12
「さぁ……アゼル♡
シましょう?(ペロリ)」
ドラゴンと兎が相対する。
どっちがどっちかは説明しない。
流石に兄をこれ以上追いつめるのは弟としてできない。
「いや、ここまで追いつめてるお前がいうなや」
「フェーリオ、お前五月蠅い」
そんなことを言っている間に兎の唇がドラゴンに喰われた。
キスだよね?
捕食じゃないよね?
「うちの姉をあそこまで暴走させといてそれを言うか?」
「……それを言われると何も言えなくなるな」
「自覚はあったのか……」
自覚無くして【女帝】を暴走なぞさせんよ。
でも、姉様幸せそうだからなぁ。
「幸せそうなのは分かるが、常識の範囲内で押さえて欲しいのだがな」
「姉様が常識の範囲内で収まると思っているお前が怖いよ、フェーリオ」
「いや、そりゃそうなんだが……無理か?」
「無理無理。
でも今後は暴走は減ると思うよ」
「へ?
なぜ?」
「アゼル兄といつも一緒にいることになるから。
暴走の原因ってアゼル兄と付き合ったのが原因じゃないの?」
「え゛?」
「正確に言うと、付き合ってから一緒にいる時間が短くなったのが原因だと思ってたんだけど?
アゼル兄が領地に戻っちゃったから。
学園卒業まではちっちゃな子を見たとき以外で暴走してないんじゃない?」
「……あぁ!」
……気づいてなかったの?
……お前姉様の家族でしょ?
「結婚して一緒にいるのが当たり前になれば、暴走自体は収束するよ。
まぁ、小さい子を見たら暴走するのは落ち着くのはもう少し後だと思うけど」
「へ、なぜ?」
「二人の子供ができたら落ち着くとか無いかなと期待している。
まぁ、それまではアムルとフィブリラ嬢がオモチャになるくらいかな」
「……たまに思うんだが、お前悪魔とか言わないよな?」
「失礼な、ちゃんと擬態しているぞ?」
「擬態言ってる時点でアウトだろ」
こんなバカ話をフェーリオとしているが、まだ喰らいついている。
……兎側、窒息気味でない?
そんな時、(兎側にとって)勇者が現れた!
「陛下、馬車の準備が終わりました!
ささ、王妃様と共に馬車……」
この事態を何と説明すればいいのだろう。
【女帝】の一睨みで動けなくなる勇者ラクナ。
【女帝】に喰らわれ動けない【魔王】アゼル。
この事態をどうやってまとめようと頭を抱える【狂犬】ニフェール。
フェーリオをチラッと見るが、即刻視線を逸らしやがった。
テメェ、ジル嬢焚きつけるぞ?
一つ溜息を付いて、覚悟を決め竜の説得に向かう子犬たる僕。
「カールラ姉様、そろそろ終わりだよ」
ドラゴンは兎を抱きしめてイヤイヤと駄々をこねる。
仕方ない、アゼル兄には申し訳ないがちょっと頑張っていただこう――
「姉様、前菜で満足しちゃうの?
メインディッシュは夕食会後でしょ?
ここは一時終わらせて、夕食会というスープまでちょっとお休みしたらどうかな?」
――夜に。
僕のこの発言に目を輝かせるドラゴン。
僕のこの発言に目が死んでいく兎。
兎への申し訳なさとドラゴンへの怯えから苦悩の表情をする勇者。
三者三様の表情を見せ、ドラゴンは兎を解放する。
「さ、アゼル兄、皆さんに一言ご挨拶して式を終わらせよ?」
ハッとするアゼル兄。
まぁドラゴンに喰われていたらそんな些末事忘れるのは仕方ない。
淡々と出席した各位へ御礼の挨拶をするアゼル兄。
それを見守る者たちは皆祝福よりも別の感情を抱いていた。
道なき道を進む聖者への尊敬の視線。
売られていく仔牛を見る哀悼の視線。
そして何より、ドラゴンと同様に特定の人物たちがとある人たちに向ける捕食の視線。
……誰がどの視線だかはノーコメントで。
なお、アムルとフィブリラ嬢は純粋な祝福をしてました。
……今後もそのままでいておくれ、いや本当に。
陛下と王妃様はこれで王城に戻られる。
勇者――かわいそうなのでラクナ殿表記に戻すか――に見送られて馬車は王城に向かった。
残されたラクナ殿は馬車の通り道以外の場所にある死体の移動と処分におおわらわだ。
今僕たちは次の狙いである暗殺者ギルドの襲撃計画を整理している。
ある程度は事前に決めておいたので後は微調整だけなんだけど。
そんな話をしているとカリムが戻って来た。
あれ、ナットは?
