12
戻るとジャーヴィン侯爵がワクワクしながら待っていた。
あ~、とりあえず落ち着いて?
「大当たりでした」
「捕らえられるか?」
「……難しいでしょうね。
まず、禿たちだけと戦う状態を作れるとは思えません。
観客を盾にされたらなにもできませんから」
「追跡はできそうか?」
「多分、撒かれるか罠にかかってしまうかでしょうね。
あちらの都合のいい場所で待ち構えられたら僕は勝てません」
「一応言っときますと、俺でも勝てませんよ?」
マーニ兄も同様に無理と宣言する。
侍女さんたち、そんな驚かないで。
「二人でも無理か」
「うちの家族でも無理なんじゃないかなぁ」
「だな」
溜息を付くジャーヴィン侯爵。
期待し過ぎだよ。
気持ちは分かるけど。
まぁ母上なら全てをなぎ倒しそうな気がするけどそこは黙っておこう。
「勝率を上げるためには?」
「相手に都合のいい場所で戦わないこと。
罠を仕掛けられないような場所を選べること。
こちらが奇襲できそうな環境ならなおよし」
「……そんなの無理だな」
ええ、そうなんですよ。
「なので、捕まえることより指示出しそうな相手を潰す方がいいかと思います。
指示出し役がいなくなれば暗殺者は飯の食い上げですからね。
で、薬の製造については何かわかりました?」
「いや、まだだ。
だが、王都でわずかではあるが同じ薬を飲んだような輩が出始めた。
どこで薬を確保しているのか分かったら伝えるので協力してほしい」
「僕は可能ですけど、あまりのんびりしているとマーニ兄は領地に帰りますよ?」
苦い顔をしてジャーヴィン侯爵は「分かっておる」と呟く。
「まずは侍女たちよ、ご苦労だったな。
解散でよい」
「あ、侍女さんたち、念の為この件が落ち着くまであの広場に行かない方がいいですよ?
最低二週間は行かないでほしい。
お二人の上司――侍女長さんかな?――にも伝えておいてくださいね」
コクコクと高速で頷く侍女さんたち。
まぁ怖いですもんね。
侍女さんたちが退出すると、ジャーヴィン侯爵は別件を説明し始めた。
「エスト家の件だ」
お、話が進展したか?
「昨日話した通りに脅したところ、泣き付かれてしまったよ」
「あ、そういうのはカールラ姉様に……」
そっちの話は食傷気味なので。
「いや、そっちの方じゃない!
レストと一緒になってニフェールを貶めようとしたことに反省を求めたところトリスが家出したと言っているんだ!」
ん、なんかおかしくない?
「いくつか疑問があるのですが一つ目、トリスが家出した時点で探すのを衛兵とかに依頼とかしなかったんでしょうか?」
「いや、家の恥としか言えない行為だから言えなかったと言っている。
一応家の使用人たちに探させたとは言っているが」
「それが数週間経っていることを考えると探す気なかったとしか言えないのでは?」
「……確かに」
本気で探す気があるのなら衛兵に協力依頼すると思うんですよね。
特に時間が経てば経つほど見つけられなくなるし。
「二つ目、反省を求める割には親として僕に謝罪に来てませんけど?
カルディアがトリスの行方を聞きに来たときに僕との繋ぎを依頼することも出来ましたよね?」
なんか口先だけの発言にしか感じられないんだけど?
「それについてはニフェールを探したが見つけられなかったと言っている。
ちなみに、学園で呼び出さなかったのかと聞いたら黙ってしまった」
あ、ジャーヴィン侯爵もツッコんだんだ。
そりゃそうだよなぁ、ツッコミどころ多すぎるし。
「つまり、エスト家としては何もしていないに等しいんですね?」
「そうだ、というか微妙に玉虫色の行動を繰り返している」
玉虫色?
