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「おっ、ニフェ……お前、大丈夫か?」
ホルターから心配そうな言葉を掛けられてしまう。
まぁ、昨日の女性陣の暴走のせいなんだが。
「ちょっと眠れなくてね。
まぁ、話し合いには影響ないから気にしないでくれ」
「あ、あぁ」
今日は珍しく双剣を装備する。
何でだか分からないが、何となく今日は持っていた方がいい気がした。
なんだ、新しい出会いでもあるのか?
このままホルターに連れられてペスメー殿の家に向かう。
特にイベントも無くあっさり到着。
ペスメー殿に迎えて頂き家の中へ。
「わざわざホルターの為にすまないな、ニフェール殿」
「いえ、お気になさらず。
いくつかの偶然が重なったとはいえ、必要なことでしたから」
セリナ様の未来を考えると手を貸すのは必要だからなぁ。
「あぁ、紹介しよう、俺の妻のルニーだ。
ルニー、こちらがニフェール・ジーピン殿。
俺の上司であるマーニ・ジドロ隊長の弟でホルターの同期だ」
「初めまして、ルニーと申します。
ペスメーから色々聞いておりますわ。
スホルム領での立ち回りとか、王都の暴動を兄弟で鎮めたとか」
ペスメー殿、どこまで言ってるの?
いや、隠してないからばらされても構わないけどさ。
「初めまして、ニフェール・ジーピンと申します。
ペスメー殿にもホルターにもお世話になっております」
「……お前をお世話した記憶が無いんだけど?
世話になりっぱなしのような……」
「ティアーニ先生の暴走管理を遠征中に任せたでしょ?
あれが無ければ確かに言う通りかもしれないけどさ」
「は? 先生の面倒見るのってそんな重大事だったのかよ!」
「そりゃあ、僕の義理の兄になる人をロックオンしていた人だからねぇ」
「ん? ちょっと待て。
兄になる人がロックオンしてたんじゃないのか?」
……あぁ、そう言うことか。
ホルター、お前、女性を知らなすぎるぞ。
まぁ、僕もそこまで理解追い付いてないけどさ。
「”が”じゃない。”を”だ。
ティアーニ先生が義兄を狙った挙句、婚約者の座を射止めたんだから」
「……マジ?」
「マジマジ。
というか、最近も浮かれまくっていなかったか?
あれ、婚約成立したからだよ?
まぁ、婚約直後は別件で浮かれることができなかったけど」
表情の固まるホルター。
教えてなかったっけ?
「ちなみに浮かれられなかった理由は?」
「そこは言えない。
王宮側からストップ掛かってるから。
まぁ、建国祭の時くらいには分かるかもね」
あの兄弟の処罰は多分その辺でしょ。
「まぁ、今日はティアーニ先生の話じゃない。
本来の話に戻して、ホルターの彼女についてです。
ペスメー殿は手紙送ったしそれなりにご存じでしょうけど、ルニー様は?」
「ざっくりペスメーから聞いた程度ですね。
元スホルム領の領主の妻。
その領主が犯罪を犯したことを知ったときに騎士側に情報を提示。
罪無しと判断され王都に移動、その後修道院に行くことを選んだ。
一応一年後には平民として出てくる予定。
こんなところでしょうか」
「あぁ、大体ご存じですね。
追加として、ホルターと出会ったときに二人して固まったとか聞いてます?」
「固まった?
それはどういうことでしょう?」
ホルターが大慌てで止めようとするが、ルニー様に嘘ついてどうするんだよ。
味方になってもらうように動かなきゃいけないのに。
一通り王都での話を説明した。
手紙にかけなかった部分まで詳細に。
その結果……。
なぜか死にかけのホルターが出来上がりました。
……あれ、ペスメー殿?
なぜ頭抱えているの?
手紙に書いたよね?
「ニ、ニフェール殿。
あの手紙は真実だったのか?!
読んでいてよく分からなかったんだが……」
「え……手紙に書いた通りなんですけど」
一応報告書だからねぇ。
そこ適当に書いちゃまずいでしょ?
「え……あの文章通り?
だとすると、ホルターとセリナ様が無言で見つめ合う?
そして周囲を気にせずキスしようとしてた?
それも両侯爵の前で?!」
「ええ、ちゃんと伝わっているようでホッとしました」
「うっそだろ?!
もっと、何と言うか抽象的な?
そんな類の言葉かと思ったのに!!」
「いや、ペスメー殿に送ったのは報告書のイメージですからね?
妄想ぶち込んでどうするんです?
とはいえ、受け入れがたいとか言うのは分かります。
僕も、正直どうしようかと……」
あれ、冗談抜きで頭抱えたからなぁ。
「えっと……本当にセリナ様という方、大丈夫なんですの?」
「人格という点では問題無いです。
ホルターへの愛情についても。
暴走したら場所問わずキスしようとするのも、まだマシ。
最低でもホルターの暴走よりかは軽微なので」
「ちょ、ニフェール!
