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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
5:長兄の結婚式
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11

◇◇◇◇


 僕、ニフェールが先程から仕込んでいる手口。

 多分、今頃全力で集中している禿も、見物客よろしく暗殺の仕事忘れてみているカリムたちも同じように”周りから音が消えていく”ように感じているだろう。


 まぁカラクリは簡単(?)なんだけどね。



 まず教会の敷地内で暴れている輩はマーニ兄と僕で片付けた。

 ここまでは相手にも分かるだろう。


 次に周囲。

 教会の敷地の外は本来僕たちが何かできるわけではない。



 ならどうするか?

 答えは簡単。

 殺気を薄く、可能な限り広く放つ。



 薄く放っても少し離れたところにいる人間は気づかない。

 だが、人間より反応が早い虫や犬猫は薄くても気づく。

 そして即刻逃げ出す。

 まぁ、飼い犬・飼い猫なら怯えて丸くなるくらいか?


 そして殺気を少しづつ増やす。

 集中している人間は気づきづらいが普通の生活をしている人間には気づく者が増えてくる。


 気づいたものから逃走するか、怯えて動けなくなるか、気絶する。

 これを繰り返すことで、周囲の音が消えていく。



 この作戦のキモとして、相手(今回は禿)や周囲(今回はカリムたち)が気づきづらい点がある。

 ただでさえ戦闘中、殺気なんぞ周囲にばらまきまくっているので誰も気づかない。


 本来だったら教会の庭での戦闘が終われば周囲も動き出す。

 音が消えるのは戦闘中のみのはず。


 だが殺気が撒かれているおかげで周囲の人間は未だ戦闘中と認識する。

 危険なところに近寄りたい奴はいない。

 結果、”周りから音が消えていく”。



 わざわざこんなことをしたのは、この教会が殺戮の場所となったことを広めない為。

 完全に情報を遮断することは難しいけど、現場を見ることが無ければただの戯言と切って捨てることができる。

 アゼル兄とカールラ姉様の結婚式を(実際に血塗れだったとしても)呪われた結婚式なんて言われたくないからね。


 多分、マーニ兄も似たような手口を使っているんじゃないかな?

 いる方向から殺気がビンビン飛んでくるし。




 そして、禿対策としての組み立て型クロスボウ。

 昔から腰溜めに撃つことを訓練しておいたので誤射率はかなり軽減している。

 とはいえ必中という訳ではないが。



 さて、禿がどんな手を考えているのか知らないが、かなり集中しているようだ。

 カウンター狙いかな?

 腰溜めで撃つ際の命中率の低さに期待しているんだろうなぁ。



 ヒ ュ ー



 そよ風がなびく。

 こんなタイミングで撃ったら命中率は三割に満たないだろうな。


 無風、湿度低く、射線に障害物無しがベスト。

 射線、湿度は問題ないが、風はどう考えても不味い。


 このままでは撃てない、撃っても当たらない。

 多分こんな時は教会なんだし神にでも祈るのだろうが……。

 うちの家族に神のご加護は無いだろうな。



 ヒ ュ ー



 【魔王】だの【死神】だの、個人的に考えている【邪神】だの、神に喧嘩売るようなタイプのメンバーしかいないからなぁ。


 え?

 【女教皇】がいるって?


 あの人は特殊な方面では教皇だが、それを普通の人は聖なるものとは思わないからなぁ。

 むしろ性なるもの?



 どれも加護はなさそうだ。

 むしろ天罰食らいそう。



 ヒ ュ ー



 ったく、仕方ない。


 僕にとって


 一番愛しく


 一番尊く


 一番神聖な


 そんな女性(ひと)に祈ろうか。




 ラーミルさん




 僕に……加護を!



 

 ヒ ュ ー … … 




 風が……凪いだ!



 ヒュン!

 ヒュン!




 僕が放った矢は……禿の左肩に突き刺さる!

 禿の放った矢は……僕の足元に突き刺さる!




「ぎゃああぁぁ!!」



 禿の苦悶の叫びが聞こえる。

 抑えている部分からすると、左腕の付け根。

 最低でもここ数週間はクロスボウを支えることはできず、ナイフを持つこともできないだろう。



 喜びたいところだが、次の射撃準備に入る。

 鍛え上げた筋肉で弦を引き上げ次の矢を射る準備をする。


 ……なぜか騎士科の皆「そんなことできねぇよ!」とか言うんだよなぁ。

 うちの家族ほぼ全員出来るのに。

 できないのは……父上くらいか?



 ド サ ッ !

 ガ タ ガ タ ッ !



