20
朝。
さわやかな目覚め――一般的には――と共に元気に起きる――普通なら。
アゼル兄&カールラ姉様、やかましすぎるんだよ!
いや、シチュエーション的には確かに燃える(萌える?)のは分かるよ?
結婚式の時点から暴走してたし、こちらもある程度諦めはついていたよ?
でも朝までサカリ場開くなや!
見ろ!
皆寝不足じゃねぇか!
どころか使用人の皆さんもとても困ってらっしゃるぞ!
……一部は興奮しているみたいだけど。
というか、僕たちも寝不足なんですけどねぇ。
「ニフェール、あれどうにかならんか?」
「父上、性行為未経験の僕に聞かないでください。
経験者として対処方法無いのですか?」
「あれば既にやっている。
というか、なんでここまで……」
ジャーヴィン侯爵も同様に首を捻っているが……サカっている理由気づいてないの?
「フェーリオ、昨日結婚式の最中に説明したこと覚えてる?」
「……ああ、覚えてる」
「ここで侯爵とうちの父親に説明して」
「……マジ?」
「マジマジ。
二人とも分かっていないようだから、頼むよ」
そんなこと言うと「ヤレヤレ、仕方ねぇなぁ」という雰囲気をしつつも、ちょっと偉そうにできるのを楽しんでいるようだ。
一通りフェーリオが説明すると、父親共はガックリ来てしまったようだ。
そりゃそうだよなぁ、父親の「娘と離れるのを遅らせたい」という想いがカールラ姉様が暴走する原因だと気づいてしまった。
そりゃ凹むよなぁ。
「一応補足ですが、いまフェーリオが説明したのは推測にすぎません。
ただ、学園生の間暴走は起こらず、離れている時間が増えたら暴走が増えたとなると、可能性は高いかと思います」
「そうか……」
なお、父親組はうちの母上とサプル奥様から冷たい視線をプレゼントされている模様。
諦めなさい。
今までアンタらが結婚様子見を言い続けていたのが今ここで跳ね返ってるんだからな?
「ちなみに、皆さん今日はどうされますか?」
サプル奥様から質問が飛ぶが、どうしましょうね?
「なにはともあれ連絡待ちですね。
騎士たちが暗殺者ギルドから確保した資料、引き渡した暗殺者、そして反逆者の抽出。
この辺りが終わってからでしょうから」
「ならどうする?」
母上のツッコミが来るが……どうしよう?
「今やれることってほとんどないんですよね……あっ!」
やべっ、一つ思いついちゃった。
「新しい四人を軽く訓練しましょうか?」
「いいねぇ」
マーニ兄、反応良すぎ。
「一応勘違いしないで欲しいのですが、やるとしたらどれだけ身体を動かせるかを確認する形になりますからね?
多分、あの四人、僕たちが六歳くらいの身体能力しかないですからね?」
「えっ?」
やっぱり期待し過ぎていたな?
僕も通った道だけど。
「例えば、僕らは学園に身体能力だけで忍び込むことできますし、寮の三階の部屋の窓に近づくことができます。
でも大半の人はできないそうです」
「え、ニフェール兄様、それ本当なのですか?」
「アムル、驚くかもしれないが事実なんだ。
実際カリムとナットに軽い気持ちで『寮の三階の部屋に入ってきて』と言ったら『縄梯子とか登る手段用意しないと無理!』だそうだ」
ショックを受ける我が家。
「それが普通じゃないの?」と困惑するジャーヴィン侯爵家。
認識の格差が表に出てしまった瞬間であった。
「なら、今日はどうするつもりなんだ?」
「ざっと身体能力確認したら、柔軟を軽く教えるくらいかな」
「なら俺は寝るよ。
ゆっくり眠れなかったしな」
まぁそうだよね。
準備運動の為にいなきゃいけない理由は無いしね。
「僕はどうしようかな……」
「連絡待ちなので動けない以上大人しくしているしかないぞ?
