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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
4:学園風景
52/362

15

 一応侯爵とラクナ殿に経緯を説明すると二人とも頭を抱え始めた。

 いや、僕たちもこの程度の覚悟も無くよく騎士になる気になったなと驚いてます。



「ちょっとあいつら再教育してくれ。

 流石にあんな情けない叫び声上げて逃げ出すなんて騎士として使えなさすぎる。

 しかも学園生の脅しに屈してるんだろ?

 そんな輩に騎士の仕事なんてやらせられない」


「えぇ、本当におっしゃる通りです……」



 ラクナ殿、滅茶苦茶落ち込んでますね。

 気持ちは分かりますけど。



「というか、さっきの人たちは他者との交渉って苦手なんです?」

「は?」



「『真剣では戦わない、こちらで訓練用の木剣を用意するからそれで戦おう』

 そう言うだけでよかったのですが、なぜ交渉しないのか分からないのですよ」



 見てたら分かると思いますけど、「十人一組で云々」と言ってから僕が一人で話していたんですよね?

 割り込んで断ればいい話なのに。


 そう言うと、二人はより落ち込んでしまった。


 ちなみに、騎士科でも交渉などの知識は授業で学べるはずだけど?

 領主科程の技術まではいかないまでも予算を取るための最低限の知識は学べるよね?

 今二年でやってるけど?



「ジャーヴィン侯爵、学園で学べる部分について再教育とかした方がよくないです?

 冗談抜きにしてここまでとは思ってなかったもんで……」

「あぁ、ちょっと本気で考えないとなぁ」


「ちなみに騎士科で卒業時筆記上位者――順位で言うと一桁位?――って何やっているんです?

 上位者なら流石にあんなくだらない手に引っかからないと思うんですが……」



 思いついたことをちょっと聞いてみると、ジャーヴィン侯爵もラクナ殿も視線を逸らす。


 ……おい、なんだその反応は?

 まさか追い出したとか言わねぇよな?



「ニフェール落ち着け、殺気が漏れ出てる。

 筆記上位者は基本的に騎士というより兵站業務に回されるんだ」


「……念の為確認ですが、それは筆記上位、実技下位の人がですか?」

「……筆記上位であれば問答無用で兵站業務だ。

 実技能力はその時点では見ていない」


「それって兵站できる程度の頭がない奴ら、筆記下位の者だけが騎士になる?」



 嫌な予感がして確認すると、コクンと首肯する。



「そんなことしてたら、必要な知識を持たない者が現場指揮官になるのでは?

 管理業務出来ない指揮官って……」



「分かる!

 言いたいことはよく分かる!

 だが、兵站側に頭脳要員集めないと回らないのだ!」



 いやいや、そんな……え、嘘でしょ?



「それに、筆記上位と言っても状況による」

「?」



「その年の騎士科学園生が全体的に成績下位レベルの者しかいない場合がある」



 ……え?

 確かに順位なんてその場にいる者の力量の評価でしかない。

 例えば筆記六割程度しか取れなくても他の学園生が四割しか取れてなければ筆記上位に成り上がれる。



「つまり、兵站業務をやっていけそうな人材自体がいない年もある?

 結果、いつでも兵站業務は人不足?」



 悲しそうに頷く侯爵。

 ダメじゃん!



「で、兵站業務できそうな人物を強制的に兵站担当にした結果、現場側は脳筋パラダイス?

 たまにまともな輩が入ってきても兵站はできない程度なので、管理業務ができる存在は砂漠で宝石を探すレベル?」



 悲しそうに頷くラクナ殿。

 ダメじゃん(二度目)!!



 いや、冗談抜きでこれ国傾きません?

 守りの要の騎士たちが脳筋しかいなくなるって……。


 皆で仲良く突撃しかできない騎士って罠とか側面からの奇襲の的じゃん!

 それに管理できない小隊――いや、大隊もだけど――なんて賊に毛が生えただけじゃん!



「よく騎士団を維持出来ましたね?」

「まだあるぞ」

「へっ?」



 侯爵が死んだ目でもう一つの問題をぶちまけてくる。

 いや、もう聞きたくないんですけど……。



「貴族派だ。

 あいつら頭はそれなりの者がいるのだが、兵站に回すと即刻着服と横流しを始める。

 そんな奴らを兵站側に置けない。

 結果、兵站の人手不足に拍車がかかる。

 今のところ根本である全体的な実力不足に隠れているが、十分に問題だ」



 うつむく侯爵とラクナ殿。

 ダメじゃん(三度目)!!!



