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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
4:学園風景
53/499

16

「双方構え、始め!」



 ラクナ殿と僕の対戦が始まった。

 盾を構えこちらの攻撃を受けきる覚悟を見せるラクナ殿。

 さて、こちらはどうやって勝とうか……。



 ふむ、ちょっと揶揄ってみるか。



 まず右手、ラクナ殿が剣を握っているあたりに殺気を飛ばす。

 ピクリと少し僕の剣を動かすのも忘れない。

 そうすると、反応してラクナ殿は構えを変え右手を攻撃されないように盾の影に隠す。


 次に左手に殺気を飛ばし、剣を少しだけ動かす。

 慌てて盾の位置を変え攻撃を受け流せるように構えを変える。



 ふむふむ、これは……使えるなぁ(ニチャァ)。

 マーニ兄、ボソッと呆れた声で「何やってんだアイツ」なんて言わないで。

 戦うのなら楽に勝ちたいじゃない!



 頭、右手、左手、右手、頭、胸部、頭、左手。

 剣をわずかに動かすのと殺気を併用して攻撃位置をラクナ殿に教える。


 その殺気に合わせて構えを変え、盾の位置を変え、体力と精神を消耗させていく。

 こちらはほとんど疲れていないのにラクナ殿は少々息が荒くなってきた。



 さて、締めとまいりましょうか。



 僕はラクナ殿の右手に今までよりも強めの殺気を放ち、同時に左足を一歩踏み出す。

 今まで僕が足を動かしてなかったので、ラクナ殿はより強い攻撃が来ると考えたのだろう。

 ラクナ殿は右足を下げようとする。


 ……さて、この場合、ラクナ殿の重心は左足に集中する。

 ……そこを払われたら?


 僕は、ラクナ殿の右足が下がり切る前に自分の右足でラクナ殿の左足を蹴る。

 それもただ蹴るのではなく、ラクナ殿の右足のある方に向かって左足を押し出す形で蹴る。


 結果、ラクナ殿は左足の重心を失うどころか右足まで一緒に払われた形になり倒れ込む。

 ……倒れるまでできたのはラッキーだった。


 とはいえ、ラクナ殿ものんびり寝ているはずも無く立ち上がろうとするが、先に僕が首筋に剣を当てて終了。



「そこまで、ニフェールの勝利!」



 マーニ兄の時と違い、ラクナ殿になぜか微妙に怯えられている気がする。



「ニフェール、あの戦い方を何故選んだ?」



 いや、それをマーニ兄が聞く?



「武器振り回して戦うのはマーニ兄が見せたでしょ?

 なら別の戦い方を見せた方がよくない?」


「それが殺気ぶつけまくり?」


「というか、相手を殺気でコントロールして疲労させるのと動きを予見して足払い。

 相手が殺気を感じられること、それに対して文句ない対応ができること。

 これができる人物だから動きを予見できる」



 ラクナ殿はかなり動きが的確だったからできた作戦ですね。



「できない輩は?」


「殺気当てたら逃げんじゃね?

 もしくは対応でたらめで勝手にすっころびそう」

「あぁ……」



 このやり方は相手が相応の実力あって初めて成立するのですよ。



「今の学園生はこのくらいできるのか?」

「それは絶対無い。

 ニフェールだからできるのであって、他の学生はこんなことできんよ」


「ジーピン家の教育の賜物ということか?」

「ジーピン家というか、【緊縛】【岩砕】の指導のおかげだろうな」



 ジャーヴィン侯爵とラクナ殿の話し合いで出てきたあだ名。


 確か【岩砕】は王妃様との会話で出て来たな。

 母上の昔のあだ名と推測している。


 となると、【緊縛】は父上?



 マーニ兄とアイコンタクトをするが――



(お前知ってたか?)

(いや、全く)


(これ、聞きづらいんだけど!)

(僕も流石に聞けない!)



 ――意思疎通は出来ても解決策は見つからない典型ともいえるやり取りだった。



 普通に考えて【捕縛】辺りがあだ名として適切だと思うんだけどなぁ。

 これ、やっぱり【緊縛】と言われるレベルのやらかししちゃったの?


 ちなみに、ラクナ殿はそのあだ名を聞いてかなり苦々しい表情をしている。


 母上にボコられた?

 父上に縛られた?

 まさか全部乗せ?



「マーニ、ニフェール。

 このあだ名は聞いたことあるか?」


「【岩砕】は裁判後の会談で王妃様がポロっとおっしゃってましたね。

 【緊縛】は初めて聞きました」


「そうか……あだ名については儂からは説明せん。

 どちらの名かは感づいていると思うが、詳細を知りたきゃ当人に聞くがいい。

 儂らも命は惜しいのでな」



 母上ですね、分かります。

 ジャーヴィン侯爵の発言に謎のシンパシーを感じつつ頷く。



 その後も少々会話して解散となったが、一切騎士たちは戻ってこなかった。

 これって、仕事バックレたってことでしょ?

 減俸じゃね?




 解散後、そのまま大公家に向かう。

 さてさて、どうなっていることやら。





「ねぇ、ナニコレ?」

「俺に聞くな」



 僕とマーニ兄の会話はこの部分だけを聞くと訳が分からないと思う。

 うん、当然だ。




 カールラ姉様が右にアムル、左にフィブリラ嬢を座らせてご満悦。




 何が起こった?

 アムルもフィブリラ嬢も安心しきった表情でカールラ姉様に寄りかかっている。



「ねぇ、アゼル兄、あれ何?」

「カールラが……あの二人と話をして相談に乗ってあげてたら……ああなってた」



 ん~、相談に乗る、安心する、カールラ姉様に寄りかかる、至福の世界へってこと?


