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◇◇◇◇


 遅い……。



 ジャーヴィン家で大人しく待機中。

 予定では東部暗殺者が夜に連絡を寄越すはずなんだが……。

 婆さんから連絡が来ない。

 まさか、早くもバレて仲間割れか?



 少々落ち着けなくて部屋をうろついているとカルからも指摘されてしまった。

 なお、今日はカルがこちらで一緒に待機、他はチアゼム家で待っている。



「ニフェール様、落ち着けよ。

 あっちだってすぐに連絡できない事態だってあるだろうし」


「まぁ、そうなんだけどさ。

 正直どこまでテュモラー家が統率できるかが不安なんだよなぁ。

 金で向こうに再度寝返った挙句、誤情報回されるのが怖くてねぇ」


「……あのノスカって奴か?

 こちらを裏切るようには見えなかったがな」



 カル、ちゃんと見ていて偉いねぇ。

 僕もその認識だよ。



「ノスカは大丈夫だろうね。

 でも、その下は?

 裏切り者がいること長に言って、このタイミングで成り上がり考えるとか?

 あちらの情報が無い以上、色々考えちゃうんだよね」


「まぁ、下はなぁ。

 とは言え、王都にわざわざ連れて来るくらいだ。

 ギルド内でもかなりの上位者だけなんじゃないのか?

 まぁ、その場合成り上がりパターンの可能性が捨てきれないが」



 そっか……大人しく待つし――




「そっちは?!」


「いねぇ!

 もっと先に逃げたかもしれん、探せ!」




 ――か?

 微かではあるが、人を探す声が聞こえる。

 この声が聞こえた時点でカルと顔を合わせてしまったが……当たりか?



 僕もカルもすぐに武装して屋敷の外に出る。

 うちの家族も感づいたようで、ワラワラと出て来た。



「……血の匂いがするな。

 こっちか?」


「アンタ犬かよ?」


「まぁ【狂犬】だし?」



 カルと馬鹿話しながら血のニオイのした方に進んでいく。

 そうすると、一人の死骸……いや違うな、重傷者か?

 まだ息があるようだ。



「ニフェール、そこにいるのは何者だ?」



 アゼル兄が……胸元開いたローブを着て来た。

 ねぇ、もしかしてカールラ姉様無双中だった?

 邪魔してごめんね?



「怪我人だね。

 先ほど聞こえた声からすると何者かに追われているみたい。

 ちょっと中に入れていいか許可貰ってきて」


「分かった、すぐ戻る」



 ざっと調べてみると、血塗れではあるけれど致命傷とかは避けていたようだ。

 もう少し灯りが付けられる場所に連れて行きたいんだけどな。



「……ぐっ!」



 意識が戻ったのか?



「おい、聞こえるか?

 人様の家に血塗れで侵入するなんて何考えてるんだ?」


「こ、ここはどこだ?」



 ……あれ?

 なんか聞いたことある声な気がするんだけど。



「とある貴族様のお屋敷だよ。

 で、お前は何者だ?」


「……アンタらに頼みがある。

 王都の娼館にいるピロヘースって婆さんに伝えてくれ。

 大半が寝返ったって言えば分かるから」



 カルと二人でキョトンとした表情をしてしまう。

 まさかこいつ……。


 視線を送るとカルが頷き、話を引き取る。



「お前、まさかノスカか?

 東部暗殺者ギルドの?」


「……」


「カルって名に聞き覚えは?」


「……まさか王都の長がここで出て来るんですかい。

 ということは隣の奴はニフィか?」



 カルを制して僕の方で答える。



「いや、違う。

 お前等が暗殺しようとしていた相手、ニフェール・ジーピンだ」


「ひゅっ……」



 なぜそこで呼吸を止めかける?

 怖くないからね?



「お前はとある貴族の屋敷に隠れたんだよ。

 この貴族はジーピン家と懇意でな。

 で、とりあえず血塗れではあるが、傷はそこまで深くない。

 今屋敷の中に入れていいか許可貰ってるから、許可出たら中で治療だ」


「ちょ、ちょっと待て……俺は暗殺者だぞ?」


「カルも暗殺者だね。

 まぁ、不戦協定結んでるから怯える必要も無いけど」


「いや、そっちはともかく、俺は――」


「――東部暗殺者ギルドでルールをちゃんと守ろうとした奴だろ?

