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さて、頬の傷を消してもらい、お昼時。
僕らも軽食を頂いてます。
流石大公家の食事。
凄い美味しいです。
ですが、ある意味予想通り、二人とも視線を逸らすことなく軽食を頂いてますね。
紅茶も普通に飲んでるし、視界に入る情報は有効に使っているようです。
「これ、どう考えればいいんだろうねぇ」
母上、呆れる気持ちは分かりますが、答えは無いのかもしれませんよ。
「とりあえず飲食は手の届くところにおいておけば勝手に食べてくれるので、命の危険は無くなりましたね。
後は用足しをちゃんとできるかですが……そこは確認お願いします。
二人が変な行動――漏らしそうなのを我慢する行動――が見えたらすぐに割り込んでください」
アゼル兄、あなたのやることですよ?
「あぁ、何とかしてみるよ。
肩ゆするくらいで気づいてくれればいいんだがなぁ」
難しいんじゃないですかね?
「では、僕とマーニ兄は王宮に向かいますので、一旦失礼します」
「あぁ、こっちは何とかしておく。
気を付けて行ってきな」
大公家を辞しテクテクと王宮に向かう。
「アムルどうなるんだろうなぁ」
「どうとは?」
「あの嬢ちゃんと付き合うのかってこと」
え、手放す可能性あるの?
「付き合う以外の選択肢が思いつかないんだけど?」
「あの二人中心に見ればそうだけど、嬢ちゃんは一応大公家のご息女だぜ?
絶対面倒な家が婚約させろなんて言ってくるだろうし」
まぁ、確実にいるでしょうね。
でもねぇ。
「フィブリラ嬢がその婚約者を受け入れられるとは思えないけど。
日々化け物扱いされる自称婚約者?
近づいたら怯えられ、手を触れようものなら犯罪者扱いされそう。
そんな場面を他の貴族に見られたら、そいつの貴族人生終わりだよ?」
「あぁ、際立った人見知りがあったか。
そりゃ確かに無理だな」
「うん、それどころか大公様がアムルに慣れたら、絶対確保するために女性を近づかせないように大公家の力使いそう……」
「あぁ……」
フィブリラ嬢の人見知りがもっと軽減されたらマーニ兄の懸念は分かるんだけど、今のあの娘では無理だ。
そして、軽減する前にアムルにべた惚れだから今更ほかの男に目移りする可能性は低いと思うよ。
さて、そんなおしゃべりしながら王宮に到着。
ジャーヴィン侯爵に面会しようと執務室にお邪魔すると、侍女二名がいた。
多分この二名が禿を見た人なのだろう。
そして、なぜか私服を着た騎士が二名。
帯剣している時点でアウトなんだけど?
この時、僕は【狂犬】の目をしてしまったが、これは許されるだろう。
確か事前に言ったよね?
役立たない騎士なんかいらないって。
ジャーヴィン侯爵を睨みつけると、視線で語りかけてくる。
(すまん、こいつら暴走した!)
(僕、ちゃんと言いましたよね?)
(駄々こねやがって儂の言うこと聞かんのだ!)
(……潰していい?)
(全力で殺って良し!)
ねぇ、陛下の時もそうだけど、家族よりアイコンタクト正確なんだけど?
偉い人ってアイコンタクト技術は必須なの?
「ジャーヴィン侯爵、お呼びにより参上いたしました。
こちらの女性二名が対象の侍女さんたちですね?」
少しでも苛立ちを抑えて発言するが、二人の侯爵には僕がブチ切れ寸前なのがバレている。
これ以上火種を増やさないように普段より優し気な発言に終始している。
「ああそうだ。
ニフェールの依頼通り平民に見えるような服装にしてもらったがどうだろう?」
ざっと二人の侍女さんを見てみるが、大体大丈夫かな……って、一点問題あり!
「僕から見て右側の侍女さん、今右耳につけているイヤリングは外してください。
パッと見今の姿の平民が付けるには高価に感じます。
仕事中に盗まれたくないでしょ?」
ハッと気づいたようで、慌ててイヤリングを外す右の侍女さん。
二人の騎士は……って、何驚いてんの?
学園の授業で『護衛』や『偵察』ってあっただろ?
授業で習う程度の事なのに。
「こんな感じでよろしいでしょうか?」
「ええ、問題ありません。
では……っと、自己紹介が抜けてましたね」
ちゃんと礼儀作法に乗っ取り失礼の無きよう礼をする。
……男性用だからね?