「トリスを探すのは自力でしかしていない。
対外的には学園休学、知り合いにはエスト家除籍に近い発言。
でも王宮側にはトリスとエスト家の繋がりは切れていない」
なるほど、中途半端すぎますね。
「なので、正直儂としてはエスト家に期待は一切できん。
カルディアだったか?
その子の方が誠実に感じるよ」
ですよねぇ、実際にかなりの頻度でトリス探しに出向いてますし。
「ニフェール、カルディアを止めることはできんのか?」
ジャーヴィン侯爵が真顔で言ってくる。
気持ちは分かるのですが、アイツの事情を考えると難しい。
「正直難しいですね。
あいつもトリスを見つける、そして昔のような関係に戻るのは難しいとは理解していると思います」
僕は溜息を付き話を続ける。
「ですが、簡単にトリスとの関係を捨てることもできない。
ただでさえレストとの別れも急だったのにトリスまで何も言わずにいなくなった」
そういう意味ではカルディアは居場所という点では運が悪い。
「元いた居場所はもう無い。
それを受け入れるために、トリスとのちゃんとした別れが欲しいのでは無いかと思います」
「となると、トリスとの納得いく会話があればカルディアも前に進めると?」
「想像ですし、ケリの付け方は当人次第ですが、大きく外れてないかと」
「むぅ……」
「ただし、だからと言って強く『もうやめろ!』とか言ったら勝手に動き始めて、悪気はないが結果的に僕たちの邪魔をする可能性があります。
それならある程度の自由と一部禁止事項を飲ませた方が安全かと」
今やっているのがそのパターンなんだよね。
ジャーヴィン侯爵は僕の発言を検討しているようだが、何か思いついたのか怪しい笑みを浮かべている。
「ニフェール、トリスを捕縛した後にカルディアと会わせるというのは?」
「トリスが犯罪を実施しているのでしたらそれでいいでしょうが、まだ確定してませんよ?」
「最近の薬物関係で怪しいものをしょっ引いている。
昨日言っていた小路から不審な者を捕まえたら……あ、いや、無理か。
相手も監視役ぐらいは置くだろうしな」
「そうですね、別の小路から入るだけでしょうし」
ジャーヴィン侯爵はその後もウンウン唸っているがいいアイディアは出ず、持ち帰り検討することになった。
僕らは大公様の所に向かいアムルたちの状況を見に行く。
大丈夫かな、まさか”に゛ょ゛”漏らすとか無いよね?
……無いよね?
ドキドキしつつ大公家にお邪魔すると、アゼル兄以下皆が笑顔でいた。
……本当の笑顔だよね?
……実は滅茶苦茶怒ってるとか無いよね?
「ニフェール君、良い提案をしてくれた!
大成功だよ!」
大公様が小躍りする位に喜んでいる。
アムルはと探すと、フィブリラ嬢と一緒にいるが、お茶を出してきた侍女さんに礼を……って、礼を言う?!
ちゃんと周りを見れてるの?!
「ニフェール君が王宮に行った後、かなりの時間は自分らの世界に入っていたが、ふと正気に戻ってな」
「……用足しにでも行きましたか?」
「然り、流石に生理的欲求には勝てなかったようだよ」
大体想像通りだったか。
「ちなみに、それ以降は暴走していないんですね?」
「今のところはだがね。
まだ暴走すると思っているのかい?」
不安そうに聞いてくる大公様。
いや、僕はこの分野の大家じゃないんだから。
「正直全く分かりません。
念の為明日も顔合わせてみて問題なければ取り合えずこの件はクリアでいいのではないでしょうか」
ピクッと反応する大公様。
「この件は?」
「あれ、恐怖症レベルの人見知り、特に男性はダメと聞いた記憶があるのですが?」
「あ、あぁ」
「今回はアムルとフィブリラ嬢との間で暴走というか、自分たちの世界を作るのが無くなるだけで、人見知りは一切関係ないですよ?
