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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
4:学園風景
46/325

9

◇◇◇◇


 裁判とその後のジーピン家との話し合いの後、儂ノリズム・フォン・サイナスは一部の者たちと集まり会議をしていた。


 参加者は王妃、大公、宰相、ジャーヴィン侯爵、チアゼム侯爵。

 議題はプロスとスティット家代表に投与された薬物について。


 

「あの二人に投与された薬は興奮剤と自制心を失わせる薬のようです」

「自制心を失った結果ニフェールたちへの欲望が駄々洩れになったと?」



 チアゼム侯爵の説明にジャーヴィン侯爵が問うと、かぶりを振って説明を続ける。



「それに加え興奮剤のおかげで言っていることがあまりにも……女性のいる前では言えないような内容が乱発している」



 チラッと見るチアゼム侯爵に「構わん、話せ」と指示する王妃。

 儂より漢らしくないか?


 

「プロス曰く、『俺があの娘たち(・・・)の初めてを奪ってやるんだ!』などと……。

 他にも多々どぎつい発言をしております」


 

 あの子たちに処女膜(・・・)はないぞ?

 となると、一部幻覚を見ているのか、それとも思い込みが激しくなるのか。

 何か副作用がありそうな雰囲気がする。


 

「代表の方もほぼ変わらない発言でした。

 また調査した者からは類似薬は知っているが、ここまで人格が壊れるようなことは無く、何らかの薬物と混ぜたより危険な薬の可能性があると聞いております。

 また、その為、二人は元に戻る保証が無いそうです」


 

 元に戻らない?

 つまり自制心を失わせ幻覚、もしくは思い込みが激しくなった状態のまま?

 勘弁してくれよ。



「ちなみに、このような薬物反応の噂を国内で聞いたことはあるか?」

「いえ、無いそうです」



 今回初お目見えってか?

 また見つけづらいものを……。



「あの二人はどうやって薬を服用したのだ?」


「プロスも代表も休憩時間に茶を飲んでいたそうです。

 プロスのいた貴族牢には飲んだカップ、湯の入ったポットの両方から薬物の反応が見つかっております。

 なお、ポットとカップを持ってきた侍女と受け取った騎士から事情聴取しております。

 騎士からは特に情報はありませんでした。

 侍女からは調理場でもらったポットを運んだだけだそうで」



 じゃあどうやって薬を飲ませた?

 調理場に誰か侵入した?



