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キンスンの行動に呆れつつも話を続ける。
「ちょっと逸れたが、話を戻すよ?
北部がちょっかい出しそうなことは理解できたと思うんだが、どうだい?」
ここは全員頷いてくれる。
「で、現時点での推測では暗殺者と強盗はやって来なそうだ。
なんせ、東部の暗殺者を頼る位だからねぇ。
言い訳の為にこっちには来ないんだろう。
そして東部の方は部下のやる気がないようだ。
わざわざ規則違反をしたくないんだろうねぇ、長はともかくとして」
「それはありがたいな。
他の街の勢力がいる時点で正直落ち着かないしな」
シロス殿がぽつりとこぼす。
まぁ、先の暴動で捕らわれの身になった側からすれば当然の言い分だろうね。
「それに加えて、もう少し情報がある。
現状狙われていることになっている人物は囮の可能性がある」
「囮?
確か学園生だよな?
学園生を囮に使って何すんだよ?」
貸金担当のレビー殿が困惑している。
まぁ、学園生を暗殺対象にする時点で既におかしな話なんだけどね。
僕じゃなければ。
「多分お偉いさんだろうねぇ。
視線を囮に向けておいて、実際は王家を殺すとか?
その辺りじゃないのかい?
個人的には東部の部下たちが情報をこちらに流してもらう予定だがね」
流石に王家を弑するという話が出ると全員顔がヒクつく。
なお、シロス殿とリシアシス殿がこっそり僕を見て来たので頷いておく。
王宮はこのストーリーで動いてるよ。
「だが、騎士もそれなりに考えているだろう。
既にパン辺りが王宮に情報を流しているだろうしねぇ」
情報を知らない皆さんはパン爺さんに尊敬の視線を送っておられる。
なんか鼻がピスピスしてるし。
けど、情報を知ってる者たちからは冷たい視線がたっぷりと。
まぁ、僕経由で滅茶苦茶関わってますからねぇ。
そりゃそう動くしかないよね。
「この件で確実に王宮内は大荒れになるだろうね。
だが、北部からしたらまだ成功率は低いまま。
なら、もっと暗殺しやすくなるように手を打つんじゃないのかねぇ。
その場合、どうすれば北部の都合のいい環境が出来ると思うかい?」
この問いを婆さんが投げかけると、すぐに勘づいたのはリシアシス殿。
「もしかして騎士を王宮から減らす?
となると……王都内で騒ぎを起こして派遣したら結果的にいなくなりますね」
「流石リシアシス、その通りだよ。
追加で情報があって、王宮に居るテュモラー家の部下が動いているらしい。
どうも、騎士たちにパーティ当日休暇を与えているようだよ」
「はぁ?!
いや、ちょっと待ってくれ!
建国祭のパーティってこの国で最重要なパーティじゃないのか?」
そうだねぇ、年中行事として存在する最重要のパーティだね。
これを匹敵するのはデビュタント位かな?
突発的な奴――王家でお子さんが生まれたときとか――を除くけど。
「あぁ、善意に見えるように休みを与えることで、北部の手下だけが王宮に残る。
加えて王都で騒ぎが起こって騎士が派遣されたら?
そうしたら暗殺者が入り放題じゃないかい?」
愕然とする長たちは「なんじゃこりゃ~!」とか騒いでいる。
あ、パン爺さんは事前に知っている側だから落ち着いてるな。
むしろ、皆を一喝して落ち着かせている。
これ、裏事情知ってると「パン爺さん姑息な……」とか思ってしまうね。
……カル、お前も似たような立場だろうに、何羨ましそうにしてんだよ。
「とはいえ、先ほど言った通り東部の暗殺者は長を裏切る交渉をしておいた。
王宮内は妾たちではどうしようもない。
だが、王都内のゴタゴタは邪魔できると思うんだがねぇ?」
「……そっちの言いたいことは分かる。
北部の奴らの思惑通りに動かすことは俺たちも望まねぇ。
とは言え、俺たちは戦闘は無理だぞ?
カル達暗殺者ギルドや新しく強盗の長となったスケッツオ達の仕事じゃね?」
ストリート管理のポストスが発言したが……まぁ、正論だね。
「当然戦闘はその二つのギルドに頼む。
だが、北部も手札が無いことを忘れては無いかえ?
あちらも暗殺者・強盗はやって来ないし東部の暗殺者は王宮に目が向いている。
なら、王都で何かあるとしたら暴行か放火か。
騒ぎを起こすのならその辺りだろうさ」
「あっ!」と驚く一同。
まぁ、裏事情知らずにこんなこと思いつけと言うのは酷だよね。
「そんなわけで王都側では殺しは不要だ。
暴行があったらスケッツオ達を呼べばいい。
放火を見つけたら自分たちでどうにか消せばいい。
人手はこちらの方が多いんだ。
監視も向こうより動けるだろうさ」
「……確かに可能だな。
だが、すまないがうちは不参加とさせてもらいたい。
もしくは、数名だけの参加なら何とかなるが……」
「すまん、うちもだ」
カジノとスリとストリート管理が対応できないと言い出した。
まぁ、この面々はこの時期書き入れ時だからな。
そこらはこちらも想定しているから婆さんの方で宥める。
「あぁ、アンタらは時期的に難しいのは分かってる。
数名でも出してくれるだけありがたいよ。
他は無いのかい?