……カーテシーじゃないからね?
「僕はニフェールと言います。
隣は僕の兄のマーニ。
お二人を護衛するものであり、僕の場合は先日王宮に侵入した禿の暗殺者を見た可能性がある者です」
少々ざわつく侍女二名。
「可能性というだけあって、確実に暗殺者とは言い切れません。
また発見したところが平民が集う所。
侍女さんたちの普段の姿では場違いで目立ちすぎることから平民っぽい姿となっていただきました。
先程のイヤリングも同じ理由ですね」
あぁ、と納得する侍女二名。
「やることは簡単です。
僕と兄と一緒に発見した辺りをぶらついていただきます。
そして僕の方で暗殺者を見つけたら声かけますので、確認してみて頂きたい。
当たり外れ問わず、確認終えたら王宮までお連れします」
「捕らえるとかは無いのですね?」
「あなた方を危険に巻き込む気はありません。
それに、僕の見た人物が暗殺者だった場合、捕らえようとしたらその場を簡単に抜け出し、報復として王宮で適当に数名殺していくとかされるかもしれませんね」
「ひぃっ!」
怯える侍女二名。
まぁ気持ちは分からないでもない。
「まぁ、ジロジロとぶしつけな感じで見なければ流石にばれないとは思います。
僕たちも平民っぽく、武器も持っていないように見せかけておりますしね。
とはいえ、互いの安全のために僕らの指示に従ってください。
よろしいですね?」
「「はい」」
さて、ではマーニ兄と侍女二人連れて行きますか。
「ではジャーヴィン侯爵、行ってまいります」
「あ、あぁ」
四人で部屋を出ようとすると、騎士二名が慌てて騒ぎ出す。
こいつら本当に騎士か?
「な、何をしている!
護衛無しで侍女を連れていくとは!」
「へ?
僕と兄が護衛も兼ねてますよ?
第一あなた方は何も関係ないじゃないですか?」
「関係ならある!
我らはそちらの婦女子二名の護衛としてここにいるのだ!」
「誰からの命で?」
「へっ?」
え、この程度に回答できないの?
「騎士なんだから、上位者からの指示無く動くのはダメでしょ?
誰からの指示なんですか?
そしてその誰かさんはジャーヴィン侯爵よりも立場が上の方ですか?
まさか、越権行為を行うつもりではないでしょうね?」
「なっ、そんな訳無いだろう!
ジャーヴィン侯爵から命ぜられている!」
ほぅ?
ジャーヴィン侯爵を見ると首を横に振り呆れる。
「儂が何を言ったというのかね?
貴様らを護衛にするとは一言も言っておらんぞ?」
「なっ、先ほどあれだけ説明したではないですか!
騎士もおらずにどうやって侍女のお二人を守るのですか?!」
「そちらの二名は貴様らより強い。
それに貴様らは護衛任務の何たるかを理解していないようだ。
そのような無能に侍女を守らせることなぞ危険すぎてできんわ」
バッサリとぶった切られる騎士たち。
いや、ホント帯剣してどうして暗殺者の前に向かおうとするの?
顔見られて後で毒塗りナイフで刺されて終わるの目に見えてるじゃないですか?
あ~あ、こいつら暴発しそうだな。
事情を一切考えず「決闘だ!」とか言い出しそう。
そんなことしてると暗殺者たちの大道芸が終わってしまい今日が無駄になるんだがなぁ。
そんなことを考えていると、予想通り騎士どもが騒ぎ出す。
「き、貴様ぁ!
決闘だぁ!
その鼻っ柱へし折ってやる!!」
三名のため息がハーモニーを奏でる。
僕、マーニ兄、ジャーヴィン侯爵。
こんなアンサンブルなんて奏でたくなかったよ。
(何してもいいよね?)
(遠慮なくやれ、儂がどうにかする!)
「マーニ兄、さっさと仕事始めるためにくだらないけど付き合おうか、ここで」
「あぁ、そうだな。
さっさと済ませよう」
ウィンクして答えてくれたってことは理解したよね?
なら僕から。
「では、訓練場にむか――」
なぜか訓練場って言葉が出てくるが、知ったこっちゃない。
この騎士の足元にとても低い体勢で近づき、床を思いっきり踏みしめる。
その勢いで僕の右手を握りしめ、伸び上がるように天に向かって右手を突き上げる!
目標は、ウィンナー一本とクルミ二つ!
グ シ ャ ッ ! !