「そして調理場ですが、だれもポットを渡したものはいないそうです」



 ……これは既に王宮にはいないな。

 逃走を協力した輩もいるのだろう。



「代表の方も同様。

 なお、ポットを渡した人物は中肉中背で禿げた中年だそうですが、髪以外に特徴が無く調査は難航してます」



 その言葉に天を仰ぐ。

 見つけようがないな。



「ジャーヴィン侯爵、騎士、衛兵からの情報は?」

「二日前まで遡って確認しておりますが、表口、裏口とも特に怪しいものの出入りはなかったと。

 それと、その間の門を守る衛兵は王家派、中立派の者ばかりでした」



 貴族派の手引きということも無い、と。

 となると、カツラをつけて入り込み、カツラを外して調理場で仕事をする振りをして薬入りの湯を沸かしたポットを二人に渡し、その後まんまと王宮から抜け出たと。


 国自体が馬鹿にされているな、これ。

 多分、貴族派が愚かな貴族を根切りしたのだろう。

 となると、スティット家は既に……。



「ジャーヴィン侯爵、スティット家の状況はいつ頃分かる?」


「流石に移動時間がかかりますので最短でも後数日はかかるでしょうな。

 ……陛下はスティット家が壊滅されているとお思いか?」


「その可能性は高いとみておる。

 死人に口なし。

 都合の良い処理方法だろうよ」



 壊れたあの二人ではまともな仕事は期待できぬしな。

 完全に後手に回っておるなぁ。



「ジャーヴィン侯爵、チアゼム侯爵。

 今回の対策を検討してくれ。

 王宮の守りが無価値と言われたに等しい。

 このままでは王宮内はスラム街と変わらぬとみられてしまう」


「かしこまりました」



 とはいえ、対策なんてまともには出てこないんじゃろうなぁ。

 ここまでバカにされてるとなると警備の穴は数か所じゃ足りない位あるんだろうし。

 あぁ、頭が痛い。



◇◇◇◇


「……」



 我が主ストマ様がディーマス家当主様からの手紙を見てイラついておられる。

 また無茶な指示が来たのだろう。


 犯罪行為で金を稼ごうとしているようだが、正直何も考えてないとしか思えない。

 既に国王派にバレている可能性が高いのだが……。



「ルドルフ」

「はっ!」



 読まれていた手紙を渡された。

 見ろということだろうが……なんだこれは?


 これ、本気で書いたのか?

 侯爵位にいる人間がか?



「都合のよい人物を斡旋?

 貴族籍があり潰しても構わない輩?

 ストマ様は人材派遣業をしているわけではないのに!」


「多分トカゲのしっぽ切りの為に愚者を一人用意したいのだろう。

 だが自分で用意できないという時点で話にならんな。

 全く、あの父ではこの程度の事が限界になるのか」



 とても、とても呆れてらっしゃいますが、私も同意見です。

 仕事の差配どころか鼻たれ小僧がママにおねだりしているようにしか見えません。


 いい年して何やってるんでしょうね、侯爵様は。



「王都での運び屋兼学園での売人?

 王都で運んだり売ったりするとしたら……アノ薬か?

 学園でそんなことしたら確実にしょっ引かれるだろう。

 第一、学園なんて王宮並みに監視がきつそうなところで売るなんて余程の馬鹿としか思えん!」



 本当に、そうなんですよね。

 ただでさえ突発的に厄介事が発生する可能性が高い場所だってのに。



「どうなさいます?

 正直断りたいですが無理でしょう。

 適当に選んでおきましょうか?」


「……先日自爆した愚か者がいたな。

 確か、アンジーナ家だったか?

 そいつらの取り巻きが学園にいたはずだ。

 その中から一人選んで引き渡しておけ。

 やり方は任せる」


「かしこまりました」



 あの愚昧な奴の取り巻きか……。

 確か、鉱山行きを聞いてから情緒不安定になった奴がいたな。


 あれなら消えてもだれにも被害はないだろうし、むしろあの愚かさならフェードアウトしてもらった方がありがたい。

 ストマ様のそばに危険な行動を取りそうな輩を近づけたくはない。


 まぁアノ薬を飲まされたら学園なんて戻って来れないだろうしな。




 あれ、そういえばあの愚か者最近学園で見ないな。

 もしかしてアイツ消えちゃった?


 え、まさか探す手間増えた?


◇◇◇◇


 裁判終了して一旦ジャーヴィン侯爵家に集合する。

 まだ侯爵は戻ってこれないようだけど、明日には状況教えてくれるでしょ。



 さて、女装は終わったが残りの厄介事どうしよう。


 1、薬物が王宮内で使われた件。

 2、アムルがフィブリラ嬢と会うと暴走する件。

 3、カルディアのトリス探しの件。


 1は侯爵様たちに頼むしかない。

 新しい情報が入れば別だがね。

 ただ、全面的に関わっちゃっているからねぇ。


 2はとりあえず数日両親に頼んで大公家に日参してもらう。

 ここで二人がある程度暴走を止められれば定期的に――季節ごとに合わせるとか――に進められるだろう。


 3は……優先順位的には低いんだよなぁ。

 ただ、トリスが裏路地に消えていったというのが気になる。

 ……まさか、1と絡まないよな?



「ニフェール」



 母上がこちらを睨んで――いや、心配して?――くる。

 どうしたんだ?