 準備完了、相手が動けないうちに次の矢を放とうとしたところ、禿が屋根から落ちた。

 いや、落ちただけではなくその後逃げようとでもしたのだろうか、音がまだ響いている。

 カリムたちの方を見て手招きすると慌ててやってくる。



「禿を追ってくれ。

 顔合わせる必要は無いが、どこに雲隠れするつもりなのか把握したい。

 それおわったらここに戻ってくれ。

 仮にここに誰もいなかったらジャーヴィン侯爵の家に」


「あぁ、任せろ」



 二人が消えて行った後、マーニ兄と合流する。



「腰溜めでよく当てたな」

「一応過去に訓練していたんで何とかなると思ったんだ」


「それにタイミングよく風が凪いだな」

「そこは信心の問題じゃない?」

「まぁ確かに教会だからなぁ」



 別の意味で言ったんだが、まぁ勘違いしているのは仕方ないか。

 ラーミル教の信者は既に二人(カリム、ナット)確保しているからな。

 無理に増やす必要は無いし、どうせマーニ兄はロッティ教の狂信者だろうから誘っても無駄だ。



「さて、これからどうする?」


「まず、教会内の面々に情報を伝え、その後陛下を王城に連れて帰ってもらう。

 ただ、移動手段が無いので、王城まで僕の方でひとっ走りしてこようかなと」

「教会の馬でも借りれればお願いしたいね」

「確かに」



 二人で教会内に入り、現状を説明する。

 うちの家族と婚約者はフンフン聞いているだけだが、両侯爵家と王家・大公家は呆れを含んだ表情を見せてくる。

 ……あきらめて慣れて?



「そんなわけで陛下、王城に騎士を呼びに向かいますの暫しお時間を頂きたい」

「あぁ、構わん。

 ついでにこれを貸しておこう」



 と言って渡されたのが指輪。

 ……求婚の意味じゃないからな?

 今男装中だからな?



 王家の紋章が入っていることから、これを見せればほぼフリーパスで動けるはずとのこと。

 これはありがたい。


 教会側も馬を貸していただけるということなので、そのまま僕が乗馬して王城へ。

 念の為マーニ兄とアムルが外を監視するそうだ。


 ……フィブリラ嬢と一緒にいなくていいのか聞いたが、ちゃんと仕事できる人だって見られたいらしい。

 若いねぇ、僕が言う内容じゃないけれど。



 念の為、カリムたちのことも説明したうえで馬上の人となって王城へ急ぐ。

 教会から少々離れているが、特に邪魔もなく到着する。



「止まれ!

 何者だ!」

「ジーピン男爵家三男、ニフェールといいます。

 ちょっと大声では言いづらいので、お耳を……」



 門番はこちらを見て耳を貸そうとする。

 もしかして、陛下がジーピン家の結婚式に参列すること知ってたか?



 こっそり、事態を説明する。



「陛下が結婚式にご出席されていることご存じですか?」

「あぁ、その件か」


「騎士たちが裏切りました。

 暗殺者と共に教会内の全員を殺そうとしました」

「な……」


「既に一通り殺処分しましたが、陛下を王城に戻す人員と状況調査や死体処分の人員が足らないので、こちらにいる騎士たちを呼びに上がりました。

 なお、これをご覧ください」



 指輪を見せると、表情を変えすぐに入場許可をくれた。



「ちなみに、騎士のラクナ殿が何処にいるのかご存じですか?」

「訓練場にいるはずだ。

 左にまっすぐ行けば到着する」

「ありがとうございます」



 急ぎ訓練場に向かうと、ラクナ殿が訓示を垂れていた。



「失礼する!

 ラクナ殿、手を貸してほしい!」



 しゃべろうとしたところで邪魔をされ少しムッとするラクナ殿。

 だが、血の臭いがこびりついているのに気づくと表情を変えこちらに問いただす。



「何を望む!」

「陛下を王城にお連れする人員、そして陛下を弑しようとした奴らの処理を!

 そして暗殺者ギルドの壊滅の援護を!」


「……最初は理解できるのだが、後の二つは?」


「裏切りの騎士たちと暗殺者はまとめてジーピン家で処理しました。

 なので、教会は死体まみれではありますが安全な場所となっております。

 ですが、このままにしとく訳にはいかないのはご理解いただけるかと?」


「確かにな。

 で、最後の一つは?」



 ちょっと笑顔を見せて僕は答える。

 ねぇ、ラクナ殿、なぜ引く?

 笑顔見せてるのに?



