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「ではまとめると、侯爵様方は対象の家が反逆行為をした者の親族か確認。
親族だった場合、当人に事情を説明し縁を切るか判断してもらう。
そこで縁切り希望されたら脱走協力しリヴァ修道院へ、で合っているかな?」
「そうね、それでいいと思うわ。
ジーピン家への往復が終わった頃にはある程度答えが出ていると思うし。
あ、情報は適宜ジーピン領に送って欲しいな」
あぁ、カールラ姉様は今後王都に来ることが難しくなるからなぁ。
それはやむなしか。
「これで大体決まりだな。
なら夕食にでもしようか」
ジャーヴィン侯爵の一声で皆意識は食事に向かう。
……一部食事後に意識が向かっている方々もいらっしゃるけど。
まだだからね?
もう少し待ってね?
夕食中。
一般的には一家団欒、家族や友と話し合い、笑顔の絶えない場となる……はず。
だが、今は……。
「あら、アゼル、どうしたの♡?
食事が止まっているわよ♡?」
「もう、マーニったら♡
……こんなにおいしいのに食べないの♡?」
二匹の飢えた獣が哀れな餌を前に舌なめずりをしている。
言葉は優しく淑女らしき言葉ではある。
だが複数の皮を取り払うと、言葉以外の行動全てがこの一言に集約される。
(早く、たっぷり喰らいたい♡)
これどうしろって言うんだよぉ!
アゼル兄もマーニ兄もさっさと飯食って姉様たち連れてベッド行けよぉ!
存在するだけでアムルやフィブリラ嬢の教育に悪すぎんだからさぁ!
普段の戦闘とかは勇敢な癖に、こんな時にヘタレてどうすんだよぉ!
というか、さっさと連れて行かないと他の女性陣も煽るのに参加しちまうぞ?
母上やサプル夫人、アニス夫人が手を組んで煽り始められたら僕は絶対フォロー出来ないからね?!
どうせ父上たちは役に立たないんだから、自分で動くしかないんだよ?
父上たちが母上たちを抑えられるなんて二人だって思ってないでしょ?
早く!
急いで!!
今より事態が悪化する前に!!!
多分他の男性陣(アムルを除く)は同じことを考えていただろう。
そこに
勇気ある者が確かな一歩を踏み出した。
「ごちそうさまでした。
カールラ、待たせたね……行こうか?」
アゼル兄、声が震えてるよ。
手も震えてるね。
【魔王】のはずなのに魔王に向かって行く。
歩みは村人Aにしか見えないし震えっぷりは勇者どころか怯者としか言えない。
「……ええ♡!」
魔王が怯者を受け入れ、寝室に向かう。
アゼル兄、珍しく、本当に珍しくだけど、よくやった!
……
で、マーニ兄、あなたは?
いや、そんなキョロキョロしない!
現時点であなたの味方はどこにもいないんだから。
グダグダ言う前に、さっさとロッティ姉様連れてベッドインしなさい!
いくら僕を睨んでも無駄だよ?
周りを見て見な?
皆の期待(というか、さっさと連れて行けという男性陣の視線)を背負って寝室に向かうしかないんだから。
周りを見回し、味方が誰もいないのに意気消沈しつつもロッティ姉様を連れ寝室に向かった。
……もしかしてマーニ兄の方がヘタレ?
……それとも結婚したらアゼル兄が変わったのかなぁ?
全力で風景と化していた親共が大きなため息をつき、脱力する。
そりゃ皆疲れもするよ。
アムルとフィブリラ嬢もフラフラしている。
もう眠いのか?
「すいません、僕らも部屋に戻らせていただきます。
アムル、歩けるか?」
「……はっ!
まだ大丈夫です!」
「ここで頑張らないでいいんだぞ?
明日の移動時にゆっくりフィブリラ嬢とお話しすればいい。
寝ぼけた頭でお話しして話の内容覚えてないってのは相手に失礼だろ?」
「はぃ……zzz」
いや、返事しながら寝るなよ!
