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その後ティッキィと一緒に店から出る。
「あの弓、よく引けたな……」
「引くことだけなら僕でも何とかできるよ。
でも、狙いをつけることができるのかは分からないな。
とはいえ、あの弦なら相当な威力になるだろうね。
城壁から敵に対して放ったら……肉片大量生産しそうだ」
「でも、使えるのはジーピン家だけなのでは?」
「うん、だから倉庫行きだろうね。
まぁ、ポル君も満足はしたと思うから、この後はビートさんの指導次第かな」
最強の弓については一応作ったことになるんじゃない?
なら後は次の目標を持てるかかな?
燃え尽きて終わるようならそれまでだし。
その後、僕は寮に戻りティッキィはチアゼム家へ。
まぁ、後で僕もそっちに向かうんだけど。
夕食を食べ、チアゼム家へ。
カル達はさっさと娼館ギルドに向かったそうだ。
「分かりました。
ホルターさんのご両親の説得には私も参ります」
「ありがとうございます、助かりますよ」
「いえいえ、セリナ様が幸せになるためにはこの位は協力しますわ♡」
まずはホルターの件。
こちらは穏便に済んだ。
次は……。
「後、ホルターの対応後にベル兄様とティアーニ先生がデートしてました」
「……詳しくお願いできますか?」
めっちゃ真顔で聞いてきました。
ナットも劇画調の表情になってるぞ?
声かけたわけじゃないこと。
チラッとしか見てないことを説明した上で芋の件を話す。
……できるだけ臨場感上げるように努力しながら。
「情報ありがとうございました(ホフゥ♡)」
……ご満足いただいたようです。
というかナットも同じ表情してるけど、二人とも好きねぇ。
「あの二人も放置しておいて問題なさそうですね」
「えぇ、むしろ邪魔しないようにしましょうか。
……ティアーニ先生の暴走には関わらない方向で」
「いいの? ベルハルト様食べられちゃうよ?」
ナット、変な知識が増えてるな。
まぁ、僕の過去の発言が問題なんだろうけど。
「気にするにしても手が足りないからなぁ。
サンドラさんにお任せする位かなぁ。
まぁ、丸投げともいうけど」
「それ、絶対食べられちゃうよね?」
「何、ナットは監視しに行く?」
「……そっちに時間取られるくらいならカリムとデートする」
「だろうね。
あちらの二人も僕たちより大人なんだし、後は任せていいんじゃないかな?
今日見た時も暴走はしてなかったように見えたし」
「うん、今度ベルハルト様食べられたかサンドラさんに聞いてみようかなぁ」
……それ、答え出てくると思うなよ?
むしろ、ベル兄様もサンドラさんに逐一報告しないと思うぞ?
「ま、まぁ、そこは好きにしな。
後ティッキィ、あの鍛冶屋での話の続き。
マギーのおっちゃんに奥さんいるって聞いたこと無かったんだな?」
「あぁ、最低でも王都にいた当時は相手はいなかった。
いたら、飲んだくれたときに『彼女欲しい~!』とか言い出さないだろうしな」
なんだ、マギーのおっちゃん酒癖悪いのか?
絡み酒だったりする?
「確かにそうだな、ならジーピン領で結婚したんだろう。
ついでにその後は完全に足を洗って御者人生を送り始めたんだな。
となれば、過去の面々と疎遠になるのも仕方ないか」
「加えてビートの場合、ギルド壊滅後にあの場所で鍛冶屋始めたんだろ?
互いに連絡とりようもないし、そのまま時が過ぎちまったんじゃねえか?」
「だねぇ、まぁ建国祭の時におっちゃんに話してみるか。
興味持ったら店教えればいいや」
◇◇◇◇
俺、カルは娼館ギルドで詐欺師ギルドの面々を待っている。
ジジイは既に待機、ババアは……当人のギルドだからいつでもいるわな。
とりあえずは詐欺師共の三名の中に北部に寝返った奴がいるかどうか。
いなければ強盗側の二つのギルドかな。
とはいえ、そちらは繋ぎつけるネタが思いつかないけどな。
コンコン!
「失礼します。
詐欺師ギルドの御三方が来られましたが、こちらにお連れしても?」
「あぁ、連れてきておくれ」
その後すぐに三人が雁首揃えてやってきた。
現時点では誰も寝返っている雰囲気はねぇな。
「ピロヘース様、お話があるとのことですが……?」
「話はカルが説明する。
妾は場所を用意しただけ、パンは一応強盗側の代表ってとこだね」
三人ともチラッと俺を見る。
何でそんな怯えた目で見るんだよ?
「なんか勘違いしてそうだからさっさと誤解を解くか。
お前等、以前の会議でダメンシャの死について知ったな?