「禿はダッシュの店に駆け込んだ。
ギルドには報告に行ってない。
とりあえず監視にナットを付けて俺は戻って来た」
ほぅ、ダッシュに頼ったか。
ギルドに頼ると思ってたんだがなぁ。
「なら、今からナットと合流。
そのままギルドに報告。
お前らが見たものをそのまま伝えたらいい」
頷くカリム。
「『禿は撃たれたら逃げてたけどギルドに戻ってないの?』と禿が先に逃げたことも印象付けておいてほしい」
……カリム、その表情はちょっと悪人っぽい。
気持ちは分かるが性格が顔に出てるぞ?
「で、ギルドとして逃走、隠密、反撃のどれかを選ぶと思うんで、まずその方針だけ聞いておいて。
その後は今日は戦闘できる状態じゃない旨伝えてギルドから逃げ出せ。
まぁ、逃走、隠密なら問題なく逃げだせるだろうけど」
「反撃の場合はどうする?」
「教会に戻ってうちらの監視してくると伝えたらいい。
逃走開始した時点でまだ教会にいたと言えば文句は言わないでしょ?
僕たちの姿を見たのは二人だけだし、二人を監視から外すことはありえないよ」
納得してくれたカリム。
「で、外に出られたら僕らに合流。
そこで情報交換の上待機。
ギルド壊滅したら僕らと一緒に禿退治。
分かった?」
頷き、ナットの所へ急ぐカリム。
ちょっと演技力必要だけど、後は信じるしかないな。
「さて、これで教会でやることは終わりですので、大公家と両侯爵家に伝令兵を送って馬車を連れてきてもらいましょう。
その後ジャーヴィン侯爵家に集合し夕食会の準備をお願いします。
ジーピン家はさっさと暴れて夕食会を祝勝会に変えましょうか」
「そうだな、少々血の匂いがこびりついてしまっているし、皆風呂に入りたいのではないかな?
各自綺麗になってからお集まりください。
ジーピン家一同は一通り終わったら我が家で風呂に入ればよろしい」
ジャーヴィン侯爵の許可も出たことだし、さっさと片付けて汗を流しますか。
ラクナ殿と現状を話し合うと、最低でもあと一時間はかかるということだ。
「暗殺者ギルドの場所は分かっているようなので、ジーピン家が先行して移動して構わん。
我々は部隊を二つに分け、死体処理班とギルド包囲班として行動する。
準備に少し時間がかかるが、先行して暴れないでほしい」
……フラグ?
いや、相手が準備終わらせる前に潰すのが基本でしょ?
何バカなこと言ってんの?
「ラクナ殿、わざわざ暗殺者ギルドの奴らを逃がしたいの?
わざわざ大勢でこちらが攻め入るのを教えてどうするんですか!」
「気持ちは分かるが、うちの騎士たちが暴れたがっているのだ」
「実力つけてから言って欲しいですね」
「気持ちは分かる。
下らん誇りを気にしているのだろう」
面倒くせえ……。
「なら、こちらはそちらの指示無視して暴れます。
ラクナ殿は我々に命じたがいうこと聞かなったという感じで如何?」
「……それなら何とかできるだろう。
全く、あ奴らは……」
そっちも大変ですねぇ。
「あぁ、ちなみに王宮に入り込んだ暗殺者いましたよね?
あの禿の潜伏先も把握しました。
協力者もまとめて叩き潰してきますのでそっちも邪魔しないでくださいね?」
「分かった、全て任せる。
こちらの馬鹿どもは何とかコントロールしてみるよ」
ホントに頼みますよ?
◇◇◇◇
急ぎ暗殺者ギルド前に向かった俺、カリムは監視しているナットを探すとあっさり見つかる。
「どんな感じだ?」
「全く外に出てこないわ。
ダッシュも中にいるみたい」
なら、ここは放置していいだろう。
ナットにニフェールからの指示を説明すると、ギルドマスターへの説明を任されてしまった。
おま、それ、ずるくね?
まぁ愚痴っても仕方ないので、諦めて説明担当になるとするか。
さて、ギルドに戻りますか。
「おっ、戻って来たか。
時間かかったようだが、他の奴らはどうした?」
のんきなギルドマスターが軽いノリで聞いてくる。
アゼルさんより年上っぽいが、ニフェールのご両親よりかは若そう。
この感じだと成功間違いなしとか思っているんだろうな。
「……全滅です」
「はぁ?」
「全滅です!
うちらギルドも騎士たちも全滅です!
生き残ったのは俺たち二人と禿だけのはずです!!」
一時呆けた表情をして、噛み付くように何が起こったか聞いてくる。
一通り説明するが、事態を受け入れるのに時間がかかっているようだ。
「それで、お前らと禿の三人しか生き延びなかったのか……」
「禿は左肩あたりを撃たれて屋根から落ちてそのまま逃げだしたから、既にこちらにいると思っていたんだが……帰ってきてないの?」
「いや、全く。
お前らが帰ってきて初めて事態が分かったくらいだ。
……お前ら、つけられてないよな?」
「多分。
一応、遠回りしてここに来たから見つかる可能性は低いと思う」
悩んでいるな?