やむなくアムルをお姫様抱っこして連れて行くことにする。
一部(昔の)お嬢様方がヨダレを垂らしかけていたようだが、見なかったことにしておこう。
流石にあの方を揶揄う勇気はない。
「ラーミルさん、すいませんがフィブリラ嬢をお願いできますか?」
「ええ、さ、フィブリラ様、寝室に参りましょう?」
「はぃ……」
あぁ、こちらも眠りそうだ。
親たちに挨拶してラーミルさんと共にアムルたちを寝室に連れて行く。
互いに無言のまま寝室まで向かうと、ラーミルさんが……。
「明日からのご実家への移動ですけど……」
「はい……」
「実は……年甲斐もなくはしゃいでまして(照)」
「僕もですよ、学園に通っている身としてはラーミルさんと四六時中一緒にいられてとても喜んでます」
うぉぉぉ!
照れる!
顔真っ赤になってしまうぢゃないかぁ!
「よかった……私だけじゃなかったんですね♡」
ちくしょう!
こんな時、手が空いていれば右手で腰を抱きしめて、左手で背中を抱きキス出来るのにぃ!
手がアムルで塞がってるではないかぁ!
いや、眠ったアムルに文句言うつもりは無いけれど!
苦悩している所で互いの寝室に到着してしまう。
いくら侯爵家であっても寝室まで何キロもあるわけではないから、いつかは到着するけどもう少しイチャイチャしていたかった。
「では、ニフェールさん、おやすみなさい」
「……」
僕は無言でラーミルさんに近づく。
ラーミルさんは僕が何をしようと考えているか察したようで、笑顔と共に目をつぶる。
心臓がバクバク言い出すが、それを押し殺しラーミルさんにキスをしようとする……が、視線を感じてチラッと横を見ると、アムルとフィブリラ嬢がガン見していた。
お前ら、何見てる!
特にアムル、お前寝てたんじゃなかったのか!
二人してニヤニヤしやがって!
え~い、これ以上待たせるわけにはいかん!
ンチュッ!
チュッ!
激し目にキスをして――
えろれろ……ぢゅるるっ、ぢゅるっ!
ごくん!
――ラーミルさんと舌を絡め、唾液を啜り、飲み干す。
アムル(お姫様抱っこ中)とフィブリラ嬢(ラーミルさんにもたれ中)がキスシーンをガン見しているのが少々気になるが、スルーしつつラーミルさんの唇をたっぷり堪能する。
互いに満足できたようで、同時に唇を離す。
眼を合わせ、少し照れつつ改めてお休みの挨拶をして別れる。
そのままアムルを少し持ち替え、膝裏で支えていたのを尻あたりに掌が来るように持ち替え、寝室に入る。
「ニフェール兄様……凄かったです」
「……見ていいとは誰も言っていないんだがなぁ?
貴様は誰の許可を取って覗き見しているのだ?」
ビ ク ッ !
「オ・シ・オ・キ・だな♪」
アムルの表情が激変する。
幸せ六割興奮四割の表情から恐怖十割に。
急ぎ逃げるため身体をバネのように跳ね上げようとするアムル。
それを防ぐため支えていた力を抜き、跳ね上げる力を逃がす僕。
それは指に止まった小鳥が勢いをつけて飛び立とうとするように。
それは小鳥が飛ぼうとした時に指を軽く下げ飛ぶ勢いを殺す格闘家のように。
身体能力的に高レベルの争いを低レベルな理由で振るいあう兄弟がここにいた。
跳ね上げ失敗し頭の中が真っ白になったアムルを尻目に身体を前後逆転させ尻叩きの構えを取る僕。
軽く尻を撫でるとアムルは「ヒッ!」と怯えだす。
……姉様たちとは違うからな?
……性的に怯えることはないからな?
右手を振り上げる僕。
ギュッと目を瞑り痛みに耐えようとするアムル。
振り上げた右手を尻に振り下ろす!
ペチッ
「……へ?
あれ?」
「本気で叩くと思ったのか?