商業や生産は結構書き入れ時だと思っていたんだが?」
「ええ、でも全員は無理ですが三割程の商人は今年の仕事は手仕舞いしています。
その者たちに手伝ってもらいましょうか。
生産も似たような物では?」
「そうだな、うちも似たようなものだ。
放火されて泣く位ならこの日だけでも手を貸してもらおうか」
リシアシス殿とシロス殿が協力を明言した。
それにつられてか貸金担当のレビー殿も同様に協力すると宣言。
「……なぁ、うちはどうすればいい?」
「リシアシス達がある程度グループを組んで動くだろう。
強盗側はそのグループに一・二名派遣してやってほしい。
腕っぷしが必要になった場合にそのグループを守ればいい」
スケッツオの問いにパン爺さんが答える。
確かに強盗が火の用心なんてピンとこないだろうしな。
「ふむ……カル達もか?」
「いや、こいつらはもっと重要なことがあるので動かせんのじゃよ。
東部暗殺者達が予定通り動かなかった場合の対応じゃな。
向こうの暗殺者が王都内で暴れ出したらカル達を出さないといかん」
「あぁ、確かにそっちは任せるしかないな」
……本気でオブス消して正解だったな。
多分あいつ生きてたら「そんなのどうでもいいだろ!」とか言うだろうなぁ。
「これで大体の役割は纏まったね?
今後も東部の面々が情報を持ってきたら皆に展開する」
そう言って、皆の顔を見渡して檄を飛ばす。
「ここは王都の縄張りだ。
他の街のギルドがしゃしゃり出るのは頂けないねぇ。
お前たち、王都のギルドが張りぼてじゃないことを見せつけてやりな!」
「「「おぅ!!」」」
流石【妖魔】、まだまだ現役の頃の様に啖呵を切った。
……何十年前の現役かは聞かないことにしよう。
この調子で王都側はギルド側に任せようか。
僕らは王宮側に専念したいしね。
皆が帰り始めると、商業と生産がこちらをチラチラと見ている。
婆さんたちの方を見ると、肩を竦めている。
情報もっとないかってことかな?
「ニフィ、いやニフェール殿。
今回の件、うまく幕引きできそうですか?」
「正直、テュモラー家本体の動きが見えないのでどうなることやらって感じです。
現時点では五分五分ってとこでしょうか。
ですが、王宮側もこちらもこれと言った対処案は無いのが現状です。
なので、とりあえず王都に相手側が来たところで動きが起こるかと思ってます」
リシアシス殿の問いに答えるが……。
テュモラー家の情報を得るのに東部暗殺者の部下たちが何処まで動くか。
それが結構大事になるかな。
それと、今回相手が騎士をどう使ってくるか。
暗殺者任せから騎士を使った反逆行為にシフトするのがどのタイミングか。
全く面倒だよ、ホント。
「ジーピン家の戦闘能力で終わらせることはできませんか?」
「基本的に相手が何かしてきたことに対して全力でぶん殴ることはあるでしょう。
ですが、先に手を出すことはできません。
あちら側に大義名分を与えることになりますから」
「……パーティ時に暗殺しに来たのを叩き潰し、そのまま反撃ってとこですか?」
「そうですね、まぁ、反撃するにも暗殺者が主犯を白状してくれればですが」
そこまで口軽いとは思えないけどね。
多分、暗殺者潰して情報漏らさずに終了なんじゃないのかなぁ?
「なので、現時点でできることはほぼ終わったと思ってます。
この後は東部暗殺者からの情報待ちですね。
それとテュモラー家が王都に到着した時にどう動くかですか。
まぁ、王宮や騎士側でもどうなっているのかはちょこちょこ聞いてみますよ」
こういうと、ありがたそうに拝まれてしまった。
別に何の御利益も無いんだけどね。
◇◇◇◇
「侯爵様、詐欺師ギルドの者たちが追い付いたようです」
遅いっ!
何時まで待たせるのじゃ!
ったく、こ奴らに言っても無駄なのは分かっておるが……。
「そろそろ休憩か?
ならそこで顔合わせしようか。
そう伝えよ」
「かしこまりました」
わし、オステオ・テュモラーは馬車の中で目を瞑る。
苛ついた感情を見せないように気を付けながら。
「あなた、隠しているつもりかもしれませんが、バレバレですわよ?
色々苦労なさっているのでしょうけど、眉間の皺が隠せておりませんわ」
「……はぁ~、バレバレか?」
「ええ♪」
我が妻、リンフォーマに笑われてしまった。
まぁ、今回の王都襲撃を知っているからな。
わしが緊張しているのも気づいてたのだろう。
「事前に王宮側には色々と手を尽くしたのでしょう?