「うちの長兄の結婚式邪魔したので、滅ぼそうかと。

 ただ、どうせ滅ぼすのなら同時に国王暗殺の裏取りが必要かと思いました。

 我らジーピン家で壊滅させますので、その後の死体処理と情報収集をお願いしたい」



 かなりうちの家に都合のいい内容でしかない。

 だが、ラクナ殿はこちらの無茶な依頼を受け入れてくれた。



「よく受け入れる気になりましね?」


「うちの騎士団の中で暗殺者ギルド壊滅して来いと言われて動ける奴らはいない。

 良くて退団届けをだし、普通で行方不明。

 悪くて暗殺者ギルドの味方となり情報を横流しする

 それに比べれば楽させてもらうんだ。

 死体処理や情報収集なんて楽なもんだよ」



 ……そこまで騎士団期待できないの?



「……この国の未来がとてつもなく不安なんだけど?」

「だからこそ、お前やマーニ殿に来て欲しいんだがね」



 僕らが入ったら皆退団届けだしそうだけど?



「まぁともかく急ぎ教会に迎えに行きましょう」

「おう、そうだな」



 その後すぐに陛下のご乗車される馬車を用意して教会に移動する。

 到着後、死体が散乱している所に陛下をお連れするのはまずいと言うことで早急に死体処理が始まる。


 その間、マーニ兄とアムルは僕と一緒に教会の中へ。

 いても邪魔にしかならないし。

 それとラクナ殿は報告のために付きそうそうだ。



「陛下、お待たせしております」



 ラクナ殿が陛下に跪き報告をする。



「教会の内外の死体処理の為、今しばらくお時間を頂きたく」

「ふむ、致し方あるまい。

 この後の暗殺者ギルドの壊滅予定もある。

 あまりのんびりとはしてほしく無いが、確実に遂行せよ」

「はっ!」



 ラクナ殿が動こうとするところで僕はちょっと待ってもらう。



「ラクナ殿、ちょっとばかしお願いが」



 ……そこまで嫌そうな顔しないでくださいよぉ。



「今、僕の部下二名を調査のために外に出してます。

 年齢は僕とそう変わらない男女。

 その二人が戻ってきたらここに連れてきていただけませんか?」



 なぜかかなりホッとしているんだが、何故?

 もっと面倒なこと言われると思った?



「あぁ、その位なら構わぬ。

 では陛下、片付け次第お声がけいたしますので、今しばらくお待ちいただけますよう」



 礼をしてラクナ殿は去っていく。

 ……陛下の御前でビビったとかじゃないよね?



「さて、時間も空いていることだしどうしようかねぇ」



 母上、暇なんですね。



「なら、続きをしたら?」

「は?」

「え?」



 ……ちょっと待って。

 母上だけじゃなくアゼル兄まで何、その反応は?



「僕の記憶が確かならば、相手が攻めてきたのは確かアノ時だよね?」



 左手の薬指(・・・・・)だけを前に突き出し、他の指は丸める。

 右手の(・・・)親指と人差し指で輪を作り、左手の薬指(・・・・・)の抜き差しを繰り返す。



「ちょ、ちょっとニフェール!

 お前何やってだよ!

 こんなところでそんなイヤらしい行動してんじゃねぇよ!」

「……結婚指輪を左の薬指にはめるのはイヤらしいの?」



 フェーリオの暴走に僕は一言で返す。

 一斉に静まり返る教会。

 真っ赤になるフェーリオ。



 ケケケ、ひ~っかか~った♪



「司祭様、指輪の交換の後の流れって教えていただけます?

 元の予定が知りたくて」


「あ、あぁ。

 交換の後は誓いのキス、そして来客に対して新郎が一言礼を申し上げておしまいですな。

 流石に死体片付け中に庭に出て祝うのは無理でしょうから、やれるとしてここまででしょう」


「であれば、アゼル兄、カールラ姉様。

 誓いのキスと新郎の一言やって結婚式をちゃんと終わらせたらどう?」



 どうせ、死体片付け時間かかるだろうしね。



「え、あ、えっ?」



 アゼル兄、何へたれてんの!



「いいわねぇ、ニフェールちゃん、いい提案よ♡」



 カールラ姉様、ヨダレ拭いて。

 ウェディングドレスに付いちゃう!



「なら、どうする?

 指輪の交換のリトライからでもいいと思うけど?」

「ううん、誓いのキスからで♡」



 カールラ姉様、ハイエナ化してません?

 むしろドラゴン化?


 アゼル兄、ウサギにしか見えませんが何に怯えているんです?

 仮にも【魔王】でしょ?




「さぁ……」




 なんか、【女帝】様がアップを始めましたが?




「アゼル♡」




 暗殺者を肉塊に変えるアゼル兄が――




「シましょう?」




 ――生贄にしか見えないんですけど?!



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― 新着の感想 ―
[良い点] >うちの騎士団の中で暗殺者ギルド壊滅して来いと言われて動ける奴らはいない。 >良くて退団届けをだし、普通で行方不明。 >悪くて暗殺者ギルドの味方となり情報を横流しする 騎士団内良識派(?…
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