反省してればそれ以上はしないよ。
それとも反省してない?」
「いや……茶化してゴメン」
「反省してるならそれでいい」
手抜きとしか言いようがない、むしろ撫でるために触れて来たと思われても仕方ない位に弱い衝撃に混乱するアムル。
本気で叩かれると思ったんだろうなぁ。
「ほら、さっさと寝るぞ」
「あ、は~い」
なぜだか分からんが、アムルが僕にピッタリ寄り添ってきた。
軽く頭を撫でて考える。
このシチュエーション姉様たちが見たら暴走するんだろうな。
そして夜が明け、領地に出発する。
アゼル兄とマーニ兄は死にかけているが、誰も触れない。
姉様方はお肌ツルツルだが、こちらも誰も触れない。
複数の馬車に分乗し領地へ出発!
移動中は皆にこやかな雰囲気でホッとしている。
運よく(?)アゼル兄夫婦やマーニ兄たちとは別の馬車なので居眠りシーンを見ることは出来ないが、代わりにアムルとフィブリラ嬢がキャッキャウフフな会話をするのに癒されている。
ナットとルーシーもこちらに入れているが、アムルたちの光属性な笑顔に召されかけている。
全くヘタレなんだから。
とはいえ、カールラ姉様やロッティ姉様も召されるのだろけどね。
笑顔で耐えきりそうなのは……ジャーヴィン家のサプル夫人とチアゼム家のアニス夫人位?
あのお二人、要所要所で一瞬暴走しているけどかなりの部分は隠しきっておられるからなぁ。
そんなことを考えていると休憩の為停車する。
アムルと一緒に馬へ水や飼い葉を与えるのを手伝おうとすると、カルとカリムが驚き止めさせようとする。
「おいおい、ニフェール様。
こういうのはうちらの仕事だろ?
仕事奪ってどうすんだよ?」
「カル、勘違いしているようだが、ジーピン家では普通に僕たちも手伝うよ?
他の貴族家では違うっぽいけどね」
「え゛?」
「そりゃ、うちは武官系貴族だし?
馬に水や飼い葉を与える程度の事できないようじゃ武官として役立たずでしょ?」
いや、文官系貴族なら任せるのが普通だろうけど、武官である以上このくらいはできなきゃねぇ。
ここで覚えておけば後々授業で困ることも無いしね。
「当然、二人の仕事を奪うとかは考えてないよ?
だからアゼル兄やマーニ兄は領主の立場になったからやらないようにしてる。
だけど、僕たちは騎士科生徒、もしくは入学予定だから訓練のために一緒にやっているんだ。
多分だけどマーニ兄も今回王都に来るときには手伝ってたんじゃないかな?
正式に貴族位を賜るまではただの騎士科卒業生でしかないし」
僕の物言いに唖然とする二人。
「……過去に、仕事で潜り込んだ家が騎士の家だったんだけど、子供たちは馬の手入れや水や飼い葉を与えるなんてやってなかったぞ?」
「それは家毎の考え方じゃない?
今騎士でも爵位と領地を貰うのを目標としている人たちからしたらただの通過点だし」
カリムの疑問に答えると、「あぁ……確かに剣を振るのもちゃんとできなかったな、あそこのクソガキ」とボソッと呟く。
そんな使えない奴だったんだ。
まぁ、下手に強い騎士を暗殺するなんて言ったらカリムが今生きていられないだろうし、そう考えるとラッキーだったのかな?
「ちなみに、馬の面倒見たら軽く柔軟体操するからね。
特にカルとカリム。
御者していると尻が痛いとか背中痛いとかあるんじゃないの?」
「既に尻が割れそうだよ!」
「だから体をほぐすんだよ。
二人が苦しむのを見て悦ぶほど特殊な性癖はしてないつもりだし?」
最悪僕の命令でやらせようかと思ったが、当人たちも痛みを軽減するためにほぐすのが必要なのは理解できているようで、手を抜かず柔軟体操をしていた。
ナットやルーシーも一緒にやって、追加で依然教えた冷え性改善のツボ押しもちゃんとやっていたのを見て、指導が無駄じゃなかったとホッとする。
教えても覚えようとしないと、教えた側としては気力が萎えるからなぁ。