「オ゛ッッッッッッ!!」
ヒットしたと同時に騎士の顔が口半開きの状態で目を大きく開く。
あぁ、殴った側が言うのもなんだが気持ちは分かる。
かなり力入れて殴ったから勃たなくなるかも。
まぁ、僕のじゃないからいいか。
マーニ兄の方を見ると……騎士の顔握ってやがる。
鉄の爪って言うんだっけ?
というか、そのまま持ち上げてるけど、それって首の骨折れない?
殺しちゃダメだよ……まだ。
飽きたのかマーニ兄が騎士を放り投げると起き上がってこない。
ならやっと仕事に入れるかな。
「では、ジャーヴィン侯爵。
行ってまいりますので、そいつら適当に処分しておいてください」
「あい分かった。
手間かけてすまんな」
◇◇◇◇
「ストマ様、ご報告よろしいでしょうか?」
「うん、なんだ?」
「以前指示されました人物の斡旋についてです。
どうも、我々が目を離したスキに既にあの愚者は当主様の組織に入っていたようです」
「はぁ?」
あぁ、気持ちは分かります。
あんな怪しい組織に入ろうとすること自体がおかしい。
いくら人生終わりかけても普通の店で皿洗いでもやった方が安全に金になるのに。
あっさりトカゲの尻尾切りにされて死体になるだけだろうに。
「本当にアレに所属したのか?」
「調べた限りではそのようです」
「はぁ、いるもんだな。
正直驚いた」
えぇ、私もですよ。
「ふむ、では斡旋は終わった旨伝えておけ。
それとあの薬はまだ量産しているのか?」
「しているようですね。
正直早くつぶしたいですが」
「ふむ、善意の連絡という形で量産場所を王宮側に伝えられないか?」
「できますが、ディーマス家が狙われるやもしれません」
「あぁ、それは想定内だが大丈夫だ。
俺が連絡し直接伝える」
それって、当主を切るってことですか?
「そろそろ処分しないと、いつまでたっても親父のせいで俺たちの首まで締まる。
ならディーマス家が分裂しようとしていることを王宮側に伝えるのも良かろう。
今回で完全に親父を消せるとは思わん。
だが王宮側を味方につけることは可能だ」
ジャーヴィン侯爵やチアゼム侯爵たちを味方にすると?
「確かに当主潰して確実に次期当主になるにはいい案かと」
「だろう?」
「ですが、どの情報を引き渡すのでしょう?」
「小出しにするつもりだが、まずは薬を飲ませた手口を教えるつもりだ。
次に間を空けて薬が製造されている場所への入口を教える」
「なるほど、調べたと思われるように時間を置くのですね」
「その通り。
これだけ情報をくれてやれば後は王宮側で対処できるだろう」
最近の衛兵たちは正直期待できないのだが。
騎士たちがいるからまだ大丈夫か?
「ではすぐにでもジャーヴィン侯爵あたりと会談を持ちましょうか」
「あぁ予定を組んでおいてくれ」
◇◇◇◇
侍女さんたち連れて広場に赴く。
最初はビクビクされたが今は少し慣れた様だ。
「よくこんな混雑したところで見つけましたね」
「偶然婚約者とデートしていたら見つけてしまって」
え~と、侍女さんたち?
何ですか、その獲物を見つけたかのような反応は?
「そこ詳しく!」
「微に入り細に至るまで説明を!」
「そこは企業秘密とさせていただきます」
そんな会話をしていると、以前見たのと同じところに大道芸人たちがいろんな芸を見せている。
暴走仕掛けている侍女さんたちを落ち着かせざっと見回すと……いた!
相も変わらず禿が目立つオッサンと二人の若者。
少し離れたところに移動し、侍女さんたちにオッサンを目視してもらい、小声で二人に話しかける。
「お二人さん、あの禿で当たりかな?
当たりなら軽く僕の袖を引いてほしい」
クイッ、クイッ。
「大当たりですか……ならこのままあのオッサンたちの芸を見るふりをして。
いきなり動くと目立つ。
芸が終わった後客が動くからその際に戻ろう。
理解できたならまた袖引いて」
クイッ、クイッ。
「よし。
マーニ兄、流れは今言った通り」
「了解。
お嬢さんたち、純粋に芸だけみていな。
顔見ると不安が表情に出てしまうからな」
大道芸を楽しむ客のふりをして一通りの芸が終わったところで侍女さんたちを連れて王宮に戻る。
感づかれなかったのか追われることは無かった。