「面倒事があるのか?」

「……わかる?」

「わからいでか。

 これでもお前の母親だ」



 父親がアレ(・・)なので、その発言がどれだけ僕に安心をくれるか……。

 正直に先ほど考えていた厄介事を説明する。



「……」



 皆一斉に悩みだす。

 一部は頭痛いのかこめかみを抑えている人もいる。

 まぁ気持ちは分かるが。


 基本は2だけ悩めばいいんだけど、1は関わっちゃったからねぇ。

 知らないふりはできないよ。

 3は1の繋がりが出てくる可能性を考えると頭痛くなるのも分かる。



「とりあえずアムルの暴走を落ち着かせるのを優先しましょう。

 そうじゃないと、最悪二人とも現実世界に関心を持てない状態が続きそうで怖い」

「確かに……」



 あのふたりの世界に入った状態を思い出すと皆納得してくれた。



「それと、薬物については侯爵お二人からの連絡待ちだけど、協力体制を取る形にした方がいいと思う」

「あぁ、うちがきっかけだからか」

「うん、男爵家なりに王家に協力する姿勢をちゃんと見せるのはありかなって」



 これは納得する面々が半分、懐疑的な反応を見せる面々が半分。

 納得の代表がマーニ兄。

 懐疑の代表がアゼル兄。

 脳筋の代表と気苦労の代表が出そろった。



「ちなみに、協力はマーニ兄と僕。

 仕事内容は調査協力と暴力。

 分かりやすいでしょ?」



 マーニ兄がとてもイイ笑顔を見せてくれた。

 その笑顔は敵に見せてね?

 ロッティ姉様にしちゃダメだよ?



「それと、アムルの対応は父上、母上、アゼル兄でお願いしたい。

 最初は僕も行くけどね」


「……継続してきてはくれまいか?」


「僕以外のジーピン家の面々に怯えないようにしないと。

 それに、学園にいる間は夏冬の長期休暇以外帰るのは難しい。

 なら領地にいる面々で対応できなきゃ」


「むぅ……確かに」



 アゼル兄の悄然とした面持ちを見て助けてあげたいとは思うが、学園卒業後を考えると確実に僕は手伝いできない可能性は高い。

 可哀想だけど、アゼル兄に頑張ってもらうしかない。



「まぁ数日程度だけだから、そこまで不景気な顔しないで。

 それにアゼル兄の表情にも慣れてもらわなきゃいけないんだから。

 あのお嬢さんだってアムルの彼女になりそうなんでしょ?」


「そうなんだよなぁ。

 でも、学園の時も怖がらせそうなお嬢さんたちに対してはできるだけ顔合わせないようにしていたからなぁ。

 慣れていないんだよ、俺も」



 いや、男爵継いでその発言はダメだろ?



「アゼル兄、慣・れ・て!

 もう男爵なんだから、そんなヘタレた発言は許されないよ!」


「アゼル、これについてはアタシもニフェールの発言に賛成だ。

 カールラ以外の女性を敬して遠ざける行動は知らなければ礼儀正しいが、知っている者からすればただの怯えなんだから。

 最低でも家族、親族になる者にビビんな!」



 母上という最強の味方を得てほっと一安心する僕。

 絶対勝てない敵とエンカウントして頭抱えるアゼル兄。

 強制敗北だもんね、気持ちは分かる。



「ニフェール、おまえも全部背負うんじゃない。

 最低でも薬物対応はマーニを必ず連れていけ。

 もう一つの厄介事も少しでも危険と判断したら頼れ!」

「はい!」



 ここでぐずったら確実に危険だ。

 おとなしくしとかないと。


 ……マーニ兄、なに笑ってんの?

 下手な発言したら次はマーニ兄が説教されるんだからね?!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 【岩砕】様が【女神】様に思えて、ラーミルさんに続いて入信しそうになりました( ̄▽ ̄;) [気になる点] ルドルフ氏の気苦労はニフェールよりもずっと辛そう? [一言] 更新感謝です^^ マ…
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