まぁフィブリラ嬢が遊びに来るなら別だが」
「流石にそこまでは予定立ててないです……」
だろうね。
「まぁ、暇潰したいなら見に来たらいい」
「ん~、そうですね、ちょっとだけ参加します」
この会話を聞いてフェーリオが呆れていた。
そこまで呆れる話じゃないと思うんだがなぁ。
「いや、かなり呆れるからな?
どんだけ無茶な行動を強いるんだ?」
「ん~、まったく無茶なことはしていないはずなんだが……」
「……お前の家は常識を覚えることから始めた方がいいぞ?」
それは難しいかな。
うちの常識を変える気は無いとかじゃなくて、つい最近僕がやっとこの事態に気づいたってのにいきなり突っ走ることはできない。
常識を変える前に「常識とは?」という命題を確認し、現状とすり合わせ可能か確認し、そして他者が受け入れられるものに変化させなくてはならない。
そこまでできて初めて指導に入れるというのに。
うちの家族は上記の命題確認より前、常識が異なるということを今知ったばかりだ。
そんな状態でどうにかできるはずないだろ?
最悪「あれより簡単だからこれならできるだろ?」と考えて指導される側からすれば難度が一切変わっていない指示を受けることになってしまう。
とりあえずは今日これからやる柔軟がどれだけできるのか。
それによって僕たちの常識を書き換えなければならない。
かなりの差があるのだろうが、可能な限り差を縮めなければ……。
カリムたちに声を掛けて四人を連れて中庭を使わせてもらう。
フェーリオもアムルと一緒に様子見に来たが……お前、暇なのか?
「とりあえず、あまり眠れなかったと思う」
会話が苦笑から始まってしまった。
「正直僕も眠いが、ちょっと互いの認識合わせをさせて欲しい。
……この時間に仮眠取っちゃうと後で寝れなくなってお肌のノリが悪くなりそうなので」
カリムとカルが苦笑している。
お前ら、数年後泣いても知らんぞ?
ナットとルーシーは……真剣に聞いているな。
もしかして早くも曲がり角か?
「認識合わせの内容は、皆の身体能力だ」
カリムとナットは表情を変え、カルとルーシーは……特に反応が無いな。
「んで、ちょっと確認なのだが、カルとルーシーはギルドでどのような立場、どのような仕事をしていた?
何となく、ルーシーは暗殺の仕事はしてない気がしたんだが」
「そうだな、書類整理メインで暗殺経験は無い。
俺は経験はあるが、現場離れて結構経つからカリムやナットに勝てるか分からん」
あぁ、管理職になったら現場の雰囲気を忘れたとかそんな感じか?
「まぁ今日は柔軟を軽くしたいと思う。
これはルーシーも参加してくれ。
肩こりや腰痛を軽減できる可能性があるぞ?」
キュピーン!!
「本当ですか?!」
「確実ではないがね。
肩こり、腰痛とも理由の一つが身体を動かさないことによる筋肉のこわばりが原因の場合がある」
「ぜひ教えてください!!」
あぁ、書類仕事で大変だったんだね?
カル、お前気を使ってやれよ!
ほっとくと、本気で肩上がらなくなったりするからな?
そんなこんなで柔軟を軽く教えてみた……んだが、お前ら身体固すぎねぇか?
ルーシーはカラダ動かしてないようだからやむを得ない部分はあると思う。
でも、カリム、ナット、カル。
お前らもルーシーと違いが感じられないんだが?
もしかするとカルが少しマシなのかもしれないが、誤差過ぎて判断付かない。
「なぁ、ルーシー以外の三名。
お前ら本当に暗殺者だったのか?」
「何バカ言ってる!
暗殺者なんてのは、名乗ったもん勝ちなんだよ!」
カル、そりゃ無いわ。
そんなふざけたしごとしてたら、依頼主が離れていくだろうに。
呆れているとマギーのおっちゃんも様子を見に来たようだ。
「そんなふざけたこと抜かしてたら以前の者たちも手を退くはずだわ。
どんなギルドであれ、信用第一だろうに」
「げっ!
マギーさんなぜここに!」
「ニフェール坊ちゃんがお前たちの身体能力を確認すると聞いてな、様子を見に来た。
まぁ、想定通りの評価だったがな」
何も言い返せないカル。
「ねぇ、マギーのおっちゃん。
カルっておっちゃんがマスターだったころ上位者だったり中堅どころだったりしたの?」
「いんや?