 怖えよ!

 なにその必殺コンボ!

「ロリショタ堕とし」とか名前付いちゃいそうだよ!



「あら、マーニ君にニフェールちゃん、お帰りなさい」



 カールラ姉様も気づいたようだ。

 蕩けるような笑顔が恐ろしい。



「これ、どんな状況?」

「アムルちゃんもフィブリラちゃんも出会ったことが嬉しかったのね。

 でも同時に不安も感じちゃったみたいなの」

「不安?」


「互いの立場」

「あぁ……」



 男爵四男と大公の娘。

 立場が違いすぎて一緒になることはまず無理だ、普通なら。



「だからカールラ姉様?」

「そう、立場が違うけど婚約まで持っていった者として相談に乗ってあげたの」



 男爵嫡男と侯爵長女。

 確かに相談に乗るにはカールラ姉様以上の適任が思いつかない。



「で、二人が姉様に寄りかかっていたのは?」

「個人的な報酬よ!」



 やっぱりかよ!



 取り合えず満足したのかアムルたちも含めて話し合いに入る。



「まず再発は?」

「なかったです」

「ええ、普通に周囲と会話しつつ一緒にいれました♡」



 おぅおぅ、ハートマークまで。



「なら、あの事柄はもう起きなさそうだな。

 起きたとしても昨日のように対処は出来そうだ」



 二人とも手を握り合って大喜びではしゃいでいる。

 周りに心配されるより、周りが笑顔で見守ってもらった方が何倍も嬉しいもんな。



「で、次はアゼル兄。

 どうでした?」

「まだ固いがそれでも怯えられてはいないな。

 むしろ学園当時の大半の女生徒よりまともに話してもらえた……」

「……なんかごめん」



 辛かったんだね、アゼル兄。

 ホント、カールラ姉様と会えなければどうなっていたことやら。



「となると、後は……フィブリラ嬢、あなたのお父上や侍従の方々に対しての恐怖心は?」

「……そこはまだですね」


「なら少しづつでもいいのでお父上とお話ししてみてください。

 アムル程に接しろとは言いません」



 流石に早すぎたか?

 でもあまりのんびりしていると大公様が別方向に暴走とかしないよね?

 ……フィブリラ嬢の欲に期待してみるか。



「……仮にですが」

「はい?」



「アムルと結婚する際に、ウェディングドレス姿のフィブリラ嬢をアムルのいるところまで連れて行くのはお父上では?」



 なぜだろう。


 フィブリラ嬢と話しているのにカールラ姉様を幻視してしまった。

 それほど悦びの笑顔が怖い位に似ていた。


 もしかして、かなり不味い?



「そこで『お父上に触れるの無理!』とかなるより、喜びと悲しみが入り混じった涙を流すお父上と仲良さげに手を取られアムルの所に向かう方が良いのでは?」



 ……すっげぇ、今までで見た中で最速のヘッドバンキングだわ。

 これが若さって奴か。



「それと、フィブリラ嬢がアムルの事を好いていてくださるのならば、お父上を味方にしないと勝手に婚約者決められてしまいますよ?」



 ハッとするフィブリラ嬢。

 お気づきになられましたか?



「ちゃんとアムルと婚約したいとご当人の口からお父上に言わないといけませんよ?

 でも、まずはお父上とお話しできるようになってからですけど」



 ヘッドバンキング二回目。

 先ほどよりペースが遅いのはお疲れ?



「なぁ、ニフェール。

 大公家の婚約事情にお前が口出しするのはまずかろうよ」


「フィブリラ嬢がアムルを好いてくれるのならちゃんとお父上に言わなきゃだめだよと言っているだけだからなぁ……。

 後はフィブリラ嬢の頑張りが無ければ僕の言葉は何の意味も持たないよ?」



 ツッコみ、呆れるアゼル兄。

 言いたいことは分かるけどアムルも幸せになって欲しいからなぁ。

 打てる手は出来る限り打っておかないと。



 そんなことを話していると大公様が大急ぎで戻ってこられた。



「フィブリラはどうなった?!」

「特に問題なく、一日過ごせておりましたよ。

 これで問題は片付いたということでいいんだろ、ニフェール?」

「ええ、大丈夫だと思います」



 大公様もホッとされている。

 心が別世界に行っちゃうような状況ではいくら大公様の娘であっても不味すぎるからなぁ。


 ただ、今回の件でどういう反応をするのか?

 以降ジーピン家とは関りを持たないとするならフィブリラ嬢が全力で反対するだろう。


 もしかすると男性恐怖症が悪化するかもしれない。

 流石に事前に提案している一年に二度程の交流は行おうとするのではないかな?



 陛下や王妃様も二人が暴走するのを目にしているから二人を無理に離そうとはしないだろう。

 大公様も嫡男がおられるようだし、フィブリラ嬢はそこまで重要な立場にあるわけではないはず。

 なら精神的に落ち着けるアムルのそばにいさせる可能性は十分にあるな。



 とはいえ、うちは男爵。

 大公家に何か影響力を持つわけではない。

 例えば隣国からフィブリラ嬢を求められたらお手上げだ。


 となると、男性恐怖症は大公様と侍従位までは大丈夫だが、その他の男性は無理という位がベストかな。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 主席とはいえ学生がちゃんとした騎士に手加減して完勝Σ( ̄□ ̄|||)!? ジーピン家の印象がどんどん人外魔境化してきました(;^_^A [気になる点] 【緊縛】 「ロリショタ堕とし」なる…
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