その時に言ってたことを現実にしようと思って呼んだ」
「……おい、まさか?」
アルツがイイ反応を見せて来る。
笑顔になってるぞ?
キモイけど。
「想像通りだと思うぞ?
オブスとその部下たちの暗殺、うちで請け負おうと思う」
おおおおぉぉぉぉ……!!!
なんか泣いてる奴もいるけど……大丈夫か? 特に頭。
「日付などはこちらで勝手に決める。
お前等には報酬寄越せってだけだ。
あ、それとジジイやアゴラ、ポストスの所は狙う気はない。
あくまでオブスの所のみ。
それと、ジジイの方で調べてもらった残す価値のある奴らは殺さない」
「全員ではないのか……」
レビー、強盗担当全員殺したら別の意味で面倒じゃないのか?
強盗ギルドを誰が面倒見るんだよ。
「一応ジジイメインで後を継ぐ者は選んでもらった。
そいつがちゃんと維持できるか様子見の形にするつもりだ。
ダメだったら再度暗殺するんだろうが……まぁ、そこはジジイを信じるんだな」
「ふむ、パン殿なら信用できる。
そこは受け入れるべきか……」
レビーも受け入れたようだな。
後は……。
「カル殿、オブスを処するのは理解できるし、むしろ全力で殺ってほしい。
だが、他の奴らまで消す理由はなんだ?」
「オブスに付いた奴は消される。
これが理解できれば愚かなこともできなくなるだろ?
オブス一人だけ消しても、真似する奴が出てくるだろうよ。
周囲まとめて消してこそ足りない頭でも理解できるようになるんじゃねえの?」
「ふむ……人が減り過ぎるのを気にしているのだが……」
「そこは新しい指導者にお任せだな。
俺たちはそこに口出しする気はねえよ」
一通り説明してもキンスンがまだブツブツ言ってやがる。
まさか、こいつか?
ルーシーに視線を送ると、頷いてくる。
多分、同じこと考えたんだろうなぁ。
「ふむ、キンスン。
なぜそこまで強盗ギルドの人数が減るのを懸念しておる?
既に暴動の結果、一気に減っておるではないか。
あれに比べれば今回の減少人数は大した数では無かろう?」
「パン殿、あなたがそれを言いますか?
そちらのギルドが壊滅寸前になったのに?」
「それ、乞食ギルドじゃないからのぅ。
当時の強盗ギルドはザイディのものじゃ。
アイツのやらかしをこちらの責任にするでない」
あぁ、ジジイも感づいているよな。
あの鼠を甚振る猫のような雰囲気。
めっちゃ楽しそうでやんの。
……ババア、頬を染めてどうした?
ジジババ以外誰も生まれてない時代の記憶でも蘇ったか?
ルーシーとシフィルに後で取り調べされやがれ!
アイツら既にロックオンしているぞ!
「あ~、お前等、取り合えずどうすんだ?
こちらは受け入れるなら金寄越せってだけなんだが……」
「カジノ担当として受け入れる。
ちなみにいくらだ?」
「あの時十倍とか言ってた奴がいたな?
流石にそこまでは言わん。
とはいえ、現在少数で仕事しているうちとしては多めに欲しい。
詳細はルーシー、任せる」
……そう言えば、十倍発言はキンスンじゃなかったか?
もしかして、その額で言ってたら「あいつらにそんな額は払えん」とか?
……詐欺師担当だしありえそうだな。
「長よりご指名に与りましたルーシーですわ。
金額としては通常の額の三倍を想定しております」
「さっ……それは確かに多めにと言い出すなぁ。
とはいえ、それだけ欲する理由をお聞きしても?」
「ええ、と言っても大したことじゃありませんのよ?
皆様、ダメンシャ様がご存命の頃に暗殺者ギルドが壊滅したと聞いてませんか?
暴動の三週間から一月ほど前だったはずですが」
レビーが思い出したようで「そう言えばおっしゃってたな」とボソッと言う。
ちゃんと周知してたんだ、アイツ。
「ご存じのようですね。
あの壊滅のお陰で我々も人数が激減しております。
つまり、本来一人で三名ほど殺せば済む話が九名ほど殺す必要があります。
殺す数が増えるのなら金額も増えるのは当然。
労力が増える以上は報酬に反映させたい、という訳ですわ」
……ニフェール様が動けば一人で十分なんだけどな。
流石にそれ馬鹿正直に言って収入減らされるのは勘弁だ。
「まぁ、実際は三倍の人数じゃ足りないはずですけどね。
とはいえ、あなた方からすればダメンシャ様の弔い。
安過ぎず、高過ぎずという所でこの条件とさせていただいております」
これ言われて反抗したらダメンシャへの想いが消えたともとれる。
キンスン、これ拒否できんぞ?