それに王都に付いた時点で情報集めるおつもりでしょ?
なら今騒いでも仕方ありませんわ」
確かにそうなんじゃが……正直今回は手が足りなくてなぁ。
安心できる材料が少々少ないのだよ。
まぁ、王家の側よりかはマシな状態を作ったつもりじゃが。
「まぁ、いい。
次の休憩場所で奴らの話を聞いて、それからだな」
「ええ、そうしましょう」
そうして休憩場所に到着し、詐欺師ギルド共と顔を合わせる。
「よく来てくれたな、こちらの仕事を受けると言うことで良いのだな?」
「本当に戦闘は無いということでよろしいですね?
王都で放火の情報をパーティ当日夜に広める、それだけですね?」
「あぁ、お前等に暴力方面は期待しておらんし、無駄に怪我されても困る。
とは言え、王都側には仕事の許可は得ておらん。
見つからないように、バレないように動けよ?」
「それは王都の詐欺師ギルドの者たちに協力してもらいましょう。
既に詐欺関係者はこちらの味方ですから」
あぁ、確かに事前にこちらの話に乗った奴らがいたな。
確かにそいつら使えば早いか。
とは言え、人手はいくらあってもいいしこのままやらせるか。
「あぁ、アイツらを使うのは構わん。
王都で他の者達との顔合わせを予定している。
そこで詳細を詰めるとしよう。
まずはこの一団についてくるがいい。
おい、こいつらの宿等も一緒に確保しておけ」
侍従に指示し、この後のことを検討する。
北部出身以外の騎士を休暇の形で王城から追い出す。
こちらに都合のいい面々だけが当日王宮にいる想定になる。
加えて、詐欺師共を使った王都の混乱。
これで残った騎士たちの数部隊は王都の調査に当てられるだろう。
北部関係者の少ない部隊に割り振れば、王宮はほぼ邪魔者がいなくなる。
ここまでお膳立てしておけば東部暗殺者が暗殺してくれるだろう。
懸念点としたら……東部暗殺者が協力を拒否した場合か。
一応大掛かりな仕事だから報酬は大盤振る舞いとしようか。
大事の前に金をケチっても仕方あるまい。
……最悪、騎士共に暗殺者のような行動を取らせるか?
短剣とかで戦えとは言わん。
クロスボウなり短弓なりナイフの投擲なりやりようはあろう。
その程度の武器の扱い位理解しておろう……してるよな?
どうも、騎士共の実力には不信感しか感じられん。
どこの地方でも、そしてどの分野でもそうなのかもしれんが……。
騎士も文官も名前だけの役立たずが結構いるからなぁ。
その点は王家もこちらも頭痛い所ではあるな。
そういう意味であれば今回の標的であるニフェール・ジーピン。
噂通りなら学園騎士科首席だとか?
そう言う奴を味方にして置ければ一番よかったのだが……。
あ奴はジーピン家に連なる者。
過去にあの者の両親への報酬……前々回の王都での暴動を鎮静化した件。
あれでディーマス家と共に全力で評価を下げさせて結構報酬削ったからな。
もしかすると今でも恨んでいるかもしれん。
とは言え、あの時点では王家派の力が強くなりすぎるきらいがあったからな。
学園生と言えどもまともな評価をさせては貴族派の立場が無くなる。
横槍を入れて力を削いでおいたが……。
当時の学園生共が次代の精鋭という一番厄介なモノを作りおった!
ジャーヴィン侯爵家にチアゼム侯爵家。
どちらも現在の学園で首席取っているような子供がいる。
それに加えて部下が文官科で首席争いしていると言うではないか!
そして、ニフェール・ジーピン。
なんだアイツは!
調べれば調べるだけ訳が分からなくなる!
なんでも衛兵の長が暴走したのを止めたとか?
ディーマス家の違法薬物工場を見つけたとか?
王都の暗殺者ギルド壊滅させたとか?
一つの街を牛耳っていた商会を街に乗り込んで潰しそこの領主も捕える?
遠征から戻ってきて王都の暴動を止めた?
その時に役立たずだった騎士共とラング家を纏めて潰した?
うちから依頼したとある女の暗殺を止めた?
そして依頼主である女の実家を捕縛壊滅させた?
……いくら何でも詰め込み過ぎじゃないのか?
これだけやらかして一年経って無いんだぞ?
こんな奴らがいたら、いつまでたっても国の乗っ取りなぞ出来やせん!
とは言え、次代の精鋭共の中で一番ヤバい奴はどう考えてもニフェールだ。
アイツさえいなくなればその他のガキどもはまだカワイイもんだ。
わしらにちょっかい出せる程の能力はあるまい。
まぁ、今回はあ奴と王家を纏めて消せそうだしな。
これでわしの悲願も達成できるであろう。
……そう思っていた時もあった。
【テュモラー侯爵家:貴族派】
リンフォーマ・テュモラー:テュモラー侯爵家当主夫人
→ リンパ腫から