逃げるか隠れるかだろうけど。
反撃するには戦力が足りなそうだしなぁ……。
「……よし、お前ら今日は帰れ。
それと最低二週間ほどはにここに近づくな、絶対だ」
「……隠れますか?」
「争えるわけがねぇだろ。
ギルドの全力に騎士加えても全滅するってどんだけだよ、ジーピン家ってのは」
まぁ、化け物軍団でしょうねぇ。
「こんなのに勝てるはずがねぇ。
なら雲隠れして一からやり直すさ。
ついでにあの依頼主はもう関わらないでおこう。
俺も少し準備したら逃げるわ。
お前らも元気で生き延びろよ?」
「あぁ。
……そうだ、一つ提案なんだが、依頼主との関わりが見つかって不味いとかあるか?」
「このギルドとの関係性がバレても俺たちには影響は無いな。
どうせ逃げるし。
ただ、依頼主からすればここがバレるのは死活問題だろうな」
ふむ、やっぱり。
「これ以上依頼主と関わる気は無いんだね?
それと、依頼主に義理立てする理由は?」
「無いな。
正直アッチが滅びても俺たちは困らない」
「なら、バレたらヤバそうな色々なやり取りの書類ってあるか?
それをワザととはバレない程度に残しておけば、俺たちが逃げる時間を稼げるんじゃね?」
ニフェールならやる!
絶対やる!
あの敵対者に対して容赦ないニフェールならこの程度やらないはずがない!
「分かった、その手口乗った!
疲れたところすまんが、手伝ってくれ」
「俺たち三人だけかい?」
「アイツもいるぞ?」
「あぁ、姐さんか。
どこ行ったんだ?」
「書類仕事にお疲れで今仮眠取ってるよ。
この後起こしてくる」
「あぁ……」
姐さんはこのギルドの書類担当。
ある意味一番仕事の多い場所だったりもする。
俺たちを含め、皆書類仕事苦手だし。
ちなみに、マスターの女だとかいう噂だが……。
「姐さん含めて四人か……ちょっと食事と飲み物買ってきてもいいか?
ナット、お前はマスターの仕事手伝え」
「ったく、仕方ないなぁ。
ちなみに、アタシ肉ね」
「俺も焼き肉頼む。
あいつは野菜系のやつで」
「りょ~かい」
俺はギルドを出てすぐにニフェール達を探……そうとしたら、既に居やがった。
早え~な~、そこまで殺したかったか?
「ナットと合流は出来なかったのか?」
「したよ。
今、中でマスターの仕事の手伝いさせている。
で、ちょっと交渉したい」
「?」
先ほどの話をニフェール達に一通り話す。
面々からは呆れた声がでるが、まあそれは仕方ないだろう。
「ちなみに、お前から見てマスターと姐さん(?)はどんな感じ?」
「俺たち並だが、それって普通か?」
普通であって欲しいんだが。
「暗殺者やってる時点で普通じゃないけど、まぁましな方じゃね?」
「ニフェール、お前何考えてる?」
次兄のマーニさんが指摘してくるが、想像つかないの?
俺でも想像つくのに。
「うちでマスターと姐さんをお持ち帰りすればよくね?」
「はぁ?」
ほら、やっぱり。
俺たちという実績あるからなぁ。
言うと思ったよ。
「カリムとナットを部下にしたように、マスターたち味方にしたら今後楽になるかなって思ったんだけど?」
「……お前、そんなに部下増やしてどうするつもりだ?」
「侍従、侍女、料理人、雇う必要のある相手は結構いるのでは?」
「部下全部暗殺者にするつもりかよ?!」
いやいや、流石にそれは無いでしょ。
……無いよな?
「全員ではないけど、役立つ人がいるのなら雇いたいしね。
マギーのおっちゃんみたいな人は貴重だと思うんだがなぁ」
「それには同意するが、その二人雇ってどうするつもりなんだ?」
「マーニ兄との相談によるけど……そっちがいらないのなら姐さんとやらはラーミルさんの補佐に、マスターだったかはカリムとナットの管理者かなぁ」
侍従長ってとこか?
……マスターってその手の仕事できたかなぁ?
まぁ当人と話して決めるんだろうけど。
「俺との相談ってどういうことだ?」
「マーニ兄が今回の件で爵位を得た際に確実に味方になる人物確保した方がいいんじゃないかなと思ったんだけど?」
「グッ……」
この弟、ヤバすぎねぇか?
マーニさん勝ち目薄そう……。