 三連続のダメ出しをして流石に疲れた。

 いや、僕だけでなく侯爵もラクナ殿も疲れていた。

 本気でこの国大丈夫かよ?


 その後も愚痴の言い合い(傷のなめ合いとも言う)が続いたが「そろそろ解散か?」という雰囲気が出てきたところで一つ提案をする。



「ラクナ殿、すいませんがうちのマーニ兄と軽く一勝負お願いできませんか?」

「「え?」」



 いや、マーニ兄にラクナ殿、一緒に首捻らなくても。



「どうしたんだニフェール?」



 侯爵が尋ねてくる。



「さっきの逃げ出した奴ら、全く帰ってこないじゃないですか?

 なんで、ちょっとラクナ殿があいつらを叱責する際に使えるネタを用意しようかと」

「ほぅ?」



 侯爵、その喜ばしい表情は止めなさい。

 知らない人が見たら犯罪者にしか見えません。



「まず、あいつらが逃げた理由はちゃんとこちらと交渉せず、訓練用武器で戦おうと言わなかったこと。

 なので、ラクナ殿から提案をしてください。

 んで、こちらがそれを受け双方実力を試した。

 お前らは逃げ帰っただけだが、何やってたんだ。

 ちゃんと会話成立したし、実力も十分だったぞと言えればなお良し」



 話を聞きラクナ殿はニヤリと笑い質問してきた。



「おや、ニフェール殿とは戦えないのかな?」


「ん?

 いいですよ戦っても。

 単純にここに来てから仕事してないマーニ兄に仕事振りたかっただけですから」



 マーニ兄、視線逸らすな。



「それと、ちゃんと戦ってくれるんだろうな?

 会話成立までは確実に言うが、実力は嘘をつく気は無いぞ?」


「ええ、そこは戦ってからご自分の言葉で伝えてあげてください。

 ちなみに、マーニ兄も当時の騎士科で実技一位です。

 筆記はそこまでじゃなかった記憶があるけど……何位だっけ?」


「三位だ。

 これでも頑張ったんだぞ?

 法律と国語、特に詩を作るのが苦手で成績落としちまったけどな」



 あぁ、詩はなぁ。

 僕も苦手だ。



「そんなわけで、ちょっと実践訓練お願いできますか?」

「あぁ、そちらに訓練用武器があるから選んでくれ」



 二人で武器を選びに行くとマーニ兄から不審な視線を送られた。



「何を考えている?」


「まずはラクナ殿を味方にする。

 そして逃げたバカ者どもをこき下ろすネタを用意する。

 この結果、侯爵を含めた僕たち側に非は無くヘタレどもを率いるラクナ殿は少し叱責はあるかもしれないが、むしろ哀れまれる可能性高い。

 ヘタレ共は完全に無能扱い。

 こちら側に不利益の少ない対応かと思うよ」


「……」



 珍しくマーニ兄が深く考え始める。



「何を考えているの?」

「ん、ああ。

 お前の事だから今の騎士団の問題解決提案しそうだなって思ってな」



 何、その訳の分からない信頼は?



「いや、それは流石に無理でしょ?

 先程の話を簡単に解決できたら侯爵たちも苦労しないよ」


「お前がそれを言うか?」

「そりゃ言うよ。

 最近の問題対応だってかなり綱渡りだしね」



 最近のドタバタで予定通り行ったなんてなんかあったっけ?


 婚約破棄騒動はストーリー考えたのにあの女がバックレちゃった。

 デートでは任意同行からの食事と水抜きの拷問なんて想定外だ。


 その後だって刃物で脅されたから行き当たりばったりで左頬犠牲にした。

 婚約ではベル兄様が恐怖に怯えてこちらもアタフタするし。

 実家でゆっくりイチャつこうと思ったら、誘拐犯が領地のはねっ帰り共煽って誘拐させようとするし。


 最近だと裁判も薬という想定外が入ってくるし。

 即興対応は問答無用でできるようにはなったけど、安心安全確実な行動は出来てないな。



「とはいえちゃんと成果は出しているんだから気にするな」

「ああ、うん。

 それより、武器選んだ?

 ラクナ殿をあまり待たせるのはダメだよ?」


「ん?