「貸金担当は受け入れる。
何時払えばいい?
こちらは明日にでも払えるぞ?」
「なら明日か明後日に取りに伺いますわ。
お店の方でよろしくて?」
「あぁ、あそこで受け渡そう」
「カジノ側も明日以降ならいつでも支払える。
同じように店で待っている」
アルツもレビーも受け入れたな。
キンスン、どうする?
……ジジイ、それとババア、顔、顔!
邪な笑いが漏れ出てるじゃねえか!
もうちっと耐えれねえのか?
ボケでも始まったか?!
「……詐欺担当も同額支払う。
明日以降だな」
「ええ、用意お願いしますね」
「襲撃日は?」
「最初に申し上げた通り、こちらで決めますわ。
お気になさらず」
うわっ、ムッとしてやがる。
と言っても、事前に説明しているんだがなぁ
……もしかして、事前にオブス側に情報流すのか?
それとも、メラムとかいう騎士に伝えるのか?
「分かりました。
ですが、来年とかは言いませんよね?」
「流石にそれは言わねえよ、今年中だ。
そんなに不安か?」
「いえ、仕事への不安はありません。
ですが、その間情報が流出しないか少々不安ですな」
は?
「お前はジジイかババアが情報横流しすると?
本気で言っているのか?」
「いえいえいえいえ! それは無いでしょう!」
睨みつけてやったらすんごい速度で首降ってやがったな。
首の筋痛めたりしないのか?
「とはいえ、私ども三名とあなた方が集まったのを見られたら?
思いつく者はいるのでは?」
「え、まさかとは思うがここに来るのをベラベラ喋っているのか?
第一、オブス共がここを監視していると思うか?」
「……無いですね、アイツの頭じゃ無理でしょう」
分かってんじゃねえか。
まぁ、どうせ情報を引き出したくて足掻いてるんだろうけどよ。
「これ以上は情報を渡す気はねえよ。
終わった後、周知の為に全員集まることを求めるかもしれんがな」
「その連絡をお待ちしておりますよ」
話し合いも終わり解散となったが、ジジババとうちらは部屋で話し合い。
「確定じゃなぁ」
「確定じゃのぅ」
「分かりやすかったですからねぇ」
言いたい気持ちは分かるが、どうすんだこれ?
「キンスンはどうする?
襲撃前に殺すか?」
「いや、お前が先程言っていた話をそのまま使おう。
オブスたちを処分した後、周知の為に集めて説明する。
その時に奴を告発してその場で処分とすればいい。
ちなみに詐欺担当は二人のうちのどちらかに任せればよかろう」
「となると、実際裏切ったとこ監視しないといけないか?」
そんな準備してねえよ……。
「それは任せろ。
こちらで既に監視しておる。
あ奴らの本拠地とここを出た時に尾行できるよう数名配置しておるわ」
「はぁ~、何つ~か流石だな」
いや、これは想定してなかったわ。
というか、ニフェール様も忘れてたんじゃないか?
発見は思いついても裏取りは考えてなかったとか。
「こういうことで長年やってきたからな。
その位はできるぞ。
まぁ、分野の違いじゃよ。
殺すのはカル達、調べるのはわしらの領分じゃ」
「へえへえ、おっしゃる通りで。
んじゃ、後は明日にでも情報聞きに行くわ。
いつものとこだろ?」
「あぁ、用意して待っておるよ」
ルーシーとチアゼム家に戻り皆に報告。
「やっぱり北部に擦り寄った奴がいたんだ。
ん~、カル。
監視はパン爺さんがやってくれるって言ってたんだね?
なら僕らは明日情報貰って王宮側に報告するかな」
「だな、一旦ここ寄ってから行けばいいと思うぞ。
全員行くか?」
「いや、今回は作戦を練ることも無いからなぁ。
既にマーニ兄とも話は付いているし。
なので僕と……話し合いに参加したカルとルーシーでいいな。
あ、ラーミルさん、参加し――」
「――します!」
早っ!
……ルーシー、何羨ましそうな表情してんだよ。
チラチラこっちみんな!
期待されても……その、正直困る……。
「んじゃ、その四名で。
後は……カルとティッキィ。
午前中にパン爺さんに聞きに行ったときに提案しておいてくれ。
強盗ギルドの残り二人――アゴラとポストスだったか?――がどうなのか。
キンスンの様に裏切っているのか調べてもらって欲しい。
報酬は……今回詐欺師ギルドから頂く報酬から出せるだろ?」
「それは出せる。
金額は俺に任せてもらっていいな?」
「あぁ、少し多めに払っておいてくれればいい」
あぁ、こう言う所でジジイも信じていくんだろうなぁ。
ケチな奴とは組みたくねえもんなぁ。