 なら治療する位は構わんだろ。

 別に僕を殺す気になったら殺せばいい。

 出来るものならな」



 軽くあしらっていると、アゼル兄が戻ってきた。



「ニフェール、許可が出た。

 連れてこい」


「うん、こちらも気が付いたみたい。

 さ、連れて行くから大人しくしていてくれよ?」


「……なんなんだ、こいつら」



 なに困惑してんだよ。



「……ノスカ、現状に慣れた者として一言伝えておく。

 只今この屋敷は化け物の巣窟だ。

 命が惜しければ大人しくしていろ。

 お前如きなら瞬殺できる人物が最低でも五名はいるからな?」



 ……両親にアゼル兄、僕、アムル。

 確かに五名だな。



「どんだけ危険な屋敷なんだよ……」


「やる気になれば国を亡ぼせる位の戦力がいる屋敷だよ」



 カル、正しいけど絶対混乱するぞ?

 まぁ、静かになるのならいっか。



 そのまま屋敷の一部屋に連れて行き、簡単に治療する。

 流石ジャーヴィン家、必要な器具や薬はすぐに用意できた。


 傷を簡単に縫い合わせて止血すると、落ち着いたようだ。



「で、何でこの屋敷に潜入した?

 それも血だらけで。

 寝返ったってことは長を止めたり暗殺止めるとかは出来なかったんだな?」


「あぁ、そうだ。

 そして、俺ともう一人を除いて皆寝返った結果、殺されかけた。

 なんとかテュモラーの屋敷から逃げ出してな。

 ここに侵入して追手をやり過ごそうとしたら意識が遠のいて……」



 まぁ、そりゃあ覚悟決めて全力で動いてた時は意識を保てたんだろうがね。

 なんとか追手から逃れたと思った途端に気絶したんだろ。


 ちなみに喋り方がニフィに対してと同じだな……。

 標的にはあの喋り方しないんだ。



「一応確認だが、お前は暗殺不参加でいいんだな?」


「あぁ、流石に規則違反するほど落ちぶれちゃいねえよ。

 どうせ王都から東部に情報既に流してるんだろ?

 ならオピエは戻っても長にはなれない。

 むしろナリアから暗殺指示が出るかもしれんな」


「連絡についてはお前の想像通りだ。

 お前等も途中で会っているだろ?

 あのメッセンジャーが伝えてくれるはずだ。

 それと確認だが、もう一人はどっちの方に逃げた?

 ある程度分かるなら拾いに行ってやるが?」



 そう伝えると、黙ってしまった。

 あれ? もしかして?



「気持ちはありがたいがアイツは死んだよ。

 テュモラーの屋敷の庭の時点でアイツの胸にナイフが刺さってた。

 多分即死だろうな」


「そっか……ならお前の命だけでも助けるとするかね。

 カル、婆さんの所に走って。

 僕はこいつ連れて後から向かうから」


「いや、ちょっと待て。

 婆さんの所に向かうのは構わんが、こいつをどうやって運ぶんだ?

 この時間に馬車なんて目立ち……おい、まさか?」


「安心しろ、優しく連れて行くつもりだ」



 二階の屋根から飛び降りるとかはしないよ。

 流石に怪我人だしね。



「……そいつを追い詰めるなよ?

 アンタの行動は常人には理解できないんだからな?」


「酷いな、怪我人運ぶのに無茶はしないよ。

 それよりも婆さんに許可貰ったら娼館街の入口で待っていて。

 お前が見えるまでは近くで隠れているつもり」


「分かった、すぐ行くから十分ほど後から来な」



 すぐに部屋から出ていくカル。

 ノスカは大人しかった……というか、事態について行けないだけか?



「ちょ、ちょっと(グッ……)……待て!

 いいのかこんなんで?!」



 痛みを感じてるのにわざわざ会話を続けなくてもいいのにねぇ。



「気にし過ぎたら負けだよ?