何その言い分!!」
「セリナ様はジル嬢が横に居たら暴走止まったよ?
高位の人物がいる時は暴走止められたってこと。
それに比べてお前はどうだった?
隣のフェーリオを気にせずセリナ様の胸をガン見してたろ?」
ペスメー殿、頭抱えないで!
あなたの弟なんですよ?!
ホルター、何今更恥ずかしがってんだよ!
「……むしろうちのホルターでいいと本当に言っているのか?」
「それについては問題なしです。
どうせ、ホルターもセリナ様以外と仲良くなれるとも思ってないでしょうし」
「それって、どういうことだ?」
あぁ、うちのアムルの事を説明してなかったな。
軽く説明をすると、再び頭を抱え始める……あれ、ルニー様も?
「ペスメー、私正直不安になってきたのですけど。
特にホルター君のほうが……」
「分かる、俺もここまでとは思っていなかった」
……一応味方でいてくださいね?
「で、ニフェール殿。
ホルターとセリナ様がくっつくことをうちの親に認めさせる必要がある。
最低でもセリナ様が平民として修道院から出てくるまで他の婚約者を付けない。
これを確約させるんだな?」
「ええ、とりあえず一年程他の婚約者を宛がおうとしなければそれでよろしい。
後はセリナ様が外に出てからご両親を二人で説得すればいい」
一番面倒なのがこの一年以内に勝手に婚約者用意されることだからなぁ。
それさえ回避できれば、こちらは特に文句ないし。
「……多分そこまではどうにかなるだろう。
うちの両親も積極的に婚約者を探してやるようなことはして無いし。
俺も学園で何とか見つけられたって感じだしな」
「あれ、ペスメー殿ってお幾つでしたっけ?」
そういや年齢聞いてなかったな。
「二人とも二十三だ。
と言ってもピンと来ないかもしれないな。
一番わかりやすい説明だと……二人とも【魔王】の一つ上だ」
あぁ、とても分かりやすいお言葉で。
「その場にいなかったが昔実技教師やってた奴捕まえたんだろ?
俺もアレに教わったんだ」
「あぁ、あれですか。
ってことはアゼル兄の覚醒をご存じで?」
「覚醒か……あれは気絶しちまったんだよな。
まぁ、多分食堂周辺にいたやつら皆気絶したんだろうけど」
「ええ、話を聞く限りではそのようですね。
意識を何とか保てたのはカールラ姉様くらいらしいです」
他は皆倒れているし、ベル兄様に至っては気絶したまま医務室行きだったし。
「あぁ、やっぱりそうか。
俺もあの時点で危険すぎて一緒にいたルミーと避難した。
といっても食堂から逃げただけだがな。
ついでに騎士科内で変な情報が流れたが、悉く無視したなぁ」
「いや、アゼル兄やカールラ姉様から話を聞く限りではかなりいい判断かと。
多分その変な情報って【魔王】を騎士科で倒すとかそんな話でしょ?
関わらずに逃げて正解ですよ。
ルミー様にトラウマ覚えさせるわけにはいきませんし」
うちの兄が本気で暴れるのを見て、恐怖を覚えない人って少ないだろうしねぇ。
それでも見たいとか言う女性って……余程感覚が鈍いか母上レベルの強者か?
「やっぱりそうか……」
「というか、アゼル兄は最近もちょっとやり過ぎちゃったし……聞いてません?」
「……あれか?
暴動の主導者の処刑話か?」
あ、やっぱり知ってるんだ。
マーニ兄なら教えてると思った。
「ええ、あれでちょっと勢い余って簡易法廷を囲っていた柵。
あれをぶち壊しまして……。
第五部隊の……今だと副隊長やってらっしゃるアパーム殿がブチ切れてます。
まぁ、同じ学年だから言いやすかったのもあるのかもしれませんけどね」
「普通、あの柵って壊そうと思って壊せるものじゃないはずなんだがなぁ」
「兄貴、それを破壊できるからこそのジーピン家じゃないか?」
「あぁ……」
なんかペスメー殿が納得してるけど?!
ホルター、お前変なところで理解度高すぎ!
「ま、まぁ、ホルターの言葉は置いておいて。
んで、建国祭の頃にこの件を親御さんに説明すると思うんですけど。
その際にご家族の話し合いに僕も参加してもいいです?
セリナ様の事をそれなりに知っている者として、フォロー出来ればと」
「そこはありがたいな。
多分ホルターの説明で両親が納得する未来が見えない。
ほら、つい先日マーニ殿の執務室で……」
「あぁ、確かに」
勢いで執務室に言って二人にガッツリ叱られた件ね。
確かにあれを考えると任せるには無理があるよなぁ。
「兄貴、そこまで俺は説得できなさそうか?」
「あの時のお前を見て安心できる奴はこの世にいないと思うぞ?」
バッサリですね、ペスメー殿。
「とりあえず、参加可能でしたら一度ホルターに説明させてみては?
