までダンスできる?」
「……」
いや、そこは「大丈夫!」と明言してよ!
頼むから!
ラーミルさんとキャットファイトなんてやって欲しくないんだからね?
「ジル嬢、こいつ大丈夫?」
「信じてますわ」
「どちらの意味?
耐えるのを?
堕ちるのを?」
「……耐える方ですわ」
その間は何?!
「まぁ、どうなるか分かりませんが一通りやればいいのですね?
ここでやりますか?」
「いえ、淑女科の教室を使います。
なので、まずは移動ですね。
あ、ちゃんと周囲を隠しますから安心してください」
本当に大丈夫なのか?