 お前の身柄は娼館ギルドの婆さんに預ける。

 最低限、王都のドタバタが終わるまではそこで隠れていてくれ」


「あ、あぁ、そりゃありがたいが……いいのか?」


「気にするな。

 何となくだが、婆さんも同じ考えにたどり着きそうな気がするけどね」



◇◇◇◇


 ニフェール様の指示通りに急ぎ娼館ギルドに向かう……前に一旦チアゼム家に。

 うちの面々に状況を簡単に説明すると、ティッキィさんが付いてきてくれた。



「何と言うか、落ち着くことのない方だよな」


「当人は落ち着きたがっているけどな」


「無理じゃね?」


「だな」



 駄弁りながら走り続け、娼館街へ。

 すぐに婆さんに説明。

 呆れつつも身柄を受け入れてくれることになった。


 そのまま娼館街の入口に向かい、周囲を見渡すとニフェール様が。

 やっぱりお姫様抱っこか。

 後でラーミル様に報告……はご自分でされるか。



「お待たせ、カル。

 ティッキィも協力アリガト。

 婆さんに引き渡そうか」


「今回はどんなルート通ったんだ?」


「大したことしてないよ?

 他の貴族の屋敷にこっそり入って、塀を飛び越えてって感じ?」



 ……一応信じておくか。

 こんなくだらない嘘は言わんだろ。



「なんか不信感抱かれてそう」


「過去が酷かったからな」


「そんなこと無いだろ、ちょっと二階の屋根から飛び降りたくらいじゃないか」


「それが酷いって何故分からないんだ?

 それなりに頭いいはずなのに」


「いくら頭が良くても、想定外のことなんていくらでもあるさ。

 暗殺者ギルドの長が意識飛ばすなんて想定してなかったしね」


「だから二階から飛び降りるのはこっちも想定してねえんだよ!」



 あの時の情けない記憶を呼び戻さないでくれよ!



 その後、婆さんにノスカを引き渡し、軽く話し合う。



「ニフェール、こいつは一通りやること終わるまではうちで面倒見ておくよ?」


「ええ、お願いします。

 他の面々は全員長の方に付いたので、完全に敵対することになりますね。

 それと今日はともかく、明日にでもノスカに聞き取りしましょ。

 あちらの策を聞いておいて損は無いですし」


「あぁ、そうだね。

 パンたちにも声かけておくから明日の午前中ここに来な。

 ちなみに明日もニフェールかい?」


「そうですね、ノスカを見つけたのがニフェールということになってるので。

 ここで出てこないのは少々話の流れ的におかしいかと」



 まぁ、不信感を抱かせるわけにはいかないわな。



「確かにねぇ。

 なら、明日はニフェール・ジーピンとして扱うからそのつもりでいな。

 パンたちにも伝えておくよ」


「ええ、後はノスカを探して動いていた輩がいます。

 ここに来るか分かりませんが、念の為気を付けといてください。

 僕も、帰る途中で怪しいやつ見つけたら偵察しておくんで」


「……間違って別人狙ったり殺したりしないでおくれよ?」


「大丈夫じゃない?

 だって、この時間にうろついて人探しているのって他にいないでしょ?」



 いや、事実その通りだろうけどよ?



 そのまま婆さんにノスカを任せて俺たちはチアゼム家へ。



「――という訳で、東部暗殺者ギルドからの情報源は消えた。

 取り合えず、最後の情報として生き残りから情報を得る予定だ。

 そんな訳で、明日娼館街に向かうから。

 全員参加ね」


「あ~、余程報酬額上げたのね。

 そうじゃないとそこまであっさり裏切らないでしょ」



 ルーシーが推測を述べるが、多分その通りなんだろうな。

 余程主従関係が固まってない限り、裏切る以上は裏切られる。


 あ? ニフェール様?

 裏切ったらどうなるか理解できない愚か者は今ここに居ねえよ。

 というかそんな愚か者はニフェール様に会う前に死んでるさ。


 その後も話し合いを続けたが、これ以上の方針は出ず解散となった。

 いつも通り(?)ニフェール様はラーミル様に報告されるそうだ。

 そのままお姫様抱っこするんだろうけどな。

 想定通りではあるがマメだねぇ。


 いや、そう言う所が婚約者との関係良好の秘訣なのか?