その後、フォローという形で僕の方で対応するってのは?」
「……すまんが頼めるか?
ホルターの根拠レスな自信が正直怖くてたまらん。
当然俺もルミーもホルターに幸せになって欲しいとは思う。
だが、先日のこいつを見ているとどう考えてもな……」
その場で見たわけじゃないけど、大体分かります。
「でもよぉ、ニフェール。
お前、確かあれって俺が初めての所で緊張したからとか結論付けてなかったか?
なら知っている場所で家族との話し合いなら問題無いと思うんだが?」
お前……僕の発言を覚えていたことは褒めてやるべきなんだろう。
だが、親に婚約したいと伝えるのがどれだけ緊張するか分かってないだろ?
「ホルター、お前は婚約希望の報告を甘く見過ぎている。
お前は今までどれだけ人前で緊張して話をした?
それらを軽く上回ることが確実視されるんだが?」
あ……ペスメー殿、ご自分の経験ですね、それ。
確かに僕も緊張したからなぁ……。
「悪いことは言わん。
当日、お前はまともに説明できないのは確実だ。
ニフェール殿にフォロー入れてもらえ」
「そうね、私もペスメーに賛成だわ。
私も両親に婚約の報告する際には歯の根が噛み合わなかったりしたしね。
あの緊張感は想像以上よ?」
あぁ、ルミー様もでしたか。
というか、経験者で緊張しなかった人っているのかな?
「……分かった。
ニフェール、すまんが頼む」
「あぁ、まああまり固くなっても仕方ない。
ペスメー殿達の発言からすれば、最悪の事態はなさそうだしな。
後は自分の気持ちを段階を追って説明すればいい」
……お前、その位大丈夫だとか思って無いか?
そうだな……あれが一番いいかな。
「ホルター、お前の当日の緊張がどんな感じになるかイメージ出来てないだろ?」
「まぁ、そりゃあなぁ」
「なら、今から言うことを思い出せば、多分片鱗位は分かると思うぞ?」
「ほぅ、どんな感じだ?」
ホルター、何だよその顔。
僕が言おうとする内容、あっさり切り捨てるつもりか?
絶対できないと思うがな。
「最近セリナ様から手紙届いたろ?
それに返信書く時にとてつもなく悩んでいたよな?
あの何倍ものプレッシャーが報告当日に降りかかる。
ついでに、先延ばしにはできない重圧もだな。
お前、耐えきれる自信あるか?」
「あるわけねえだろ!
うっそだろ、あのプレッシャー簡単に超えちゃうの?!」
「当たり前だろ、婚約したいと親に伝えるのはそれだけ重圧がかかるんだよ!
だからこそペスメー殿夫妻も色々言ってるんだろうが!!」
やっぱりそう言う反応したか。
経験しているはずなのに、分かってないとはなぁ……。
「ニ、ニフェール、助けてくれ!!」
「いや、だから当日の参加許可を求めたってのに今さら何言ってんだお前は!」
もうガッチガチだな、こいつ。
ペスメー殿夫妻も呆れまくっている。
「……ペスメー、本当にホルター君大丈夫?」
「……正直ここまでとは俺も想像できてなかった。
とはいえ、とてつもなく幸運でもあるな」
「幸運?」
「ニフェール殿と知り合い、ここまでフォローして貰ってるんだぞ?
普通ありえないだろ?
ルミーにも友はいると思うが、ここまで面倒見てくれるのっているか?」
「いる訳無いわよ。
というか、ここまで助けを求めること自体がおかしいもの。
自分の未来を他者に預けるようなものよ?
淑女科でそんなことする人がいたら呆れられるわ」
あぁ、確かにそうですよね。
そんな会話がパァン先生に聞かれたら説教されそう……。
「だよなぁ、でもこの件は元々別の犯罪に大いに関わる。
だからこそニフェール殿も手を貸してくれている。
これって運が良すぎと思うんだがなぁ」
まぁ、そうだね。
でもこの幸運を引き寄せたのはホルターでありペスメー殿なんだけどね。
ホルターが騎士科でまともな対応をしていたから僕と関わるようになった。
ペスメー殿が仕事ちゃんとする方だったから相談に乗ってあげた。
ホルターがセリナ様を任せてもいいと思う程度にはまともだったから提案した。
これらはそれまでの積み重ねの結果だと思うよ?
例えば……今は亡きプロブが同じ立場に居たら絶対提案しないし。
まぁ、それ言っちゃうとホルターが気を抜いちゃいそうだから言わないけどね。
【バルサイン家:国王派武官貴族:騎士爵家】
※ ホルターの所属する実家では無く、ペスメーが新たに興した分家の方。
ルニー・バルサイン:ペスメー・バルサインの妻。
→ 体内埋め込み式ペースメーカーの試作者ルネ・エルムクヴィストから