なので、大公様とフィブリラ嬢の間で会話が続くかとかは一切分かりません。
その認識は合ってますか?」
「あぁ、それは理解している。
とはいえ、それくらいなら治るだろう?」
「え、治せるのですか?」
「え?」
「え?」
僕と大公様が互いに首をかしげる。
なんか、大公様はとても簡単な問題に思っているように感じられるのだけど?
僕はアムル以外の男と会話できないとか言われても驚かないけど?
「治らないというのかね?」
「治るかどうかは分かりません。
でも、今までアムルと僕以外にまともな会話できていなかったと聞いております。
それがすぐに治るだなんてちょっと思えませんでした。
むしろ大丈夫という理由をお教えください」
正直、この二人学園入る前であと五年。
少し良くなったとしても大公様との会話が成立する程度までだったりしない?
大公様も僕にツッコまれて自信が無くなったようだ。
「ちなみに治す方法とかは……」
「僕は医者じゃありません。
そこまで期待されても……」
大公様もそこまで無茶は言わないでくれた。
「ともかく、明日再度二人の様子を見てそれ次第で判断しましょう。
アゼル兄、明日大丈夫?」
「多分大丈夫だろう。
もしかするとカールラがついてくるかもしれんが」
「それは諦めて」
ええ、大公家でイチャイチャしてください。
「それとお前は来ないのか?」
「それについては現時点で判断付かない。
何も無いのなら行ってもいいけど」
「何があった?」
とりあえず暗殺者の件とカルディアの件の進捗について説明する。
大公様は騎士を潰したくだりで呆れていたが。
「なるほど、暗殺者の件動きがあれば呼ばれそうってことだな?」
「もしかすると騎士ども潰したことに対して呼び出し喰らうかも。
まぁその時は再度潰すけど」
「あぁ、そっちは一切心配していない」
アゼル兄はちょっと考え、明日の方針を決める。
「今日は寮に戻るんだな?
なら明日朝食取ったらすぐにジャーヴィン侯爵家に来てくれ。
そこで状況確認して動こう」
「了解」
その後僕は寮に、ジーピン家はジャーヴィン侯爵家に向かう。
その途中で繁華街から帰って来たカルディアに偶然出会う。
「ニフェール!
あの問題は解決したのかい?」
「あれ自身は終わったけど別の話にまで波及してね。
正直ヘトヘトだよ」
流石にこんな場所で”裁判”という単語を使わなかったのは褒めて進ぜよう。
「カルディアの件、侯爵様に相談したよ。
今のところいい手は浮かばないけどできる限り協力してくれそうだ」
「え、嘘!
よく受け入れてくれたね?」
「あれと、波及した件の対応を今日手伝ったからそのご褒美じゃね?」
「そうか、ちなみに明日は?」
やっぱそう来るよな。
「まだ拘束中。
というか、波及した件って一つじゃないんだ」
「え゛?」
事実なんだよ、カルディア。
「という訳で、まず明日は無理。
運良ければ明日で波及した件の一つが完了予定。
で、今日手伝った件の関係で何か来そうな感じがする。
それ次第かな」
「大変だね、学園生なのに」
「本当に、学園生であること忘れてるんじゃないのかな」
一緒に溜息を付く僕とカルディア。
「ちなみにあれから監視の状況は?」
「あの小路には来ていない。
それと、いつも同じところに同じ人がいたよ。
それも時間で交代しているみたい。
あれ監視なんじゃないのかな?」
やっぱり監視者は居たんだ。
となると、あの小路は冗談抜きでヤバそうだな。
監視者の場所を教えてもらうと、デートで行ったお店の横にいるらしい。
「とりあえずはトリスの監視を続けるしかないね。
後、侯爵様に監視者について報告したら呼び出しあるかもしれない。
その時はあのお店にいると思っていいか?」
「うん、それで大丈夫」
そこで別れて寮に向かう。
もう、今日は疲れたよ。
アムルとフィブリラ嬢が半泣きで漏らすのを期待した方、ごめんなさい。
そこまで書く勇気がなかったです。