 ルーシーに試して……いや、ちょっと検討位はしてみようか。



◇◇◇◇


 カル達と相談し、ラーミルさんにお姫様抱っこ経由でキス。

 もうちょっとじっくり楽しみたいところだけど、明日もあるので帰宅。


 ジャーヴィン家に到着する前に少し周囲を歩き回ってみる。

 ……これ、数人まだ動いているな?


 相手がいそうなところを探っていると、数名が集まって相談していた。



「どこ消えたんだ、アイツは!」


「知らねえよ、こっちは王都初めてなんだから土地勘ねえんだ!

 文句言うなら土地勘ある奴連れてこいや!」



 仲間内で小声で罵り合っていた。

 とは言え、結構バレバレだぞ?


 この状態でノスカを見つける術を思いつかなかったようだ。

 ブラブラとテュモラー家の方に戻っていく。


 そのままつけていくと、疲労からか呆れからか口が軽くなったようだ。



「なぁ……ノスカ殺したとして、本命の暗殺成功すると思うか?」


「正直、無理だろ。

 長の説明を聞く限り、依頼主の策はかなりの部分が邪魔されてるみたいだし。

 とは言え、報酬が良すぎるんだよなぁ……。

 いつもの三倍だろ?」


「あぁ、だからこそあのクソガキ共もノスカの提案を蹴ったんだろうけどな。

 とは言え、報酬は生き延びなければ入って来ねぇ。

 今のままだと、俺たちが死ぬ可能性の方が高いよなぁ……」


「まぁそうだな。

 だからこそ何か手口を考えないとマズいんだが……。

 長が失敗した時点で即刻逃走くらいしか思いつかねぇな」


「やっぱそれかねぇ。

 ったく、勢いでノスカ狙った馬鹿のお陰で無駄に苦労すんじゃねえか……」


「諦めろ、あの時点でどうにかできるはずねえだろ。

 俺たちだって、あの時動かなきゃ一緒になって殺されただろうからな。

 とは言え、一番判断力高い奴を切り捨てることになるし……。

 本当にこの依頼呪われてねぇか?」



 下手な考え休むに似たりとか言うけど、本当にそんな感じだな。


 こいつらの発言からすると殺すのは想定外。

 一部の奴が生贄としてノスカを売った感じか?

 その話に乗らないと他の奴らも殺されそうだから付き合った。

 でも、その結果まともな判断力を持つ奴がいなくなった。


 こいつらもヤバそうだってことは感づいているみたいだな。

 けど、これ以上はどうしようもないって感じか?



 ……これって、僕の提案の仕方がまずかったかなぁ?

 ノスカだけ引っ張ってきて話をしとけばよかったかな?

 ちょっと反省……。



 そのままテュモラー家に入っていったんで、僕もジャーヴィン家に帰る。

 皆起きていてくれたので、一通り説明すると呆れの反応が多かった。



「つまり、東部暗殺者は一番判断力ありそうな奴を生贄にした。

 その挙句、自分たちの状況が悪化している。

 長は多分理解しておらず、巻き込まれただけの奴らが頭抱えている。

 こんな感じか?」



 アゼル兄、ちゃんと纏められたね。

 エライエライ♪



「そうっぽいね。

 正直、バラした奴ってノスカがどれだけ大事か判断付かない奴なんだろうね。

 だからこそ売って自分たちが評価されるように動いたんじゃないのかな?」



 やらかしたことも感づいてないかもしれないね。



「でも、もう少し周りを見えている奴らは未来に不安を抱いてるだろうね。

 とは言え助けてやる義理は無いし、何度も裏切られても嫌だし。

 なので、後は放置の予定。

 で、明日ノスカを尋問してくる。

 その情報次第で王宮でお話してくるよ」


「あぁ、それでいい。

 本当に……ドタバタしているな。

 相手も自分たちの策がうまく嚙み合ってないようだ」


「だね、とはいえこのままにしとくわけにもいかないし……。

 まぁ、明日の尋問次第ということで」


「分かった、お前も良く寝ておけよ?」


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