こいつ当時の新入り……とまではいわないが、下っ端だよ。
ルーシーと一緒にな。
むしろよくこいつらでギルド再構築したと驚いているくらいだ」
下っ端レベルでギルド再構築?
そりゃ僕でも驚くな。
というか、どうやって?
おっちゃんはその理由に気づいていたようで、悪戯するような表情で追及していく。
「カル、どうやって再構築した?
どこかの貴族と仲良くしたか?」
ビクッ!
「当たりか。
ディーマス家から金貰って何とか再構築したってところかい?」
「仕方ねぇじゃねぇか!
再構築するにも金は要るんだからよ!」
「その結果あいつらの僕になった挙句全滅だろ?
あいつらも浮かばれねぇよなぁ」
歯を食いしばるカル。
まぁ、実際フォローしようがないしな。
全滅させたのうちの家だし。
「一応言っておくが、次は無いからな?
この家の面々の恐ろしさをまだ理解していないようだが、ここでは馬鹿なことは考えるなよ?」
あらあら、マギーのおっちゃん優しいね。
どうしたの?
「俺が大奥様にされたことがお前に降りかかるんだぞ?!
死にたくなければ、絶対バカなことはするな!」
あ……実体験ですか。
ご愁傷さまです。
とはいえ、カルとルーシーは戦闘中の状況を見てないからなぁ。
多分すぐには受け入れられないと思うぞ。
実際今も誤魔化しているつもりだろうけど話まともに聞いてないのバレバレだし。
仕方ない、少し個々の危険性を理解させとくか。
「ん~、おっちゃん。
多分言葉じゃ伝わらないと思うよ。
カル、確かルーシーと一緒でうちの家が何やらかしたかはカリムとナットの報告でしか知らないんだよな?」
「そうだな、確かに実際目にすることは無かったなぁ」
だから、そんな甘っちょろい発言できるんだな?
「なら、少し遊ぼうか。
武器持っていいから、僕を殺しに来な。
僕は素手で、かつ三分は攻撃しないから。
それと、解禁後一分だけ攻撃時間貰って、その後また三分攻撃しないってのはどうかな?
ついでに、攻撃解禁中もカルには触れないよ」
ヒクッ!
「いや、流石に新しい雇い主を傷つけるなんて……」
「大丈夫だよ、触れることさえできないんだし」
言葉だけならカルは善意で言ってるように聞こえるが、目が嗤ってるぞ?
カリム、ナット、天を仰がなくていいから。
ルーシー、カリムたちの行動から感づいたな?
顔色がとても悪いが、黙っててね。
「マギーのおっちゃん、合図と時間切り替えになったら教えて」
「まぁいいですけど……」
イヤイヤそうに見せてるけど、目が嗤ってるぞ?
変なところでカルとそっくりだ。
直接言ったら機嫌損ねそうだけど。
「おいニフェール、大丈夫なのか?」
「……まさか、お前まで信用していないとは思ってなかったよ」
フェーリオ、流石に僕は悲しくなっちゃうよ?
「いや、三分攻撃しないは十分可能だけど、その後の攻撃解禁中も触れないって……」
「大丈夫、できるから言ってるんだし。
まぁ大船に乗ったつもりで見てなよ」
カルもルーシーが止めようとするのを安心させている。
まぁ、後でルーシーに「人の言うこと聞きなさい!」とか言われなさい。
……あれ、もしかしてかかあ天下一直線?
……まぁいいか。
「あれ、カル?
武器はいらないの?」
「流石に素手の相手に武器持ってもなぁ……」
おっちゃんと僕の視線が交差する。
多分、おっちゃんも同じこと思ってるんだろう。
「まぁ、それがカルの判断なら構わないよ。
あ、一応言っておくけど、後付けで武器欲しいとか言わないでね?
面倒だから」
「あぁ、大丈夫だ」
マギーのおっちゃんが双方を見て一言。
「カル、ぼっちゃん、よろしいですかね?
では、開始!」