 鎌なんて無いし、槍しかないよなぁ。

 あぁ、鎌で暴れたい」


「マーニ兄はまだいいじゃん。

 僕なんて、双剣使うチャンス最近無いんだもの。

 唯一使えそうだったアルクを捕まえるのだってアムルに奪われちゃったし」


「まぁ、あれは諦めるんだな。

 アムルが慣れていないのを想定しなかった俺たちのミスだ」



 まぁ、その通りなので仕方がないのだが。



 さて、マーニ兄は槍、僕は片手剣を携えラクナ殿と戦う舞台に上がる。



「まず、マーニ兄と戦ってください。

 その後、休みを取ってから僕とお願いします」


「承った。

 そういえば、審判は?」



 あ、忘れてた。



「……侯爵、見物料代わりにお願いできます?」

「見物料代わりか、それならやらねばなるまい!」



 うっわぁ、楽しそう。


 というか、もしかして執務室に帰りたくない?

 書類の山から「浮気者! アタシと一緒にいるって約束したのに!」とか言われちゃう?



 さて、バカな妄想は置いておいて、ラクナ殿は片手剣と丸盾のオーソドックスなスタイルだった。

 騎士としては安定度が高い構成。

 多分僕たちを見極める意図もあるんだろうな。


 マーニ兄は槍のみ。

 まぁ、鎌を使えなくて拗ねてるけど。



「ふむ、マーニ殿だったな。

 防具は不要かね?」

「あぁ、俺の戦い方に合わないんでね」


「なら始めようか、侯爵、お願いする」

「承った。

 双方構え、始め!」



 侯爵の開始の合図と共にマーニ兄が槍で突く!




 ガガガッ!




 音からすると三回連続で突いたか。

 ラクナ殿も驚いているようだ。


 というか、マーニ兄もかなり手加減しているな。

 もっと突く場所散らせることができるだろうに、盾で構えられたところのみを狙うなんて優しい事だ。


 そんなことを考えているとマーニ兄は槍を縦横無尽に振り回し、ラクナ殿は足は鎧の強度に任せて顔や胴体部だけを盾で防ぎ反撃の機会を待つ。


 十回、ニ十回。

 繰り返される攻撃に焦ることなく大岩の如くどっしりと構え攻撃を受けている。


 予想以上に頑張るなぁ。

 正直驚いた。


 もっと早く反撃に出てくるものかと思っていたんだが。


 予想以上にちゃんとした実力者だったのか。

 初めが悪すぎたとは言え、ちょっと失礼な対応し過ぎたなぁ、反省。


 攻撃が五十を超えた頃に攻撃パターンを変えようとマーニ兄の動きが変わり槍の穂先が回りながら後方に向いたタイミングでラクナ殿は盾を捨てて、そのまま片手剣をマーニ兄の首に突きつけようとする。



 でも、それは悪手なんだよなぁ。



 マーニ兄は慌てずに片手剣を躱しつつ槍の石突(穂先の反対側)をラクナ殿の顎に当てて頭を揺らす。



 そのままラクナ殿は舞台に倒れこみ――




「そこまで、マーニの勝利!」




 ――侯爵が勝利を宣言する。



「いや、予想以上に強かった!

 ここ最近でこんなに強い相手はいなかったよ!」



 バンバンとマーニ兄の背中を叩くラクナ殿。

 こちらも余程ストレスが溜まっていたのか、先ほどまでの表情が嘘のようだ。

 マーニ兄は痛そうだが、まぁ諦めて。



「あれはやはり隙ではなくおびき寄せるための罠だったか」


「分かった上で攻撃されたのですか?」


「分かったというか……その可能性もあると思っておったが、あそこを逃すとチャンスはないと思ってな」



 マーニ兄の狙いを感づいた上でそれごと切り捨てるつもりだったらしい。

 そこまで判断できるだけでも十分だと思うけどな。

 流石騎士隊長というべきか?


 さて、それなりに休憩を入れ、次は僕とラクナ殿との対戦。

 どうやって戦おうかな。


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― 新着の感想 ―
[一言] 騎士団のレベル低下問題って ・「全員騎士にすること能わず」で魔王世代の人数激減 ・↑の問題児が教師になる事で教育レベルが下がる あたりの影響が大きそうですよね。 衛兵の方はバカでクズなアンジ…
[良い点] ラクナ騎士隊長がしっかりと騎士としての水準をクリアできていること。 他がアレ過ぎてジャーヴィン侯爵やマトモな騎士たち(複数形が誤用となりませんように!)の日々の苦労を思うと同情が過ぎてもら…
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